未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
前回までのあらすじ。
【
ルイスが女の子だった。
繰り返す。
ルイスが、女の子だった!
「……バカなァァァァ! そんなっ、そんなことが……⁉」
俺は早退して屋敷のなかで頭を抱えていた。ちなみにシエラとルイスも「熱っぽいので」と救貧院に帰っていた。なお救貧院にはブレイズ家の財力で見張りをつけているものとします。いつまた襲ってくるかわかんねーもん、邪教団。
ああ、しかし、動揺はまったく収まらない。
二十五巻、俺は読みこんできた。更新くれば夜通しで感想言ってた。同人だって出してきた。漫画を描いてもリンクつけると〇ックス(旧〇witter)で全然インプが伸びないから宣伝の方法に苦戦してきた。
なのに……主人公の性別を、読み違えていた、だと?
「うぎゃぁぁぁぁ!」
いや噂はあった。おまけページのキャラ紹介欄もいろいろ細かい設定あるわりに性別欄はなかったし。ルイスが少年編からサイズ合わない服着てたこともアレ体型隠すとかそういうことじゃねとか言われてた。
でも俺のなかでルイスはシエラに対してシスコンで、それゆえに悲劇の道を辿る悲しき兄だった。そうに違いないと思っていた。
実際には、お姉ちゃんだった。
ウソだろ? って感じだ。新たな文献とか資料が見つかって唱えてきた定説が覆った歴史学者ってこんな気分なんだろうか。それともそれすら面白いと思うものなのだろうか。わからない。俺ただの同人描きファンだから。
「そして落書きネームだけど十二ページほど出来てしまった」
性別を隠して生きねばならなかったルイス。よく似た顔の妹を壊れもののように大事にしてきたのは、自分が捨てざるを得なかった女の子としての生き方を投影していたから……という感じの話だ。
ふう、描いたらちょっとすっきりした。創作は感情の昇華に役立つね。あとで下書きとペン入れに移行しよ。俺は引き出しにそっと紙をしまおうとした。
そのときノックの音がして、返事するより早くガチャっとドアが開く。
「坊っちゃん、ばんわー……あり。ひょっとしてお取り込み中だった? ゴメン出直す」
「ライラックちょい待て。俺がなにしてたと思ってんの」
「……
「違ぇよ!」
たしかにネームだから人物の服装なくて裸っぽく見えたかもしれんけど!
「つーか部屋の入り口からここまで距離あるし夜なのに、よく見えるな」
「あたし夜目は利くかんねー」
そういやそうか。【猟犬】と呼ばれていた使い手なのだ、このメイドお姉さん。
作中終盤に出てくる組織【
そういう業務を果たしていたゆえに【猟犬】であるらしい。これはカバー裏おまけ漫画で描かれてた情報な。
「んで坊っちゃん、今日の稽古は?」
「ああ、いまから頼もうと思ってた。準備するから中庭で待っててくれ」
「りょーかーい。煙草吸って待ってんね」
ひらひらと手を振って出ていくライラック。
なんでも彼女はその【猟犬】時代の所業に心が疲れて、自分を知らない人間しか居ない土地に行きたい……と思って組織を抜け、このブレイズ家にやってきたそうだ。なお勤務態度は良くないけど日中の仕事は時間内にちゃんと終えてる有能メイドさんである。
「こういうひとが報われないと、やってらんないよなぁ」
ライラックが毒殺されるまでの猶予はあまり残されていないはずだ。エグドロ原作ではシエラがさらわれ、ルイスが旅立ちを決意する数日の間にコールがある日学院から帰ると死体を発見する……という流れだった。
俺はすでに邸内を隈なく調べて毒物が混入している食品がないかチェックしたし、働いてる人間にも未来視シミュレートで鎌かけまくってアヤシイ反応をする奴が居ないか調べた。ところが現状はステータスオールグリーン、毒も伏兵も居ないらしい。
となると、この先のどこかでライラックが外からもたらされた毒をあおることになるわけだが……一体どういうルートで来るんだろう。未来視も一分間の限度があるからすべてを見通すことは出来ないし、わからんところは推測で動いていくしかない。
中庭に出た俺は、煙草を吸っているライラックと目が合う。その煙草もチェック済みなので、大丈夫なはずだけど。
「なに坊っちゃん、あたしの唇ジーッと見て。こんな行き遅れに興味あんの? シュミ悪」
