ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
『そらのはしら』の調査任務に訪れたライル達。
そこに現れたのは、カンナギ、キッサキ同様、反転世界の王だった。
戦いへの介入を決断する彼ら。
天空の防衛戦が始まる。
レックウザとギラティナ。
大気を震わすほどの二つの巨大なエネルギーの激突。
——バヂィイン!!
レックウザの鞭のようにしなやかな尻尾の、強烈な一撃。
対するギラティナはオリジンフォルム。
黄金の装甲を活かした重量級の突進で応戦。
レックウザはかわす。
するとギラティナは黒いオーラを漂わせ、全方位に向けた『あくのはどう』を放つ。
レックウザは小波でも乗り越えるかのように体をくねらせ、またもそれをかわすと、『しんそく』でギラティナに肉薄。
ギラティナの触手のような翼がレックウザを捉えようとするが、捕まらない。
レックウザは体を巻き付けるようにしてギラティナの背後へ。
そしてその鋭爪でギラティナの頭部を押さえつけた。
暴れるギラティナ。
レックウザは意に介さない。
そして巨大な口へエネルギーを溜め始めた。
それでもギラティナは身をよじり、自身のすぐ下に黒い空間を生み出すと、間一髪潜り込んだ。
——ゴウゥッッ!!!!
レックウザから放たれたエネルギーは、遮るものなくそのまま降下。
遥か下に広がる大海へ。
遠くの海で爆発が上がり、遅れて音が聞こえてくる。
影からぬるりと現れたギラティナ。
お互いを真っ直ぐ睨み合う二体の龍。
機動力と技のキレは、明らかに天空の王たるレックウザに軍配が上がる。
しかし、ギラティナはその耐久力と、影に潜るという特異な能力によって、レックウザと対等に渡り合っていた。
猛獣が喉を鳴らすかのような、低く不気味な音が響く。
——グルルルル……
——カロロロロ……
そして再び、互いの口から放ったエネルギー同士の衝突。
爆炎が広がる。
それを突き破り、また激しい肉弾戦へ。
『そらのはしら』のその上空。
衝撃波が螺旋を描いて四方に吹き荒れていた。
◇ ◇ ◇
ルカはサザンドラの背で、吹き荒れる暴風に顔を歪めていた。
「……こりゃあ、頭のネジが数本飛んでなきゃ、ここには突っ込めねーな」
だがライルの耳に、その言葉は届いていなかった。
「こいつだ」
「おい……銀髪?」
「こいつが、ダイゴさんを連れ去った……!!」
その声はルカとゲンジに届いていた。
ライルの目は執念に囚われていた。
かつて自分を庇い、反転世界へと引きずり込まれた一人のリーダー。
拳を白くなるほど握りしめ、腰のボールに手を伸ばす。
そしてウォーグルと共に飛び出そうとした、その時。
その進路の前に、サザンドラとボーマンダがスッと入ってきた。
「なっ——」
「落ち着け、ライルくん」
「そうだよバカ銀髪。そういうのはあたしの役目なんだよ!」
二人の声にライルは目を見開く。
「行くぞ、サザンドラッ!!」
「あ、おい!」
ルカはライルのその声を聞くや否や、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、サザンドラと共に伝説の戦域へと真っ直ぐに飛び出す。
「あいつ……」
「ルカくんの言う通りだ。君の強みはなんだ?」
「おれの強み……」
「そうだ。ただ闇雲に熱くなるだけの人間なら、私は君をここへ呼んではいない」
自分の強み。
それは、観察。そして、看破。
ライルは深呼吸をし、逸る気持ちを落ち着かせる。
「……ありがとうございます」
そして、視線を戻した。
「それでいい」
ゲンジは頷いた。
一方、ルカはすでに戦場へと突入していた。
「『りゅうのはどう』だッ!!」
サザンドラの口から放たれた波導が、ギラティナの側面に直撃。
抜群の効果を突いたはずの一撃。
しかし、傷口が黒い霧に覆われると、それは時間とともに回復してしまう。
ライルはそれを見逃さなかった。
『アレ』は、レジスチル達を覆っていたのと同様のもの。だが『鎖』はない。
