ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
初作なので稚拙ながらも心掛けていることは、キャラクターの会話に違和感がないかということです(特に公式キャラ)。そういう意味ではダイゴは結構イメージしやすくて、かつカッコいい。
公式ではボンボンニートというような扱いの時もありますが、このプラチナムにおいてはシゴデキ上司です。むしろ働き過ぎています。
朝。
ライルが居たのは、リーダー室から直接繋がる専用の小さなバルコニー。
眼下には本部の敷地を見下ろすこの特等席で、二人は短い打ち合わせを行っていた。
心地よい朝日が差し込む中で、凛々しきリーダーは優雅にティーカップを傾けている。
彼は深い落ち着きのある、静かな声を発した。
「実家に帰ったんだって? よく休めたみたいだね」
その双眸が、迷いを振り払い、決意を新たにしたライルの表情を捉える。
「はい、おかげさまで。ありがとうございます」
「君のことだから、またあの幼馴染に振り回されていたかもしれないね」
「ハハ……」
寸分の狂いもないダイゴの予測に、ライルは思わず乾いた笑いで返すしかなかった。
「でも、リフレッシュできました。また気を入れなおして頑張りますよ」
「頼もしいね。期待してるよ」
ダイゴは満足そうな笑みを浮かべ、流れるような動作でスマートに足を組み替える。その瞳の奥に、ふとリーダーとしての鋭利な光が宿った。
「そして次の任務だが、僕のチームメンバーを何人か集める」
「……!」
「エネルギー体の反応がさらに増えてきている。このシンオウは特に顕著だ」
かつてテンガン山の外縁でライルが観測した、あの光輝くエネルギー体。
それが今もなお拡大しているという。
「解析班によれば、異常数値になる前のカンナギの波形と酷似しているポイントがいくつか浮上してきた。詳細はメンバーが揃ってから追って説明する」
「複数人での任務、かなり久々ですよね。それだけ危険ってことですか?」
「ああ、それにこのあいだの件もある。念の為だよ」
ただの威力偵察ではない。ライルは静かに気を引き締めた。
「——それと、例のルガルガンの少女について、少しだけ分かったことがある」
「えっ、本当ですか!?」
思わず身を乗り出したライルに、ダイゴは静かに頷く。
「ああ、各地方に情報提供を依頼していたところ、アローラ地方のリーダーから共有があった。それによれば、君から聞いていた特徴と、数年前の地域のジュニア大会に出ていた人物の記録が一致する。その登録名は——『ルカ』」
「ルカ……」
その響きが、少年の耳に残る。
「彼女はそこで優勝したことになっているが、現地のリーダーもよく覚えていないらしい。それ以降の大会に出た記録もない。だが推定年齢から察するに、出身はあちらと見ていいだろうね」
「…………」
ライルは、あの歪んだ世界の中で、ギラティナにすら悪態をつき、果敢に立ち向かっていったあの少女の姿を鮮明に思い出していた。
「……あいつ、目的は分からないけど、ギラティナに怯える様子もなく戦っていた。何かこう、理屈じゃない強さを感じました」
「そう、そこなんだ。彼女は君にも劣らない力量を持ち、伝説級のポケモンにも立ち向かう胆力がある。そして今、何か大変な事態が裏で起きているような気がする。——もしかしたら彼女とは、いずれ協力する必要性が出てくるかも知れない」
ダイゴのその言葉を聞いた瞬間だった。
ライルの顔が、これ以上ないほど露骨に、苦虫を噛み潰したような表情へと変わる。
それを見たダイゴは、思わず口元を手で覆ったが、堪えきれずにカップを置いて吹き出した。
「プッ……アハハ! 君がそんなに分かりやすく嫌がるなんて珍しいね。よっぽど相性が悪かったのかな」
「いや、めちゃくちゃ嫌なやつなんですよ? 確かに強いかも知れないけど、口は悪いし感情的だし……うちは人間性が大事なんでしょ!」
普段は不平不満を言わないライルの、年相応に本音をぶちまける姿が、ダイゴにはおかしくてたまらないようだった。
「ふふ、まあいいさ。これはあくまで僕の勘だからね」
「ダイゴさんの勘は当たるから困るんですよ……」
ライルは小さく溜息をつき、頭を掻いた。
こうしてこれからの展望を交えたミーティングを終えると、ライルはバルコニーを後にし、今回招集した他地方からのエージェントを迎えるため移動した。
◇ ◇ ◇
しばらくの後。シンオウ本部の広大なエントランスで待機していたライルの元に、遠くから快活な足音が近づいてきた。
現れたのは、燃えるような赤い髪をなびかせた情熱的な女性と、豊かな白い口髭を蓄えた小柄で快活な老人。
「ライルくん、久しぶり!」
「元気そうじゃのう!益々の活躍を聞いとるぞ!」
「アスナさん!テッセンさん!」
ホウエン地方の熱き炎を宿すアスナ、そして縦横無尽に電撃を操るベテランのテッセン。
見知った顔の登場に、ライルは表情を綻ばせて彼らの元へと駆け寄る。
「ご無沙汰してます!お二人が来てくれるなんて心強いですね」
「あはは!でしょ!? それにしても111番道路の砂漠の任務依頼だよね? また逞しくなったんじゃない?」
「いえいえ、苦戦してばっかりですよ」
「謙虚じゃのう〜。しかし相変わらずシンオウ本部は広いな!我々もくるのは久しぶりだ」
会話もそこそこに、ダイゴの待つリーダー室へと入る3人。彼に促され、部屋の中央のソファへと腰掛ける。
「2人とも、遠くまでありがとう」
「やめてくださいよ!リーダーの指示ならどこでも駆けつけます!」
アスナは元気よく返し、テッセンも首を振って頷く。
そして再会の喜びを仕事の緊張感へと切り替える4人。シンオウで特に観測されている高エネルギー体の説明、反転世界のこと、事前に共有していた情報のすり合わせを行う。
資料を一通り読み終えた後、テッセンが口を開く。
「それで? ダイゴ、今回の行き先はどこなんじゃ?」
デスクに寄りかかりながら資料を読んでいたダイゴに、3人の視線が集まる。
彼は深く落ち着いた声でその名を口にした。
「——キッサキ神殿だ」
最北、氷に閉ざされた地に眠る古の遺構。
そこで彼らを待ち受けるものとは。