ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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エージェント達は現地協力者を得る場合もあります。基本的に危険なことはさせませんが、任務の重要性によりケースバイケースとなります。
今回は、物語の中でもかなり重要な「異変」が姿を現す回です。




第十三話【鎖の眷属】

 

 四人が辿り着いたのは、一面の銀世界にそびえ立つキッサキジム。氷のフィールドが複雑に組み合う内観のジム。

 

 厚い扉を押し開けて中へ入ると、極寒の土地には似合わない涼しげな衣装の女性が、寒さを吹き飛ばすような笑顔で快活に出迎えてくれた。

 

「皆さん、お待ちしていました!キッサキへようこそ!寒かったでしょう?——アスナさん!ご無沙汰してますー!」

「スズナちゃん!去年ぶりだっけ!?」

 

 同世代のジムリーダーである彼女たち。久々の再会に、お互いの手を握り合って喜びを爆発させる。

 

「スズナさん!」

「わあ!ライルくんも!久しぶりだね!君も神殿に行くの?」

 

 挨拶もそこそこに、一行は暖房の効いた応接室へと迎え入れられた。出された温かい飲み物をゆっくりと喉へ流し込み、人心地がついたところでダイゴが口を開く。

 

「協力を感謝するよ、スズナくん」

 

 ダイゴは組織の存在を伏せたうえで、直近観測されているエネルギーの異常や、それがこのキッサキの地でも見られ始めている現状を説明。あくまで土地を調べるチャンピオンとしての体裁で、キッサキ神殿を調査したい正当な理由を説明した。

 

「よく分かりました。……最近、このあたりの野生ポケモン達も少し騒がしいのが気になっていたんです。神殿までは、私が気合バッチリで案内します!」

 

 心強い言葉と共に立ち上がり、分厚いコートを羽織ったスズナの先導で、神殿への道を進む。

 雪原を抜ける一行。ライルは防寒フードに手をかけながら、先頭を行くスズナの少し後ろについて歩いていた。

 

「ここまで来るの大変だったでしょ? 山道は車も通れないし、最近天気悪かったから、『空を飛ぶ』のも危ないし」

「そうですね。険しいところが多いですよね、シンオウって」

「本当にね! でもこの町は私の大好きな故郷だから、何かあったら絶対に守るって決めてるんだ!」

 

 スズナの強い覚悟が滲む言葉。そんな話を合間に挟みながら、一行は神殿の前へと到達した。

 ライルはその存在を知識としては知っていたものの、間近でそれを見るのは初めてのことだった。

 重厚な石の門の前で、各々が最終のチェックを行っている。ダイゴは厳しい目を神殿へと向けていた。

 

 その時、スズナがふと意を決したような表情を見せ、ダイゴの元へと歩み寄った。

 

「ダイゴさん、やっぱり私も同行できませんか?この街のジムリーダーとして、何が起きているのかこの目で確かめたい。それに私のポケモンなら、氷での戦闘には慣れています」

 

 ダイゴは真っ直ぐにスズナの瞳をとらえていた。

 

 ライルたちは息を呑み、その動向をじっと見つめている。

 

(ダイゴさん、どうするんだろう……)

 

 組織の存在は明かせない。しかしこの街の代表であり、神殿の守護を任されている彼女を完全に置いていくことも、ある意味では違和感を生む。機密保持と現地との連携——あまりに微妙なバランス加減。

 

 ダイゴは深い沈黙の後、ゆっくりと口を開く。

 

「スズナ君には、同行する動機も地の利もある。だが、中で何が起きるかは未知数だ。それも承知の上だね?」

「もちろんです!」

 

 迷いなく、凛とした声で答えるスズナ。ダイゴの目が少し細くなった。

 

「わかった。君も同行してくれ」

「ありがとうございます!」

 

 力強く振り向いたスズナに、ライルは深くうなずく。

 

「よし、では中へ進もう」

 

 ダイゴの合図と共に、神殿の重厚な扉が軋んだ音を立てて開いた。

 

