ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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プラチナムは警察のように公的な機関ではありません。
かと言って秘密警察ほど命令至上主義と言うわけでもない。
任務のほとんどについては、現場に出ている各エージェントに裁量が一任されます。高い実力と人間性を兼ね備えている必要があり、信頼に足る人物でなければなりません。だからこそスカウト、及び推薦でしか所属できないのです。




第五話【The Legwork】

 険しいテンガンの山影に抱かれた静かな街「カンナギタウン」——。

 

 古くからこの街の人々は、山から流れる清らかなエネルギーを、作物の実りや健やかな暮らしの「恩恵」として享受してきた。

 しかしその恩恵に「小さな違和感」があると、極秘に、PLATINUMへ白羽の矢が立ったのである。

 例のエネルギー体が、何か影響を及ぼしているのか。ライルは支給ジャケットではなく、私服のパーカーに着替えて街へと繰り出す。

 普通の旅の少年の佇まい。隣には「少し珍しい」相棒であるルカリオ。端から見れば、秘匿された組織のエージェントには見えない。

 デバイスを取り出し小声でルカリオに話すライル。

「今日はあくまで『旅人』だ。波動はおさえとけよ。……まずは、この街を長く見てるような人達から当たるか」

 自営ショップの店主や、日向ぼっこをしている老人に、世間話の体で聞き込みを開始する。

「いらっしゃい。珍しいポケモン連れてんな、兄ちゃん。何にする?」

「えーっと……じゃあ「かいふくのくすり」もらえます? とりあえず5コで。——あれ?ここのやつ、なんかパッケージが違いますね」

「ああ、うちのオリジナルなんだ。代々、テンガン山から流れる水で作ってる」

「へぇー、そんなのあったんだ」

 ライルは手早く料金を支払い、リュックの中へ回復薬を入れる。

「……じゃあいつも山で汲んでるってことですよね。最近、水の具合とか変わったりしました?」

「変わったこと? ……うーん、ねえなあ。自警団の子らにゃ、薬の効きが良くなった気がする、とは言われるがね」

 気立てのいい店主に愛想良く返事をし、そのショップを後にした。

 その後も近くの住民に語りかけるライル。世間話を挟みながらそれとなく聞き込みを続け、違和を探し続ける。

「……夜、トイレで起きるじゃろ?鏡の前を通るとな、自分の姿が僅かにずれるんじゃ。わしは若い時から目が良くてなあ。ありゃ絶対に見間違えなんかじゃねえぞ」

 友人と待ち合わせをしているという老人は、ベンチに腰を掛けながら話します。

「おっ、噂をすればあいつじゃ。おーい!何しとるこっちじゃ!おーーい!」

 しかしその友人とやらは、何事もないかのように通り過ぎていく。

「——いや、あれは別人じゃな」

「…………」

 自警団の青年はちょうど、日課である見回りから戻ってきたようだ。

「危険な野生ポケモンが街に来ないよう、いつも見回ってるんだ。まあ、山の奥まではいかないけどね。あくまで人との境界線を守るためだよ」

 そう言うと青年は、慣れた手つきで作業着の土埃を払う。

「最近変わったこと? いやあ、あんまり感じないけどなあ。君、旅人?」

 自警団の青年の眼差しが、少しだけ鋭いものに変わる。しかしライルとルカリオの「普通」の佇まいに、すぐ元の表情へと戻った。

「いいルカリオだね。——まあ、カンナギにいるならゆっくりしていきなよ」

        ◇ ◇ ◇

 街はずれの小さな宿。薄暗い部屋を、唯一の光源であるデバイスの青白い光が、ベッドへ寝転がるライルの顔を照らしている。

 

 足を使った一日調査。「旅人」の演技と肝心な手掛かりのなさに、精神的な疲労がじわりとのしかかる。

 

 そんな時、ポケットの中で個人の小型デバイスが小さく震えた。そこには、見慣れたアイコンからのメッセージ通知。

『元気? シロナさんの手伝いちゃんと頑張ってるの? さっきアカウント更新したから、ちゃんと"いいね"押しといてよね!』

 

 言われたとおりSNSを開くと、華やかなステージの上でリボンを付けるポッチャマと、満面の笑みを浮かべるヒカリの姿。

 

 かつてシンオウを共に旅した仲間の、そのあまりの年相応さ。ライルの顔に、今日初めての自然な笑みがこぼれる。

 

「ふっ。あいかわらずだな」

 

 返信を打ち込むライル。

 

『順調そうだな。こっちも上手くやってるから、心配しなくて大丈夫。仕方なく"いいね"しといてやるよ』

 自身が秘匿組織に所属し、危険な任務に就いていることなど、この幼馴染にはもちろん伝えていない。

 

 人知れず闘うことこそ、周りの人々の日常を守ることにつながる。そう自分に言い聞かせるように送信ボタンを押す。

 ヒカリからのメッセージで少しだけ「熱」を取り戻したライルは、再び専用端末を手に取る。

「……さて。もう一踏ん張り、やるか」

 手元のデバイスを淡々と操作する。

《PLATINUM DATABASE CONNECTED》

《SEARCHING…》

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