ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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煙突山でのヒードラン戦を終えたライルとルカ。
しかし休む間もなく襲ってきたのは、天狼隊リンであった。



第四十七話【タイプ】

 

 天狼隊リンの襲撃。

 

 煙突山中腹で、再び戦いの火蓋が切られた。

 

 リンがアブソルに加えて繰り出したのは『アマルルガ』。さらに、リンが右手の甲を上に向けると、その中指に嵌められた何かが輝く。

 

「あれは……指輪……!?」

 

 リンが付けていたのは赤黒く不気味に輝く『石』が嵌った指輪だった。

 

 すると、すぐ後ろで黒い裂け目が開いた。そしてその空間から数体の反転ポケモンが這い出してくる。

 

 現れたのはマタドガス、ハブネーク。そして、スズナが倒したはずの——レジロック。

 

「こいつ、また——!」

 

 先日の戦闘同様であった。

 

 天狼隊が、反転ポケモンに加え、一度倒されたはずのレジロックを繰り出した。

 

(間違いない。テンガン山外縁でも、あの指輪を使っていたんだ!)

 

 しかし動じている暇はない。

 

 ライルはルカリオに加えてゴウカザルを繰り出す。

 

「相棒。あの首長いの、何タイプだっけ?」

「こおり、いわ」

「遠距離使うよな?」

「多分」

「なら、とりあえず炎だな」

 

 ルカはルガルガンをそのままに、クロバットを一度戻し、サザンドラを繰り出す。

 

「二、三……四対五。楽しめそうね」

 

 リンの顔が愉悦で歪んだ。

 

 構える両者。

 

 しかし、最も早く戦場を駆け始めたのは、鎧兜を纏ったタイプ:ヌル。

 

「あ、おい!」

「待て!無闇に突っ込むな!」

 

 タイプ:ヌルは興奮しているのか、ルカとライルの声が耳に入らず、真っ直ぐにリンへと突進する。

 

「なによ。数えなかったのが頭に来たの? まあいいわ、アブソル!」

 

 リンの声に反応するアブソル。

 

 その頭部の刃が、逆巻く風を纏い始めた。

 

「ゴウカザル、カバーしてやってくれ!」

「ウキッ!」

 

 ライルの声にゴウカザルが反応。すぐさま駆け出すと、みるみる内にタイプ:ヌルに追随し、瞬く間に敵との距離を詰める。

 

 その間に、アブソルの刃に風が集まる。

 

「『かまいたち』!」

 

 斬撃は、一直線にタイプ:ヌルへ。

 

「させるな『かえんほうしゃ』!」

 

 ゴウカザルから炎が放たれた。

 

 風の刃と炎がぶつかる。

 

 その嵐を抜けたタイプ:ヌルが、アブソルに攻撃を仕掛けた。そうはさせまいと、反転マタドガスと反転ハブネークが横から飛び掛かる。

 

 しかし、間一髪。

 

 ゴウカザルが割って入り、炎を纏う『フレアドライブ』で応戦した。

 

 その隣。

 

「アマルルガ、『れいとうビーム』!」

「サザンドラ、『かえんほうしゃ』!」

 

 炎と氷がぶつかり合い、水蒸気が周囲に広がる。

 

「注意して見とけよ、お前ら!」

「ガル!」

「ゴアァ!」

 

 その声のすぐ後。

 

 ——ズガガガガ!!

 

 煙を割ってきたのは、レジロックの『ストーンエッジ』。鋭い岩が真っ直ぐこちらへ向かってくる。

 

「ルガルガン、こっちもだ!」

「ガル!」

 

 ルガルガンが両爪を地面に叩きつける。

 

 同じく、『ストーンエッジ』。

 

 真正面からぶつかり合う激しい衝撃に、岩の破片が弾け飛ぶ。

 

 一度は止めたように見えたレジロックの『ストーンエッジ』。だが、徐々に、ルガルガンのそれが押され始めた。

 

 その背後。

 

 ——ズドン!

