ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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イッシュ地方へと足を踏み入れたライルとルカ。
潜入に向け、しっかりと準備を進めたいライルだったが……。
※途中、ゲーム・原作にはないオリジナル設定が登場します。ご了承ください。



第二十九話【スカイアロー】

 

 イッシュ地方、ヒウンシティ。

 

 見上げるほどに高く聳え立つビル群と人々の喧騒。ここはこの地方の資本主義の心臓部であり、同時に今回の潜入捜査の目的地でもあった。

 

 二人は宿泊施設のライルの部屋に籠っていた。

 

 任務詳細、会場案内図、街の地図と地方地図をベッドに広げ、当日に向けて様々な準備を進めていたのである。

 

 すると地方地図を見ていたルカがおもむろに口を開く。

 

「ふーん。『ライモンシティ』、娯楽の街ね。ふーん……なんか怪しい気がするぜ」

 

 会場の図面を見ていたライルが顔を上げ、鋭く言い放つ。

 

「おい待て行かねーぞ」

「なんでだよ! なんかあるかも知んないだろ!」

 

 反論してくるルカをライルは跳ね返す。

 

「お前、遊びたいだけだろ。今回はダメだ、なりすましなんだぞ。何がきっかけでバレて失敗するか分からないんだからな」

「くっ……」

 

 ルカはライルの正論に唇を噛んだ。

 

「あたし遊園地行ったことないから行ってみたかったのに……」

 

 思わず溢れる本音。その少し寂しげな様子に、ライルは調子を狂わされる。

 

「……今度休みの日に来りゃいいだろ」

「いつになんだよそれ。それに休みが揃うかどうかも分かんねーだろ!」

 

 当然のようにライルを巻き込もうとしているルカ。

 

「……ったく、わかったよ。じゃあ任務が終わったあと、行けそうなら行くってのでどうだ?」

「んー。まぁ、それで手打ちだな」

 

(なんでお前がちょっと優位な感じなんだ……)

 

 しかしルカはベッドに勢いよく背中を預け、その後も退屈そうに言う。

 

「だとしても当日までヒマじゃん。あと何日あんだよ」

 

 ライルはじろりとルカを見る。

 

「……シロナさんから来てた情報を頭に叩き込むんだよ。それと『言葉遣い』な!」

 

 ライルは、練習用の台本を手で叩いた。

 

「さっき全然出来てなかったろ!酷いってレベルじゃないぜ。上流階級なんだぞ!」

「うるせーなー真面目くんは。そんなもん、その場の雰囲気でなんとかなるもんだって」

 

(こいつ……マジで喋らせんとこかな……)

 

 ライルは大きな溜め息を吐いた。

 

 先日、褒めたと思ったらこれだ。全面的に撤回したい。

 

 だがそんなことで彼女が止まるのであれば、これまで苦労はしていない。

 

「あっ、そうだ。買い物行こうぜ」

「……おれの話聞いてたか?」

「もちろんだっつの、思い付いたんだよ」

「なにが」

 

 ルカは弾けるようにベッドから身を起こす。

 

「なりすますのは、坊ちゃん野郎とそのダチなんだろ? だったら街で豪遊してたって違和感ないじゃん。むしろブランド店巡りでもしてる方がリアリティ出るだろ。まだ顔は割れてないんだし」

 

 ライルは考え込む。

 

「……確かに一理あるかもな」

「だろー!?」

「でもダメだ。潜入が終わるまでは、会場近くの人目につくところには行かない」

「ちぇーっ! 心配性だなぁ」

 

 ルカは再びベッドに寝転がった。それを横目で見るライル。

 

 こうなれば苦肉の策だ、致し方ない。

 

「……そんなに出かけたいんなら」

 

「?」

 

 その言葉にルカは首だけを起こした。

 

「人通りが落ち着く時間になってから、スカイアローブリッジに行くのはどうだ? そこなら会場からも離れてるしな。橋の途中が展望スペースになってて、ヒウンシティの夜景が見えるらしいぜ」

 

 すると途端にルカが表情を変えた。

 

「——おい、マジかよ!たまにはいいこと言うじゃんか! 行こう行こう! 俄然やる気になってきたよあたし!」

 

「……現金なやつだな。んじゃ、もっかい練習な」

「オッケー!」

「全然令嬢っぽくねえ」

「オッケーですわ!」

 

 ライルは再び頭を抱えた。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 夜。

 

 目立たない服装に着替え、それぞれの部屋を抜け出す二人。

 

 行き先は巨大な橋——スカイアローブリッジ。

 

 その上層部に設けられた展望スペースに辿り着いた瞬間、海風と共に圧倒的な光の渦が二人を迎えた。

 

 眼前に広がるのは、ヒウンシティの摩天楼が放つ輝き。

 

 まるで宝石をぶちまけたようなその夜景に、ルカは思わず手すりへ身を乗り出し、言葉を失っていた。

 

「…………すげえ綺麗だな」

 

 普段の好戦的な鋭さも影を潜め、その大きな瞳には街の灯りがキラキラと反射している。

 

 ライルは隣に立つルカを横目で見る。

 

 風に揺れる綺麗な黒髪と、そこから覗く金のインナーカラー。そして純粋に感動している少女の横顔。

 

 見慣れない彼女の表情に、ライルは妙な気恥ずかしさを覚え、慌てて視線を夜景へと戻す。

 

 するとルカが夜景を見つめたまま呟く。

 

「なあ……ここ、誰かに教えてもらったのか?」

 

 なぜそんなことを聞くのかと、ライルは彼女の問いに片眉を上げ、答える。

 

「いや、ガイドブックで見つけただけだ」

 

 ルカは少しだけライルを見て、そしてまた夜景に視線を戻す。

 

「……ふーん、そっか。いいチョイスじゃん。当日も頑張れそうな気がしてきたぜ」

 

 彼女の珍しく素直な言葉に、ライルは少しだけ調子を狂わされる。

 

(……まあ、こうでもしなきゃやる気にならないからな)

 

 そう自分に言い聞かせるライル。

 

 隣では、ルカがまだ飽きることなく街の光を眺めている。

 

 冷たい海風に吹かれながら、ライルは——もうしばらくここにいても悪くないと思った。

 

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