ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
煙突山でのヒードラン戦を終えたライルとルカ。
しかし休む間もなく襲ってきたのは、天狼隊リンであった。
天狼隊リンの襲撃。
煙突山中腹で、再び戦いの火蓋が切られた。
リンがアブソルに加えて繰り出したのは『アマルルガ』。さらに、リンが右手の甲を上に向けると、その中指に嵌められた何かが輝く。
「あれは……指輪……!?」
リンが付けていたのは赤黒く不気味に輝く『石』が嵌った指輪だった。
すると、すぐ後ろで黒い裂け目が開いた。そしてその空間から数体の反転ポケモンが這い出してくる。
現れたのはマタドガス、ハブネーク。そして、スズナが倒したはずの——レジロック。
「こいつ、また——!」
先日の戦闘同様であった。
天狼隊が、反転ポケモンに加え、一度倒されたはずのレジロックを繰り出した。
(間違いない。テンガン山外縁でも、あの指輪を使っていたんだ!)
しかし動じている暇はない。
ライルはルカリオに加えてゴウカザルを繰り出す。
「相棒。あの首長いの、何タイプだっけ?」
「こおり、いわ」
「遠距離使うよな?」
「多分」
「なら、とりあえず炎だな」
ルカはルガルガンをそのままに、クロバットを一度戻し、サザンドラを繰り出す。
「二、三……四対五。楽しめそうね」
リンの顔が愉悦で歪んだ。
構える両者。
しかし、最も早く戦場を駆け始めたのは、鎧兜を纏ったタイプ:ヌル。
「あ、おい!」
「待て!無闇に突っ込むな!」
タイプ:ヌルは興奮しているのか、ルカとライルの声が耳に入らず、真っ直ぐにリンへと突進する。
「なによ。数えなかったのが頭に来たの? まあいいわ、アブソル!」
リンの声に反応するアブソル。
その頭部の刃が、逆巻く風を纏い始めた。
「ゴウカザル、カバーしてやってくれ!」
「ウキッ!」
ライルの声にゴウカザルが反応。すぐさま駆け出すと、みるみる内にタイプ:ヌルに追随し、瞬く間に敵との距離を詰める。
その間に、アブソルの刃に風が集まる。
「『かまいたち』!」
斬撃は、一直線にタイプ:ヌルへ。
「させるな『かえんほうしゃ』!」
ゴウカザルから炎が放たれた。
風の刃と炎がぶつかる。
その嵐を抜けたタイプ:ヌルが、アブソルに攻撃を仕掛けた。そうはさせまいと、反転マタドガスと反転ハブネークが横から飛び掛かる。
しかし、間一髪。
ゴウカザルが割って入り、炎を纏う『フレアドライブ』で応戦した。
その隣。
「アマルルガ、『れいとうビーム』!」
「サザンドラ、『かえんほうしゃ』!」
炎と氷がぶつかり合い、水蒸気が周囲に広がる。
「注意して見とけよ、お前ら!」
「ガル!」
「ゴアァ!」
その声のすぐ後。
——ズガガガガ!!
煙を割ってきたのは、レジロックの『ストーンエッジ』。鋭い岩が真っ直ぐこちらへ向かってくる。
「ルガルガン、こっちもだ!」
「ガル!」
ルガルガンが両爪を地面に叩きつける。
同じく、『ストーンエッジ』。
真正面からぶつかり合う激しい衝撃に、岩の破片が弾け飛ぶ。
一度は止めたように見えたレジロックの『ストーンエッジ』。だが、徐々に、ルガルガンのそれが押され始めた。
その背後。
——ズドン!
ルカリオが『はどうだん』で支援。青い弾丸が岩の中心を捉え、ようやくその勢いを止めた。
「アハハ! 楽しいわね!!」
リンは狂気すら感じさせる笑みを浮かべながら、しかし洗練された苛烈な攻めを繰り返す。その様子を見て発したライルの言葉に、ルカが突っかかる。
「この感じ……出会った時の誰かを思い出すな……!」
「なんか言ったかコラ!」
そう言いながらも、ライルは軽く戦慄を覚えていた。自分とルカを相手取りながら、この振る舞い。これが天狼隊の実力なのか。
一方。
アブソルはタイプ:ヌルの突進を華麗にかわし続けていた。すると、反転ハブネークがゴウカザルの連撃をするりと抜け出し、タイプ:ヌルの元へ。
重く鋭い尾を持ち上げ——
——ガァァン!!
『ポイズンテール』が、その鎧を被った頭部へ叩きつけられた。
「「おい!大丈夫か!?」」
ライルとルカから同時に声が飛んだ。
しかし、タイプ:ヌルは怯まない。ハブネークの尻尾を鎧で受け止め、その隙間から覗いた瞳に、闘志を燃やす。
その時、マタドガスの吐き出したガスが辺りを覆い、周囲の視界を奪った。
毒ガスを警戒し、すぐさま口を覆うライルとルカ。
だが——
(これは『スモッグ』じゃない……『えんまく』だ!)
