忘却少年の日誌   作:グラビトン

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どうも、グラビトンです。
最近なのはシリーズを最新作含め見始めて、また衝動書きです。

初めて日記形式に挑戦しますが、良ければご覧になってください。


日記1回目/喪って、出会う

〇月×日

今日から日記を書こうと思う。

これまでのおさらいをここで書いた後、これからの自分の事をここに書き記して置く。

 

手始めに自分の事を書こうと思うが、改めて考えても書き残す様なモノが少ない。

何せ自分は、中村ユウゴというこの名前以外の記憶の全部喪ってしまっているのだから。

 

目を覚ました頃には病室の天井、俺を助けてくれた久瀬シイナという人が隣にいてくれた。

そして俺は自分の名前を直ぐに思い出すが、その他の記憶は朧気………というより、なんにも覚えが無かった。

 

何故俺は病室にいるのか、何故ボロボロになってたのか、何故記憶の殆どが消えてしまったのか、考えれば考えるほど分からなかった。

 

シイナは侵略種という怪物に襲われたせいかもしれないと推測してたが………確信は無いけど、多分違うのだと直感で感じた。

この世界はその侵略種というモンスターのせいで色々とめちゃくちゃになってるらしい………しかし、どうにもその話を聞いても釈然としなかった。

 

まるで他人事の様に、記憶の有無に関係なく初めて聞いたような奇妙な感覚に陥っていた。

 

そして俺を診てくれた先生がやって来て、俺に幾つかの確認をした後こう告げた。

 

 

俺の記憶喪失はエピソード記憶、つまりは思い出の全てを外的要因による強すぎる衝撃によって喪ってしまったと推測され、しかもかなり強烈に受けていたらしく、その際に以前までのエピソード記憶を全て《喪失》ではなく、正確には《破壊》されてしまった……との事。

 

 

 

通常の記憶喪失なら時間を掛けて思い出せるかもしれないが、俺の場合は脳の後遺症によって…………その記憶は二度と戻らないとはっきりと告げられた。

 

正直、今でも実感が湧かない。

無論唖然とした、あんなボロボロになって名前だけ思い出して、いきなりもう記憶は戻らないなんで言われても、自分に何が起こったのかも分からない状況、多分1周まわって冷静になってたのかもしれない。

 

俺を助けてくれたシイナもまるで我が身のように心配してくれた、本来俺とは関わることの無い一人の筈なのに…………頭が上がらない。

 

俺が普通に動けるまで入院していた間も見舞いに来てくれたりした、右も左も分からない状況だけど、せめて彼女に対して何か恩を返さなきゃと病室の天井を見上げながらそう考えてた。

 

それからはリハビリを重ねた、今更書くけど俺はあの病室で半年以上も横になって眠っていたらしい。

道理で身体がバッキバキだったわけだ、しかし自分で歩けるようになるまでに時間は全然掛からなかった。

 

そして俺が目覚めて3日ほどして退院となった、その際シイナが自宅に招いてくれてお祝いと言われて料理を振舞ってくれた。

久々に食べるとされる病院食以外の料理はマジで美味かった、本気で泣きそうだった。

 

そして落ち着いた後、シイナと話した、俺の今後を。

その時ははっきり言った、何も分からないと。

 

医者から今後記憶を思い出す事は無いと明言された以上はどうする事もできないのだろう、そして俺はこの島の住人じゃないのは確かだ。

 

俺は何者で何処へ来たのか…………知りたいと思うがその方法が思いつかなかった、でもこれ以上シイナに、恩人に迷惑を掛けたくも無かった。

 

だから俺は今後一人で生きると明言した、今は何も返せるものが無いがいつかそれを返したいと言って。

無茶だと言われたけど、あの時のシイナには何かやるべき事がある事を察していた、なんとなくだったが。

 

それを邪魔するのも忍びないからと思っていたが…………その時、シイナは色々と俺に決意したかのように話した。

 

