ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
反転世界内で無事にダイゴと合流したライル達。
そんな彼らに届いたのは、外のメンバーが襲撃を受けていると言う通信だった。
反転世界内を全速力で駆け抜ける【突入部隊】が、出口の光を突き抜ける。
外縁へと飛び出した彼らの目に飛び込んできたのは、地獄のような光景。
数十体に及ぶ鎖に支配されたポケモン達が、プラチナムの面々を包囲し、激しい攻撃を仕掛けていた。
「なんなんだよこれ……!」
「ルカ、お前の言った通りだ。さっき中にいたポケモン達は外に出されていた!」
反転世界に突入していたライル達ではなく、外に居た【遊撃(β)部隊】と【支援(γ)部隊】を狙った攻撃。シロナのガブリアス、ゲンジのボーマンダといった面々がその猛攻になんとか対応しつつも、予想外の敵襲に配置が完全に崩されている。
それでも、防戦一方だったシロナたちが反転世界から帰還した突入部隊とダイゴの姿を捉えると、一斉に歓声を上げた。
「「「ダイゴ(さん)!!!」」」
ライル達も、戦場にポケモン達を投入していく。
ダイゴの声が戦場に響きわたる。
「状況は!?」
「突如襲撃を受けた!でも全員無事!」
シロナはそう答えた後、現場にいる全員に向けて告げる。
「——総員! ダイゴは救出した! 全員でこの場を離れるわよ!」
「応!!」
咆哮と爆音。
技の閃光が入り乱れる中、プラチナムのメンバーが合流。
救出作戦は、瞬く間に大規模な「脱出戦」へと変貌した。
◇ ◇ ◇
しかしそんな中、ロードが目を細めた。
深い森林の奥、動く『何か』を見つけたのだ。
「……あれは……!」
突如として現れたのは——軍服姿の数人だった。
ロードの背に冷たい汗が流れる。
その兵達は何かを探すように、次々とプラチナムのメンバーを確認していく。
そしてその視線がある人物を捉えた瞬間、最も鋭い眼光をした兵が獲物を見つけたかのように獰猛な笑みを浮かべた。
ロードはそれを見逃さず、すぐさま声を上げた。
「まずい……!全員、森林の方向!!敵襲だ!!」
プラチナムのメンバーが一斉にその方向を見る。
するとその兵は無線機を取り出し、鋭い声を放った。
「隊長、『ここ』だった!!やつを見つけたぞ!!!」
その視線の先にいたのは——ダイゴだった。
その通信を皮切りに、森林の奥からさらに数人の兵が現れる。兵たちは次々とポケモンを繰り出す。
『ドラピオン』、『ブーバーン』、『ダイオウドウ』、そして、他にも。
迷いなくこちらへ向かってくる。
脱出用トラックを待機させている麓は、敵が現れた方角とは正反対。戦況全体を見渡していたシロナが檄を飛ばす。
「ライルとルカで退路を開いて!テッセン、アスナ、スズナでダイゴを護衛!それ以外は敵襲に対応しながらそのサポート!」
次々に構えるエージェント達。
テンガン山の麓へと続く斜面では、戦闘が瞬く間に激化していく。
襲い来る集団の猛攻を真っ向から受け止めるのは、アデクとウルガモス、ゲンジとボーマンダ、カゲツとシザリガー、そして総指揮官シロナとガブリアス。
スズナとユキノオー、アスナとバシャーモ、テッセンとジバコイルは中遠距離の援護射撃で前線をカバーしながら、ダイゴとゼンノを護衛し、ライルとルカの後に続く。
ロードとドラパルト、デンジとエレキブル、フウロとケンホロウは戦場を行き来し、鎖のポケモン達の勢いを抑える。
援護を受けながらゼンノが驚愕の顔で叫ぶ。
「なぜじゃ!? なぜこの場所がわかる!?」
ダイゴもまた、驚きを隠せてはいなかったが、落ち着きのある声で答えた。
「……この日に現れるポイントは複数あった。そしてあの兵はさっき『ここだった』と言った……。初めからわかっていたわけじゃない、しらみ潰しで全てを探したんだ!」
「各ポイントは距離も相当に離れていたはずじゃ。……それを短時間で全て回ったと言うのならば、やはりダイゴ、奴らはすでに——」
「ああ、おそらく距離を無視した移動能力を手にしている……」
ダイゴが表情を歪ませ、唇を噛む。
「みんな……すまない!!」
しかし、誰一人として彼を責める者はいない。全員を代表するかのようなシロナの叫びが響く。
「謝罪は不要! 早く行って!!」
目指すは数キロメートル先の麓、脱出用トラック。
しかし、黒い霧を纏った「反転ポケモン」たちは、ゾンビのように何度でも立ち上がる不気味な回復力を見せ、無敵の兵隊としてプラチナムを襲う。
「これだけ居たらキリがない!いつか押し通されてしまうぞ!」