そしてさらに、カンナギの時よりもギラティナ自身を纏うオーラが明らかに増している。
一方、ゲンジは僅かに逡巡していた。
(ナギは部外者だ……あまり危険な目には……)
だが。
「ゲンジさん!私にも指示を!」
ヒマワキのジムリーダーは、迷わず指揮官を見ていた。
ゲンジは迷いをすぐに振り払い、鋭い指示を飛ばす。
「よし、我々も行くぞ! ナギは周囲のサポートを頼む!」
「了解! チルタリス出ておいで!みんなをサポートするよ!」
「チルゥッ!」
ナギのチルタリスはメンバーの周囲を飛び回り、『ひかりのかべ』や『しんぴのまもり』で各々を包んでいく。
ウォーグルに跨るライルは、共にグレイシアをその背に乗せた。
「グレイシア、隙を見て攻撃をたのむ!」
「キュイ!」
グレイシアは短く吠える。
ウォーグルは軽く上昇した後、翼を折りたたみ急降下、旋回をしながら風圧をかわす。
その背からグレイシアが、『れいとうビーム』をギラティナの翼の付け根へと放つ。
効果は抜群。
ギラティナの動きが、一瞬だけ鈍る。
しかしギラティナはその体を震わせて氷を割り、巨体を振り回してライル達を襲う。
それを間一髪で避ける。
伝説の龍たちが放つ衝撃波に巻き込まれないよう、付かず離れずの位置を保つ。
そして猛攻を掻い潜り、ドラゴン、こおりの技を効果的に繰り出すゲンジ、ライル、そしてルカ。
その周囲をナギが旋回し、ギラティナの注意を引く。
次々と変化する戦況から最適解を選び取り、戦場に適応していく。
キナギでの地獄の修行が、今、この「戦場」において一つの形を成そうとしていた。
——しかし。
その煩わしさに痺れを切らしたギラティナが、さらなる混沌を呼び込んだ。
——ギシャァァァアア!!
反転世界の王が咆哮をあげると、虚空にいくつもの黒い空間が開く。
ライルは目を見張った。
「あれは……!」
そこから飛び出してきたのは、十数体に及ぶ、『黒い霧』と『鎖』に囚われた眷属達。
ゴルバットやドンカラス、ケンホロウといった飛行ポケモン達が、輪を描いて四人へと襲いかかってきたのである。
(ミオシティの子が言っていた通りだ……。伝説以外にも、囚われたポケモン達がいた!)
ライルが叫ぶ。
「皆さん注意して! 倒すには、回復が追いつかないほどのダメージを一気に与えてください!」
「「了解!」」
各々の声が響く。
ゲンジはフライゴンを追加で繰り出す。
ナギはチルタリス、ライルはグレイシア。
中遠距離から反転のポケモン達を迎撃し、距離を詰めさせない。
しかし、一人に対し四方から数匹が襲いかかってくる苛烈な状況。
簡単に決定打は与えられない。
そして前方。
ルカとサザンドラは、誰よりも縦横無尽に飛び回っていた。
そのため、最も多くの敵を引き付けてしまっていた。
「チッ」
苛立ちながらも、サザンドラを巧みに翻して応戦するルカ。
「グレイシア!援護できるか!?」
すぐさま『れいとうビーム』の狙いを定めるグレイシア。
だがあまりにも戦場が入り乱れており、間違えばルカとサザンドラにも当たりかねない。
その間も反転のポケモン達の包囲網は、じわじわとルカに迫っていく。
「……それなら……!」
入り乱れる戦禍の中。
ウォーグルとサザンドラが一瞬、交錯する。
ライルは、今度は自らの相棒を繰り出し、指示を飛ばした。
「手伝ってやってくれ!」
赤い光の中からルカリオが飛び出す。
(任せろ!)
そして、吸い込まれるようにサザンドラの背、ルカの隣へと着地。
「うおっ!ルカリオ!」
ルカはチラリとライルを見る。
「ったくあの銀髪、自分の身を心配しろよ……!」
そう言いながらもルカは二体に指示を飛ばす。
波導の使い手と三頭龍。
彼らの放った『はどうだん』と『りゅうのはどう』は、周囲にいた反転のポケモン達を引き剥がした。
そして、ルカリオはサザンドラから跳躍。
下を飛んでいたケンホロウの上に着地。
——ヒュゥゥゥゥウ
その両掌に青い球体が溜まっていく。
——ズドン!!!
