ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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第五十四話【戦場のワザ】

 

 ウォーグルの勇姿により戦況が変わり始めたライルとカラスの闘いは、より一層、乱戦にもつれ込む。

 

 ガブリアスとカイリューのエース対決はそのままに。別れていた地上戦と空中戦は、ゴウカザルとサザンドラ 対 リザードンとオンバーンの戦いへ。

 

 縦横無尽に飛び回るオンバーンに、ゴウカザルは遠近の攻撃を巧みに切り替えて応戦する。サザンドラとリザードンの『りゅうのはどう』がぶつかり合い、爆煙が立ち上がる。

 

「カカッ!やるなあ!」

 

 カラスの様子に、ライルは驚きを隠せなかった。

 

(あいつ、プテラを倒された動揺がもう消えている……!)

 

 カラスは巧みに指示を行い、オンバーンとリザードンによる多彩な攻防を繰り返す。

 

 強襲、離脱、撹乱。

 

 ゴウカザル達も何とか食らいつくが、連携においては、明らかに敵に一日の長があった。

 対するゴウカザルとサザンドラは即席コンビ。ましてやサザンドラは本来、ルカが誇るエース。ライルの簡単な指示には従うものの、手持ちと同じレベルで意図を伝えられるわけではない。

 

 その様子を見て、カラスの口元が吊り上がる。

 

 ゴウカザルとサザンドラは、リザードンとオンバーンの誘導により、互いの距離をほとんど無くしていた。

 

「今だ!やれ!」

 

 カラスの声にまず反応したのはリザードン。『りゅうのはどう』でサザンドラとゴウカザルの間を狙う。

 

「かわすんだ!」

 

 ライルの指示に、二体は左右へ散る。しかし、着地したゴウカザルを、オンバーンの『ばくおんぱ』が襲った。

 

「ウギャッ!!」

「しまった……!ゴウカザル!」

 

 体を硬直させるゴウカザルへ、リザードンが急襲する。体を掴み、飛び立つ。

 

 そして円を描くように回り始める——『ちきゅうなげ』。

 

 遠心力を溜め、その勢いのまま地面へと叩きつけた。

 

 ——ドガァァアン!

 

 衝撃に身動きの取れないゴウカザル。

 

 リザードンはそこへダメ押しの『エアスラッシュ』を叩き込んだ。連撃を食らったゴウカザルは動けず、戦闘不能となった。

 

「ゴウカザル……!!」

 

 ライルはすぐさまゴウカザルをボールへ戻す。

 

 二体を中央へ寄せ、同時に回避させる。それすらもカラスの狙いだった。

 

 戦場が傾きかける。

 

 しかし。

 

 それを強引に戻したのは——サザンドラ。

 

 一瞬の隙をつき、オンバーンに飛び掛かった。

 

 ——ガシッ!ガシッ!

 

 左右の口でオンバーンの両翼の付け根を捉え、そして中央の最も巨大な口に、蒼いエネルギーを溜め始めた。

 

 暴れるオンバーンの爪や尻尾の抵抗が、サザンドラを傷つける。

 

 だが、意に介さない。

 

 そして、再三攻撃をかわされ続けていたオンバーンに、今度こそ『りゅうのはどう』を炸裂させた。

 

 ——ゴォォォオオオオ!!!

 

 放出が終わり、辺りに焦げた匂いが漂う。

 

「カ……カ……」

 

 ゼロ距離で攻撃を浴びたオンバーンは、すでに戦闘不能となっていた。サザンドラは、オンバーンをカラスの方へと無体に放り投げる。

 

 そして獰猛に喉を鳴らした。

 

 カラスはそれを睨み返す。

 

「……随分と荒っぽいなァ。ここまで楽しい戦闘は、しばらく記憶にねえぜ」

 

 その時、戦況に一瞬の間が生まれた。

 

 ライルはカラスとの一騎打ちを始めてから初めて、海上を確認する。

 

 しかし状況は未だ好転していない。

 

 眉を顰め、サザンドラへ駆け寄った。

 

「サザンドラ、よくやってくれた。ルカのところへ行ってくれるか?」

 

 サザンドラが見つめ返す。

 

 そして低く喉を鳴らすと、身を翻し、海上にいるルカのもとへ飛び去っていった。

 

「おいおい、良いのか? 戦力を行かせちまってよ」

 

「……まだ、こっちにはこいつがいる」

 

 その声に、静かに、しかし力強く鎌首をもたげたのは、美しき水龍・ミロカロス。

 

「頼む」

 

