ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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第五十三話【勇猛】

 

 ミナモシティの海岸線。その砂浜。

 

 ライルとカラスの戦闘は、さらに激しさを増していく。

 

「お前ら! 全身全霊で叩き潰せ!」

 

 カラスの号令と同時に、オンバーンとプテラが動く。

 

 二体は一気に上昇する。

 

「迎え撃て!」

 

 ライルの指示により、サザンドラとウォーグルがそれを追う。上空で四つの影が交差し、激しくぶつかり合う。

 

 オンバーンはサザンドラよりも小回りが利く。死角へ回り込み、幾度も襲いかかる。サザンドラは三つの頭から攻撃を放ち、広い範囲を制圧。オンバーンを簡単には近づけさせない。

 

 その隣ではウォーグルとプテラが爪と翼をぶつけ合い、真正面から激突していた。

 

 そして地上でも戦いが始まる。

 

 リザードンが地面すれすれを飛行し、その勢いのまま『エアスラッシュ』を放つ。

 

「ゴウカザル!」

 

 ゴウカザルが砂を蹴る。

 

 斬撃が届く寸前で大きく跳び、そのままリザードンへ肉薄した。拳と爪の交錯。リザードンが尾を振るい、ゴウカザルが蹴りを返す。

 

 カラスはその様子を満足そうに眺めていた。

 

「カカッ!楽しいねえ!」

 

 そしてその視線は、傍らのカイリューへ。

 

「お前も暴れるか!? カイリュー!」

「バオォオ!」

 

 カイリューは前へと躍り出た。

 

 それに相対するのは——

 

「いけるか? ガブリアス」

「ガアァッ!」

 

 ガブリアスも悠然と一歩を踏み出す。

 

 二体のエースは、まっすぐ互いを見据えた。

 

 一歩ずつ、進む。

 

 そしてカイリューは低く飛び、ガブリアスは駆けだした。

 

 両者は止まらず、さらにそのスピードを上げていく。

 

 ——ドンッッ!!

 

 体がぶつかる鈍い音が鳴り響いた。カイリューの重い一撃をガブリアスが受け止め、すぐさま鋭い爪を振り返す。砂浜が踏み砕かれ、衝撃の度に濡れた砂利が舞う。

 

 力と力。互いに退かない。

 

 まるで、『どちらが上かを決めてやる』とでも言うような戦い。

 

 そして、ライルの体の傍にはミロカロスがいた。長い身体を這わせるように配置されている。ライルの視線は、この砂浜の戦場——特にカラス本人を離さぬよう捉えていた。カラスは、その視線を真っ直ぐに受け止めていた。

 

(直近でよほど痛い目にあったのか、敵に近づかれることを露骨に警戒してるな。まあ『誰に』やられたのかは想像つくがな)

 

 カラスは高らかに言い放つ。

 

「オレの接近が怖いか? 安心しろ!直接手は出さねえよ。そんなことしちまったら、一瞬でお楽しみが終わっちまうからな!」

 

(ウソじゃねえよ。警戒されてる中にわざわざ飛び込むほどアホじゃねえ。それに戦闘中、あれだけ気配を消せるのはウチでも『あいつ』くらいのモンだ)

 

 そんなカラスの心境とは裏腹に、ライルは何も答えない。ミロカロスも動じず、当然、主人の守りは崩さない。

 

 その様子を見て、カラスが僅かに目を細めた。

 

「くく……まあそうだろうな。憎たらしい野郎だぜ」

 

 ライルはその言葉にも反応しない。

 

 カラスの視線、言動。

 

 そしてポケモン達の位置。

 

 戦場から目を逸らさず、次の一手を考え続けていた。

 

(完全に勝てなくてもいい……何とか数体戦闘不能にできれば……!)

 

        ◇ ◇ ◇

 

 一方、海上の状況は悪化していた。

 

 レジアイスが放つ冷気によって、海面の凍結範囲はさらに広がっている。

 

 ナギは氷上に降り立ち、その進度を少しでも遅らせようとしていた。チルタリスが『かえんほうしゃ』を放つ。しかし、海面の氷は溶けてもすぐに凍り始める。エアームドはレジアイス本体へ攻撃を試みる。だがその腕から放たれる冷撃により、容易には近づけない。

 

 その様子を見て、ルカが歯を食いしばる。

 

「なんとかしねーと……!」

 

 すると、ルカリオが波導を伝えた。

 

(ルカ! オレを降ろすんだ!)

「あ、ああ……分かった」

 

 ルカがラティアスを氷上に近づけると、ルカリオは飛び降りた。

 

 その時、ルカの腰のボールが激しく揺れた。手に取ると、それはルガルガンのボールだった。彼は、半ば強引にボールから飛び出した。

 

 そしてルカリオと並び立つ。

 

「ガル!」

「ルガルガン……」

 

(オレたちもアイツを止める! 少し離れていろ!)

 

 そう言うと二匹は、真っ直ぐにアクジキング、そしてレジアイスへと向かって行った。

 

 ラティアスは再び、距離を取る。

 

 ルカは僅かに俯いた。

 

「クソッ! 何してんだ、あたしは……!」

 

 動けない自分が、情けない。

 

 だがやはり、体は鉛のように重い。まるで、自分のものではないかのようだった。このまま戦場に降り立っても、ただ足手纏いになるだけだろう。

 

 それなら、せめて。

 

 ルカは顔を上げた。

 

(……見ろ。見ろ。見ろ!)