至近距離での『はどうだん』が炸裂。
ケンホロウは短く悲鳴を上げ、煙とともに墜落。
空に開いた黒い空間に押し戻されていく。
そして宙に舞うルカリオを、サザンドラが背中でキャッチ。
ルカは笑いながら不敵に言い放つ。
「いいぜ、ルカリオ! お前は主人と違って可愛い奴だ!」
遠くからライルの声が響く。
「言ってる場合か、集中しろバカ!」
「してるっての!オラ銀髪、そっち連れてくぞ!!」
ルカの声に反応したサザンドラは、大きく円を描くように飛ぶ。
すると反転のポケモン達は、またもやそれを追随するように飛び始めた。
「ルカちゃん? 何してるの?」
意図が読めず不思議そうに呟くナギ。
ルカがライルに視線をやる。
(わかんだろ?)
今度はライルが不敵に笑う。
「ああ、了解」
ルカは反転のポケモン達が完全に食いついたのを確認すると、ライルのほうへ真っすぐに飛んでくる。
あっという間に縮まる距離。
そしてほんの数メートル手前。
サザンドラは向きを変えて一気に急上昇。
開けたライルの視界には、反転のポケモン達がほぼ真横に並んでいた。
——まさに、一網打尽。
「グレイシア!」
薙ぎ払うように、今度こそグレイシアが『れいとうビーム』を放つ。
次々に凍らされていく反転のポケモン達。
彼らはそのまま墜落。
ケンホロウ同様、開いた穴へと吸い込まれていった。
ライルの柔軟な戦術をルカが活かし、ルカの機転を今度はライルが読み取る。
かつて、あれほどいがみ合っていた彼らのコンビネーションは、いつの間にか研ぎ澄まされていた。
そして再び、ギラティナ攻撃への突破口を開く。
サザンドラは、その勢いのまま一気に高度を上げた。
ゲンジは満足そうに口角を上げ、ナギもそれに続く。
「上出来だ、二人とも」
「そのまま行くのね!? 任せて!!」
残った反転のポケモン達に、ゲンジのボーマンダとフライゴンが『かえんほうしゃ』を浴びせ、道を開く。
そしてナギのエアームドが放ったのは『エアスラッシュ』。
ギラティナの視界を遮る。
それを確認したルカは、ルカリオに短く問いかける。
「ルカリオ!お前もドラゴン技、打てるか?」
(ああ、大丈夫だ!)
ルカは頷くと、サザンドラに合図した。
そして今度はその身を翻らせ、一気に急降下する。
風が後ろに流れていく。
戦場を覆う噴煙の中を、ルカは迷わず突き抜けた。
「サザンドラ!ルカリオ!いけ!」
サザンドラの口とルカリオの掌から放たれた二筋の蒼い線が、折り重なってギラティナへ。
——ズドォォオン!
ギラティナが怯む。
そして、レックウザ。
その瞬間を見逃さず、渾身のエネルギーを口から放ち、その巨体を確実に捉えた。
辺りに広がる凄まじい爆発。
ルカが振り返りながら叫ぶ。
「やったか!?」
しかし。
爆炎の広がりが急に止まったかと思うと、みるみるうちに、黒い霧の中へ吸い込まれていく。
逆再生をするかのように。
「効いてないのか!?」
ライルが驚愕の声を上げる。
次の瞬間、煙が切り裂かれた。
ギラティナが『あくのはどう』を放ったのだ。
漆黒のエネルギー弾が、今度はレックウザの胸元を直撃。
衝撃で動きが止まるレックウザ。
そして間髪を容れず、ギラティナは突進。
——ドガァァアン!
あまりの衝撃に吹き飛ばされるレックウザ。
「レックウザ!!」
ライルの叫びも虚しく、天空の王は重い音を立てて『はしら』の石畳へと叩きつけられた。
そしてギラティナの攻撃の余波は、暴風を生み、空に一時的な乱気流を生み出した。
その暴風に煽られたのは、突撃の後、最も近くに居たサザンドラ。
その体が大きく傾く。
「おわぁっ!!」
踏ん張る間もなく、ルカとルカリオの体が宙に浮く。
そしてサザンドラの背から、手が離れてしまった。
一瞬の浮遊感。
だがルカは咄嗟に、ルカリオの背中を足で押し出した。
(ッ!!)
なんとかサザンドラにしがみつくルカリオ。
そして——ルカは落ち始めた。
サザンドラは崩れた体勢のまま無理やり翼を打つ。
ルカリオも必死に、その手を伸ばす。
「ゴアァッ!!」
(届け!)