自分はかつて存在した久瀬セツナという妹の力を譲り受けた魔人という存在である事、そのセツナを殺した魔人という存在を調べる為に此処を離れて本土へ向かう事、そして…………それに俺が着いてくるかどうかを尋ねてきた。

 

もしかしたら本土に俺がこんな状況になっている事に関して何かしらの手掛かりがある可能性があるかもしれないと、そして何より一人である俺を放っておけないのだと。

 

それを聞いて俺は決心した、今俺がやるべき事は自分の戻らない記憶を探る事じゃなく、目の前にいる俺を救ってくれた人の力になりたいと。

 

直ぐに返答した、着いていくと。

今後どうなるかは分からない、けど俺は進む、一度死にかけたこの命でシイナの助けになる。

 

きっと以前の俺も決断することだろうと信じて。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

静かな朝、顔を洗って、朝飯を食べて、歯を磨いて、椅子に座る。

元々広かった家だけど…………今ではより広く感じてしまう、寂しさも胸に募る。

 

………………ひとりだ、今の私は。

 

「………………セツナ…………」

 

掌を見詰め、今は亡き愛しの妹の名を呟く。

私のたった一人の家族、その為に侵略種駆除も頑張ってきたのに、二人であんなに頑張って生きてきたのに…………突然やってきた魔人の男によってそれは滅茶苦茶にされた。

 

その正体が魔人であるセツナを狙って私たちを殺そうとしてきて、健闘虚しくセツナは………………でも、私に遺してくれた力でアイツは倒して仇はとった。

 

でも………………セツナはもういない、私に魔人の力を分け与えてもう、居ない。

 

…………それでも、生きなきゃ。

こんなにも辛くて寂しくて折れそうで叫びたくなるけど、生きなきゃいけない、セツナの分まで。

だから、しっかりしなきゃ、立って歩かなきゃ。

 

「………………あ」

 

ふと、思い出した。

暫く見舞いに行って無かったことを…………多分、2週間くらいは顔を出してなかったな。

 

………………今は他の事をやろうとは思えない、セツナも彼の事を心配していたし………行こうかな。

 

私は重い腰を上げて、外へ出る。

目に入った空はムカつくくらいに快晴だった、セツナが居なくなった日とは対照的に。

 

静かにドアを閉じて、私は目的地へと歩いた。

 

 

 

 

 

 

ちょっとだけ昔の話を…………半年前くらいの事だった。

 

何時の様に侵略種駆除の為の武器を手入れして、ゆっくりと過ごしていた時の事…………それは突然やってきた。

 

 

 

『うわぁあーーーー!!!?』

 

『ッ!!?セツナっ!!?』

 

 

 

家庭菜園をしてた筈のセツナが突然悲鳴のような声を上げていた、家の中にいた私も当然びっくりした、まさか侵略種に襲われた!!?なんて考えで頭がいっぱいになりながら私は銃を携えて外に出た。

 

『セツナどうしたの!?大丈夫っ!?』

 

『し、しーちゃん!あの、なんか、あの人!!』

 

直ぐにこちらへやってきたセツナの姿に安堵するけど、当の本人はまだパニック状態である場所へと指をさした。

 

するとそこには侵略種…………ではなく、ボロボロの状態で見るからに危険な状態の男の子1人が血を流しながら倒せ伏せていた。

 

『………………え、あっ、えっ!?何アレ!?』

 

『わ、分からない、お野菜とってたらいきなり後ろから音がして、振り向いたらいつの間にかその人が倒れてそこにいたの!!』

 

『何それ!?てか、ちょ、大丈夫!!?』

 

銃を置いて直ぐに駆けつける、体を仰向けの状態にするがそれはもう酷い有様だった。

切り傷や打撲はそこかしこに、そして何より頭部からも血が流れてもう死んでしまったのかと思ってしまった位だ、しかし彼にはまだ息があった。

 

『(何この傷、侵略種にやられた?でもそんな情報無かったし、ていうかそもそもなんでここに?誰も入れないハズなのに、何がどうなって……)セ、セツナ!医療箱持ってきて救急車も呼んで!大至急!!』