 外に残って電気・通信系統の制御を担うテッセンに見送られ、一行は神殿へと足を踏み入れる。神殿内部は外の雪の反射が届かず、薄暗さに包まれた空間だった。

 

 凍てついた空気の中、四人の足音だけがコツコツと響き渡る。

 今度は先頭をライルとルカリオ、そしてスズナとマニューラが務め、その後ろをアスナとバシャーモ、ダイゴとメタグロスが固める陣形をとった。

 平面の奥まで進むと、巨大な螺旋階段が現れる。キッサキ神殿は、地下へと進んでいく構造になっている。

 

 警戒を怠らず、順調に下へ下へと薄暗い階段を降りていく中で、四人はようやく異常に気が付く。

 

 ——野生のポケモンが、一匹もいない。

 

 本来ならそこに生息しているはずの気配が完全に消え、神殿内にはただ四人と四匹の足音だけが響く。不気味なほどの静寂。

 

 やがて一行は長い階段を降り終え、ついに最下層へとたどり着いた。

 

 地面の氷が所々はげており、剥き出しの石畳を歩いて進めるようになっていた。その空間の真ん中に、彼らは目を見張るほどの巨大な存在を目撃した。

 それはかつて、その強大な膂力で大陸を引っ張ったとすら語られる、伝説の巨人——レジギガス。

 

 しかし、今はただの石像のままで、それらしい異変の兆候は見られない。

 

「ここでいいんだよね? スズナちゃん」

「うん、ここが最奥。でも何も違和感がない」

 

 二人の会話を余所に、ダイゴだけは少し目を輝かせてその巨体を見つめていた。

 

「これがレジギガスの石像……。信じられないほど美しいな」

 

 ライルは、こんな状況でも相変わらずの「石好き」を発揮するボスに、小さく苦笑する。

 

 しかしその時、事態は急転した。

 

 突如として、彼らのわずか数メートル先の地面が歪み、不気味な黒い穴が3つ同時に開いたのだ。そして、そこから黒い霧のような気体があふれだす。

 

 まるで地獄から這い出るように姿を現したのは、伝説の巨人レジギガスの眷属——レジアイス、レジロック、レジスチルだった。

 

 ダイゴとアスナが驚きの声を上げる。

 

「バカな……! 彼らは遺跡に眠っているはず、なぜここにいる!?」

「何よこれ……ドロドロした霧みたいなものを纏ってる!」

 そして現れた三体が通常個体と違っていたのは霧だけでなく、その身体の表面に、黒く痛々しい「鎖」が巻き付いていることだった。ライルは鋭く目を凝らす。

 

「あの鎖は一体……?」

 

 黒い鎖はその後、生き物のように三体の体表へと沈み込み、禍々しい模様のようなものへと変貌した。直後、凄まじい殺気をライル達に向ける。

 

 全員が一斉に戦闘態勢に入った、まさにその瞬間だった。

 

 地響きと共に、石像に命の「色」が急速に戻り始めた。巨人が、動き出そうとしている。

 

「嘘……!レジギガスが!!」

 

「ギ……ギガガ……ガ……」

 

 スズナの叫びと同時に、覚醒したレジギガスは不気味なノイズのような声を漏らし、両手を天へと掲げ、神殿を崩壊させんばかりの勢いで大地に叩きつける。

 

 さらに、異変はそれだけに留まらない。レジギガスの背後が引き裂かれるように開き、そこから巨大な黒い鎖が現れ、締め付けるようにレジギガスの巨体に巻き付いた。

 

「一体、何が起きてるって言うの……?」

 

 鎖は、あの漆黒の世界へと、レジギガスを連れ去ろうとしていた。アスナとスズナは呆気に取られていた。

 

 そしてライルだけが、カンナギで見た悪夢を思い出した。

 

 その瞬間、ダイゴの鋭い指示が神殿の最奥に響き渡った。

 

「皆は目の前の三体を頼む! 僕はレジギガスのもとへ行く!」

 ダイゴは迷いなくレジギガスへ駆け出した。それを迎え撃つように鎖の模様を纏った眷属達が動き出す。

 

 キッサキ神殿の最奥。世界の裏側を揺るがす戦いが始まった。

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