ウチの山に異世界の騎士が落ちてきた話   作:道造

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第10話 鍛冶屋とバイク

 

「まあ、鎧を直せるかどうかといえば直せるだろうけどさ。時間はかかるぜ。西洋甲冑の補修だなんて、やったことがないんだからさ。それは理解してくれよ」

 

 ド田舎の自動車整備工場。

 その社長のオジサンに、鎧を見せて頼み込む。

 まあ、それなりに頼もしい台詞が返ってきた。

 

「それにしても、このイケオジは誰なんだい? なんで甲冑なんか持ってるの? 映画か何かで使うの?」

 

 不思議そうに、甚平姿のイケオジであるクレメンスさんを見る。

 クレメンスさんはクレメンスさんで、興味深そうに工場内をキョロキョロと観察していた。

 

「うーん、ウチのお爺ちゃんのお客さん。交流もかねて、ちょっと日本に来てるんです。甲冑は……まあ、撮影用ですね。物自体は本物なんですけど」

 

 最初に用意しておいた、そのまま本当では無いが嘘でもない台詞を口にする。

 私は愛車のキーを受け取り、白銀号の様子を眺めた。

 うん、ちゃんと故障は直っているようだ。

 

「クレメンスさん、帰りましょうか」

「うん、用件は済んだんだが。ちょっといいかい?」

 

 クレメンスさんが、ちょっとだけ気になることが、と言わんばかりに。

 小さな挙手をした。

 

「なんでしょう」

「自動車もそうだが、バイクはここで売っているのかな?」

「ウチは中古車販売も兼ねてるよ。見ていくかい?」

 

 クレメンスさんはバイクを所望しているようである。

 映画から知識を仕入れてきたのであろう。

 まあ、ちょっと見るぐらいならば全然構わないのだが。

 

「クレメンスさん、バイクに乗るには免許がいるんですよ」

 

 乗れないから買っても意味ないよ、と暗に告げる。

 

「免許か。まあ、確かにあの速度で人にぶつかると危険だろうしな」

 

 この辺り、理解力のある彼はすぐに納得してくれるのだが。

 今回はそれで終わらないようで。

 

「では、その免許を取るにはどうすれば?」

 

 解決策を即座に求めた。

 なに?

 そんなにバイクに乗りたいの?

 妙に意欲的だな、クレメンスさん。

 

「ウチがバイクコースを持ってるから、そこで練習するかい? 最初だけならレッスンにも付き合うぜ」

 

 社長さんが、親切に申し出てくれるが。

 これはバイクを売りたいだけだな。

 商売上手である。

 いや、私の小遣いで買っても良いんだけどさ。

 

「というか、用途によるだろ千尋ちゃん。別に私有地の山道で乗る分にはバイクに乗ってもいいんだぜ。伊藤家の山で乗るだけなら法律違反じゃないし」

「いや、まあそうなんですけどね」

 

 一般道路はダメだが、例えば私が前にヒグマに襲われた山道。

 あそこは完全な私有地だから、道路交通法には引っかからないだろう。

 とはいえだ。

 

「クレメンスさん、バイクは危ないですよ。自動車なら応援もしますが、ちょっとね」

「ヘルメットはこれか? いくらかな?」

「人の話聞いてます?」

 

 なんでそんなに乗り気なんだ。

 私は本気で訝しんだが。

 

「鉄の馬で、大地を駆ける風を感じてみたい。きっと、どんな馬で駆けるよりも爽快だろうなと」

 

 まあ、なんとも格好良い台詞を口にした。

 そこまで言うならば、私が止める権利はない。

 ないのだが。

 

「クレメンスさん、自転車には乗れますか?」

「……乗ったことが無いのでなんとも言えないが。馬術には自信が」

「あ、全然関係無いです。自転車も乗れないのに、バイクは止めてください」

 

 私も馬には乗れるが、二輪のバランスと馬術は別物なのである。

  

「社長さん、自転車も売ってましたよね」

「まあ、あるけど。先に自転車から始めるかい?」

「その方がいいかなと。バイクを買うのは止めませんけど」

 

 まあ、クランクを回す必要がない分、自転車よりもバイクの方が楽だという説はあるが。

 だからといって、自転車にも乗れない人間がバイクに乗ってたら普通に怖い。

 危なっかしくて見てられない。 

 

「クレメンスさん用のママチャリを買います。ちょっとコースをお借りしますね、社長」

「いいけど……イケオジなのに自転車にも乗れないのかい?」

 

 イケオジなのに。

 まあ、イケオジなら颯爽と自転車ぐらい乗ってほしいものだが。

 そしてママチャリもどうかとは思うのだが。

 

「たまに、社会勉強用にお使いを頼んだりするかもしれませんし」

「子供かな?」

 

 子供である。

 クレメンスさんは確かに頭も良ければ顔も良いが。

 社会勉強という点においては、幼子と何も変わらぬのだ。

 少しずつ覚えていくしか無い。

 

「じゃあ、帰る前に自転車の走行練習をしましょうか。クレメンスさん。私のレッスンは厳しいですよ」

「肋骨が折れる程度までならば我慢しよう」

「そこまでの覚悟はいらないですよ」

 

 騎士のトレーニングって、やっぱり厳しい物なのかしら。

 まあ、自前で骨折の治療方法があるなら、想像を絶するほど厳しくなるか。

 それでもヒグマには勝てないようだったけど。

 はて、そのヒグマだが。

 あれからどうしたのだろうか。

 

「……」

 

 勿論、公安警察さんは状況を理解しているだろう。

 警察官を動員して、山への侵入はできないようになっているし。

 町中にも警戒を呼びかけて、パトロールはしている。

 しかし、しかしだ。

 はて、どうやってヒグマを仕留めるつもりなのだろうか。

 ニューナンブと呼ばれる、警察官の拳銃ではヒグマを仕留められないだろう。

 あの獣には堅い体毛と分厚い皮下脂肪があるからだ。

 ひょっとしたら、ダメージすら与えられないかもしれない。

 だからまあ、必然的に公安警察さんは対処として、猟友会からライフル所持の猟師さんを連れてくるのだろうが。

 どうやって?

 相手はヒグマだ。

 本州には存在していない。

 その矛盾をどう説明して、猟師さんを連れてくるつもりなのだろうか。

 それは分からない。

 

「ま、なんとかするか」

 

 どうにかなるだろう。

 というのも、クレメンスさんの存在がある。

 彼のインチキ治癒能力を取引として得るためならば、猟師でも自衛隊でも、なんでも連れてくるだろう。

 私は安易にそう考えて、思考を打ち切ることにした。

 

 

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