 

 何かを見つけろ! そして、考えろ。

 

 直感だけに頼るな。

 

 それは、シロナの教えだった。

 

 だがその間にも、アクジキングは進む。レジアイスが作り上げた氷の道。それを巨大な足で踏みしめ、一歩ずつカイオーガへ近づいていく。

 

 そしてついに、その距離がほとんどなくなった。

 

 巨大な腕が伸びる。

 

 カイオーガは先を読んだかのように、身体を翻して避けた。

 

 そして至近距離から『ハイドロポンプ』を叩き込む。

 

 アクジキングの巨体が後方へ押し戻された。

 

 だが、倒れない。

 

 踏み止まり、すぐにまた前へ出る。

 

 カイオーガも再び水流を放ち、押し戻す。

 

 それでもアクジキングは止まらない。

 

 近づく。押し戻す。

 

 戦いは徐々に、互いの限界を待つ耐久戦へ変わり始めていた。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 再び、砂浜の戦場。

 

 膠着していた戦況を最初に動かしたのは、一体の勇猛な鳥ポケモン。そして、その覚悟だった。

 

 プテラと幾度となく激突した後、ウォーグルは大きく距離を取り、そのままライルの元へ戻ってきた。

 

「……ウォーグル?」

 

 荒い呼吸と傷だらけの翼。

 

 それでも、その目から闘志は消えていない。

 

 ウォーグルが短く鳴き、数秒、ライルの目を見つめた。ライルもまた、その意図を理解した。

 

 ——長くは保たない。だから、闘えるうちに。

 

「……わかった、ウォーグル。頼む」

 

 それだけだった。

 

 ウォーグルは頷き、翼を大きく羽ばたかせ、一気に上昇した。

 

 カラスが空を見上げる。

 

「……あ?」

 

 ウォーグルは止まらない。

 

 さらに上へ、さらに高く、雨雲にも届きそうなほどに。

 

 カラスが目を細める。

 

「追うなよプテラ!様子をみろ!」

 

 その指示に従い、プテラは高度を下げる。

 

 ウォーグルの体は、小さな点に見えるほど、遥か上空まで昇った。しかし、今度は一転、急激に大きくなり始めた。

 

 急降下を始めたのだ。

 

 その速度はさらに上がり、全身を衝撃の波が包む。プテラとの距離が、猛烈に縮まっていく。

 

 カラスは怪訝そうにその姿を睨んだ。

 

「真正面からぶつかろうってのか!? そんなもん、当たるわけが——」

 

 その時、ライルが叫んだ。

 

「ゴウカザル!頼む!!」

 

 リザードンと激しく殴り合っていたゴウカザルだが、ライルの声に即応した。大きく後方へ跳び、『ほのおのうず』でリザードンを閉じ込めた。

 

 そして、低空でウォーグルの動きを窺っていたプテラへ向かって、全力で走り出す。

 

「何!?」

 

 ゴウカザルは砂浜を蹴り、高く跳んだ。

 

 そのままプテラの背後へ飛びつき、その身体へ両腕と両脚を回した。プテラがいくら暴れても、ゴウカザルは離さない。

 

「クソッ!追え、リザードン!」

 

 雨の中でリザードン相手に炎技のダメージなど、ほとんどない。渦はいとも簡単に振り払われる。

 

 だが、その数秒で十分だった。

 

 ウォーグルが一直線に落ちる。

 

「いけ!!!」

 

 直撃する寸前。プテラの身体を蹴り、ゴウカザルだけがその場から飛び退いた。

 

 次の瞬間。

 

 ウォーグルの『ブレイブバード』が、プテラへ真正面から突き刺さる。

 

 ——ドゴォォォォォン!!!

 

 衝撃波が砂浜の空気を激しく揺らした。プテラの体は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。そして、何度もぬかるみの上を転がり、やがて止まった。

 

「…………」

 

 まともに衝撃を食らったプテラは動かなくなり、完全に戦闘不能となっていた。

 

 その少し離れた場所に、ウォーグルも降り立つ。しかし反動によるダメージは大きい。かろうじて立ってはいるが、翼は下がり、もう飛ぶことはできなかった。

 

 それでも、最後まで倒れぬままライルを見る。

 

「ウォーグル……!」

 

 ライルは駆け寄った。傷ついた身体へ手を添えると、ウォーグルが一度だけ、小さく鳴く。

 

 ライルは静かに、ボールへ戻した。

 

 カラスは倒れたプテラを見下ろしていた。先ほどまでの笑みが、僅かに引きつっている。

 

「……涼しい顔して、えげつねえことやらせやがるな。そりゃ兵隊の『最終手段』だぜ」

 

 その言葉にライルは答えない。

 

 だが、ボールを掴んだ指は、震えていた。

 

 プテラは倒した。ウォーグルはもう闘えない。

 

 有利になったわけではない。だが間違いなく一つ削った。

 

 ライルは息を整えながら、残ったカラスの手持ち——オンバーン、リザードン、カイリューを真っ直ぐ見据えた。

 

「——あと、三体」

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