ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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チャンピオンであるダイゴ、そしてジムリーダーであるアスナとテッセン。
エージェントを兼任する彼らには、重い負担と重責がのしかかります。
その苦悩が少し垣間見える回となっています。




第十二話【二足の草鞋】

 

 キッサキシティへと向かう217番道路の道程は険しいものだった。視界は白く染まり、足元には常に新しい雪が積もっていく。

 厚手の防寒具に身を包み、膝まで埋まる雪道をかき分けて進む四つの影があった。

 

 極限の環境下、一行は菱形の陣形を組みながら進む。アスナとライルが左右の側面を固め、ベテランのテッセンが後方からのサポートを担う。

 そしてその布陣の先頭を切るのは、迷いなく雪を踏み締めるダイゴだった。

 

 ライルは凍りつくゴーグルの位置を調整しながら周囲を見回す。

 

 その時、雪の壁の向こうに潜む異変を察知し、声を張り上げる。

 

「皆さん!右側に動きがあります!」

 

 その警告とほぼ同時に、野生のユキノオーの群れが牙を剥いて姿を現した。

 しかし、それに対するチームの迎撃は無慈悲なまでに正確だった。

 

「ジバコイル!でんじはじゃ!」

 

 後方からテッセンの声が響き、放たれた電気が群れの先頭の足を瞬時に止める。

 

「バシャーモ!ほのおのパンチ!」

「ゴウカザル!かえんぐるま!」

 

 すかさず、左右からアスナとライルの鋭い指示が交錯した。

 

 ——熱波が雪を溶かす。

 

 エージェントにとっては、自然も守るべき対象。無理やりに、群れのすべてを強力な技で壊滅させる必要はない。

 3人は見事な連携で、最も体躯の大きい群れのボスを迅速に無力化し、そのまま足を止めることなく先へと突き進む。

 

「みんな、良い連携だったね。——む?これは……」

 

 メンバーを褒めたダイゴだったが、ふと何かに気づいて視線を雪原の窪みへと落とす。

 そこには新雪に深く刻まれた巨大な足跡。

 

「マンムーの足跡だな。余計な戦闘は避けたい。少しルートを外れよう。ライルくん、道を見失わないよう、ルカリオに波動で見張らせてくれるかい?」

 

「了解!」

 

 淀みのないチームワーク。普段の、一人で戦況のすべてを判断し、何もかもをこなさなければならない単独任務とは違う。

 ここでは、信頼できる仲間たちがおり、己の役割にのみ徹することができる。

 その安心感のなかで、ライルは存分に自身の力を発揮していた。

 

(凄い安定感だ……。ただでさえジムリーダーが2人いるのに、そのうえダイゴさんまで一緒なんて)

 

 互いの背中を預け合いながら四人は歩き続け、やがてセーフハウスへと辿り着いた。

 もう少し進めば、凍てつくエイチ湖のほとりが見えてくるはずだが、今夜はこの隠れ家で夜を明かす。

 温かい食事を済ませた後、部屋の暖炉に火が灯される。赤々と燃える炎は、部屋の中央に腰掛ける4人の顔を静かに照らし出していた。

 

「予定通り、明日午前中にはキッサキシティに辿り着く。そこから神殿までの案内人はスズナくんに頼むつもりだ」

 

 ダイゴの口から出てきたのは、キッサキシティの現役ジムリーダーであるスズナの名前だった。彼女の家系は代々、キッサキ神殿を守る管理人を任されている。

 

 アスナが、深く頷いて口を開いた。

 

「良いと思います!ジムリーダーは街の周囲を知り尽くしてる。もしかしたら既に、何かしらの異常を感じ取っているかも」

 

 しかしライルの脳裏に素朴な疑問が浮かぶ。

 

「あれ? でもスズナさんって……」

 

「そう、彼女は我々の組織を知らない。案内を頼むのは神殿の前までだ」

 

 ライルの懸念を察し、ダイゴが冷静に答える。続いて、テッセンが髭を蓄えた口元を緩めて呟いた。

 

