ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
本作は『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール・プラチナ』を土台とした二次創作作品です。大体SMとORASくらいまでの設定・原作がベースですが、独自の設定・解釈・展開(かなり)を含みます。
17歳の主人公「ライル」が、その実力と正義感を見込まれ、人知れず世界を守る秘匿組織「PLATINUM(プラチナム)」のエージェントとなり、仲間との出会いや戦いを通して成長していく物語です。
というか、ほとんど群像劇みたいな感じです。
※一部キャラクターには他作品から着想を得た要素があります。
※国際警察とは全く別物と考えて頂ければ幸いです。
※公式キャラはシンオウ・ホウエンがメインです。
※ポケモンは全地方から出ます。
シリアスな展開もありますが、キャラクター達がそれらを乗り越えながら前へ進んでいく物語でもあります。
シンオウ地方を揺るがしたギンガ団との激闘は、ひとまず幕を閉じた。
そして年に一度のリーグも終了し、街には祝福の声が溢れている。
友人たちが企画したささやかな祝勝パーティ。
その中心には優勝者が祝福を受けている。
その喧騒の中、すらりとした長身の少年は壁に背を預け、冷たい飲み物で喉を潤していた。
ようやく終わった。
そう思えば思うほど、張り詰めていたものが抜けていく。
その時。
周囲の喧騒が、不思議と一瞬だけ遠のいた気がした。
凛とした足音。
長い金髪を揺らす女性が、静かにこちらへ歩いてくる。
その姿を目にした少年は、思わずその名を口にしていた。
「……シロナさん!」
シロナは柔らかな、しかしどこか見透かすような笑みを浮かべて告げる。
「お疲れさま。このシンオウ地方を救って、そのままリーグを戦い抜くなんて。……本当によく頑張ったわね。素晴らしい活躍だったわ」
少年は首をさすりながら、照れたように答える。
「いえ、こちらこそ、シロナさんには色々と助けてもらって……。ありがとうございました」
シロナは柔らかく笑う。
「それで……この後はどうするの? 何か予定は決まっているのかしら」
「まだ特には何も。正直、必死すぎて先のことは考えてなかったし……」
少年は部屋の中心にいる優勝者に視線をやる。
「それにおれ、結局リーグも準決勝で負けて、シロナさんのところまで辿り着けませんでしたから」
優勝者には後日、チャンピオンシロナへの挑戦権が与えられるらしい。
残念ながら、それは自分ではない。
悔しさを滲ませる彼の表情を、シロナは受け止めるように優しく見つめた。
「少しゆっくりするのも良いかもしれないわね」
そこで、一拍。
シロナの表情がほんの少しだけ変わった。
「……でも、その後にまだ何も決めていないのなら、一つ提案があるの」
「提案?」
そしてほんの一瞬。
視線だけで周囲を確認し、少年に顔を近づける。
不意なことだったので少しドキッとした。
「私の所属する組織に来てみない?」
「組織……ですか……?」
少年『ライル』は一瞬考え込み、シロナの顔を見る。
その響きが気になった少年は、気恥ずかしさよりも好奇心が勝っていた。
「……リーグ関係、じゃないですよね」
シロナは動じずに聞き返した。
「どうしてそう思うの?」
「……リーグの仕事なら、わざわざこんな言い方しないかなって。それに——」
ライルは少し首を傾げる。
「言う前に表情が変わったし、周囲を気にしましたよね?」
シロナは少しだけ驚いたように目を見開き、すぐに微笑んだ。
「やっぱり、よく見ているわね」
「え?」
「そういうところも含めて、よ」
シロナは声を少し落とす。
「私が君を『推薦』したいの。バトルでの柔軟な発想、ポケモンと心を通わせる力、そしてその観察眼と正義感。君ならきっと、高い適性がある」
「推薦……」
「ええ。誰でも入れるような場所ではないわ」
少年の表情が変わる。
「……何をする組織なんですか?」
その問いに、シロナはすぐには答えなかった。
周囲では、変わらず仲間たちの笑い声が響いている。
その喧騒とは対照的に、彼女の声だけが妙に静かだった。
「リーグでも、警察でも、手を出せないことがある」
「……」
「人知れず起きて、人知れず終わる事件もね」
ライルは黙ってシロナを見る。
「公には、ほとんど名前の出ない仕事よ。危険も伴うわ」
「……映画でよく見る秘密の組織?」
「さあ、どうかな」
困惑するライルに、シロナは小さく笑った。
「今ここで決めなくていいの」
そう言って、彼女は一枚のカードを取り出した。
「他にやりたいことがなければ、ぜひ一度考えてみて」
シロナはそのカードを、ライルの手の平へと乗せる。
肩書もない。
組織名もない。
公的なものとは思えないほど簡素なデザインで、その中央には電話番号だけが記されていた。
「……これだけですか?」
「ええ」
「余計に怪しいんですけど」
「ふふっ。電話をすれば分かるわ」
悪戯っぽく笑うシロナ。
「じゃね」
それだけ言い残すと、彼女は風のように去っていった。
ライルはしばらくカードを見つめたあと、それをポケットへしまう。
そしてすぐ、仲間たちの声に呼び戻されていった。
◇ ◇ ◇
——数日後。
ヒカリや旅の仲間たちと賑やかな時間を過ごし、ようやく心の整理をつけた少年は、静かな公園のベンチに座っていた。
隣には、苦楽を共にしたパートナー。
ライルは例のカードを指先で弄びながら、何度目か分からないため息を吐く。
「……なあルカリオ。どう考えたって怪しいよな?」
長年の相棒は、波導を介して答える。
(まあ、確かにな)
「それに……いきなり『就職』ってことだよな?……大丈夫かな」
隣に座るルカリオは、相棒の不安を汲み取るように、波導で少年の心へと語りかける。
(良いんじゃないか? あのシロナという女は信頼できる。……それに完全に馴染みがない話、という訳じゃないだろう)
「………まあ、な」
(ただ一つ言っておくが)
「ん?」
(お前は真面目すぎる。仕事だけしか見えなくなると、またヒカリに叱られるぞ)
「……たしかに。あいつに説教されるのはもう勘弁だわ」
ライルは小さく笑った。
そして、改めて手元のカードを見る。
組織名はない。
住所もない。
ただ、電話番号だけ。
「……怪しいよなあ」
(いいから、かけてみろよ)
「ああ、わかったよ」
ルカリオは呆れたように腕を組んだ。
ライルはしばらくカードを眺めていたが、やがて大きく息を吐く。
意を決し、カードに記された番号を入力する。
通話ボタン。
一度。
二度。
呼び出し音は、三度目を待たずに途切れた。
『——はい』
若い女性の声だった。
ライルは思わず背筋を伸ばす。
「あ、すみません。シロナさんからこの番号を——」
そこまで言った瞬間。
『ライル様ですね』
「……え?」
『シロナ様から伺っています』
一瞬、ライルの目が細くなる。
「なんで、名前を……」
『確認は取れています』
数秒の沈黙。
そして、受話器の向こうから淡々とした声が返ってくる。
『面談の日程をお伝えします』
「……面談?」
『はい』
そして。
その言葉が続いた。
『組織「PLATINUM(プラチナム)」への加入審査です』
ライルは思わず、隣のルカリオを見る。
ルカリオもまた、わずかに目を細めていた。
その日。
ライルは初めて、その名を知った。
——「PLATINUM(プラチナム)」。
それが、自分の人生を大きく変えることになるとは。
この時の彼は、まだ知らなかった。
9/11、一部改稿しました。
大筋や今後の展開に変更はありませんが、序盤の描写やPLATINUM加入までの流れを整理しています。