TS転生した元男が演奏系配信者として稼ぐ話   作:深空 秋都

32 / 33
#32 「Received」

 

 

 吐く息が白く染まる。

 マフラーに顔を埋めながら通学路を歩く。

 街はすっかりクリスマスの装いだ。

 

 「ありかちゃーん!」

 

 背後から元気な声。

 振り返ると真琴が小走りで駆けてくる。

 白いコートに赤いマフラー。

 完全にクリスマスをエンジョイする気満々の装いだ。

 

 「おはよう真琴。元気だね」

 「だってもうそろそろクリスマスだよ? 元気にもなるよ!」

 

 真琴は俺の隣に並ぶと弾むような足取りで歩き始めた。

 

 「ありかちゃんはサンタさんに何お願いするの?」

 「んー、特にないかな」

 「えー! 私はねー、新しいゲームソフト! サンタさんにお願いするんだ」

 

 無邪気に笑う真琴を見ていると心が洗われるようだ。

 俺は真琴の夢を壊すような野暮な真似はしない。サンタクロースの正体に気づく日まで黙っていよう。

 

 「ゲームか。いいね」

 「でしょー? 一緒にやろうね!」

 

 他愛のない会話を交わしながら校門をくぐる。

 

 

 

 

 *****……

 

 

 

 

 12月某日。

 

 「在処! 見て見て!」

 

 義母が何かを突きつけてきた。

 赤い布切れ。

 よく見ると白いファーがついている。

 

 「……最近よく見る衣装だね」

 「サンタ服っ! ライブハウスの従業員総出で着るのよ~」

 

 義母の瞳が期待に輝いている。

 俺は深いため息をついた。

 

 「ちなみにあり「着ないよ」え~?」

 「絶対可愛いのになあ? ……じゃあ帽子だけ! 帽子だけならいいでしょ?」

 「まあ……帽子だけなら」

 

 義母は「いぃよしっ!」とガッツポーズをして鼻歌交じりに自室へ消えていった。

 一方、俺はいつも通り自室へ入りPCの電源を入れる。

 

 カチカチとWWTubeを開いてお知らせを確認する。

 

 ――新機能追加のお知らせ

 

 『スペシャルチャットβ版』。

 ライブ配信中に視聴者が配信者へチャットと共にお金を送ることができる機能。

 動画広告の収益化に加え、ライブ配信においても収益を得る手段が追加された。

 機能を使用するためにはいくつかの条件をクリアする必要がある。俺の場合はすでにクリア済みなので、すぐにでも使用可能だ。

 

 「金額上限は1万円か。β版だからかね……あ、配信者側で金額上限変えられるんだ」

 

 スペシャルチャットの金額変更画面を見ると、設定可能上限1万円、下限は100円からだった。

 今回はとりあえず、上限を100円に設定した。

 

 ギターを抱えながら、配信の準備をする。

 指先が少し冷えているのでウォーミングアップを入念に行う。

 スケール練習をしながらセットリストを確認。

 

 「よし。ものは試しでテスト配信っと」

 

 配信開始ボタンをクリックする。

 

 *****……

 

 【待機中】

 【メリークリスマス!】

 【クリぼっち集合】

 【ここが俺たちの聖地か】

 

 コメント欄は既に賑わっている。

 

 「ども、皆さん気が早いですね。クリスマス配信は別でちゃんとやりますからフライングしないでくださいねー」

 

 気の早いコメントに反応しながら画面を切り替える。

 映っているのはいつもどおり、身体に対して少し大きいギター。

 

 【どもっす】

 【ども】

 【今年は独りクリスマス確定しちまったんだ】

 【うーっす】

 【どこもクリスマスの飾りしてるからつい】

 【テスト配信?】

 【相変わらずギターの主張の強さに安心すら覚える】

 

 「今日はライブ配信に新機能が追加されたので、そのテスト配信って感じです」

 

 【ほう、新機能】

 【そういえばなんか違うような?】

 【チャットボックスにお金のマーク付いてるな】

 【あっ、これか】

 

 「あ、そうそう。それです。ちょっと公式のお知らせ画面出しますね」

 

 配信画面を切り替え、上から新機能の説明を読み上げていく。

 途中で答えられる質問は簡単に返しながらコメントに反応する。

 

 【配信者にお金送れるのね】

 【上限100円?】

 【読んでる限りだと上限は1万らしいな】

 

 「上限は私が100円にしてます。テスト配信なのでね。

 あ、でも何曲か演奏しますよ……っと、これが今日のセットリストです」

 

 【6曲!】

 【ミニライブくらいの曲数はあるぞ】

 【全部好きな曲で嬉しい】

 【結構ガッツリだな?】

 【雑談かと思ったらしっかり演奏配信で歓喜】

 

 >> ¥100 received.

 ――メッセージ:では早速、新機能をポチっと

 

 【お?】

 【コメントがデカい】

 

 >> ¥100 received.

 ――メッセージ:じゃあ俺も

 

 >> ¥100 received.

 ――メッセージ:お試し

 

 >> ¥100 received.

 ――メッセージ:これで合ってる?