「よく内部調査を許可してくれたのう」

「知らない仲じゃないのでね。それに、シロナも口添えしてくれたようです」

 

 確かに、シンオウ地方の現チャンピオンであるシロナの言葉とあれば、地方のジムリーダーが断る理由もないだろう。

 ダイゴは手元の資料に再び視線を落とし、淡々と続けた。

 

「作戦通り、内部には僕とライルくん、そしてアスナの3人で向かう。テッセンさんは外からのデータ解析と、通信電波の制御をお願いします」

 

「よっしゃ燃えてきたぞー!」

「うむ!任せておけい」

 

 高い突破力を誇る炎のエキスパートのアスナと、精密な電子機器系統を司るテッセン。

 ダイゴの配置した布陣は、理にかなっていた。ライルは、ボスである彼の無駄のないマネジメントに、改めて息を巻いていた。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 夜更け前。セーフハウスの静寂の中、ダイゴとテッセンの二人は未だ暖炉の前に残り、熾火を見つめていた。

 

「しかし、お主も現場へ出てくるとはのう」

 

 テッセンがぽつりと溢すように言うと、ダイゴはどこか困ったような苦笑を浮かべた。

 

「このところ依頼が急増していますからね。現状メンバーの数では足りない部分も出てくるんです。……特に今回は妙な胸騒ぎがした。だから貴方とアスナが来てくれて良かった」

 

 一組織のリーダーとしての、隠しきれない苦悩を吐露しながらも、駆けつけてくれた二人への真摯な感謝を伝えるダイゴ。

 

 その実直さに、テッセンは豪快に笑った。

 

「水くさいのう。ワシらもエージェントじゃ、できることがあるなら何でもするぞい」

 

 その言葉を受け、ダイゴは深く、穏やかに微笑んだ。

 

 一方その頃、アスナとライルの二人は、2階の小さなバルコニーに出ていた。

 いつの間にか激しい吹雪は止み、夜空には息をのむほどに美しい星空が、煌々と冷たく輝いている。

 二人は口元から白い息を吐き出しながら、手元の温かい飲み物を流し込んでいた。

 ライルは、隣に立つ先輩を見やりながら、以前から気になっていた疑問を口にする。

 

「それにしても、ジムリーダーとエージェントの兼業って大変すぎないですか? おれなら頭がパンクしそうです……」

 

 アスナはバルコニーの手すりに両手を預け、飾らない彼女らしく答えた。

 

「うーん……まあ、実務はね。だけどジムリーダーがエージェントになる場合は、事務方がひとり派遣されるんだよ」

 

「え、そうなんですか?」

 

「そ! だから事務処理とか雑用は全部やってくれるんだー。私はそういうの苦手だから助かるよね! アハハ!」

 

 夜空に響くような明るい笑い声を上げながら、楽しそうに話すアスナ。

 

 けれど、ライルは理解していた。表の舞台で『街の顔』として立ち続ける責任、そしてこの組織の一員として、世界を裏側で支える覚悟。

 たとえ書類仕事の手間は代わりに引き受けてもらえたとしても、彼女たちがその背に乗せる『重さ』までを代行できる人間など、どこにもいない。

 

 おちゃらけて見せる彼女の強さに触れ、ライルは心からの尊敬の眼差しを、先輩であるアスナに向けた。

 少年のその真っ直ぐすぎる視線に気づき、照れくさそうに笑った後、いつもの調子で元気な声を張り上げる。

 

「なに感心したような顔してんのよ! ほら、明日に備えて早く寝るよ!」

 

 そしてライルの肩をバチっと音が出るほどの勢いで叩いた。

 

「アスナさん。——痛いっす」

 

 ライルは顔をしかめながら、叩かれた肩を手のひらでさする。

 

「ああ、ごめん! ついね、つい」

 

 寒冷の夜気の中、悪びれずに笑うアスナの快活な笑い声が、優しく響き渡っていた。

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