ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
迫りくる絶望。
冷徹な処刑人レジアイスと、怒れる暴食のアクジキングがルカへと迫る。
立ちはだかったのは、災厄パオジアン。
戦闘態勢を取ったパオジアンは、周囲の空気を震わすほどの怒気を撒き散らした。
特性——『わざわいのつるぎ』。
その威圧感に晒されたアクジキングとレジアイスの守りが緩む。そして反転の黒い霧が、僅かに薄まる。
「——ッ!!」
だが、ルカは見守ることしか出来ない。
パオジアンはアクジキングに飛び掛かる。
巨体に『こおりのキバ』を突き立てると、アクジキングは悲鳴を上げた。パオジアンはさらなる追撃を狙う。
だが、あまりにも状況が悪すぎた。
アクジキングが振り回す巨大な二つの腕に捕まり、パオジアンは『アームハンマー』をモロに食らう。そして、吹き飛ばされた体を狙い澄まし、レジアイスが『れいとうビーム』で狙撃した。
「パオジアン……!!」
明確な弱点を突かれ、氷上へ飛ばされたパオジアンは、既に戦闘不能となっていた。
邪魔者を排除した二体は、再びルカへと向き直り、ゆっくりと進み始めた。
その光景を目にしたライルは、心臓が止まるような戦慄を覚えた。
「ルカ……!」
どうすればいい!?
送る? 誰を?
遠い。届かない。救う手立てが——ない。
今度こそ完全に、カラスから意識が離れた。
その時、ライルの傍らに並び立つガブリアスとミロカロスが吠えた。主人の動揺を埋めるように、眼前の敵から目を逸らさない。
その守りにカイリューは踏み出せなかった。
カラスは海上に向かって叫んだ。
「アクジキング!レジアイス!勝負を決めちまえ!とっととカイオーガを回収するんだよ!」
アクジキングの巨大な手が振り上げられた。その隣では、レジアイスが全てを停止させるような冷気を凝縮させる。
ルカは氷上に膝をついたまま、二体を見上げた。
「ハッ……流石に体が動かねえ。この距離じゃ、避けられねえよ……」
ルカは開戦からこれまで、気力だけでこの場に立ち続けてきた。
トラウマに苛まれながらも、カイオーガを救うため、パオジアンやサザンドラと共にアクジキングへ立ち向かった。
だが極限まで削られた精神と肉体は、もはや指一本動かすことを拒んでいた。
「ルカ!!立ってくれ頼む!!逃げろ!!!」
遠くからライルの叫びが聞こえる。ルカは一瞬だけライルの方を向き、僅かに目を細めた。
「……わりぃ相棒。後は、任せてもいいか?」
そして視線を前へと戻す。
この状況にあっても、ルカは、最後まで敵から目を逸らすことはしなかった。
二体から攻撃が放たれようとした。
——その瞬間。
ミナモシティの方角から、二条の線が飛来した。
それは、空を焼き裂く熱線と天を貫くような雷だった。
——ゴォォォオオオオ!!!
——ドォォォォォォン!!!