 

 ルカリオが『はどうだん』で支援。青い弾丸が岩の中心を捉え、ようやくその勢いを止めた。

 

「アハハ! 楽しいわね!!」

 

 リンは狂気すら感じさせる笑みを浮かべながら、しかし洗練された苛烈な攻めを繰り返す。その様子を見て発したライルの言葉に、ルカが突っかかる。

 

「この感じ……出会った時の誰かを思い出すな……!」

「なんか言ったかコラ!」

 

 そう言いながらも、ライルは軽く戦慄を覚えていた。自分とルカを相手取りながら、この振る舞い。これが天狼隊の実力なのか。

 

 一方。

 

 アブソルはタイプ:ヌルの突進を華麗にかわし続けていた。すると、反転ハブネークがゴウカザルの連撃をするりと抜け出し、タイプ:ヌルの元へ。

 

 重く鋭い尾を持ち上げ——

 

 ——ガァァン!!

 

 『ポイズンテール』が、その鎧を被った頭部へ叩きつけられた。

 

「「おい!大丈夫か!?」」

 

 ライルとルカから同時に声が飛んだ。

 

 しかし、タイプ:ヌルは怯まない。ハブネークの尻尾を鎧で受け止め、その隙間から覗いた瞳に、闘志を燃やす。

 

 その時、マタドガスの吐き出したガスが辺りを覆い、周囲の視界を奪った。

 

 毒ガスを警戒し、すぐさま口を覆うライルとルカ。

 

 だが——

 

(これは『スモッグ』じゃない……『えんまく』だ!)

 

 サザンドラの羽ばたきによって煙が晴れかけた、その瞬間——

 

「……うわっ!!」

 

 煙の中、背後から忍び寄ったリンが、ライルの体へ蛇のように絡みついた。首と片腕を絡め取り、関節技で完全に自由を奪う。

 

 至近距離から漂う肌を刺す殺気に、ライルは言いようのない恐怖を覚える。

 

「アハ! 捕まえちゃった♪」

「しまっ——」

 

 言いかけたライルの首をリンが軽く極める。

 

「ぐっ……」

「ふうん。近くで見るとさらにいい男ねぇ。——ねえねえ、君はどんな子がタイプなの?」

「……な、何を?」

 

 ライルは何とか体をよじろうとするものの、極まった関節技から抜け出すことができない。

 

「喋れないよね、まあいいや。私はね? 君みたいな真面目そうで、壊し甲斐がありそうな子が——」

 

「——てめえ離れろコラァ!!!」

 

 ルカの声と共にルガルガンが地面を蹴った。

 

 リンはライルをルガルガンの方に向け、その身体を盾にする。

 

「っ!」

 

 ルガルガンが寸前で爪を止めた。その隙にリンがライルを突き飛ばし、距離を取る。

 

「もう、邪魔しないでよ。お楽しみだったのに」

 

 喉をさするライルにルカが駆け寄り、煙突山とは逆の立場で怒声を浴びせる。

 

「お前!後で絶対説教!!」

「ゴホッゴホッ……! わりぃ……」

 

 そこへ、騒ぎを聞きつけたナギとカイトの二人が駆けつけた。

 

「二人とも、どうしたの!?」

「ケホッ……! 敵襲され、抗戦しています……!」

「敵襲!?!?」

 

 ナギとカイトは怪訝な顔でリンを捉えたあと、すぐにモンスターボールに手をかけた。

 

 それを見たリンは煩わしそうに表情を歪めた。

 

「こんなに居たの? ちょっとマズったわね」

 

 リンは手持ちのアブソルとアマルルガを下げる。そして指輪をかざすと、マタドガスとハブネークが黒い霧に包まれ、背後の裂け目へと吸い込まれていく。

 

 残されたレジロックだけが、一同の前へ進み出た。

 