 

 【おお】

 【ま、待ってくれ】

 【俺もやってみたい!】

 

 「おー! こんな感じなんですね! 皆さん100円ありがとうございます!」

 

 滝のように流れるスペシャルチャット。

 ちょっとリッチなエフェクトも含め、特別感のあるコメント表示になっている。

 

 「すごい勢いでスペシャルチャットが飛び交ってますね。流れが速すぎる……!」

 

 あまりの勢いに若干引きつつも感謝を伝える。

 これだけスペシャルチャットをしてもらえるのは素直に嬉しい。が、コメントが滝のように流れていってしまい、とても読みづらい。

 

 「皆さんそろそろ演奏始めますよー」

 

 一曲目。

 原曲の軽快さを残しつつディストーションを効かせたロックなリフで攻める。

 ドラムの打ち込みに合わせてギターをかき鳴らす。

 

 【かっけえ!】

 【テンション上がる】

 【指の動き速すぎて追えねえ】

 

 二曲目、三曲目と続ける。

 視聴者数も増えていく。

 

 「次はしっとり系」

 

 トーンを絞りクリーントーンで爪弾く。

 リバーブを深めにかけ教会の残響をイメージする。

 静寂の中に響くギターの音色。

 コメントの流れもゆっくりになる。

 みんな聴き入ってくれているようだ。

 

 演奏を終えると再びスペシャルチャットの嵐。

 

 >> ¥100 received.

 ――メッセージ:冬だけど熱い

 

 >> ¥100 received.

 ――メッセージ:応援してます

 

 >> ¥100 received.

 ――メッセージ:めっちゃいい曲

 

 【テスト配信ってなんだっけ】

 【テストなんてなかったんだ!】

 【もうミニライブじゃん】

 【スペシャルチャットの親和性すごいな】

 

 ラスト一曲。

 冬のイルミネーションをイメージして作ったインスト曲だ。

 キラキラとしたアルペジオから始まり徐々に熱を帯びていく。

 サビでは泣きのギターソロ。

 

 最後の一音を伸ばしフェードアウトさせる。

 余韻を楽しむように数秒の静寂。

 

 >> ¥100 received.

 ――メッセージ:パチパチパチパチ!

 

 >> ¥100 received.

 ――メッセージ:Good!

 

 >> ¥100 received.

 ――メッセージ:最高

 

 【パチパチパチパチ!】

 【いい演奏だった】

 【ありがとう】

 【お疲れ!】

 

 「テスト配信にお付き合いいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いしますねー」

 

 手を振って配信を終了する。

 ふぅ、と息を吐く。

 心地よい疲労感。

 

 「今日は結構よかったな。スペシャルチャットの演出でみんなの熱量が想像以上に伝わったし」

 

 ただ、コメント欄を圧迫し過ぎてしまう点は注意が必要か。コメントが流れる速度を調整しないと目で追いきれない。

 β版ということで、今回の配信内容をフィードバックしておこう。

 

 

 

 

 *****……

 

 

 

 

 1:名無しの視聴者さん

 

 動画投稿サイト"WWTube(ワールドワイドチューブ)"について情報交換及び雑談をするスレです。

 

 荒らしは即通報&NG設定。

 

 ネットマナーを守りながら利用しましょう。

 

 次スレは>>950

 

 ……

 …………

 ………………

 

 601:名無しの視聴者さん

 新機能見た?

 

 602:名無しの視聴者さん

 スペシャルチャットだっけ

 要はあれって投げ銭だろ?

 

 603:名無しの視聴者さん

 チップとも言う

 

 604:名無しの視聴者さん

 パッと読んだ感じは配信者用の集金装置に見えたわ

 

 605:名無しの視聴者さん

 スペシャルチャットしてみたけど結構いいぞ

 ライブ感? みたいなのを感じやすくなる

 

 606:名無しの視聴者さん

 >>604

 間違いないな

 まあ金送るのは個人の自由だしいいんじゃねって思った

 

 607:名無しの視聴者さん

 俺もやってみた

 配信に参加してる感があって楽しかった

 

 608:名無しの視聴者さん

 これハマるやつは要注意だな

 想像以上に快楽物質出る

 

 609:名無しの視聴者さん

 コメントの演出結構リッチだった

 

 610:名無しの視聴者さん

 歌配信とかどうやって感謝をもっと伝えられるか悩んでたから正直嬉しい機能

 

 611:名無しの視聴者さん

 推しってやつか

 

 612:名無しの視聴者さん

 めっちゃ豪華な配信してくれるのになんもあげられないの申し訳ないなあ、とは思ってた

 

 613:名無しの視聴者さん

 あー、結構金かけて配信機材用意してる人もいるもんな

 

 614:名無しの視聴者さん

 良い機能だけど使い方次第で良くも悪くもな感じ

 自分はあんま使わないかも

 

 615:名無しの視聴者さん

 好きなときに使え

 

 616:名無しの視聴者さん

 おら! 1万円札をくらえ!

 

 619:名無しの視聴者さん

 >>616

 使い過ぎるなよー

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。