ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
ミナモシティの海岸線。その砂浜。
ライルとカラスの戦闘は、さらに激しさを増していく。
「お前ら! 全身全霊で叩き潰せ!」
カラスの号令と同時に、オンバーンとプテラが動く。
二体は一気に上昇する。
「迎え撃て!」
ライルの指示により、サザンドラとウォーグルがそれを追う。上空で四つの影が交差し、激しくぶつかり合う。
オンバーンはサザンドラよりも小回りが利く。死角へ回り込み、幾度も襲いかかる。サザンドラは三つの頭から攻撃を放ち、広い範囲を制圧。オンバーンを簡単には近づけさせない。
その隣ではウォーグルとプテラが爪と翼をぶつけ合い、真正面から激突していた。
そして地上でも戦いが始まる。
リザードンが地面すれすれを飛行し、その勢いのまま『エアスラッシュ』を放つ。
「ゴウカザル!」
ゴウカザルが砂を蹴る。
斬撃が届く寸前で大きく跳び、そのままリザードンへ肉薄した。拳と爪の交錯。リザードンが尾を振るい、ゴウカザルが蹴りを返す。
カラスはその様子を満足そうに眺めていた。
「カカッ!楽しいねえ!」
そしてその視線は、傍らのカイリューへ。
「お前も暴れるか!? カイリュー!」
「バオォオ!」
カイリューは前へと躍り出た。
それに相対するのは——
「いけるか? ガブリアス」
「ガアァッ!」
ガブリアスも悠然と一歩を踏み出す。
二体のエースは、まっすぐ互いを見据えた。
一歩ずつ、進む。
そしてカイリューは低く飛び、ガブリアスは駆けだした。
両者は止まらず、さらにそのスピードを上げていく。
——ドンッッ!!
体がぶつかる鈍い音が鳴り響いた。カイリューの重い一撃をガブリアスが受け止め、すぐさま鋭い爪を振り返す。砂浜が踏み砕かれ、衝撃の度に濡れた砂利が舞う。
力と力。互いに退かない。
まるで、『どちらが上かを決めてやる』とでも言うような戦い。
そして、ライルの体の傍にはミロカロスがいた。長い身体を這わせるように配置されている。ライルの視線は、この砂浜の戦場——特にカラス本人を離さぬよう捉えていた。カラスは、その視線を真っ直ぐに受け止めていた。
(直近でよほど痛い目にあったのか、敵に近づかれることを露骨に警戒してるな。まあ『誰に』やられたのかは想像つくがな)
カラスは高らかに言い放つ。
「オレの接近が怖いか? 安心しろ!直接手は出さねえよ。そんなことしちまったら、一瞬でお楽しみが終わっちまうからな!」
(ウソじゃねえよ。警戒されてる中にわざわざ飛び込むほどアホじゃねえ。それに戦闘中、あれだけ気配を消せるのはウチでも『あいつ』くらいのモンだ)
そんなカラスの心境とは裏腹に、ライルは何も答えない。ミロカロスも動じず、当然、主人の守りは崩さない。
その様子を見て、カラスが僅かに目を細めた。
「くく……まあそうだろうな。憎たらしい野郎だぜ」
ライルはその言葉にも反応しない。
カラスの視線、言動。
そしてポケモン達の位置。
戦場から目を逸らさず、次の一手を考え続けていた。
(完全に勝てなくてもいい……何とか数体戦闘不能にできれば……!)
◇ ◇ ◇
一方、海上の状況は悪化していた。
レジアイスが放つ冷気によって、海面の凍結範囲はさらに広がっている。
ナギは氷上に降り立ち、その進度を少しでも遅らせようとしていた。チルタリスが『かえんほうしゃ』を放つ。しかし、海面の氷は溶けてもすぐに凍り始める。エアームドはレジアイス本体へ攻撃を試みる。だがその腕から放たれる冷撃により、容易には近づけない。
その様子を見て、ルカが歯を食いしばる。
「なんとかしねーと……!」
すると、ルカリオが波導を伝えた。
(ルカ! オレを降ろすんだ!)
「あ、ああ……分かった」
ルカがラティアスを氷上に近づけると、ルカリオは飛び降りた。
その時、ルカの腰のボールが激しく揺れた。手に取ると、それはルガルガンのボールだった。彼は、半ば強引にボールから飛び出した。
そしてルカリオと並び立つ。
「ガル!」
「ルガルガン……」
(オレたちもアイツを止める! 少し離れていろ!)
そう言うと二匹は、真っ直ぐにアクジキング、そしてレジアイスへと向かって行った。
ラティアスは再び、距離を取る。
ルカは僅かに俯いた。
「クソッ! 何してんだ、あたしは……!」
動けない自分が、情けない。
だがやはり、体は鉛のように重い。まるで、自分のものではないかのようだった。このまま戦場に降り立っても、ただ足手纏いになるだけだろう。
それなら、せめて。
ルカは顔を上げた。
(……見ろ。見ろ。見ろ!)