デンジのその焦燥を切り裂くように、ライルが叫ぶ。
「皆さん、最大火力で一点を叩いてください!!」
すでに敵の弱点を看破しているその指示に、プラチナムの精鋭達が即座に反応。高威力の技が叩き込まれると、鎖のポケモンたちが次々と『裏側の世界』へと還されていく。
「おい相棒、言われた通り前はあたしらでやるぞ!」
「了解!」
ルカのルガルガンの『ストーンエッジ』が地を砕き、ライルのルカリオの『インファイト』が嵐となって、前方の包囲網を食い破る。
前方への退路が一本、鮮烈に切り拓かれた。
「前の道は開いた! 全員さっさといけ!!」
ルカの叱咤。
それに応えるように、ダイゴやゼンノ、そして他のメンバーが山を駆け下り始める。
「よし……よし! 逃げれるぞ……!」
その時、ライルとルカの視界に、同時に映ったものがあった。
「……ッ!!」
それは、後方から現れた、一際強烈な威圧感を放つ兵。
潜入捜査の際に見た——あの老兵。
二人の全身に鳥肌が立つ。
「相棒……やべえ……!あいつが来た!」
「……こいつらだった。教団とこいつらがギラティナと繋がっていたんだ……!」
そして老兵も同様に二人の姿を捉える。
「あのガキどもは……!やはりこいつら、ただの寄せ集めではないな……!」
老兵は重厚な足取りで歩を進めると、ハイパーボールを二つ取り出す。そこから繰り出されたのは『バンギラス』、そして『スイクン』。
圧倒的なオーラを放つその二体。
バンギラスは砂嵐を纏って突き進み、スイクンは美しい紫色のたてがみを靡かせ、こちらを睨み、唸る。
そして老兵が手を水平に挙げ、ふと手の甲が光ったかと思うと、何もない空間に漆黒の裂け目が開く。
そこから現れた『もの』に、ライルはさらに驚愕する。
それは黒い霧を纏い、鎖のような模様が体に浮かび上がった、『レジスチル』であった。
「どういうことだ……? あいつは、キッサキ神殿で倒したはずだ……!」
突如として現れたその戦力の高さに、プラチナムの面々に緊張と絶望が走る。
その時。
その「死神たち」の前に立ちはだかる、二人の影があった。
「悪いけど、ここから先は一歩も通さないわ」
「その通りじゃ。ワシは個人的な因縁もあるんでな。覚悟せい貴様ら」
それは、シンオウの頂点に立つシロナ。
そして、イッシュの伝説的な強者アデク。
新旧の指揮官が並び立つその威圧感は、吹き荒れる砂嵐さえも弱まったようにみえるほど。その光景に、敵将と見られる老兵が呟く。
「大した威圧感だな」
ライルは、動揺を隠せなかった。
「まずい……加勢に行かないと!」
かつて自分たちを庇い、反転世界に囚われたダイゴの姿を思い出したライル。シロナ達がその二の舞になることを恐れ、向かおうとする。
しかし、いつの間にか隣にいたロードがその肩を強く掴む。
「ライル君、あの二人なら大丈夫だ。むしろ俺たちが居たら、彼らが本気を出せねえ!」
そのロードの言葉を裏付けるかのように、二人とそのポケモン達の圧が一段と高まる。
「ガブリアス! 『りゅうせいぐん』!」
「ウルガモス! 『だいもんじ』!」
空からは無数の光の恒星が、地上からは灼熱の炎が放たれ、敵の軍勢を飲み込んでいく。
その凄まじい余波の中、ライルはロードに半ば無理やり連れられる形で岩盤地帯を後にした。
◇ ◇ ◇
その後の岩盤地帯では、残された二人の「頂点」が戦場の空気を支配していた。
先ほどの渾身の一撃は、傭兵の数名や鎖のポケモン達をいとも簡単に薙ぎ払ったが、二人の視線はいまだ爆炎を捉えて離さない。
その嵐を耐え抜き、執念深く突き進んでくる影があった。一部の兵士と、頭領格と見られる老兵。そしてその傍らには、不動の威圧感を放つバンギラス、スイクン、レジスチル。
アデクは豪快に笑い、シロナは少し挑発するように顎を上げ、冷徹な眼で敵を捉えた。
「ガハハ! なんという奴らじゃ。ここまでの相手は久々じゃのう、シロナよ!」
「笑い事ではありません……。ですが先生の言う通り、並の使い手ではありませんね」
「時に貴様、このワシの顔を覚えているか?」
数十余年前の戦場。
その因縁をアデクが老兵に問いかける。
しかし。
「知らんな。戦場で会ったか? 今この瞬間まで貴様なんぞの顔は見たことないわ!」
「フン……なら今日という日を、その記憶に深く刻ませてやる」
アデクが笑いながらそう言うと、手のボールから新たな閃光が放たれる。
現れたのは、茶色の巨体。
「バッフロン!『ギガインパクト』!」
「ブモォォオ!」
バッフロンが雄叫びを上げ、光を纏いながら駆け出す。
——ドゴォォォン!!!
