「おお、ゆうしゃよ!しんでしまうとはなさけな、、くない!?」~俺にしか使えない伝説の禁術【死者蘇生】と俺しか使わない非道の禁術【自爆】を使って禁忌の刻印を持ちし勇者が無双する。 作:石尾ニシン
目の前の少女は只々飴玉のような氷をぽろぽろと雑な目隠しの間から床に落とすばかりだ。簡潔に言えば泣いている。子供みたいに、あの時の俺みたいに啼いている。俺は俺の飼い主であるアナスタシア以外の女性とあまりしゃべったことがなかったのでどうしたらいいかわからなかった。
「何がお前を泣かしているのだ?」
流石にこのまま泣いたままの少女を無視して帰ると夢見心地が悪いと思った、俺がそう問うとひくひくと息を詰まらせながら、その少女はゆったりと俺の事を指さす。俺かよ。さすがにそのまま口に出すことはなかったが、少し動揺してしまい俺は顔をこわばらせる。
そのしかめっ面を見たその少女は少し笑った。煩雑な目隠しの上からでもそのくらいはわかった。
「あなた名前は何というのですか?」
「ラルフだ。否、禁忌の勇者ラルフだ」
この名前を言って知らない奴は王都にはほぼいない。おそらくあいつらの印象としては、美名を馳せるというよりは悪名高いという感じだ。
「そうですか、、、」
「貴様は?」
「何がですか?」
「貴様は何という名だ?と聞いている」
自分の名前が聞かれるとは思っていなかったらしく、その少女は少し驚いたような顔つきになった。
「確か幼いころの記憶なので詳しくは覚えてはいないのですが、、、両親にはヒョウリンと呼ばれていた気がします」
俺は数秒の沈黙を挟んだ。
「なるほどな、、、お前の親は悪趣味だ、吐き気がする。」
俺は自身の娘によって凍死させられた、二つの氷塊を見ながら言った。
「それってどういう意味ですか?」
「ヒョウリン、お前と同じく氷晶の魔術刻印を持った妖精族に実在したと言われる伝説の氷の魔術師。別名、、、否これは言わんほうがいいか?まあおそらく使われていたのは、、、」
そういった俺はゆったりとその少女の近くの氷に剣で文字を刻む。
【氷凛】
「このような文字だろう?」
「確かにそんな感じの文字に見覚えがある気がします、、、」
気が付いたら氷凛は泣き止んでいた。
「悪趣味ってどういう意味ですか?」
「こうなったのもこいつらの自業自得という意味だ。薄々感じてはいたがな、、、」
二つの死体が入った氷塊を見つめながら俺は言った。
「だからどういう?」
「お前の父親は魔術師だろう?」
「は、はい」
このダークオークと石レンガで作られた屋敷の無理やりこの街に合わせたかのような空気の読めない感じも魔術師ならば頷ける。魔術師は推して知るという事が得てして苦手なものだからな。
「お前に氷晶の魔術刻印を刻んだのは父親だな。推して図るにお前が四歳のころ、、、」
「はい、、、」
氷凛はまるで氷のような表情を俺に向けた。これはつくづく面倒くさい役回りだなと俺は感じる。
「魔術刻印がなぜ禁忌の魔術技術と言われるか分かるか?」
まあ聞かなくてもこいつは身をもって知っているのだろうが、、、
「わかりません。」
分かっているのだろうという間だった。しかし分かっているとは言えないのだろうな、、、
「まず先刻の質問に答えると、俺が生き返ったのも魔術刻印の力だ。基本的に魔術は詠唱を必要とする。しかし術者が魔術刻印に完全に適合している場合に限り、魔術刻印に刻まれた魔術は無詠唱で自動的に任意のタイミングで行使することが可能だ。それがたとえ術者が死んだ後であってもな、、」
そういった俺は自身の鎖のような死者蘇生の魔術刻印を指さした。
「なるほど、、、」
「魔術刻印は後天的な物と先天的な物に分かれる。それが人間ならば九割方後者だ。そして問題とされているのも後天的な物だな。まあお前は妖精族との混血だから先天的な物の可能性もあるが、お前の様子を見る限りは後天的な物なのだな?」
「はい、、、」
