ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
半分だけ力の戻ったキーストーン。そしてグラードンからの海に行けというメッセージ。ライル達はそれに従うことを決め、次の準備を進めていたが。
灰の降り積もる煙突山。
その中腹の休憩小屋。
熱気と緊張から解放された二人を労う一行。
ナギが『おいしい水』の入ったボトルをそれぞれに渡してくれた。
「二人とも、無事で良かったわ。怪我はない?」
ライルとルカが水を飲み干しながら頷くと、ナギは安堵の溜息をついた。
続いてカイトが問いかける。
「それで、どうだった? 主は応えてくれたのか?」
「キーストーンは反応しました。でも、まだ完全というわけでは無さそうです」
ライルは、グラードンがルカリオを通じて意思を伝えてきたことを三人に伝えた。
「神話のポケモンがこちらに意思を伝えてくるなんて、信じられないわ……」
「それに、火山の化身とは?」
首を傾げるナギとカイト。
「ばーさん、心当たりねーのかよ」
「うーむ。なくはないが、イマイチ要領を得んのう……」
そういうと老婆は二人の手首で半分赤色に輝くキーストーンを見つめる。
「大海の王にも会えと言われたろう?」
「そうなんだけどさ。そうすりゃ本当に使えるようになんのか? さっき試してみたら何も起きなくて死にかけたし。あれからルガルガンにも変わった気配はないぜ」
「ガル?」
自分の名前を呼ばれ、軽い傷の手当てを終えたルガルガンが近づいてくる。
「お前、なんか変わった?」
「クゥーン?」
ルガルガンは不思議そうに首を傾げるだけだ。
「言ったろう、困難を極めると。全てのポケモンが力を秘めているわけではないし、その上、お互いがお互いと己自身を極限まで信じなければ、その道は開けんのじゃ」
ルカは少し納得がいかなさそうに、ルガルガンの頭を撫でた。
「……で、これからどうするんだ?」
カイトの言葉に、ライルとルカは顔を見合わせた。
「一度、ダイゴさんに状況を報告します」
◇ ◇ ◇
ライルとルカは別室に移動。
映像電話を繋いだ。
その場に居たのはダイゴとシロナ。背後のコントロールルームでは相変わらず、事務方達が忙しなく動き続けている。
二人はカイトとの合流から、グラードンとの邂逅、そして協力要請に至るまでの一部始終を報告した。
『代わりの遣いを寄越すが、グラードン自体は動けない、か……。そして次は海に行けと言われたんだね?』
二人が頷くとダイゴが顎に手を当てる。
『それなら、まず間違いなく『カイオーガ』に会えという意味だ。でもグラードンと同様の理由で、カイオーガの協力も難しいかもしれないね……。レックウザはどうだい?』
「……まだ行方は掴めていません。ただいずれにしろ、キーストーンを使えるようにするには、カイオーガに会わないといけません」
ダイゴが頷くのを確認するとライルは続けて問いかけた。
「……そちらの状況はどうですか?」
それについてはシロナが答える。
『新たに二都市ほど、例の異常災害が出てしまったの。今のところはメンバーや現地トレーナーが交代で対処に当たり、どうにか持ちこたえている。民間人の避難も済んでいるわ』
「それなら良かったです……。天狼隊は?」
『反転ポケモン達に紛れて何人かの襲撃を確認している。これ以上増えれば厳しいけど、現状は対応できている』
その言葉を聞き、ライルはひとまず胸を撫で下ろす。
そして話題は、洞窟で遭遇したヒードランへ。
「反転化されたヒードランは、間違いなくグラードンを狙って送り込まれたはずです」
『やはり災害の裏で動いてきたか……。だが天狼隊は確認されなかったんだね?』
「はい。それにギラティナもです」
『……そうか、わかった。引き続き対敵には注意してくれ』
「……そんで? カイオーガって野郎に会いに行くのは分かったけど、もしレックウザも居ないままだったらどうすんだよ」
ルカらしい一言が、会議の空気を切り換える。
『レックウザは本部の方でも動向を追ってみるよ。彼はオゾン層にも現れるからね。……あとは、そうだな。ホウエンにいる強力なポケモンを味方にするなら、ラティオスとラティアスだが……』
「その二匹って確か、神出鬼没って話なんじゃ?」
『うん。恥ずかしながら、今パッと思い浮かぶ手がかりはないね……。こちらでも色々と調べてみるから、君たちの方でも情報を集めてみてほしい』
ライルは少しばかり苦笑した。
「わかりました。おれたちにダイゴさん並の勘が宿ることを祈りますよ」
◇ ◇ ◇
ライルとルカは三人の待つ部屋へ戻った。
「お疲れ様!どうだった?」
「とりあえずはカイオーガの元へ向かいます。後はそれと並行して、ラティオスとラティアスの情報も集めなきゃいけません」
「それって、滅多に姿を現さないポケモンよね? 心当たりでもあるの?」
ルカは両手を軽く広げて「さあ」と意思を示し、ライルは苦笑いを浮かべる。
「ふむ、蒼と朱の兄妹竜か」
「ババ様、知ってるんですか!?」
「もちろんじゃ」
老婆はそう言って頷く。
「わしの祖父様がキーストーンの継承者でな。彼らの一族と心を通わせており、その時はよくルネに遊びにきていたんじゃ。……今となっては、どこにいるかも分からんがのう」
「そう……ですか」