だが、届かない。
まるでスローモーションのようだった。
ルカは重力に引かれ、天空を真っ逆さまに落ちていく。
「ルカくん!」
「ルカちゃん!」
ゲンジとナギの叫びが響く。
「……くそっ」
ルカは諦め気味に悪態をついた。
その時。
誰よりも早く、一筋の銀光が空を駆けた。
それは、ライルだった。
「ウォーグルもっと速く!!」
「クワァアッ!」
ウォーグルを極限まで加速させる。
そして思いきり身を乗り出した。
「掴まれ!! ルカッ!!!」
「———ッ!!」
間一髪。
ライルはルカの腕を力強く掴み取った。
だがバランスは崩れ切っていて、長くは保ちそうにない。
ウォーグルは大きな翼を懸命に羽ばたかせる。
そのまま、なんとかレックウザが倒れ伏す塔の頂上へ着地。
勢いのあまり、ウォーグルの背から石畳へと転がるライルとルカ。
互いに声を掛けることはなかった。
しかし二人は肩を貸し合い、立ち上がる。
「ありがとな、ウォーグル」
ライルは、寄ってきたウォーグルの翼を軽く撫でた。
そこへ、それぞれの主人を心配するサザンドラ、ルカリオ、そしてゲンジとナギも急いで合流する。
「大丈夫か!? 二人とも!」
「はい、なんとか……!」
しかし、状況は最悪。
背後にはレックウザ。
天空の王は辛うじて顔を上げるものの、傷ついて動くことができない。
そして眼前の空にはギラティナ。
すべての光を飲み込むような黒いオーラを纏い、這うようにゆっくりと、確実にこちらへ近づいてくる。
全員の背中に冷たい汗が流れる。
四人とそのポケモン達は身構えるが、ギラティナの圧力は常軌を逸していた。
「銀髪……なんか手はねーのかよ」
「……考え付いたらとっくにやってるよ」
「撹乱だ。少しでも時間を稼ぐぞ」
ゲンジの指示にライルとナギも即応。
ウォーグル、チルタリス、フライゴンが飛び出す。
しかしその陽動は、せいぜい動きを僅かに遅らせる程度のもの。
ただでさえ伝説——ギラティナ。
それだけではなく、黒い霧でダメージを逃がしている。
どうすれば、倒せるのか。
絶望が場を支配した。
——その刹那。
背後に横たわるレックウザに、異変が現れた。
その長い巨体から、輝かしいエメラルドの光が明滅し始めたのだ。
顔を照らされたライルが呟く。
「……これは……?」
その時だった。
「——全員無事か!!」
その声に全員が振り返る。
息を切らしながら駆け戻ってきたのは——
「カイトさん!?」
「お前! 帰ったんじゃねーのかよ!」
ライルとルカの声が響く。
「爆発音を聞いて引き返した!一体、何が起きてる!?」
「ギラティナがレックウザを襲いに来たのよ!」
ナギが叫ぶ。
「なんだと!?」
カイトはギラティナに視線をやる。
「カイト。あれが何か分かるか?」
ゲンジが指差したのは、明滅しているレックウザだった。
「これはおそらく……メガシンカだ」
「メガシンカ……? それは一体……」
ライルが問う。
「秘められた真の力を解放することだ。……伝承で聞いたことがある」
「それでギラティナを倒せんのか!?」
ルカが急かすように聞く。
「わからんが、途轍もない力を得るという……」
しかしカイトの顔は晴れない。
「……かなり消耗している。完全な姿になるには、もう少し時間がかかるのだろう……」
カイトは腰からモンスターボールを取り出すと、『トドゼルガ』を繰り出した。
「俺も助太刀する」
「お前、関わらねえんじゃなかったのかよ」
「状況が変わった。戦闘は得意じゃないが、レックウザを目の前で見捨てることなどできん。それに『メガレックウザ』なら、きっと奴を追い払える」
カイトはレックウザを見据え、確信を込めて叫ぶ。
そして眼前に迫り来るギラティナを一瞥し、さらに続けた。
「それまでは我々で、あの黒龍を足止めしなければならん」
ルカはギラティナを見据え、自嘲気味に笑う。
「あたしら五人であのバケモン止めろって? 本当に狂ってるぜ」
状況は絶望。
戦略は無謀。
それでも四天王ゲンジ、ジムリーダーナギ、案内人カイト、そして背中を預け合うライルとルカ。
全員が覚悟を決めた。
静かに、しかし燃えるような闘志を宿した瞳で、迫り来る反転世界の王を見据える。
この天空の頂が、彼らにとっての『防衛線』となる。