 ミロカロスは短く鳴くと、主人の守りを解き、その長い体をくねらせて戦場へと躍り出た。

 

 そしてライルは、左手首のバングルを触った。

 

(まだ完成してないのは分かってる。……それでも、届いてくれ)

 

 すると、バングルに嵌められたキーストーンがほんの薄く輝いた。

 

(チャンスは、一回だ)

 

 その時、離れていたラティオスの瞼が、微かに動いた。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 その少し前。

 

 カイオーガの度重なる攻撃にもかかわらず、アクジキングの前進は止まらなかった。

 

 カイトが驚嘆の声を漏らす。

 

「おかしいぞ……この耐久力は一体なんなんだ!?」

 

 一方、氷上には、ナギとエアームド、チルタリスが居た。そこにルカリオとルガルガンも加わり、レジアイスの足止めを図る。

 

 ルカはラティアスの背に乗ったまま、戦場を『見る』ことで突破口を探っていた。

 

 そんな中、一筋の光明が目に映る。

 

 ルガルガンが一気に距離を詰め、レジアイスの右側へと回り込む。

 

「レ……ジジジ……」

 

 レジアイスが反応し、ルガルガンへ『れいとうビーム』を放つ。

 

 その時、ルカリオがレジアイスの足元へ駆け込んだ。そして踏み込みと同時に、掌底を下から突き上げる。

 

 ——『はっけい』。

 

 強烈な衝撃によって、レジアイスの腕が跳ね上がった。放出中だった『れいとうビーム』の軌道が大きく逸れる。

 

 その先にいたのは——アクジキング。

 

 ——ズドォォン!!

 

 氷撃が、その側頭部へまともに突き刺さった。

 

「ギィッ……!」

 

 これまで進み続けていた巨体が、初めて明確に動きを止めた。

 

 アクジキングの顔が、苦痛に歪む。

 

「今のは……! まさか、『こおり』が効くのか!?」

 

 ルカが目を見開く。

 

「ラティアス、降ろしてくれ……!」

 

 ルカは氷上に立ち、そしてハイパーボールを取り出す。

 

「……出てこい!」

 

 光と共に現れたのは、折れた刀剣を牙に持つ、凍てつく災厄——パオジアン。

 

 パオジアンは甲高い鳴き声を上げ、アクジキングを睨みつけた。

 

「パオジアン、つらら——」

 

 ルカがそう言いかけた時。

 アクジキングが悪魔のような形相で彼女を睨んだ。

 

「……!」

 

 その瞬間。

 

 ルカの脳内に、故郷を襲った悪夢がよみがえる。大嵐、いくつもの影、そして失われた家族。身体は強張り、思うように呼吸ができない。

 

 ルカは再び、止まってしまった。

 

 その時、ルカのバングルが薄く輝きだした。

 パオジアンが、こちらを見ている。

 

「これは……?」

 

 そこから流れてきたのは、言葉のイメージとでも呼ぶべきもの。だがそこから感じ取ることができたのは、決して慰めや、優しい言葉ではなかった。

 

 

 ——そんなものか? お前は

 

 

「——ッ!!」

 

 パオジアンは呆れたように身を翻し、アクジキングに向かって駆けだした。そして空気中の水分を集め、巨大な氷塊を作り上げていく。

 

 周囲の気温がまた一段と下がる。

 

 ルカは拳を握り締めた。

 

「クソッ……!分かってるよ、やりゃいいんだろ……!」

 

 バングルに強く意思を込める。

 だが光が満たされるのは半分程度だった。

 

 それでも。

 

(関係ねえよ、そんなのっ!)

 

 そして、海上にいるカイオーガへ向かって吠える。

 

「おい!神だかなんだか知らねえが、てめえも何か『こおり』の技をぶち込みやがれ!」

 

 その叫びを理解したのかは分からない。しかしそれに応えるように、カイオーガの口元へ極低温のエネルギーが収束する。

 

 放たれたのは『れいとうビーム』。

 そして上からは、パオジアンの『つららおとし』。

 

 二方向から挟み撃ちにされたアクジキングの巨体が、瞬く間に白く染まっていく。足が凍り、胴体が凍り、巨大な腕までもが氷に包まれていく。

 

「やった……! ルカちゃん、すごい!」

 

 勝利の予感に、ナギの声が弾む。

 

 しかし——。

 

 アクジキングから、夥しいほどの黒い煙があふれ始め、その巨体を包み込んだ。

 

 次の瞬間。

 

 バキィィィィィィイン!!!