凄まじい爆発がアクジキングとレジアイスを襲った。
爆炎と雷光が氷上を覆い尽くす。
やがて街の方から現れた姿を見て、その場にいた全員が息を呑んだ。
そこに居たのは。
火山の如き烈火を纏った——エンテイ。
稲光の如き閃光を背負った——ライコウ。
「はあ!!!???」
「なんだ……こいつらは……」
カラスが驚愕の表情を浮かべ、ルカが呆然と二体を見上げる。
ライルもまた、その姿を見つめていた。
「一体……どういうことだ……? 」
瞬間、脳裏に蘇ったのは、煙突山でグラードンから伝えられた『意思』。
「……まさか……火山の、化身……?」
自らはこの地を離れることができない。
その代わりに遣いを寄こす。
『火山の化身』と『その仲間』——。
ならば、この二体が。
「いや、理屈は後だ!!頼む!!ルカを救ってくれ!!!」
ライルが叫ぶ。
その腕のバングルに嵌められたキーストーンが、これまでになく光を放った。
エンテイとライコウが同時に地を蹴り、氷上を弾丸のような速度で駆け抜ける。
繰り出したのは『だいもんじ』、『かみなり』。
たった二撃。
爆炎と豪雷をまともに受けたレジアイスは、許容できるダメージを超え、不気味なノイズを上げながら後方へ吹き飛ばされた。
その背後に裂け目が開き、巨体が反転世界へと押し戻されていく。
アクジキングもまた、振り上げていた腕を下ろした。
エンテイとライコウは、そのままアクジキングに向かって戦闘態勢を取った。
間一髪。
ルカへ迫っていた死が、止まった。
◇ ◇ ◇
ライルが安堵したのも束の間。
背後から、これまでに経験したことのない異常なプレッシャーを感じる。
「……!?」
振り返ると、そこに立つカラスからは、先ほどまでとはまるで別種の殺気が放たれていた。
「……オレがここまで追い込まれるとはな。本当に久しぶりだ、笑う余裕がないほど面白いのは」
カラスが右手を掲げる。
「アクジキングがエネルギーを使いすぎた。だからこの手を使うつもりは無かったが……『最後の奥の手』だ。誠心誠意、ぶっ潰させてもらうぜ」
嵌められた指輪から、赤色の光が放たれる。
そしてカイリューの背後に複数の小さな裂け目が開き、そこから黒い煙が溢れ、その巨体を覆っていく。
カイリューの全身が、激しく発光を始めた。
「カイリュー!! 『メガシンカ』だ!!!」
閃光が爆発した。
ライルが咄嗟に顔を覆う。
光が収まった時、そこに立っていたのは、従来のカイリューとは一線を画す姿だった。全身を覆う鱗は鋼のような質感を帯び、頭部から生えた翼が巨大化している。
そしてその瞳は、不気味なほどの無垢さを宿していた。
メガカイリュー。
ガブリアスとの死闘で、すでに消耗していたはずのその体躯。傷こそ残っているものの、先ほどまでとは比較にならないほどの力が、全身から溢れ出していた。
「なんだ、このデタラメなパワーは……」
これも、反転のエネルギーだというのか。
驚くライルに、メガカイリューは咆哮を上げた。
「バォォォォォォオッ!!!」
直後、一直線に飛び出す。
「なっ——」
ライルが捉えた時には、すでにメガカイリューはガブリアスの懐へ潜り込んでいた。
強烈な一撃、『ドラゴンクロー』。
ガブリアスの巨体が薙ぎ払われ、砂浜を転がっていく。
「ガブリアス!!」
メガカイリューは止まらない。ライルとミロカロスに向け、至近距離から『はかいこうせん』を放とうとする。
「——ッ!」
その瞬間、ミロカロスは咄嗟に身を翻し、長い身体をライルへ巻きつけた。
直後、爆発。
『はかいこうせん』がミロカロスの背を直撃し、その巨体ごとライルを吹き飛ばした。
「ぐあぁっ!!」
ライルたちは、そのまま砂浜の岩壁へ叩きつけられる。外側を覆ったミロカロスの身体が、衝撃の大半を受け止めた。
それでも、ライルの肺から一気に空気が抜ける。
そして力を失ったミロカロスの体が崩れ落ち、尻尾部分がライルの左足を下敷きにした。
「ぐっ……ミロカロス……」
全身を激痛が走る。
身体を動かそうとしても力が入らない。
攻撃の反動による硬直を終えた後、メガカイリューはゆっくりと飛んでくる。
まるで死の宣告を下すように。
確実にライルとの距離を縮めていく。
「……くそっ……」
朦朧とする目の前を、絶望と恐怖が覆い隠す。
その時。
相棒の危機に、誰より早く反応したのは——ルカだった。
ルカは顔を上げ、力の限り叫ぶ。
「ラティアス頼む!! 来てくれ!!」
言うが早いか、すでにルカは氷上を蹴り、走り出していた。
限界を迎えていた身体を無理やり動かす。
だが一歩を踏み出すほどに、全身の痛みは感じなくなっていく。
(間に合え間に合え間に合え!!!!)
