ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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各地方で暗躍するカルト教団が主催する交流会。
そこで語られる内容を手がかりに、これまでの事件との関連を探る任務を受けたライルとルカ。
ヒウンシティでの潜入捜査が始まる。

※挿絵を後書きに追加しました。作成はAIです。




第三十話【潜入】

 

 ヒウンシティの一角にある巨大なシティホテル。

 

 その重厚な扉をくぐったライルとルカは、一時の「自分」を捨て、偽りの名を纏う。

 

 交流会開始まであと数時間。

 

 ——張り詰めた緊張感が静かに拍動する。

 

「——承りました。ギーグ商船ご子息ヴィクトール様、並びに『フィアンセ』のエレナ様ですね?」

 

 受付の若い男性が発したその言葉に、ルカの眉が跳ね上がり、大きな声が上がる。

 

「——はぁ!?」

「……えっ?」

 

 呆気に取られている男性を見て、ライルは大慌てで口を挟む。

 

「あー! じゃなくて! …………そう!」

 

 ライルはその男性に顔を近づけた。

 

「彼女、公の場でそう呼ばれることにまだ慣れてなくて……必要以上に反応してしまうんです。……ほら、分かるでしょ?」

 

 男性は少し眉を上げ、ルカを見据えたが、本気で戸惑っている彼女を見て小さく「なるほど」と頷いた。

 

「本当、すみませんね。あはは……」

 

 ライルは冷や汗を抑えながら、強引な笑顔を取り繕う。

 

「これは配慮が足りず、失礼いたしました。では、それぞれ更衣室でお着替えをどうぞ」

 

「ええ。どうも」

 

 ライルは小さく会釈をし、ルカを連れてその場を離れようとする。

 

 そして男性に背を向けた瞬間、二人の間で視線の火花が散り、小声での口喧嘩が始まる。

 

「(このバカ! いきなり危ないとこだったぞ……!!)」

「(なんだよフィアンセって! あたし聞いてねえ! シロナも何も言ってなかっただろ!)」

 

 確かに、組織からの情報では友人とまでしか記載されていなかった。

 もしかすると本人から聞いていた情報と、認識違いが生じていたのかもしれない。

 

 しかし。

 

「(若い男女でパーティに行くんだから、そんな関係だってあり得るだろ!)」

 

 ライルはシロナとの打ち合わせの際、その可能性について薄々感じてはいた。そしてその予感を口にしなかったことを少し後悔した。

 

 だがあの時に伝えていれば、ルカはこの一週間ひたすら自分を揶揄い続けてきたかもしれない。いや、間違いなくそうだろう。

 

 その二つがせめぎ合う中、それでもやっぱり言わなくて良かったという気持ちが、ギリギリで勝った。

 

「(とにかく!こっから違和感ないようにしねーとマジでバレるからな! 頼むぞ!)」

「(わかってるよ!)」

 

        ◇ ◇ ◇

 

 更衣室の前では、SPによる手荷物検査とボディチェックが行われていた。

 

 ライルはその様子をつぶさに観察する。

 

(やたら厳重だな……。こんなの、もはや普通の交流会じゃないって言ってるようなもんじゃないか……?)

 

 手持ちのモンスターボールを預ける二人。盗難等の可能性も考慮し、連れてくる数は最小限に抑えてある。

 

 しかし、支給のデバイスさえ持ち込めれば、レコーディングは容易。デバイスは、一般に普及しているものと外見も機能表示もさほど変わらず、内部の記録機能まで見抜かれる可能性は低い。

 

 実際、検査も問題なく通過できた。

 

        ◇ ◇ ◇   

 

 交流会場へと続く大階段の下。

 

 先に着替えを終えたライルが、一人壁に背を預けていた。

 

 すらりとした長身に、白のタキシード。

 

 透き通るような銀髪と端正な顔立ちは、数人の女性たちが振り向き、熱い視線を送るほどの気品を放っている。

 

(……なんか結構目立ってないか? 装いは間違ってないと思うんだけど……)

 

 思わぬ注目に戸惑うライルの背中に、一人の女性の声が届く。

 

「お待たせ。ヴィクトール」

 

 振り返ったライルの思考が、一瞬で真っ白に染まる。

 