 

『う、うんっ!』

 

 

 

半ばパニック状態に陥りながら私は止血をして彼の命を繋ぎ止めるために必死に行動した。

そして救急車はやって来て病院へ緊急搬送された、応急処置も限界まで頑張ったけどアレだけの傷だ、最悪の結果に転んでも可笑しくない。

 

私とセツナも病院に赴き、手術室の前で心臓をバクバクと鳴らしながら待機していた。

オペもかなり長引いた、そして遠い時間が流れたと錯覚するくらいに座り込んで…………やがて手術中のランプが消灯した。

 

私とセツナはそれを確認するとおもむろに立ち上がり、手術室から出てきた先生と彼を載せた手術台が出てきた。

 

『せ、先生、彼は』

 

『…………本当に間一髪でした、1秒でも遅ければ手遅れでした、シイナさんの応急処置が的確でなければ』

 

『と、ということは』

 

『あれほどの重症でしたから絶対安静は必要です、まぁ暫くの間目を覚ますことも無いでしょうけど…………峠は越えましたよ』

 

『『………はぁぁぁ〜…………!』』

 

汗だくで笑みを浮かべる医者の姿を見て、私達は顔を見合わせると大きくため息を吐いて安堵する、緊張の糸が解けたのだ。

一時はどうなる事かと思ったけど良かった、訳の分からない事だらけだけどとりあえずは安心した、でも…………分からない事は積み重なっていた。

 

『…………ねぇセツナ、本当にいきなり後ろに?』

 

『うん、侵入された感じでも無かった、ドサッて音がしてまるで空から落ちて来たみたいに』

 

『………空を飛ぶ奴らが落としたのかな、でも人間を食べ残すなんてあるかな…………』

 

『それに彼はこの島の人間でもない、初めて見る顔です』

 

『確かに………』

 

私たちの住むこの海女鳥島の村は決して広くないし住んでる人も多くない、大抵は顔見知りだ。

しかし彼の顔は見た事がない、多分外から来た人間なんだろうけど………歳は多分セツナより1つは上くらいかな?そんな少年がたった一人でこんな所に来るかな…………ていうかそもそもなんでこんな致命傷を受けてたんだろ。

 

『まぁ本人から色々聞き出すのが一番ですが…………恐らくそれは困難でしょう』

 

『えっなんでですか?助かったんですよね?』

 

『命は、ね…………結論から言って、彼は記憶のほとんどを喪ってる事でしょう』

 

『え……?』

 

セツナが尋ねてきたその問いに先生は苦々しい顔を浮かべて答えた、命は助かったのにまだ何かあるのだろうかと当時は思った。

 

 

 

 

そして私達は診察室で彼の容態を説明してもらった。

彼は身体中が酷い有様だったけど、特に頭部がかなり深刻だったようで、後遺症は免れないとの事…………それが記憶喪失という事になるとの事だった。

 

…………しかもそれはただの記憶喪失ではない、エピソード記憶…………所謂思い出を保有する脳の部分へ大きい衝撃を受けてしまい、その際の怪我とその後の後遺症も相まって…………彼は二度と記憶が戻らない可能性が大きいのだと聞き、私達は唖然とした。

 

『…………じゃあ彼は、目を覚ましても何も話せないって事ですか?』

 

『話せるだけならまだいいかもしれません、もしかしたら知的障害を負って日常生活すらままなくなる事も有り得ます、何れにせよ…………彼は今後どうなるかは私にも分かりません』

 

『そんな…………』

 

誰かは分からない、話したことも無い赤の他人だ。

それでもこんな少年が、先のある年下のこの子が重い十字架を背負って生きることになるのかもしれないと聞かされた私達は言葉が出なかった。

 

全てを聞いた私達は彼が眠っている一室に向かいベットに横たわる彼を見守っていた。

点滴に繋がれ、人工呼吸器をつけられ、身体中は包帯まみれのミイラ男状態で、痛々しいことこの上無かった。

 