 

 巨体を覆っていた氷が、無理やりに叩き割られた。粉々になった氷を撒き散らしながら、アクジキングが飛び出す。

 

「なんなんだよこいつ!どんな体力してんだ!?」

 

 そして巨大な両腕が、ついにカイオーガの巨体を捉えてしまった。

 

「ギャオオオオォッ!!!」

 

 海の王が苦痛の声を上げる。

 

 その直後。

 

 アクジキングの腕を通し、カイオーガの身体からエネルギーが吸い取られ始めた。

 

 ——ドクッ——ドクッ

 

 カイオーガは全力で拘束を振りほどこうとするが、力を奪われるほど、その抵抗は少しずつ弱まっていった。さらに追い打ちをかけるように、レジアイスが両腕を広げた。

 

 凄まじい冷気が収束する。

 

 次の瞬間、ルカたち全員を飲み込むほどの『ふぶき』が吹き荒れた。

 

 視界が白一色に染まる。

 

 エアームド、チルタリス、そしてルカリオとルガルガンは直撃を食らう。

 

「きゃあああっ!!」

 

 ナギもそれに巻き込まれ、海へと投げ出されてしまった。

 

 ラティアスは、咄嗟にその身を盾にし、ルカを守った。だが、凄まじい衝撃までは殺しきれない。ルカも吹き飛ばされ、体を打ちつけながら氷上を転がり、海面ギリギリで止まった。

 

「ぐっ……うう」

 

 全身に激しい痛みが走る。

 

 海へ落ちたナギへは、カイトとトドゼルガがすぐさま救助へ向かった。

 

 ルカは倒れたまま、動くことができなかった。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 サザンドラが飛び立ったすぐ後。

 

 ガブリアスとカイリューは互いの鱗を削り合うほど激しく交差し、一歩も退かない意地のぶつかり合いを続けている。

 

 空からはリザードンが苛烈な火炎で攻め立てるが、ミロカロスの放つ水流が、そのすべてを冷徹に叩き落とす。

 

 その均衡が崩れたのは、海上でアクジキングの両腕がカイオーガを捕らえた、その瞬間だった。

 

「おお! ついにやったか、アクジキングちゃんよぉ!」

 

「そんな……!!」

 

 ライルの顔が驚愕に染まり、動きが止まる。カイオーガが力を奪われていく光景を見つめ、まるで戦意を喪失したかのように、その場へ立ち尽くした。

 

 これを機と見たカラスが、勝負を決めにかかる。

 

「絶望してる場合か!? やれ!カイリュー!!」

 

 その号令と同時に、カイリューが一気にガブリアスの懐へ入る。力任せにその巨体を持ち上げ、投げ飛ばす。

 

「ガアァッ!」

 

 ガブリアスが激しく地面へ叩きつけられ、ぬかるみの中で動かなくなった。さらにリザードンがミロカロスの守備網を強引に突破する。

 

 狙いはただ一人、無防備に立ち尽くすライルだった。

 

 猛スピードで滑空するリザードン。

 カラスは勝利を確信したように口角を吊り上げた。

 

 その刹那。

 

 ライルの瞳に、闘志が戻った。

 そして、バングルに強く思いを込める。

 

「ラティオス!!(頼む、応えてくれ……!)」

 

 その時、砂浜に伏していたはずのラティオスが、動いた。

 

 ——ゴウゥッ!!!

 

 ジェットのような加速。

 その身体は、瞬く間に蒼い弾丸と化した。

 

「なんだと!?」

 

 ラティオスが、飛行中だったリザードンの腹部へ、渾身の『しねんのずつき』を叩き込む。

 

 リザードンが苦痛の悲鳴を漏らす。

 そのまま凄まじい勢いで吹き飛び、砂浜の岩場へと激突する。

 

 地面へと倒れこみ、そして、戦闘不能。

 

 限界を超えた一撃を放ったラティオスもまた、今度こそ力尽き、砂の上へ横たわった。

 

「ラティオス……!!」

 

 ラティオスはライルに、応えてくれた。

 

 ライルは幾度も利用された、『戦場全体へ意識を向ける』という自分の癖を、今度は利用し返した。カラスが勝負を決めるため、攻撃へ全戦力を傾ける。その瞬間を狙って。

 

 そして。

 

 先ほど投げ飛ばされ、倒れていたはずのガブリアス。

 その傷ついた巨体が、ゆっくりと立ち上がった。

 

 カラスが目を見張る。

 

「……!」

 

