ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
プラチナムは警察のように公的な機関ではありません。
かと言って秘密警察ほど命令至上主義と言うわけでもない。
任務のほとんどについては、現場に出ている各エージェントに裁量が一任されます。高い実力と人間性を兼ね備えている必要があり、信頼に足る人物でなければなりません。だからこそスカウト、及び推薦でしか所属できないのです。
険しいテンガンの山影に抱かれた静かな街「カンナギタウン」——。
古くからこの街の人々は、山から流れる清らかなエネルギーを、作物の実りや健やかな暮らしの「恩恵」として享受してきた。
しかしその恩恵に「小さな違和感」があると、極秘に、PLATINUMへ白羽の矢が立ったのである。
例のエネルギー体が、何か影響を及ぼしているのか。ライルは支給ジャケットではなく、私服のパーカーに着替えて街へと繰り出す。
普通の旅の少年の佇まい。隣には「少し珍しい」相棒であるルカリオ。端から見れば、秘匿された組織のエージェントには見えない。
デバイスを取り出し小声でルカリオに話すライル。
「今日はあくまで『旅人』だ。波動はおさえとけよ。……まずは、この街を長く見てるような人達から当たるか」
自営ショップの店主や、日向ぼっこをしている老人に、世間話の体で聞き込みを開始する。
「いらっしゃい。珍しいポケモン連れてんな、兄ちゃん。何にする?」
「えーっと……じゃあ「かいふくのくすり」もらえます? とりあえず5コで。——あれ?ここのやつ、なんかパッケージが違いますね」
「ああ、うちのオリジナルなんだ。代々、テンガン山から流れる水で作ってる」
「へぇー、そんなのあったんだ」
ライルは手早く料金を支払い、リュックの中へ回復薬を入れる。
「……じゃあいつも山で汲んでるってことですよね。最近、水の具合とか変わったりしました?」
「変わったこと? ……うーん、ねえなあ。自警団の子らにゃ、薬の効きが良くなった気がする、とは言われるがね」
気立てのいい店主に愛想良く返事をし、そのショップを後にした。
その後も近くの住民に語りかけるライル。世間話を挟みながらそれとなく聞き込みを続け、違和を探し続ける。
「……夜、トイレで起きるじゃろ?鏡の前を通るとな、自分の姿が僅かにずれるんじゃ。わしは若い時から目が良くてなあ。ありゃ絶対に見間違えなんかじゃねえぞ」
友人と待ち合わせをしているという老人は、ベンチに腰を掛けながら話します。
「おっ、噂をすればあいつじゃ。おーい!何しとるこっちじゃ!おーーい!」
しかしその友人とやらは、何事もないかのように通り過ぎていく。
「——いや、あれは別人じゃな」
「…………」
自警団の青年はちょうど、日課である見回りから戻ってきたようだ。
「危険な野生ポケモンが街に来ないよう、いつも見回ってるんだ。まあ、山の奥まではいかないけどね。あくまで人との境界線を守るためだよ」
そう言うと青年は、慣れた手つきで作業着の土埃を払う。
「最近変わったこと? いやあ、あんまり感じないけどなあ。君、旅人?」
自警団の青年の眼差しが、少しだけ鋭いものに変わる。しかしライルとルカリオの「普通」の佇まいに、すぐ元の表情へと戻った。
「いいルカリオだね。——まあ、カンナギにいるならゆっくりしていきなよ」
◇ ◇ ◇
街はずれの小さな宿。薄暗い部屋を、唯一の光源であるデバイスの青白い光が、ベッドへ寝転がるライルの顔を照らしている。
足を使った一日調査。「旅人」の演技と肝心な手掛かりのなさに、精神的な疲労がじわりとのしかかる。
そんな時、ポケットの中で個人の小型デバイスが小さく震えた。そこには、見慣れたアイコンからのメッセージ通知。
『元気? シロナさんの手伝いちゃんと頑張ってるの? さっきアカウント更新したから、ちゃんと"いいね"押しといてよね!』
言われたとおりSNSを開くと、華やかなステージの上でリボンを付けるポッチャマと、満面の笑みを浮かべるヒカリの姿。
かつてシンオウを共に旅した仲間の、そのあまりの年相応さ。ライルの顔に、今日初めての自然な笑みがこぼれる。
「ふっ。あいかわらずだな」
返信を打ち込むライル。
『順調そうだな。こっちも上手くやってるから、心配しなくて大丈夫。仕方なく"いいね"しといてやるよ』
自身が秘匿組織に所属し、危険な任務に就いていることなど、この幼馴染にはもちろん伝えていない。
人知れず闘うことこそ、周りの人々の日常を守ることにつながる。そう自分に言い聞かせるように送信ボタンを押す。
ヒカリからのメッセージで少しだけ「熱」を取り戻したライルは、再び専用端末を手に取る。
「……さて。もう一踏ん張り、やるか」
手元のデバイスを淡々と操作する。
《PLATINUM DATABASE CONNECTED》
《SEARCHING…》