ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
エージェントっぽいってどんなだろう?と思って書いたのがこの話でした。リーダーより振り分けられる任務をもとに各地を移動する、いわば直行直帰です。だからこそ、報連相はしっかりしましょうねというお話。
セーフハウスへ戻るなり、ライルは任務で汚れたジャケットを脱ぎ捨てた。適当な椅子に腰を掛け、遅めの食事(パスタ)を口に運ぶ。
そこへ、デバイスが青い光を放ち、ダイゴからの着信を告げた。
画面越しに映し出される凛々しいリーダー。映像から見るに、まだ本部で働いているようだ。
「やあ、お疲れ様。今、大丈夫かな?」
ライルは口に入れていたパスタを慌てて飲み込み、端末をサイドテーブルに立てかける。
「——すみません、さっき帰って来て。今メシ中なんですけど……逆に良いですか?」
「構わないよ、むしろ食事中にすまないね。……で、首尾はどうだい?」
ライルは慣れた手つきで端末を操作し、地図上に点滅しているデータを確認した。
「はい。本部からの報告の通り、あの付近には相当数のエネルギー体が現れてますね。何の役に立つのか、まだ詳細は分かりませんが……。あれ、一体何なんです?」
ダイゴは少し表情を引き締める。
「わからない。判明しているのは、各地方でも同じ現象が確認され始めているということだ。本件は不確実性が多く、難易度が高い。——だが、君ならなんなく対応できると思ってね」
ライルは少し呆れたような顔をして、肩をすくめる。
「上の人たちでもできるでしょ! でもま、ダイゴさんにそう言われるのは、悪い気しねーけど」
ライルがエージェントになってから数ヶ月。その間に、この上司との仲は、ただの憧れではなく、信頼と親密さに変わっているようだ。
「ハハッ、素直だな。……それで、何か特筆すべきことはあったかい?」
その質問にライルは、森の中での戦闘を思い出し、眉を顰める。
「……そういえば、襲撃を受けました」
「何だって?」
ダイゴの表情が一瞬鋭くなったのが、画面越しにもはっきり分かった。
「ええ。ルガルガンを連れた女性トレーナーです。かなり苛烈な攻め方をするタイプでした」
「……指定組織の人間か?」
「どうでしょうか。誰かの指示を聞くようなやつには見えなかったけど……。なんていうか、剥き出しの刃物って感じでしたね」
ライルは、少女やポケモン達から放たれていた並々ならぬプレッシャーを思い出す。
「そうか。しかし、うまく対応したんだろう?」
「まあ、なんとか『流れ』に乗れたので」
「君は謙虚だね」
「いや、実際大したモンでした。それにあいつは多分、まだ手札を残してる。今後も現れるなら、警戒が必要です」
「君がそこまで言うとはね。わかった。そのトレーナーの特徴を、分かっている範囲で教えてくれ。『PLATINUM』のデータベースと照合するよう、事務局にも指示を出しておく」
「お願いします。詳細は後で報告書にまとめて送ります」
「ああ、頼むよ。急がなくていいからね。
——では良い食事を。若き精鋭(エース)」
通信が終了し、デバイスの画面に暗がりが戻る。
「……『エース』か。組織(ウチ)にはまだまだ上がいるだろうに。おだてんのが上手いよな、あの人」
ライルは再びフォークを手にし、冷めかけたパスタを一気にかき込んだ。
◇ ◇ ◇
通信による報告を終え、宿泊先の浴場で戦いの汗を流したライル。
鏡に映る自分の体には、過酷な局地任務を物語る細かな傷がいくつもある。
(……また傷、増えたな)
彼は手早く着替え、セーフハウスの屋上へと向かう。夜風が心地よく吹き、今回の任務に同行していた仲間達が思い思いに休息を取る。
ガブリアスは満腹なのか既にいびきをかいて寝転がり、ラムパルドはその巨体を休め、グレイシアはライルのすぐ側で丸まり、眠りについていた。ウォーグルも羽を休め、いまは周囲への警戒を解いている。
唯一、ルカリオだけがライルの隣で腕を組み、波導で彼に話しかける。
(その毎度の報告書、ご苦労なものだ)
「仕方ないだろ、仕事なんだから。お前らのメシ代だよ!」
相変わらずの軽口。彼とルカリオとは、最も古くからの付き合いだ。
報告書をまとめ上げる中、今日の出来事を再び思い返すライル。
「今日の森のあいつ、すげえ圧だったよな? 妙に気になるんだよな」
ライルは、その波動を読み取る力によって、人や物事を見抜く相棒に、意見を求めた。
(ああ。今までオレたちが戦ってきた、特に強い奴らと同じ匂いがした)
「だよな。何が目的だったんだ?今もこの辺にいんのか? 」
ルカリオは肩をすくめる。
「それに、明日からは街にも調査に出る。遭遇しないように気をつけなきゃな」
ライルの頭は既に、明日の調査のことを考えていた。しかし——
「でもまあ、綺麗な顔してたよな」
気の知れた相棒だけに見せる、ふと零れた本音。ルカリオは呆れたように視線をこちらへ向けた。
(またヒカリが怒るぞ)
かつてシンオウの各地を共に旅した、大切な仲間の名前。予想外の角度からのツッコミに、一瞬言葉が詰まる。
「……なんでだよ。あいつは関係ないだろ」
誤魔化すように空を見上げるライル。
「まあいいや。明日も頼むぜ」
ルカリオも短く鼻を鳴らし、同じく視線を夜空へと移した。
激闘を終えた夜は、静かに、そして次の任務の予感と共に更けていく。