TS転生した元男が演奏系配信者として稼ぐ話   作:深空 秋都

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#49 「放課後ニューソング」

 放課後。

 第二音楽室へ入るなり、瀬名は背負っていたケースを床へ下ろした。

 

「ふう、ベース背負って階段登ると脚にくるねえ」

 

 口では文句を言っているものの、顔は笑っている。

 ケースを開ける手つきは宝物を扱うようで、濃い青のベースが見えると瀬名はそれだけで満足そうに頬を緩めた。

 

 俺は瀬名の指をチラリと見てから、

 

「瀬名、昨日どのくらい弾いた?」

「さ……二時間くらいかなー」

 

 瀬名の手をとって開いてみせる。

 

「ちょ、在処ちゃん!?」

 

 指先は赤くなっているが、皮が破れたり腫れたりはしていない。今のうちから指のケアをしておいてほうが良さそうだ。

 

「指のケアはしっかりしないと……家練の時は、とりあえず瀬名のお母さんにウォームアップと練習後のケアも見てもらおうかな」

「あ、在処ちゃん、それはちょっと」

「ほー、私が見てあげてもいいんだけど? それはそれは丁寧に……ね?」

 

 声のトーンを下げてニッコリと微笑む。

 

「……お母さんの方でお願いします!」

 

 ビシッと敬礼する瀬名。

 分かってくれたようで、なによりだ。

 

 それから瀬名はベースを肩へ掛けると、自分で肩ひもの長さを合わせた。ケーブルを挿す前にアンプの音量を下げ、つないでから少しずつ上げていく。

 

 日を追うごとに手際よく準備できている。教えたことはすぐに覚えてくれるので、教えがいがあるというものだ。

 

「二人とも新曲とか興味ある?」

 

 俺はスクールバッグから三人分の譜面を取り出した。

 

「なになに……って、仮?」

「昨日作った練習用の曲だからね」

「昨日!?」

 

 瀬名が譜面と俺の顔を交互に見る。

 真琴は先に一枚受け取り、譜面台へ置いていた。スティックを持ったまま書かれたリズムを膝で追っている。

 

「在処ちゃん、これ楽しいね。ドラムパートがちょっとハードだけど」

「真琴が好きそうなパートにしといたよ」

 

 そう答えると、真琴は自分の譜面へ視線を落とした。

 

 曲は瀬名のベースから始まり、短いフレーズを俺のギターが引き継ぐ。真琴のドラムが加わってからも、ベースが曲の足元を支える構成にしてある。

 

「私から始めるの?」

「うん、瀬名が弾かないと始まらないようにしてある」

 

 瀬名の顔から笑みが消え、譜面を見る目が真剣になった。

 

 最初は何度か音が途切れた。

 弾き慣れない場所では止まり、真琴の刻む拍からも少しずれる。

 瀬名は譜面へ自分なりの印を書き足し、繰り返すうちに間違える場所を減らしていった。少しずつではあるが、俺たちの音を聞く余裕も出てきたようだ。

 

「ここ、私の音がないとこんなに寂しくなるんだね」

「そのためのベースだからね」

「……責任重大だ。んー、むしろ在処ちゃんはそれを狙ってた?」

 

 俺は無言で微笑んで頷いた。

 瀬名自身が自分の成長に必要なことなのだと理解し始めた。俺はそれを聞いて少し嬉しくなった。

 

 曲の流れをつかんだところで、最後に最初から通すことにした。

 

 真琴のカウント。

 瀬名のベースが曲を始める。

 

 最初のフレーズを俺が受け取り、真琴がその隙間を埋めた。

 途中、瀬名の音が一つだけ遅れることもあった。けれど、そこで止まらず次の小節の頭で真琴のキックへ戻ってきた。

 

 最後は三人で同じ場所へ音を落とす。

 

 余韻が消えるより先に瀬名が顔を上げた。

 

「できた!」

 

 瀬名は最後まで通しで弾けたことを喜んでいる。が、俺は全く違うことを考えていた。

 

「真琴、瀬名。二人ともお疲れ」

 

 真琴はともかく、瀬名の吸収速度は並外れている。

 ついこの間、ベースを始めたばかりにも関わらず、一曲を最後まで弾き切った。正直なところ、今日は四分の一でもできれば上々だと思っていた。

 

「ねえ、在処ちゃん」

「この曲さ、私がもっと上手くなったら、もっとすごくなる?」

 

 譜面を指さしながら瀬名が尋ねる。

 

「っ……すごくなるよ。音を増やしてもいいし、瀬名が自分で考えてもいい」

「そっか」

 

 瀬名は何かを噛みしめるように拳を胸の前で握る。

 

「瀬名ちゃんだけじゃなくて、私も今よりずっとすごくなる!」

 

 スティックを天井へ向けて真琴がうれしそうに笑う。

 

 

 俺はそんな二人を微笑ましく見てから、ギターをスタンドへ戻しかけて、開いたままの扉へ目を向けた。

 

 廊下に入学直後の見学で会った少女が立っている。

 整った姿勢のまま、こちらを見ていた。

 正確には瀬名がしまったばかりの譜面と壁際の部のキーボードを交互に見ていた。

 

 目が合うと少女は小さく会釈をした後、呼び止める間もなく去っていった。

 

「あの子、前にも来てた綺麗な子だね」

 

 真琴が俺の右肩のあたりから、ひょっこり顔を出す。

 次いで瀬名も左肩から顔を出してきた。

 

「真琴ちゃんと同じくらい顔がいい子だ!」

 

 真琴と瀬名が俺の顔を挟んでボソボソと会話し続けているせいでくすぐったい。俺は両肩に乗った顎をゆっくり退けて片付けを再開する。

 

 あの少女はそこそこの頻度で来ているので、もし入部するなら名前も分かるだろう。

 

 

 

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