セツナ名も知らない彼の近くで座りながら見守っていた、瞳は揺らいでて本当に心から心配していた様子だった。

 

『……大丈夫かな、この人』

 

『どうだろうね、目を覚ますのも当分先の事になるって言ってたし』

 

『…………でもこの人、目覚めても多分独りだよね?』

 

『セツナ…………』

 

『記憶も無くしてるんだよね…………私にそっくり』

 

『あ……』

 

セツナのその呟きで私は意表をつかれたような気持ちになった。

そうだ、セツナも記憶喪失で今もかつての思い出が消えている状態だった、私もいつの間にかこんなにも心配するようになったのは…………無意識に昔のセツナを今の彼と重ね合わせていたのかもしれない。

 

『どうする、しーちゃん』

 

『…………どうしようか』

 

『私、この人放っておけないよ』

 

『………うん、私も』

 

『じゃあこれからちょっとずつお見舞いしよ?』

 

『うん、そうだね!セツナを驚かせた悪ーい男の子だしその時は』

 

『だ、ダメだよしーちゃんっ!?』

 

『じょーだんじょーだん!』

 

 

 

いつの間にか笑いあってた私達はその日から、名も知らない彼のお見舞いを続ける事にした。

正体が分からない以上危険なのは変わらないけど、その時はその時だ、そもそも記憶がないのなら何か出来るわけでも無いしね。

 

それから1ヶ月に2、3回は病院に通った。

セツナは話し掛けたりして1日でも早く起きてーなんて言ってたな、しかし起きる様子は微塵も感じられなかった。

月日は流れて傷も癒え始めても意識は戻らなかった、昏睡状態だ。

 

一体誰なんだろうかと、私と同じハンターだったのかなと憶測を立ててお喋りしてその声でナースさんに叱られたのも今や懐かしく感じる。

 

 

 

……………そして今、私は初めて一人で彼の居る病室の前に来た。

名札が飾られてない病室のドアを開ける、すると風が私に吹き込んできた。

 

誰かが窓を開けていたのだろう、私はゆっくり入ってセツナがよく座っていた椅子に腰かける。

あれだけあった包帯は取り払われて今や頭部に残されている、その黒髪も大分伸びている、半年間1度も切ってないのだから当然だろう。

 

しかし…………穏やかな寝顔のまま彼は起きてない、今日に至るまで1回も。

 

「…………どんだけ寝坊助なんだよ君、妹がお話したがってたのに…………もう居ないんだよ?」

 

思わず笑いながら話し掛けてしまう、返答など無いと分かって居ながら私は続けた。

 

「こんなに気にしてもしょうがないけどね、ホントに赤の他人なんだから…………でも、なんでかな、セツナが居なくなった今でも君がより放っておけないや」

 

セツナがいなくなってしまった事による感傷か、私が可笑しくなってしまったのか…………分からない気持ちのままそっと、彼の手に私の手を乗せた。

 

「早く起きなよ………セツナは、ずっとそう望んでた、のに」

 

思わず声が震えた、ここにいるとセツナとの思い出の一部がフラッシュバックしてしまう、ダメだ、耐えろ、耐えろ。

 

添えてある手にも力が籠ってしまう、ぎゅっと彼の手を私は握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

その指は動いた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………え」

 

「………………………………ぅ…………う」

 

思わず顔を上げる、何かの間違いかと思って横たわる彼の顔を見つめる。

すると………ずっと空いてなかった瞼が徐々に開き始め、私は彼の瞳を初めて見る。

思わず固まった、もしかしたら起きないかと思ってたのに、いざこうして対面すると言葉が出なかった。

 

「………………ぁ、え、な」

 

「お、起きた……起きた!?ちょ、えっと、先生を、えっと!」

 

「ど、どうしました久瀬さん!?」

 

「あっナースさん、あの、起きました!目を開けてます彼!!」

 

「えっ、あ…………せ、先生っ!!!」

 