サザンドラの羽ばたきによって煙が晴れかけた、その瞬間——
「……うわっ!!」
煙の中、背後から忍び寄ったリンが、ライルの体へ蛇のように絡みついた。首と片腕を絡め取り、関節技で完全に自由を奪う。
至近距離から漂う肌を刺す殺気に、ライルは言いようのない恐怖を覚える。
「アハ! 捕まえちゃった♪」
「しまっ——」
言いかけたライルの首をリンが軽く極める。
「ぐっ……」
「ふうん。近くで見るとさらにいい男ねぇ。——ねえねえ、君はどんな子がタイプなの?」
「……な、何を?」
ライルは何とか体をよじろうとするものの、極まった関節技から抜け出すことができない。
「喋れないよね、まあいいや。私はね? 君みたいな真面目そうで、壊し甲斐がありそうな子が——」
「——てめえ離れろコラァ!!!」
ルカの声と共にルガルガンが地面を蹴った。
リンはライルをルガルガンの方に向け、その身体を盾にする。
「っ!」
ルガルガンが寸前で爪を止めた。その隙にリンがライルを突き飛ばし、距離を取る。
「もう、邪魔しないでよ。お楽しみだったのに」
喉をさするライルにルカが駆け寄り、煙突山とは逆の立場で怒声を浴びせる。
「お前!後で絶対説教!!」
「ゴホッゴホッ……! わりぃ……」
そこへ、騒ぎを聞きつけたナギとカイトの二人が駆けつけた。
「二人とも、どうしたの!?」
「ケホッ……! 敵襲され、抗戦しています……!」
「敵襲!?!?」
ナギとカイトは怪訝な顔でリンを捉えたあと、すぐにモンスターボールに手をかけた。
それを見たリンは煩わしそうに表情を歪めた。
「こんなに居たの? ちょっとマズったわね」
リンは手持ちのアブソルとアマルルガを下げる。そして指輪をかざすと、マタドガスとハブネークが黒い霧に包まれ、背後の裂け目へと吸い込まれていく。
残されたレジロックだけが、一同の前へ進み出た。
「レレジジジ……」
不気味な記号音を出す岩の巨兵。
「自爆でもちゃんと『戻る』のかしら? ま、いいわ。やってみて」
——キュゥゥゥゥゥン
エネルギーが集まるような音と共に、レジロックの体を白い光が包む。
体内へ圧縮されていく異常なエネルギー量に、ライルの顔色が変わる。
「これ、『だい……ばくはつ』……」
ライルは止める方法を一瞬で模索するものの、今からでは間に合うかどうかわからない。
ライルは判断した。
「みんな逃げろ!!!」
彼が張り上げた大声に全員が反応しようとした。
その瞬間。
ライルとルカの真横で光が屈折した。
透明な「何か」が猛烈な勢いで通り抜ける。
——キィィィィィィィィィン!!
ジェット機のような轟音。
一直線にレジロックへと向かう透明な何かが、徐々に姿を現していく。
「あれは……!!」
赤と青、二体の竜。
『ラティオス』と『ラティアス』。
美しい鳴き声が響き、澄んだエネルギーの奔流がレジロックにぶつかる。
——ドォォォン!!!
不意を突かれたレジロック。
その衝撃は、レジロックの体内で圧縮されていたエネルギーの流れを乱し、『だいばくはつ』の発動そのものを断ち切った。
「はあ!? なんでそうなるわけ!?」
リンが声を上げる中、隙を見て態勢を整えるライル達。
その傍らにラティオスたちも寄り添い、リンに向かって明確な戦闘の意思を見せた。
(……どういうこと? 手持ちってわけじゃなさそうだけど)
リンは大きなため息をついた。
「……ま、いいわ! 今はここまでね。そこの君——」
「……」
リンが指差したのはライルだった。
「次はもっと楽しもうね」
そして、妖しく微笑む。
「二度とくんな!!」
ルカの声を無視し、リンは空間の裂け目を開くと、レジロックとともに飛び込み、その姿を消した。
膝をつくライル、そして険しい表情のままのルカ。そこへナギとカイトが駆け寄る。
「……去っていった。何だったの、今の女性は?」
ライルは少し喉を気にしながら、リンが消えた空間を眺めていた。
「あいつ……」
最後のレジロックへの指示。まるで実験でもするかのように『だいばくはつ』を命じた。そして、苛烈に攻め立てながらも、退くべきところでは迷わず退く。
これが、傭兵の戦い。
やはり、反転ポケモン達は絶対に解放しなければならない。
そんな決意を固めたライルのもとへ、ルカが詰め寄ってきた。
「許さねえぞ」
「……ああ、おれもだ」
「ちげーよバカ!」
「えっ」
「あの女はいつか蹴り倒す。ポケモンにナメた指示出しやがったからな。でも——」
ルカの怒りは収まらない。
「——その前にお前だ!! あんなやつに捕まってんじゃねえよバカが!このバカ!」
「め、面目ねえ……」
そしてルカはライルの頭へガシガシと手刀を入れ始めた。
「いててて、チョップやめろって」
その様子を見ていたナギ。
「ねえ二人。『仲良し』してるとこ悪いんだけど……」
「してません!」「してねーよ!」
息の揃った二人が振り向くと、同じ光景が目に入った。
それは、空から舞い降りた青と赤の竜。そして、少し離れた場所で虚空を見つめるタイプ:ヌル。
二体の竜は空中を漂いながら、ゆっくりと一同のもとへ近づいてくる。
その一方で、タイプ:ヌルは、その場から微動だにしなかった。