「いや煙草吸ってたら口許に目はいくだろ……あと興味あるのは、否定しない」
「え。大丈夫坊っちゃん、数字ってちゃんとかぞえられる? あたしが今年何歳か言える?」
本気で心配した感じに言われるのでちょっと悲しくなる俺だった。推しキャラが思ったより自己卑下強い。
まあ人類の生存率が過酷なせいで、二十歳でも行き遅れになる世界だから言わんとしてることはわかるけど。でもマジでビジュいいし絶対周りに見る眼なかっただけだよライラック。俺だけはお前の良さわかってるよ。
……などと言っても現時点のコールはカスからちょっと足洗っただけの存在だ。本気にしてはもらえないだろう。
行動で見せないとな、真人間で生きていきたいってことを。俺は木剣を構えた。
「とりあえず、今日もお願いします」
「はーい。じゃあやろっか坊っちゃん」
と言ってまたハタキを構えるライラック。まだまだこれで十分、とのことなのでまずは木剣を使わせるまでに至らないとなー。
にしても、昼に立ち会ったルイスは【
「警戒心も強そうだし、毒とか本当に喰らうのかこのひと……」
「なーに? あたしに毒使おっての? やめといた方がいいよ坊っちゃん、毒付きナイフはうっかり舐めて死ぬ奴があとを断たないかんね」
「そのうっかりミスを辿るつもりはないけど。……なー、ライラックさぁ。もし仮にだけど。自分が毒喰らって死ぬとしたら、どういうときだと思う?」
いっそご本人の意見も聞いてみようと思い、俺は軽い気持ちで訊ねた。
するとライラック、あっけらかんとこう言ったものだった。
「んー? 武器の毒は喰らう気しないかなぁ。食事の混入もまず気づくし……ただ、あたしより若い子と自分の命とが天秤にかかって脅されたら、毒渡されても飲むんじゃね。あたしの方が年いってるんだから先に逝くの道理でしょ。若いのはどんな子でも、可能性があるかんね」
と言われて。
俺は二十五巻通しても語られていなかった、ライラックの死因が──唐突にわかった。
この世界はエグドロ。胸糞悪い展開の宝庫でエグみとドロドロのワンダーランド。
エグドロ原作においてコールが『帰宅したときに』ライラックの死体を見つけるというのが、カギだった。
このひとは。
この、おひとよしの元騎士は。
どうしようもないカスで嫌われ者で、自分ともそう親しくもなかったコール・ブレイズのために、毒を飲んだのだ。彼が年若いから、というだけで。
たぶん邪教団はそういう人間だと見抜いて、真っ向勝負では勝てないからと、コールがライラックから離れているタイミングで「いまコールの近くに手の者が居る。彼を殺されたくなかったら自決しろ」と毒を飲ませた。
そして自分が守られたことにすらコールは気付かず、救われた命をひたすら、無駄に、【
「うぐおおおぉぉぉぉ……」
「ど、どったの坊っちゃん。おなか痛い? 胃薬のむ?」
急にうずくまった俺を見てライラックは心配したのか、駆け寄ってくる。
いや、そんな心配してもらえるような人間じゃないよこいつ! や、痩せるぅぅぅぅ‼ ひさびさにエグドロのガチのボディブローを喰らってしまった‼ こ…こんなことが許されていいのか⁈
いやまさか……ライラックの死に方にやたら謎があるなとは思ってたけど……まさか完全な『無駄死に』だったとは……胃が痛ぇよ……!
ていうかサラっと言ったけどこのひとだいぶ闇深いな? 年いってるから先に死ぬの当然、ってだいぶ自分を大事に出来てないよ?
「あのさぁ、ライラック」
「なに坊っちゃんまじめな顔して」
「俺頑張るよ。あらためて、ライラックのこと守れるようになりたいって思った」
「えハズいんだけど、急になに……?」
照れるライラックだけど、別にその後の稽古で手が緩むとかは一切ナシだった。さすがだ。
この日俺は未来視シミュレートのなかで四千回ほど修行を積んだ。達人に(ハタキとはいえ)本気で挑んでもらったので、見切りと呼吸読むのは上手くなってきたと思う。
ライラックは終わったタイミングで「フツー真っ先に成長する打ち込み方とか移動法じゃなく、経験要るはずの見切りとか先読みばっか伸びとんだけど……能力の伸び方とその上昇速度がエゲつなくてキモい……」と引いていた。
推しのために努力して推しに引かれるの、悲しかった。