「だが、彼らは誠実な人間が好きじゃ。世界を救わんとしている主らを見れば、力を貸してくれるかもしれん。出会えればの話じゃがな」
「それならいいんですけどね……」
とはいえ手がかりがあったわけではない。見かねたカイトが場を和ませようと、前向きな言葉を口にする。
「ライル君なら、彼らとも仲良くなれるんじゃないか?」
「——オイ。あたしは?」
その言葉にすかさずルカが突っかかり、小屋の中を小さな笑いが包んだ。
「次はカイオーガに会いに行くのよね?」
「大海の王の住処は、ルネから近い海溝にある。海へ潜るためには専用の器具が必要じゃが、わしの方で手配させよう」
「何から何まで、ありがとうございます」
それを聞いたナギが——パン!と手を叩く。
「ならルネに戻りましょうか。もう少しトロピウス達を休ませたらすぐに立ちましょう!」
◇ ◇ ◇
朝から各地を動き回り、もうすぐ夕暮れ。
トロピウス達のクールダウンを待つ時間、ライルとルカの二人は小屋の近くの外壁に腰を下ろしていた。
隣にはルカリオとルガルガンを座らせ、ポケモン用のフードを与えている。
「……今なら、少し外に出してやれるかな」
ライルは腰のモンスターボールへ手を伸ばした。
移動中にも何度か様子を確認していたが、周囲が落ち着いた場所で外へ出すのは、ここへ来て初めてだった。
それは、ダイゴから預かった、頭に重い鎧兜のようなものをつけた謎の四足歩行のポケモン。
前足と後ろ足で形状が異なっており、見れば見るほど不思議な姿をしている。体力は回復したようだが、少し離れた場所に座り込み、二人へ近づこうとはしない。
「ダイゴさんから渡されたけど、名前もわからないんだ」
「ひどく怯えてんな」
二人が近づこうとすると逃げはしないものの、明らかに警戒した様子で体を強張らせる。
「どうだ? これ食べるか? ——と言うより、食べられるか?」
ライルが口元へフードを差し出すが食べようとはせず、砕いても、液状のフードも同様に拒否された。
そのポケモンはまた少し離れる。
見かねたルカが呟く。
「こりゃ重症だな」
「……よっぽど酷い扱いをされてきたのか?」
二人はそれ以上の無理はせず、付かず離れずの距離で、そのポケモンと束の間の時間を過ごす。
しかし。
突如として背後の森で空間が軋み、黒い霧を吐き出すような、何か得体の知れないものが現れたような違和感が、二人の肌を撫でた。
◇ ◇ ◇
ライルとルカの二人は気づきこそしたものの、後方へ視線はやらず、少し会話を続ける。
「よお相棒。あのヒードランってやつは、単独で来てたと思うか?」
「わからないけど、他にも何かが居てもおかしくない」
「だよな」
ルカは自然に、それでいて迅速に腰へと手を伸ばした。
次の瞬間。
ボールから赤い光が放たれ四本の紫色の翼が現れる。
「——クロバット、『エアスラッシュ』!!」
クロバットが羽を交差させると、鋭い真空の斬撃が二人の後方にある草陰を襲った。
しかし。
——ガキィン!!
何者かがそれを冷徹に弾き飛ばす。
そして草陰から人影とポケモンが現れ、ライルとルカの二人はすぐさま戦闘体制に入る。
「バレちゃった。若そうなのに意外とやるのねぇ」
現れたのは、長い藍色の髪を後ろに括った軍服姿の女性——天狼隊リン。
そしてその手持ちと見られる『アブソル』。
「(天狼隊か?)」
「(間違いなくそうだろうな)」
短く会話をするライルとルカ。
リンはそんな二人を一瞥し、特にライルの方へと視線を戻す。
「ふーん。特に男の子、こないだは気づかなかったけど結構カッコいいじゃない」
その瞬間、ルカの額に青筋が走った。
「てめえ、何しに来やがった」
「ヒードランが追い返されてると思ったら、君らが邪魔をしてたってことなのね。私が何者かはもう分かってるでしょ?」
リンは挑発的な視線でさらに続けた。
「名前は……そうね、リンよ」
「てめえの名前なんざ興味ねーよ。何しに来たか聞いてんだ」
ルカの声に苛立ちが混ざる。
しかしリンはそれを気にも止めず、近くに居た鎧兜を付けられた例のポケモンへと視線を向けた。
「あら、あんた『タイプ:ヌル』じゃない」
「タイプ……ヌル?」
聞きなれないその名前にライルが眉をひそめる。
「前に男が侵入してから見てないと思ったら、こんなところにいたのね」
タイプ:ヌル。
——その『名前』を呼ばれた途端、そのポケモンは明らかに興奮し、リンに向けて威嚇を始めた。
「ちょっと、何怒ってんの? ずっと閉じ込められてたから私と絡み無いじゃない。ま、その理由も知らないしどうでも良いけど」
飄々とした態度を続けるリン。
——戦うつもりはないのか?
一瞬そう考えたライルだったが、次にリンが発した言葉で、その考えはすぐに消えた。
「ヒードランもいないんじゃ、グラードンなんて余計に『取り込める』わけないし。……そもそも居たところで相性最悪だけど。かと言って手ぶらで帰るのもねぇ」
リンは小さく笑みを浮かべ、二人を見る。
「……歳下相手なのも気が引けるけど、今後のためにも——ここで『やって』おこうかしら」
「——ッ!!!」
瞬間、先ほどまでの軽薄な態度からは想像もつかないほどの殺気が放たれ、空気が凍りついた。
裏の世界に生きる傭兵集団、天狼隊。
二人は再び、戦いへと引きずり込まれた。