「レレジジジ……」

 

 不気味な記号音を出す岩の巨兵。

 

「自爆でもちゃんと『戻る』のかしら? ま、いいわ。やってみて」

 

 ——キュゥゥゥゥゥン

 

 エネルギーが集まるような音と共に、レジロックの体を白い光が包む。

 

 体内へ圧縮されていく異常なエネルギー量に、ライルの顔色が変わる。

 

「これ、『だい……ばくはつ』……」

 

 ライルは止める方法を一瞬で模索するものの、今からでは間に合うかどうかわからない。

 

 ライルは判断した。

 

「みんな逃げろ!!!」

 

 彼が張り上げた大声に全員が反応しようとした。

 

 その瞬間。

 

 ライルとルカの真横で光が屈折した。

 

 透明な「何か」が猛烈な勢いで通り抜ける。

 

 ——キィィィィィィィィィン!!

 

 ジェット機のような轟音。

 

 一直線にレジロックへと向かう透明な何かが、徐々に姿を現していく。

 

「あれは……!!」

 

 赤と青、二体の竜。

 

 『ラティオス』と『ラティアス』。

 

 美しい鳴き声が響き、澄んだエネルギーの奔流がレジロックにぶつかる。

 

 ——ドォォォン!!!

 

 不意を突かれたレジロック。

 

 その衝撃は、レジロックの体内で圧縮されていたエネルギーの流れを乱し、『だいばくはつ』の発動そのものを断ち切った。

 

「はあ!? なんでそうなるわけ!?」

 

 リンが声を上げる中、隙を見て態勢を整えるライル達。

 

 その傍らにラティオスたちも寄り添い、リンに向かって明確な戦闘の意思を見せた。

 

(……どういうこと? 手持ちってわけじゃなさそうだけど)

 

 リンは大きなため息をついた。

 

「……ま、いいわ! 今はここまでね。そこの君——」

「……」

 

 リンが指差したのはライルだった。

 

「次はもっと楽しもうね」

 

 そして、妖しく微笑む。

 

「二度とくんな!!」

 

 ルカの声を無視し、リンは空間の裂け目を開くと、レジロックとともに飛び込み、その姿を消した。

 

 膝をつくライル、そして険しい表情のままのルカ。そこへナギとカイトが駆け寄る。

 

「……去っていった。何だったの、今の女性は?」

 

 ライルは少し喉を気にしながら、リンが消えた空間を眺めていた。

 

「あいつ……」

 

 最後のレジロックへの指示。まるで実験でもするかのように『だいばくはつ』を命じた。そして、苛烈に攻め立てながらも、退くべきところでは迷わず退く。

 

 これが、傭兵の戦い。

 

 やはり、反転ポケモン達は絶対に解放しなければならない。

 

 そんな決意を固めたライルのもとへ、ルカが詰め寄ってきた。

 

「許さねえぞ」

「……ああ、おれもだ」

「ちげーよバカ!」

「えっ」

「あの女はいつか蹴り倒す。ポケモンにナメた指示出しやがったからな。でも——」

 

 ルカの怒りは収まらない。

 

「——その前にお前だ!! あんなやつに捕まってんじゃねえよバカが!このバカ!」

「め、面目ねえ……」

 

 そしてルカはライルの頭へガシガシと手刀を入れ始めた。

 

「いててて、チョップやめろって」

 

 その様子を見ていたナギ。

 

「ねえ二人。『仲良し』してるとこ悪いんだけど……」

 

「してません!」「してねーよ!」

 

 息の揃った二人が振り向くと、同じ光景が目に入った。

 

 それは、空から舞い降りた青と赤の竜。そして、少し離れた場所で虚空を見つめるタイプ:ヌル。

 

 二体の竜は空中を漂いながら、ゆっくりと一同のもとへ近づいてくる。

 

 その一方で、タイプ:ヌルは、その場から微動だにしなかった。

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