未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
そんなわけで、ライラックから離れると危ない。
翌日。俺はしばらく外での行動を共にしてもらうよう、ライラックに頼み込んだ。
「なに、長時間デートのお誘い?」
「そんな神展開を許してもらえるとは思ってなかったな」
「カミってのはなんだか知らんけど。給金は出んの?」
おっとレンタル彼女に移行してしまった。まあいいか。
「稽古も付けてもらってるし、その分のお礼も含めて払うよ」
「や、稽古はあたしもわりと楽しんでるからいーし。つかデートも否定しろしマジなのかと思うとまたシュミ悪って言わなきゃなんないんだから」
あたしにそんな価値ないんだし、と言いつつ煙草をふかしてる様を見るとなんか無性に悲しくなる俺だった。どうか生き延びてしあわせにおなり……。
「まあ目的は別にあるんだけどさ」
「ホラそう来た。なんの目的? あ、わかった本番デートの予行演習だ。下見行くんでしょ坊っちゃん」
「デート相手いるわけないだろこの男に」
「金でなびく相手なら探せそうじゃん?」
それはそう。実際、エグドロ原作ではルイスを追いかけつつも旅先で女ひっかけて遊んでたりする。カジノで大負けしようが実家を焼かれて失おうが、金運には常に恵まれてるらしい。どん底を経験していればもう少し変わったのかなぁこいつ……。
「ともかくも、一緒に行動してくれ。たぶんそれが安心だから。お願いだ」
「ふーん? お願いってんならそりゃ聞きますけどねー、メイドさんだし。でも坊っちゃん、外出るってどこ行くん? またカジノ?」
「カジノはまたそのうちな」
未来視あるからゲーム内容選べば勝率十割だし。とはいえあんま勝ちすぎると目をつけられるから、ちょっとまとまった金が必要なときにだけ稼ぎに行く感じで……じゃなくて。
「行く先は、救貧院だ」
ルイスとシエラの住処、救貧院。
そもそもエグドロ原作のプロローグはこの町ではなく地方の寒村のカットからはじまり、神殿での『魔王を討つ者』についての託宣を聞いてほうぼう探し回っていた聖職者・ウィルヘルムがルイスとシエラ(五歳時点)を見つけるところからスタートする。
ウィルヘルムは村における二人の出生歴を削除して連れ去り、この町に連れてきた。要はカモフラージュだな。聖職者はルイス本人にも【
なんでそんなことが必要だったか。【
保護のつもりで懐に入れたら、そいつに【
そんなわけでこの町に預けていったウィルヘルムは「いつか内部の安全が確認出来たら……」と思いつつこの場を離れ、運命の子であるルイス発見の報を自身直属の上司に伝えようと帰路に着く。そんでこの旅路の半ばで魔族に襲われたシーンがあり、その後神殿に誰も帰ることがなかった様子のコマが挟まる。
結果、発見の報が届かなかった神殿ではいまだに【
まあそこから、シエラの連れ去りを通じてルイスが覚醒して各地で活躍して「【
「それはそうとなんで男装して男性名使ってたのか、ってことなんだよな」
俺はライラックと共に、町外れにある救貧院のそばまで来ていた。隙間風のきつそうな平屋の建物で、なかからはわいわいと子どもの声が響いてきている。
「坊っちゃん、ここに用あんの?」
「そう。ここに居る双子が、いま危ない連中に狙われてるから」
「どんな連中よ?」
「邪教団」
言えばライラックの顔が曇る。【
「……なして、ダムド教の連中が? ここに魔王に繋がるなんかでもあんの」
ちなみに邪教団の正式名称がダムド教ね。魔王崇拝、魔族信仰だけどよくそれを隠して信者獲得しようといろんなとこに潜んでる。
自分たちに仇為す者は見せしめに拷問して殺すので、エグドロファン言うところの「ノルマ」こと拷問シーンの七割くらいがこいつらのせいで起きています。最悪な連中よ。
閑話休題。
俺はライラックの質問に答える。
「どんな人間でも倒せないと言われてる魔王。その不滅の原因である、魔王専用の
ライラックは俺の言葉で驚きに目を見開いた。それは「そんな奴が実在するのか?」という疑問と、「そうであるならなぜそれを知っている?」という疑問のふたつからくる表情だろう。
これだけエグドロ原作の歴史を動かしてるのでいまさらだし、と思って俺はここで自分の能力を明かすことにした。
「ライラックだから言うけど、俺じつはちょっとだけ未来が視えるんだよ。それでここに、魔王を倒せる奴が居るって知ったわけ」
「……坊っちゃん、あんま言いたかないけど気はたしか?」
「って言うと思ったから紙持ってきた」
俺はひらっと出した紙とペンとインクを渡してから、ぎゅっと目を閉じて未来視を発動した。
──『二十桁の好きな数字を書け』とライラックに命令する
──首をかしげつつ彼女が書いた数字を覚えた
……未来視終了。結構覚えるのキッツイな。語呂合わせでなんとか覚えたけど。
「二十桁の好きな数字を書け」