偶然通りすがったナースさんにパニクりながらも状況を伝え、その人も慌てながら担当の先生を呼びに行った…………多分起きないのだろうと思ってたのも相まって慌ただしかった。

 

「…………あ、あ……?」

 

「あ、ねぇ君!私が見える?てか聞こえる!?」

 

声にならないような唸り声を上げる彼に向き直り顔を近づける、その眼は弱々しくも私を捉えていた。

 

「……ここ、は、あ、なた、は」

 

「待ってね、もうすぐ先生来るからさ!」

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

それから直ぐに先生がやって来て、彼の容態を事細かく診ていた。

どうやら懸念していた後遺症の障害は遺されてないらしい、たどたどしくも言葉を紡いでいた。

 

そして先生はそれを確認すると、次の質問をし始めた。

 

「…………君はここでずっと眠っていたんだ、隣にいる久瀬シイナさんが君を運んできてくれたんです」

 

「…………くぜ、さん」

 

「シイナでいいよ、えっと…………名前、分かる?自分の」

 

「……なまえ、名前…………ぅっ」

 

「っ!大丈夫っ?」

 

私が思わずその名を尋ねると彼は左手を顔に抑えて唸り始める、先生が落ち着くように訴えかけて彼は呼吸を整えていた。

 

「はぁ、はぁ……………………ゆう、ご」

 

「え?」

 

「……なか、むら…………ユウゴ…………」

 

「ユウゴ…………君の名前…………」

 

「………………わから、な…………なんで、俺は…………俺…………誰だ…………?」

 

「…………覚えていたのは名前だけか、ナカムラ ユウゴ君、ようやくの目覚めで申し訳ないが……落ち着いて聞いて欲しい」

 

 

 

 

 

 

ナカムラ ユウゴ。

 

 

 

 

 

 

ずっと私が、私達が知りたかった彼の名前。

しかし当初の懸念通り彼は記憶を喪っていた、何も思い出せずに居た…………正確にいえばそれすら思い出せない状態なのだけれど。

 

先生はそれを彼に正直に伝えた、彼は瞳孔を震わせて訳が分からないという表情で掌を見つめていた。

私はそれを胸が苦しくなるような気持ちで見ていた、何も知らない、自分の事すら分からない状況、しかも二度と思い出せないときたその気持ちなんて分かるわけもないし分かりたくもない。

 

 

 

でも……………記憶を喪い孤独を感じるその姿に、私は否応にもセツナの姿を彼に重ねてしまっていた。

 

 

 

それから先生は退室して、彼は天井を見上げていた。

私はそれをただ見つめていた、何か話そうかと思ったけど何も出なかった。

 

セツナは話したい事が沢山あると言った、聞きたいことも、あの子に変わって私がそれを聞こうとしても…………私は何も言えずにいた。

 

時間だけが流れてゆく、窓から見える外の景色は相変わらず晴れ晴れとしていた、憎たらしいくらいに。

 

「………………」

「……………………」

 

「………………あの」

 

「…………んえっ!?」

 

するといきなり沈黙が破られ、まさかの彼の方から……ユウゴが私に話したい掛けてきた。

私は素っ頓狂な声をあげて見つめ返してしまう、やっば病み上がりなのに何てもの見せてんだ私ぃ!?

 

「……………大丈夫ですか」

 

「あ、あーうん大丈夫!どうした、の?」

 

「貴女が、俺を助けてくれたんですよね」

 

「あ…………うん」

 

「…………ありがとうございます、ずっとお見舞いしてくれたって」

 

「良いよ気にしないで、もしかしたら目覚めないかもなんて思ってたけど良かったよ、ほんっと」

 

「………何か、返せるものがあれば良かったんですけど」

 

「そんないいよ!欲しくてやった訳じゃないし、それより…………やっぱり、思い出せない?」

 

「………………」

 

私を見つめながら彼は小さく頷く、希望的観測を込めて聞いてみたけど後悔した、直ぐに思い出せたらそりゃ苦労は無いわな…………。

 