何かを見つけろ! そして、考えろ。
直感だけに頼るな。
それは、シロナの教えだった。
だがその間にも、アクジキングは進む。レジアイスが作り上げた氷の道。それを巨大な足で踏みしめ、一歩ずつカイオーガへ近づいていく。
そしてついに、その距離がほとんどなくなった。
巨大な腕が伸びる。
カイオーガは先を読んだかのように、身体を翻して避けた。
そして至近距離から『ハイドロポンプ』を叩き込む。
アクジキングの巨体が後方へ押し戻された。
だが、倒れない。
踏み止まり、すぐにまた前へ出る。
カイオーガも再び水流を放ち、押し戻す。
それでもアクジキングは止まらない。
近づく。押し戻す。
戦いは徐々に、互いの限界を待つ耐久戦へ変わり始めていた。
◇ ◇ ◇
再び、砂浜の戦場。
膠着していた戦況を最初に動かしたのは、一体の勇猛な鳥ポケモン。そして、その覚悟だった。
プテラと幾度となく激突した後、ウォーグルは大きく距離を取り、そのままライルの元へ戻ってきた。
「……ウォーグル?」
荒い呼吸と傷だらけの翼。
それでも、その目から闘志は消えていない。
ウォーグルが短く鳴き、数秒、ライルの目を見つめた。ライルもまた、その意図を理解した。
——長くは保たない。だから、闘えるうちに。
「……わかった、ウォーグル。頼む」
それだけだった。
ウォーグルは頷き、翼を大きく羽ばたかせ、一気に上昇した。
カラスが空を見上げる。
「……あ?」
ウォーグルは止まらない。
さらに上へ、さらに高く、雨雲にも届きそうなほどに。
カラスが目を細める。
「追うなよプテラ!様子をみろ!」
その指示に従い、プテラは高度を下げる。
ウォーグルの体は、小さな点に見えるほど、遥か上空まで昇った。しかし、今度は一転、急激に大きくなり始めた。
急降下を始めたのだ。
その速度はさらに上がり、全身を衝撃の波が包む。プテラとの距離が、猛烈に縮まっていく。
カラスは怪訝そうにその姿を睨んだ。
「真正面からぶつかろうってのか!? そんなもん、当たるわけが——」
その時、ライルが叫んだ。
「ゴウカザル!頼む!!」
リザードンと激しく殴り合っていたゴウカザルだが、ライルの声に即応した。大きく後方へ跳び、『ほのおのうず』でリザードンを閉じ込めた。
そして、低空でウォーグルの動きを窺っていたプテラへ向かって、全力で走り出す。
「何!?」
ゴウカザルは砂浜を蹴り、高く跳んだ。
そのままプテラの背後へ飛びつき、その身体へ両腕と両脚を回した。プテラがいくら暴れても、ゴウカザルは離さない。
「クソッ!追え、リザードン!」
雨の中でリザードン相手に炎技のダメージなど、ほとんどない。渦はいとも簡単に振り払われる。
だが、その数秒で十分だった。
ウォーグルが一直線に落ちる。
「いけ!!!」
直撃する寸前。プテラの身体を蹴り、ゴウカザルだけがその場から飛び退いた。
次の瞬間。
ウォーグルの『ブレイブバード』が、プテラへ真正面から突き刺さる。
——ドゴォォォォォン!!!
衝撃波が砂浜の空気を激しく揺らした。プテラの体は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。そして、何度もぬかるみの上を転がり、やがて止まった。
「…………」
まともに衝撃を食らったプテラは動かなくなり、完全に戦闘不能となっていた。
その少し離れた場所に、ウォーグルも降り立つ。しかし反動によるダメージは大きい。かろうじて立ってはいるが、翼は下がり、もう飛ぶことはできなかった。
それでも、最後まで倒れぬままライルを見る。
「ウォーグル……!」
ライルは駆け寄った。傷ついた身体へ手を添えると、ウォーグルが一度だけ、小さく鳴く。
ライルは静かに、ボールへ戻した。
カラスは倒れたプテラを見下ろしていた。先ほどまでの笑みが、僅かに引きつっている。
「……涼しい顔して、えげつねえことやらせやがるな。そりゃ兵隊の『最終手段』だぜ」
その言葉にライルは答えない。
だが、ボールを掴んだ指は、震えていた。
プテラは倒した。ウォーグルはもう闘えない。
有利になったわけではない。だが間違いなく一つ削った。
ライルは息を整えながら、残ったカラスの手持ち——オンバーン、リザードン、カイリューを真っ直ぐ見据えた。
「——あと、三体」