「なぜ後天的な魔術刻印が禁忌とされているのか理由はこの街を見ればわかる。被術者の拒絶反応による魔術回路の暴走。魔術回路の浸食。ひいては魔術回路による憑霊または魔術概念自体の顕現。お前に何が起こったのかは聞きはせんが、お前はその中では運がいい方だ。あの伝説の氷晶の魔術刻印に体を侵食されることがなく被害が町一つが氷漬けにされただけで済んだのは奇跡だ。お前が半妖という事もあるのだろうが、、、運というよりは才能があると言ったほうがいいかもしれんな。」
「正直、私自身がどのような力を持ってしまったのかもパパがなんでそんなものを私に刻んだのかもわかりません。でも、でも、、、私はパパとママにまた会いたい。会ってまた抱きしめてほしい。十五年間そのことだけを考えてこの街でずっと待ち続けていました」
十五年もの間こいつは一人で両親が生き返るのを待ち続けていたのか、、、俺は少し途方に暮れてしまった。その強さが俺にとっては太陽の光を反射する雪原のようで少し眩しい。
「そんな呪縛を刻んだ貴様の両親を恨まないのか?お前は、、、」
「恨んだこともあります。でも今は会いたいのです、、、」
「俺にはその感情はわからん。」
「ラルフさんには同じようなことはなかったのですか?」
俺の鎖のような魔術刻印を見ながら、氷凛は言った。
「俺は物心ついた時には奴隷だったからな、そんなことを叫ぶ舌も無かったさ、、、まあしいて言うならば俺を産み落とし奴隷という人生を課した両親にあったら殺してみたいと思ったことはある。だからそんな目に遭ってもそのように思えるお前は、、、俺より強い。誇れ。」
俺は吐き捨てるように言った。
「ラルフ様はお優しいのですね、、、」
そう言った氷凛の頬のあたりが少し赤らんでいる。気のせいかもしれないが、、、
それに対して何も言い返すことはなく俺は氷凛に背中を向ける。この場から立ち去ろうとする、俺の背中に対して氷凛は語り掛ける。
「待ってください」
「なんだ、伝えるべきことは伝えたぞ」
「どこに行かれるのですか?」
「どこにって、俺は勇者だ。魔王を倒しに行く。ただそれだけだ」
それが当たり前の事みたいに言った。自分でも実感はわかない。
「ならば私も連れて行ってください。禁忌の勇者ラルフの旅に私も、、、」
「なぜおまえを連れて行かなければならんのだ?」
「私があなたの事を好きだからです」
いきなりの告白だった。
「な、なにを言っているんだお前は、、、」
「両親以来初めて人の事が好きになってしまったからです。」
自分でも少し俺の顔のあたりが紅潮するのが分かった。おそらくこいつは好きという感情を勘違いしている。四歳のころから十五年間人と接さずに生きてきた弊害だろうと頭の中でできるだけ冷静に俺は分析する。
「勝手なことを言うな!勇者は遊びではないのだぞ。」
「だからこそです。あなたはさっき言っていました。私には才能があると、その才能を生かすべきです。勇者なら使えるものは何でも使うべきです。あなたが禁忌の勇者なら尚更です。あなたが臆病な私に外の世界を見せてください。私に世界の見方を教えてください。私の目隠しを私はあなたに外してほしいんです。貴方に両親が死んでいると言われて踏ん切りがつきました。私見てみたいんです。ここ以外のどこかを、、、」
氷凛の真剣な声色に背を向けることができない。これは俺の弱さだなと自分でも思う。俺は余計なことを言ってしまったなと猛省する。確かに才能があるとは言ったがそんなものは口をついて出たような戯言だ。言葉尻をとって勝手なことを言いやがって、、、
「それに、、、」
「なんだ?」
「私結構料理上手なんです。ママに小さいころ教えてもらっていたので!」
知るか!と言おうと思ったその瞬間、
【グウ―】
俺の腹の虫が鳴った。俺は王都からスノーメイル迄の三日間何も食べていなかった。
「ほら!ラルフさまのお腹も泣いています。というかラルフ様が嫌がっても勝手に付いていきます。」
「最悪だ、、、」
俺の口から思わず出た言葉はそれだった。やはり、女というのはよくわからん。