「先生は侵略種に襲われた際の怪我かもしれないと言ってたけど、私も正直そう思ってるけど…………どう?」

 

「その、侵略種?なんですけど…………俺は、なんというか、初めて聞いたような気がします」

 

「まぁそりゃ、記憶喪失だしねー……」

 

「そうじゃなくて、その…………本当に初めて聞いたような気がするんです」

 

「…………どういうこと?」

 

「さっきシイナさんが話してくれたこの世界の事…………俺にはどれもこれも初めて聞いた様な感覚がするんです、記憶喪失の関係なしに、何故かそう思えてならないん、です」

 

「…………えーっと…………」

 

頬をかきながら彼の言葉を考える。

侵略種を初めて聞いた気がする?今や常識レベルで警戒しなきゃいけない人類の敵なんだけど、それが今日ここで初めて知ったってこと?訳分からん………………でも、仮にあれが侵略種による怪我なら説明がつかない。

 

だって奴らが食い残しをするなんてほぼ有り得ない、人間は奴らにとっては食事のようなものなのだから。

 

じゃあ…………魔人?いやアイツも似たようなものだ、現に私も食べられかけた。

…………ダメだ、考えれば考えるほど分からない、彼も嘘を言ってるようには思えない…………あ、そうだ。

 

「話はズレるんだけどさ…………これ君が持ってた奴」

 

ふと思い出したかのように私はベットの隣にあった小さい引き出しからあるものを取り出し、彼に差し出す。

それは…………見た感じ、ブレスレットと呼ばれるようなものだった。

 

「……俺が、持ってた?」

 

「うん、君の腕に付いてた奴、今思えばなんか光ってたようにも見えたけど今は壊れかけのブレスレット………何か、思い出せたりする?」

 

「………………分からないけど、とても…………とても大事なもの、かもしれない」

 

「そっか」

 

大事そうに胸に抱える姿を見て笑みが零れた、直そうとも思ったけど何かの機械仕掛けになってて手が出せなかった。

でも彼にとっての大事なものなら捨てなくて良かった。

 

それよりも…………聞かなきゃな。

 

 

「………………君は、これからどうするの?」

 

「さぁ、俺は…………この島の人間じゃないんですよね?」

 

「うん、聞き回ったけど君の事は誰も知らないって、本土の行方不明リストにも乗って無かった」

 

「…………俺は何故、ここにいるんだろう」

 

「………………ユウゴ………………」

 

「…………1人、か」

 

「………ッッ」

 

 

 

1人。

その言葉を聞いて思わず震えた。

 

誰も彼を知らない…………彼ですら自分のことを知らないのなら、彼は文字通り孤独の身だ。

セツナとそう離れていない歳で、こんな状況はあんまりだ、残酷すぎる。

 

そして何より…………私も今や独りだ、孤独だ。

セツナはもう居ないのだから、譲り受けたこの力があっても彼女は居ない、形だけではなく…………これからもずっと傍にいて欲しかったあの子はもう居ない。

 

天井を見上げるユウゴの瞳を見つめる、涙は流していない、それでも寂しさの色は隠せてなかった。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

彼が…………ユウゴが目を覚まして暫くが過ぎた。

検査とリハビリを重ねて、日常生活を過ごす分には問題無しと先生のお墨付きを貰い、怪我もとうに治っていた為彼は退院した。

 

無論私もそれに付き合った、乗りかかった船と言う奴だ。

一緒に先生にお礼をする、服は私のお古を彼にあげた。

 

髪もゴムを渡して後ろに束ねてさせた…………うーん、こうしてみると結構顔整ってんじゃん。

 

「さてと、退院したからには…………ユウゴ、お腹空いてる?」

 

「あー…………まぁ、言われたらなんか減りました」

 

「男の子だねー、じゃあ家に来なよ!いっぱい食べさせてやるからさ!」

 

「え、そんな、悪いですよ」

 

「いいのいいの!セツナがいつか食べさせてやろうねって言ってたし!」

 

「…………セツナ?」

 