「はぁ? なに急に」
「いいから。後ろ向いてるから、俺に見えないように書け」
忘れそうだから早くしてくれ~。ししはくとおにはくさいになとつむくなむ、ししはくとおにはくさいになとつむくなむ、ししはくとおにはくさいになとつむくなむ……
「ハイ。坊っちゃん書けたけど」
「44891028931271026976」
「……は?」
「44891028931271026976」
地面に指で数字を書き、振り向いてライラックに見せた。
彼女の驚きの表情が、疑問の色から恐怖の色に変わる。
「合ってるだろ? 二十桁だから十の二十乗通りある。これは偶然で当てたとは、言えないはずだ」
「うっそぉ……十を二十回掛けるって、え。どういう確率なん……?」
ライラックは自分が書いた数字と俺の答えた数字の一致を見て震えていた。
「確率じゃなく、確定だ。何度やってもわかるぞ、当ててるんじゃなくて実際に未来でライラックが書いた数字を覚えてきてんだから」
「マジで未来が視えてんの、坊っちゃん。あっ、じゃああたしに稽古つけろって言って最後に棒投げたのも!」
「アレでなら勝てるってわかってたからだよ」
「えー汚っ。そーかだからあの据わった目……勝つ奴って打つ前から勝つ顔してるけど、あのときの坊っちゃんもそーゆーことか。行きたい未来への最善手が、一発でわかんのね」
実際には一発ではないが、まあ似たようなものかと思ったのでうなずいておく。
「んじゃナニ、坊っちゃんにゃここに住んでるそいつが、魔王に剣突き立てて倒すとこまで未来視えてんの?」
「いやーそのシーンは読めなかったからなとほほ……ってのは置いといて、俺に視えてる未来ってのは言うなれば『歴史書』と、いまやって見せたように『現時点からごく短時間先を詳しく知る』のふたつなんだよ」
「ん。よーわからん」
「歴史書にはいまライラックが書いた数字とか、市井のひとの細かい生活までは書いてないだろ? 偉人が成し遂げたデカいこと、国がやらかしたヤバいこと。そういう『歴史の転換点』がどこで何年に起きた~とか書いてある。俺はまあ……夢で、そういう『歴史書』を読んだんだ。予知夢ってことだな。だから魔王を倒せる奴がどこに居たとかを知ってる」
「ふんふん」
『転生』は魔王と邪教のせいで印象悪いから説明しないことにして、歴史を知ってることは予知夢で見た扱いにしておくことにする。
「んでいまやってみせたのは、『俺がいま認識出来る範囲限定』だけど詳しく知ることが出来る未来視。時間は一分……えーと煙草一本ゆっくり吸い終わるくらいか。そんくらいの先までなら、行きたい未来への最善手がわかる」
「そんだけ視えたら賭けごと負けなしじゃん、ヤバっ。そっかーだからカジノ行ってきたんね。納得。そんで坊っちゃん、その魔王を倒す者? とかゆーの助けて、その先はどうすんの」
「そいつをアシストしながら魔王を倒す旅に出る。……しばらく行動を共にしてほしい、ってさっき言ったけどさ。ライラックにはその旅にもついてきてほしいんだよ」
「んーわかった。って軽く言っちゃったけど旦那様には許可取らんといかんか。えーと、旅の引率役ってことでいいんかな……?」
ものすごい安請け合いした上で、顎に手を当てて名目をどうするか悩んでいる。
俺含め自分より年下の人間ばかりの旅になるから、と考えてくれているのだろう。つくづく年下に甘く、いろいろ手伝ってくれるひとだ。この面倒見の良さもやっぱり推せる。
「ありがとなライラック」
「いーのいーの。坊っちゃんがさ、真っ当なことに向かって頑張りたいって変わってくれたのあたし、結構うれしかったんだよね。……あたしは真っ当な生き方、出来ちゃいないからさ。ちょっとでも若い世代の助け出来ればそれでいーんだよ」
あなた二十六歳だろまだまだ若いよ。肌綺麗だし顔は凛としてるしおっぱい長くておっきいし。マジで自分のことも大切にしてくれー。
と、言いたいけどまだまだコールはカスからちょっと足洗っただけなので以下略。いずれもうちょっと行動が伴って、発言に重みがある立場になってから存分に伝えよう……。
などと考えていると、救貧院の扉が開いた。
なかからひょこっと現れたのは、ルイスである。どっか出掛けるのか? さてどういう風に接触して、「俺と旅に出てくれ」って頼めばいいのかな。
やっぱシエラが危ないから、って言うのがいいと思うけど初手の接触も大事だ。俺は未来視を発動して、「よう、昨日ぶり」とか話しかけにいった場合を想定する。
──「よう、昨日ぶり」と俺が遠くから話しかける
──げ、という反応を隠しもしないルイス
──次の瞬間、ルイスの周囲五メートルほどの四方から垂直に石板が屹立する
──石の箱に閉じ込められたルイスを見ている俺の視界がブレる
──ライラックが俺を突き飛ばしており、その右腕が剣によって切断される
……うげぇっ⁉ おいマジか、もう邪教団の襲撃に遭うのかよ‼