 そこにいたのは——鮮やかなロイヤルブルーのマーメイドドレスを纏ったルカ。

 

 金のインナーカラーが覗く美しい黒髪は後ろで纏められ、メイクによって強調された整った目鼻立ち、ドレスから伸びるしなやかな肢体。

 

 普段の刺々しさは消え、その姿は「可憐」と「妖艶」が同居した、息を呑むような美女そのものであった。

 

 その姿には男性だけでなく女性までもが振り返り、視線を注いでいる。

 

「や、あ……エレナ……」

 

 声が裏返りそうになるのを必死に抑えるライル。ルカは自然な動作で彼の腕を掴むと、階段を登るように促す。

 

 それに対し、ライルが小声で話しかける。

 

「(お前……腕組み……)」

「(なんだよ、フィアンセなんだろ? こんくらい普通だよ)」

「(……そうだけど)」

 

 平静を装うライルにルカが追撃をかける。

 

「(どうした? あたしが可愛すぎて緊張してんのか?)」

「(……普段と違いすぎて驚いただけだよ)」

「(照れんなよ。前にも言ったろ?)」

 

 ルカはニヤリと笑う。

 

「(女性経験なさそうなお前に、お姉さんが教えてやろうか? ってな)」

「(だから、歳は一緒だろが。あとそれくらい普通にあるし……) ——ぐぉっ!?」

 

 その言葉が終わるより早く、ルカの『不可避の肘』が、ライルの腹部に鋭く沈み込む。

 

 ドレス姿でも、そのキレは健在だ。

 

 そして——

 

「嘘つき」

 

 小声で吐き捨てたルカは、完璧な令嬢の微笑みを浮かべて前を見据えた。

 

 そしてライルは腹部をさすりながら決意を固める。

 

(別に嘘じゃ……いや、もう何も言わんとこ……)

 

 向かうは華やかな交流会。

 

 潜入捜査が幕を開ける。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 会場に足を踏み入れると、天井のシャンデリアが放つ光が、グラスの中で揺れるシャンパンを黄金色に染め上げていた。

 

 耳に届くのは、洗練された音楽と、上流階級特有の穏やかな話し声。

 

 その華やかさの裏側で、二人の神経は研ぎ澄まされていた。

 

「(よし。じゃあ決めてた通り、グループに混ざって色々探っていこう)」

「(『清楚で可憐』なこのあたしは、聞き役に徹すりゃいいんだろ)」

「(ああ、頼むぜ)」

 

 二人は自然な足取りで、談笑する紳士淑女のグループへと近づく。

 

 そしてヴィクトール(ライル)が声をかけたのは恰幅の良い中年の男性。

 

「こんばんは。ご一緒してもよろしいですか?」

「もちろんですとも。あなたは?」

「ヴィクトール・ギーグです。良い会ですね」

 

 ライルの言葉に、男性の表情が明るくなる。

 

「おお!ギーグ商船の! お噂はかねがね。いやむしろ、お噂より遥かに精悍な顔つきだ。おや、そちらは?」

 

 男性はルカの方に視線を向ける。

 

「エレナ・ハートランドと申します」

 

 ルカは普段より半音高い声で挨拶し、完璧な角度で会釈をする。

 

「いやいや! これは麗しいお嬢様。ギーグ商船のご子息も隅に置けませんな!」

 

 そこからのライルの振る舞いは完璧に近いものであった。事前に頭に叩き込んだ設定を巧みに織り交ぜ、流れるような会話で場を盛り上げる。

 

 そしてルカもまた、隣で凛とした気品を漂わせ、その場に華を添え、自然と周囲の目を引いていた。

 

 先ほどまでのライルへの振る舞いは通常運転だったが、少なくとも、人前では完璧に取り繕える程度には仕上がっている。

 

 やはり彼女は本番に強かった。

 

 しばらくしたところでライルが核心に迫る。

 

「ところで、この交流会では何やら崇高な理念のお話が聞けるとか。実は私もエレナも、それが目当てでして」

「おお、そうですか! お若いというのに素晴らしい。私は以前聞いた時に感銘を受けましてね。今日は二度目ですよ」

 

 男性はライルとルカに少し近づき、小声で話す。

 