「あ…………あーごめんなんでもない!さーいこいこ!」

 

思わず今は亡き妹の名を零してしまうが、勢いで誤魔化し彼の手を引っ張った。

 

 

 

それから自宅に招待し、私は久々に料理を他人に振舞った。

料理はセツナに任せっきりだったけど私もできる方だしね、唐揚げを沢山作ってその他の料理もこれでもかって位に今回の退院祝いに作りまくった。

 

「……………」

 

「さ、どーぞ!遠慮なく!」

 

「……いただき、ます…………!」

 

最初は少し遠慮気味だったけど、唐揚げを一口食べたらエンジンが掛かったのか色んな料理に手を出して口に運ぶ、あれだけボロボロだった姿からは想像出来ないくらいに元気だ…………うん、ほんとーに良かった、セツナも喜んでることだろう。

 

「あはは!めっちゃ食べるね!もう元気いっぱいじゃん!」

 

「……っ、いや、もう、泣きそうです」

 

「なにそれ!大袈裟だなー…………よかった、ホント」

 

………………あぁ、ホント何してんだろ私。

またセツナが彼に重なって見えるや、似てないのに、そもそも男の子なのに…………あー、引き摺ってるんだな…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふぅ、食べたー」

 

「お粗末さま、美味しかった?」

 

「はい…………シイナさん、ほんっとに…………何から何まで、ホント!」

 

「いいって気にしないで!土下座とかこっちが困るっての!」

 

退院祝いの食事も終わり、私達はコーヒーでゆったりとすごしていた。

その途中彼が堪らず土下座をする勢いで頭を下げてきたが直ぐに止めた、結構義理堅い性格なのかも、ふー…………でも特に記憶喪失以外の後遺症は無いっぽいな、あれだけ傷だらけだったのに凄いなー。

 

「………ユウゴ、もう一度聞くけど、これからどうする?」

 

「……分からないです、俺には名前以外何も残ってない…………でも、前を見て進もうと思います」

 

「ユウゴ…………」

 

「シイナさんにも、これ以上迷惑は掛けられ無いんで…………明日にでも島を出ようと思います」

 

「……えっ、いやいやいやそれヤバイって!外は侵略種うじゃうじゃ居るんだよ!?生身のままじゃ危険だよ!この島にも侵略種は居るけど警戒すれば大丈夫だし!」

 

「…………でも俺はこの島の人間じゃない、それに俺は知りたいんです、なんでこうなったのかを」

 

「………………」

 

「じっとしてられないんです、何故か…………そう思えてならなくて、だから行きます、俺一人で」

 

「………………っ…………!!」

 

ダメだ、ダメだそんなの。

折角助かった命をドブに捨てるような行為だ、彼一人で何か出来るとはとても思えない。

 

もしもまた死んだら…………それならこの家で匿えば……でもそれじゃ、セツナが死んだ理由を探せなくなる。

 

止めるべき?でも私に彼を止める資格はあるの?

助けたと言ってもそれだけだ、私は彼の何を知っている?

 

でも…………放って置きたくない、自分が誰なのかも知らないその姿にどうしても…………セツナが…………っ。

 

 

 

 

『…………しーちゃんがこれから、自分らしく幸せに…………』

 

 

 

「(…………自分…………らしく)」

 

 

 

 

 

自分らしく。

なら…………なら私は。

 

でももしも…………いや前とは違うんだ、私は。

 

セツナの遺したこの力なら、きっと…………。

 

 

 

 

「…………っ!!!」パンッ

 

「っ?シイナさん?」

 

意を決したかのように自分の両頬を叩いて気合いを入れる、ユウゴは私のいきなりの行動に驚いてしまったみたいだけど、私はその勢いのまま口を開いた。

 

「ねぇユウゴ、これから私の話をよく聞いて欲しい」

 

「……はい」

 

「…………私には、妹が居たの」

 

 

 