凄まじい質量がバンギラスへと激突し、相性も何もなく、その巨体を無理やり後退させる。
レジスチルにはウルガモスの炎が再び襲いかかり、スイクンにはガブリアスと追加で繰り出されたロズレイドが対抗。
「ガブリアス!『じしん』! ロズレイド!『リーフストーム』!」
敵全体を足止めする激しい大地の揺れと、ロズレイドが巻き起こした鋭い葉の嵐が襲いかかる。
再び戦場は爆風に包まれた。
◇ ◇ ◇
テンガン山麓。
全ての敵を二人が引き受けてくれたおかげで、トラックの荷台にはプラチナムの面々が既に乗り込んでいた。
シロナとアデクを除いた全員が揃い、運転席では事務方がエンジンを響かせながら、ボスの帰還を今か今かと待ちわびている。
ライルに対し、ルカが叫ぶ。
「おい! あの二人は本当に大丈夫なのか!?」
「……信じるしかない」
ライルは眉を寄せて答える。
その目には信頼と不安が混ざっていた。
「だけどシロナさんは、本当にバケモノみたいに強いんだ。アデクさんも、そのシロナさんの先生だって言うなら、きっと大丈夫だ……」
祈るような緊張感が全員を包む中、背後の森から突如として何かが横に突き抜けたような爆煙が上がる。
全員、固唾を飲んでその様子を見る。
煙を裂くように飛び出してきたのは、大きな茶色の塊。
それはアデクのバッフロン。
背後には——アデクとシロナが乗っている。
「来た! シロナさんとアデクさんだ!」
バッフロンの背にしがみつき、全速力でこちらへ向かってくるアデクとシロナ。
しかし、完全に敵を振り切っていた訳ではなかった。背後からは二人を逃すまいと、新たに現れた『ガチゴラス』とスイクンが肉薄し、まさにその牙が届きかけていた。
その姿を見たライルが声を上げる。
「おい、ルカ! いけるか!?」
「ああ、任せろよ相棒!」
ライルはルカリオ、そしてルカはサザンドラを繰り出し、二体はそれぞれ二つの掌と三つの口にエネルギーを溜め始めた。
「『はどうだん』!!!」
「『りゅうのはどう』!!!」
二つの波動は、迷いなく真っ直ぐに、シロナたちを追いかける追撃者、ガチゴラスとスイクンに直撃。
衝撃が敵を足止めし、その隙にシロナとアデクはトラックの荷台へと飛び込む。
それを確認したロードが運転席に向かって叫ぶ。
「今だ、出せ!!!!」
大型トラックが咆哮を上げ、タイヤを空転させながら全速力で加速。
プラチナムのメンバーは、無事に戦場からの脱出に成功した。
その後方。
ガチゴラスとスイクンに遅れて、敵の兵達が麓に続々と現れるが、既にトラックは数十メートル走り出していた。
「隊長!こっちも車を出しますか!?」
そう声をかけたのは通信機器に向かって叫んでいた男。老兵がそれに答える。
「いや、無駄だ」
そう言って老兵が指差す先、道路の一帯は、事前に準備されていた、大量の『まきびし』が敷かれていた。
「あからさますぎる。おそらく他にも『ステルスロック』あたりの罠を仕掛けているだろう」
そう言うと老兵は声を上げた。
「——リン!こい!」
その声に反応して現れたのは、長い筒を有する小型銃を持った軍服姿の女性。
女性は狙いをトラックへと定める。
「カカッ!外すなよ? リン」
「黙りなカラス。あんたを撃つよ」
女性は男に見向きもせず、そのまま引き金を引いた。
——カシュ!
短い音を立て、硬貨ほどの大きさのものが発射される。
それがギリギリのところでトラックの後輪カバーへと張りついた。
そして一瞬だけ赤い光を放つと、すぐに車体の陰へ溶け込むように沈黙した。
「よし、引き上げるぞ」
『それ』が付いたことを確認した老兵の冷静沈着な指示のもと、傭兵たちは粛々と山の中へと消えていった。
◇ ◇ ◇
揺れるトラックの荷台。
そこには、作戦開始以来の重圧から解放された、歓喜の叫びが響き渡っていた。
「シロナさん! アデクさん! 本当に無事で良かった……!」
ライルのその労いに、二人は額の汗を拭い、清々しい笑顔を浮かべている。
そして、中心に座るダイゴへ全員の視線が注がれる。
「みんな……僕のために危険を冒してくれて、本当にありがとう!!」
頭を下げるダイゴに、次々と祝福の嵐が浴びせられた。彼の旧チームであったテッセンとアスナが声をかける。
「よう生きとったダイゴ! お前という男は!さすがじゃ!」
「もう二度と会えないかと……! よかった、本当によかった!」
そしてまた一人。
「うおおおん! ダイゴさあああん!!! 信じてましたあああ!!!」
号泣しながら叫び声を上げているのはカゲツだった。
「見ろよ相棒。モヒカン野郎のやつ、鼻水垂らして泣いてるぜ。傑作だな」
「そう言うなって。でも、本当に良かった」
喜び合う仲間たちの輪の中で、ライルとルカは自然と視線を交わし、静かに頷き合う。
ダイゴの救出を無事終えたプラチナムの英雄たちは、本部へと帰還を果たす。