「実はどのタイミングで行うか、誰が聞けるのかは毎回変わるらしいのですよ。しかし、そういった話をしていれば、そのうち『向こう』の方から案内があるのです」

 

        ◇ ◇ ◇

 

 そこから少しの談笑のあと、事前の打ち合わせ通り、エレナ(ルカ)が声を発する。

 

「ヴィクトール、少し席を外すわ」

 

 ルカは優雅にその場を離れると、手洗いに行くと見せかけ、会場の隅々を物色し始めた。

 

 ホールの端から上階部分まで、速やかに移動するルカ。

 

(特に怪しいとこは何もねえ……いや……)

 

 しばらく会場を回っていたルカだが、持ち前の鋭い観察眼がわずかな差異を捉える。

 

(……人が減ってんな)

 

 直感力に長けた彼女の本領発揮。

 

 言われなければ気づかないレベルだが、しかし確実に、参加者の数が減っている。

 

 さらに、彼女の視線がホールの一角で止まる。

 

(……これは……)

 

 彼女の目に入ったのは、壁際に立つ、SPスーツに身を包んだ巨漢の老年男性。

 

 短く刈り込まれた白髪に、彫りの深い厳格な顔。

 

 ただ立っているだけのように見えるが、その佇まいからは、熟練の闘士だけが放つ威圧感が滲み出ていた。

 

 ルカは怪しまれないよう、ごく自然にその場を離れた。

 

 そして足早に元の卓へと戻る。

 

「お待たせヴィクトール、会場が広すぎて少し迷ったわ」

 

 彼女はライルの腕を絡め、耳元に顔を寄せた。

 

「(ほんの少しずつだが人が減ってる)」

「(妙な違和感はそれか。他には何かあったか?)」

「(それが……)」

 

 ルカが、あのSPの話をしようとしたその瞬間。

 

「ヴィクトール様、エレナ様。ぜひ、ご案内したい場所がございます」

 

 背後を振り向くと、そこには別のSPスーツ姿の男性。

 

 抑揚のない静かな声に、二人はわずかに視線を合わせる。

 

 違和感の正体、そしてライル達が追う「人影」への道が、ついに目の前に開かれたかもしれない。

 

 二人は覚悟を決め、その案内に従い、静まり返った廊下へと足を踏み出す。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 迷路のような通路を抜ける際、ライルは曲がり角の数と歩数を冷静に数え、事前に頭に入れていた会場図と照らし合わせていた。

 

 そして案内されたのは、煌びやかなメインホールとは対照的な、静寂が支配する奥の小会場。

 

 重厚な扉が開くと、そこにはすでに二十名に満たない参加者たちが集まっていた。皆一様に「選ばれた」という高揚感と緊張感を漂わせ、周囲を探るように見渡している。

 

「(……他の場所にも集められてるのか?)」

「(さあな。広すぎて全部は分からねえ)」

「(……とりあえずこのまま様子を見るか)」

 

 二人が群衆に紛れて十数分。

 

 参加者が一人、また一人と増えていく。

 

 入室時の倍ほどの人数になったところで、最後の一人が部屋に入り、背後で扉が重々しく閉ざされた。

 

 それは、先ほどルカが目を付けていた、あの尋常ならざる気配を放つSP風の男。

 

 ルカはいち早くその姿を捉え、ライルの袖を引いて合図を送る。ライルもまた、自然に一瞬だけ背後を確認し、またすぐに前を向く。

 

 しかしその顔には少なからず動揺があった。

 

「(なんなんだあいつは……さっき何か言いかけてたのはあれか?)」

 

「(ああ。あいつはマジでやべぇ。ただもんじゃない。雰囲気はゲンジのおっさんに似てるが、はっきり言ってそれ以上だ……!)」

 

「(……だよな……。なんでそんな奴がこんなところに……?)」

 

 歴戦の使い手を前にしたときにも似た——あるいは、それすら凌駕するほどの、肌を刺す威圧感。

 

 そんな怪物が扉を背にし、立ち塞がった室内で、前方のステージにスーツの男が登壇する。

 

「大変お待たせいたしました。紳士淑女の皆々様!」

 

 男は声を高らかに張り上げる。

 