それから私は全てを話した。

かつてセツナと暮らしていたこと、それを魔人と呼ばれる男に壊された事、魔人だったセツナの力を私が譲り受けて私自身も魔人の様な存在になった事、それを知るために近いうちに本土へ向かうつもりだった事を。

 

 

 

 

「………………セツナって、妹さんだったんですね」

 

「あの子も記憶喪失だったの、だからユウゴの事はより気にかけてたよ」

 

「…………」

 

「で、ここからが本題なんだけど、私と一緒に本土へ行かない?」

 

「シイナさんと?」

 

「さっきも言ったけど私もこの家を暫く留守にしようと思ってたの、色々調べたかったから…………君がそんな状態になったのももしかしたら魔人が関わってるのかもしれないと思って…………確証は無いけど」

 

「………………」

 

「……………もちろん強制はしない、でも私は君に1人になって欲しくないの…………そんなの、寂しすぎるからさ」

 

「…………」

 

「さっきも言ったけど私に着いてきたところで君の記憶に関するものが見つかる確証はどこにもない、無駄に終わって危険な目に会うだけかもしれない、だから今すぐじゃなくて」

 

「行きます」

 

「………………え」

 

「着いていきます、シイナさんに」

 

即答、それも拒否ではなく受け入れの。

私は思わずユウゴの目を見つめ返してしまった、そして…………あの病室で横たわって天井を力なく見上げていたあの瞳とは見違える程に力と意思が籠っていた。

 

「ゆ、ユウゴ、そんな早く言わなくても」

 

「…………シイナさんは俺の恩人です、貴女が………そしてセツナが居なきゃ俺はここにいない、貴女に助けられた命だ、そして何かをシイナさんが成したいのなら俺は力になりたい」

 

「っ、でも、良いの?」

 

「はい、俺に何ができるか分からないけど…………それでも何もしない理由にはならない、俺の為にも」

 

「ユウゴ…………」

 

 

 

 

 

 

とても記憶喪失で自身を見失ってるような姿に見えない、とても力強く…………………あー、もう、ウジウジ悩んでた自分が馬鹿らしく見えてきた、ほんと。

 

………………きっとこれもセツナが呼び寄せてくれた縁だ、なら私はそれに応えなきゃいけない。

この先何があっても乗り越えてみせる、きっとそれも自分らしくあるために必要な事なんだ。

 

「……ユウゴ、良いんだね?」

 

「はい」

 

「………………分かった、じゃあ今から私達は命を共にする仲間だね」

 

「ですね」

 

微笑み合いながら立ち上がり、テーブルと椅子から離れて向き合い、私から手を出した。

 

「これからよろしく、ユウゴ」

 

「はい、シイナさん」

 

「それとさ…………呼び捨てにして、あと敬語も要らないから」

 

「………………分かったよ、シイナ」

 

互いにその手を握りあう、そこにできた絆を確かめるように。

セツナ、見ててね…………私はこの先も生きてみせるから、セツナの分まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《………………マスター、そろそろお辞めになられては?》

 

「うん、これでやめるつもりだったから大丈夫だよ、レイジングハート」

 

《分かりました》

 

「ふー………やる事山積みだー」

 

「………」

 

徐ろにスマホを取り出し、写真のファイルを開ける。

そこに写ってたのは在りし日の光景、私と…………彼のいる写真。

 

「………………やっぱ、引き摺っちゃうな」

 

《……マスター》

 

「ごめん、大丈夫、いつまでもこんな調子じゃ彼にも怒られるからね」

 

そうだ、ウジウジ悩んでも仕方ない………………悩んで叱りに来てくれるのならそれも良いけどね。

 

「(…………ユウゴ君………………)」

 

 




中村ユウゴ
本作の主人公、記憶喪失でボロ雑巾になってたところを拾われる。
とりあえずは進む他ない、自分が何者だろうと(因みに基本的にはコイツは日記視点になります)


久瀬シイナ
記憶喪失の主人公にセツナの姿を重ねてしまい、互いに孤独の身である彼を放っておけない、アニメより妹の事を引き摺ってる節があり。
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