 ガブリアスもまた、ライルの意図を汲み、動けないフリをしてカラスの勝負勘を鈍らせていた。

 

「……まんまと騙されたよ。さっきの鳥の『特攻』に『伏兵』『死んだふり』だと? そりゃあ『戦場のワザ』だぜ」

 

 カラスはライルを睨みつける。

 

「——バケモンか、てめえ」

 

「……師匠達が良いんだよ!」

 

 ロード直伝の狡猾な駆け引き。

 相手の呼吸を、乱す。

 

 かつてモノにすることができなかったそれを、ライルは死線を超える中で、ついに掴み取った。

 

 ライルの執念が、カラスの戦力をついに残り一体——カイリューのみへと追い込んだ。

 

 ライルは、再び海上に向きそうになる意識を抑え、心で叫ぶ。

 

(サザンドラをそっちに送った。頼むぞ……ルカ!)

 

        ◇ ◇ ◇

 

 凍りついた海上。

 

 ルカリオ、ルガルガン、ラティアスは吹雪の影響で、まだ動くことができない。

 

 パオジアンだけが、倒れたルカの傍に寄り添っていた。

 

 その時。上空から影が近づいてくる。

 

 それはライルの指示を受け、戦線を変えたサザンドラだった。

 

「……サザンドラ」

 

 そう呟くルカに、サザンドラは寄り添うように近づく。

 

「お前がきたってことは、相棒が上手くやってんだな?」

 

 サザンドラはその言葉に、穏やかに喉を鳴らした。

 

「……だったら、あたしももっと頑張らなきゃ」

 

 ルカはサザンドラに支えられ、痛みに耐えながら立ち上がる。

 

「……やれるか? サザンドラ!」

「グォォォオ!!」

 

 サザンドラが三つの首を振り上げ、力強い咆哮で応える。

 

 それを聞き、ルカの瞳にも闘志が戻る。

 

 視線の先には、カイオーガを捕らえ、その力を喰らい続けるアクジキング。

 

 恐怖はまだ消えていない。

 身体も震えている。

 それでも彼女は、腕を振り上げた。

 

 するとサザンドラの頭上に、幾つもの眩い光が収束し始める。それぞれの光は瞬く間に膨れ上がり、恒星のような輝きを放った。

 

「あんまし上手くいったことねえワザだけど……なんか今は、できる気がするよ」

 

 ルカは腕を振り下ろし、力の限り、叫ぶ。

 

「『りゅうせいぐん』!!!」

 

 次の瞬間、空が光った。

 

 天から燃え盛るエネルギーの塊が次々と降り注ぐ。

 

 轟音。爆発。

 

 凍りついた海面の一部が砕け、アクジキングの巨体が何度も爆炎に飲み込まれた。それは、弱点を正確に突く一撃だった。アクジキングが大きく仰け反る。

 

 拘束が緩み、捕らえられていたカイオーガの身体が、ついに解放された。

 

 しかしカイオーガにはすでに、泳ぐ力すら残されていない。巨体は沈み、そのまま暗い海底へと姿を消していった。

 

「……!」

 

 ルカがその姿を追う。

 だが、安堵する暇はなかった。

 

 レジアイス。

 その無機質な身体から『れいとうビーム』が放たれる。

 

 狙いは大技により隙を晒した——サザンドラ。

 

 オンバーンとの激戦ですでに消耗していたサザンドラへ、氷線が直撃する。

 

「ゴアァ!!」

 

 サザンドラが大きく身体を揺らす。

 

「サザンドラ!!」

 

 それでも最後までルカを庇うように前へ立ち、そのまま氷の上へと沈んだ。

 

 さらに。

 

「——おい、嘘だろ?」

 

 ルカのその視線の先。

 

 爆炎が晴れた中から立ち上がったのは——アクジキング。

 

 反転の鎖、そしてカイオーガから奪った膨大な体力によって、アクジキングは今の猛攻にすら、何とか耐え抜いていた。

 

 怒り狂った怪物が、ルカへと向きを変える。

 

 一歩。また一歩。

 

 サザンドラの攻撃のダメージにより、その足取りは重い。しかし巨大な身体は、氷を軋ませながら近づいてくる。その隣では、レジアイスが音もなく氷上を滑る。

 

 凍てつく巨人と、故郷を襲った影。

 二体の刺客が、動けないルカの元へ迫る。

 

 そして底に沈みゆく大海の王。

 降り続いていたミナモの雨が——止んだ。

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総合評価:5474/評価:5.82/連載:69話/更新日時:2026年10月01日(木) 21:00 小説情報


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