「ここに集められた方々は、選ばれし上級の方々でございます。では皆様に、我々の代表をご紹介致しましょう」

 

 ホール内から一際大きな拍手が湧き起こる。

 

 そしてその後ろから、足音が響く。

 

 静かに、ゆっくりと。

 

 そこに現れたのは不自然なほど穢れのない、真っ白な衣服を身に纏った、長い白髪の男。

 

 ほんの少し場の空気が歪んだことを、ライルとルカは察した。

 

 男は静かに語り始める。

 

「——皆様は、愛するものとの別れを経験したことはございませんか」

 

 男は穏やかな笑みを浮かべたまま、集まった者たちをゆっくりと見渡した。声を張り上げているわけではないが、その声は不思議なほど鮮明に、会場の隅々まで届いていた。

 

「人は生きる限り、必ず『喪失』に遭う。そう教わる者も、実際に経験した者も多いことでしょう」

 

 会場は静まり返り、誰一人として言葉を発しない。

 

「愛する家族。かけがえのない友。そして、共に歩んできたポケモン。もう二度とは会えぬ者たちの姿を、今も思い浮かべることはございませんか?」

 

 男はそこで言葉を止めた。

 

 答えを求めるためではない。

 

 聞く者それぞれの胸に、失ったものの姿が浮かぶのを待つための沈黙だった。

 

「けれど、残された私たちは言われます。受け入れなさい。前を向きなさい。時間が悲しみを癒してくれる——と」

 

 男の声には、怒りも悲しみもない。

 

 ただ、痛みに寄り添うような静かな響きだけがあった。

 

「ですが……それが、本当の救いなのでしょうか?」

 

 会場の空気が、わずかに揺れる。

 

「忘れられぬほど愛したことを、『いつまでも立ち止まっている』と責められる。もう会えないという理不尽を受け入れ、それでも生きていくことを『強さ』と呼ぶ」

 

 男は胸に手を当て、ゆっくりと目を閉じた。

 

「私は、そうは思いません」

 

 その言葉に、数人が唇を引き結んだ。

 

 先ほどライルたちと談笑していた恰幅の良い男も、祈るように両手を組み、壇上を見つめている。

 

「もう一度会いたいと願うことの、何が罪なのでしょう。失ったものを取り戻したいと願うことの、何が弱さなのでしょうか」

 

 男は再び目を開く。

 

 その視線が、一人ひとりの胸の奥を覗き込むように、静かに会場を巡っていく。

 

 そこで初めて、男の口元に微かな笑みが浮かんだ。

 

「——そう、だからこそ」

 

 一拍。

 

「この世界の外に、その理に縛られない場所が存在するとしたら。かつて愛した者と再び出会い、今度こそ永遠に共に歩める場所があるとしたら」

 

 誰かが、小さく息を呑んだ。

 

「それは、喪失というものが存在せず、それどころか死によって引き裂かれた絆さえ、結び直せる世界」

 

 男は両腕をわずかに広げ、そこにいる全員を迎え入れるように告げた。

 

「我々が皆様をお連れしたいのは、まさにそのような場所——『理想郷』です。喪失など、受け入れる必要はありません。再び、愛する者たちと会いましょう。そしてそこで、思うままに生きるのです」

 

 しばしの沈黙。

 

 やがて会場のあちこちから、押し殺した嗚咽と、息を呑む音が漏れ始めた。

 

 男の言葉には、妙に人を惹きつけるものがあった。

 

 失ったものを忘れられずにいる者。

 

 前へ進めと言われることに疲れた者。

 

 叶うはずのない再会を願い続けている者。

 

 そんな人々にとって、その言葉は甘美な救いに聞こえるのだろう。

 

 だが、ライルには違って聞こえた。

 

 その願いに、ライルとて身に覚えがないわけではない。

 

 もう一度会いたい——そう願う相手は、彼にもいる。

 

 だからこそ、その言葉の甘さが、歪んだものに思えた。

 

 本当にそんなことが叶うのか。

 

 叶わぬのなら、失った者への想いを利用し、都合のいい希望を餌として撒いているに過ぎない。

 

 ライルは、男の言葉の裏に、どす黒い何かが隠されているような気がして、言いようのない嫌悪感を覚えた。

 

 そして彼が何より心配したのは、隣にいる少女のことだった。

 

 何故なら彼女も——『経験者』だったから。

 

 ライルはゆっくりとルカを見る。

 

 揺れているかもしれない。

 

 一瞬、そんな姿を想像した。

 

 だが——彼女の反応はまるで違った。

 

 そこにいたのは、可憐な装いでは隠しきれないほど、鋭い眼光を壇上へ向けるルカだった。

 

 ルカは、消えることのない痛みを背負いながら、それでも立ち上がり、希望を捨てず、自分の足でここまで歩いてきた。

 

 だが目の前の男は、喪失、死別——それら全てを覆すという。

 

 同じように喪失を抱えた者の中には、男の言葉に共感した者もいるかも知れない。

 

 だが彼女にとって、その言葉は到底看過できるものではなかった。

 

(バカにしてんのか……? そんな都合の良いモンはねぇ……!)

 

 彼女の拳は硬く握りしめられていた。

 

(あたしが……どんな思いで……!)

 

 ルカから、抑えきれない怒気が溢れ出す。

 

 それに嫌な予感を覚えたライルは、後ろを一瞬だけ振り向く。

 

 すると、例のSPが、こちらに視線を向けていた。

 

 ——マズい……!

 

 ライルは素早くルカに声をかける。

 

「(おいルカ……!抑えろ……!)」

「……ッ!!」

 

 その声に、我に返るルカ。

 

 数秒、静かに呼吸を整える二人。

 

 そして少し時間を置き、ライルがデバイスの暗い画面越しに背後を映すと、SPは前方のステージへと視線を戻していた。

 

 その教祖の白い男は、なおも語り続ける。

 

「我々が目指すものは、『救世』です。選ばれし者だけが辿り着ける世界。そこで皆様は、もう二度と大切なものを失うことはないのです」

 

 その言葉に、会場からは再び盛大な拍手が起こった。

 

 ルカは怒気こそ抑えているものの、その表情はまだ険しいままだった。

 

「(とんでもねえ宗教野郎だな……)」

「(……ああ。でも、周りの様子がおかしい)」

 

 ライルの指摘通り、会場にいる多くの人々は、男の話を恍惚とした表情で聞き入っていた。

 

 その異様な光景に、二人が気づき、ルカが声をかける。

 

「(おい。これまさか、『さいみんじゅつ』じゃねえよな?)」

「(そうかもしれない……。おれは大丈夫だけど……お前は?)」

「(ああ、あたしも問題ねえ)」

「(……なにかカラクリがあるのか?)」

 

 そんな中、教祖の男が話を終え、初めのスーツの男がその場を締めくくる。

 

「以上が我々の理念です。今日はここまでとさせて頂きましょう。ご賛同いただける方はぜひとも、我々とともに来ていただきたい。まだ不安な方、それも結構。我々はいつでも扉を開いております」

 

        ◇ ◇ ◇

 

 『穢れなき白』の男が去った後も、会場はざわついていた。

 

 しばらくしてルカがライルに声をかける。

 

「(終わったな、どうする?)」

 

 ライルが自然に会場全体を見回す。

 

「(……とりあえず、今日のところは引こう)」

 

 手持ちポケモン達は預かられている上、扉の前には「怪物」が居る。

 

 これ以上の詮索はリスクが高すぎると判断したライル。

 

 二人は人の流れに紛れ、自然な動作で退室しようとする。そのまま扉付近に居た、あのSP風の男の横を通り過ぎる二人。

 

 ライルは「ヴィクトール」としての堂々たる歩調を保ち、ルカは「エレナ」としての可憐な微笑みを崩さない。

 

 男の鋭い視線が二人を射抜くような感覚があったが、二人は細心の注意を払い、平静を装って廊下へと抜け出した。

 

 預けていた荷物とモンスターボールを受け取り、会場を後にする。

 

 夜のヒウンシティを抜けて、ようやく宿泊ホテルのライルの部屋に辿り着いたとき、二人は同時に深い溜息を漏らした。

 

 スーツのネクタイを緩めるライルと、ハイヒールを脱ぎ捨てるルカ。

 

 豪華な装束の下でかいた冷や汗が、ようやく冷えていく。

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