かつて、目の前で失った。
あんな思いは、もう二度と——。
その姿を見たルカリオとルガルガンが、体を覆っていた氷を無理やり叩き割り、近くにいたラティアスに飛び乗る。
ラティアスも残された力を振り絞り、飛び出す。
——ゴウゥッ!!
そしてルカの隣へ並ぶ。
ルカは疾走する勢いそのまま、その背へと飛び乗った。
ラティアスがさらに加速。
ジェットさながらの速度で、氷上を一気に飛び抜け砂浜へ。
そして、メガカイリューへ激突する。
激しい衝突音。
メガカイリューは巨大な腕を突き出し、その突進を力ずくで受け止めた。足跡が砂浜に線を描いて後退する。
だがやがて突進の勢いは殺され、ラティアスの身体が投げられる。
ルカ達も背中から振り落とされた。
何とか砂浜へ着地するも、足がもつれ、膝をつきかける。
それでも踏みとどまった。
息など整っていない。
今にも倒れそうな身体を無理やり立たせる。
そして——
ライルを背に庇うようにして、メガカイリューの前へ立ち塞がった。
「……やらせねえ……こいつらに指一本、触れさせてたまるか……!」
絶望から這い上がった戦士の眼差しが、最強の竜を真っ向から睨み据えていた。
◇ ◇ ◇
日が沈み始めた砂浜。
メガカイリューから放たれるオーラが、ルカの全身を押し潰すように包む。
——強い。
ガブリアス、そしてミロカロスがほとんど一撃で倒されてしまった。
サザンドラもパオジアンもいない。ルガルガンとルカリオで凌げるか?
凌げても、どうすれば倒せる?
そんなルカの思考を、男の声が遮った。
「——おい、次の相手はてめえか?」
カラスの眼がルカを捉える。
「立つのがやっとなんだろ? オレはお前らを認めてる。だが、もう諦めろ。オレはオレで、まだあいつらを相手せにゃならんからな」
カラスはそう言うと、氷上でアクジキングを翻弄するエンテイとライコウを忌々しげに一瞥した。
そしてルカへと視線を戻す。
その殺気。
ライルがたった一人で受け止め続けていた傭兵の威圧を食らい、ルカに戦慄が走る。
僅かな沈黙を挟み、それでもなお。
ルカは口元を吊り上げた。
「……ハッ! 嫌だね。さっきは一度諦めちまった命だが、まだ使い道が残ってる。それに、やられっぱなしじゃ終われない」
不遜なまでの、最後の啖呵。
「今までの分は『倍』にして返してやるよ。だろ? ——相棒!!」
「……!」
その呼びかけが、背後のライルへ届いた。
ライルがゆっくりと顔を上げた。
ルカは真正面からメガカイリューを見据えた。そしてルガルガン、ルカリオがその前に並び立つ。圧倒的なパワーを前にしても、二匹は怯まない。
次の瞬間、本能を剥き出しにして飛びかかる。
メガカイリューの剛尾が振るわれるが、ルカリオは飛び上がり、ルガルガンは屈んでかわす。
大振りの後に生じた僅かな隙。
ルガルガンが一気に懐へ入り込み、鋭い岩の牙で腕を『かみくだく』。ルカリオは『りゅうのはどう』を胴体に叩き込む。そして、離れる。
ルカが飛ばす指示は短い。
ほとんど勘に近い判断。
それに長年の相棒ルガルガンとは違い、ルカリオは手持ちでもない。
それでも必死に思いを伝え、受け取る。
二匹を動かし、メガカイリューの猛攻を紙一重の連携で凌いでいく。
しかし、地力の差は埋まらない。
反転のエネルギーを流し込まれたメガシンカは、あまりにも暴力的だった。
一撃がかするたびにルカリオの身体が軋み、ルガルガンの動きも少しずつ重くなっていく。
だがカラスは手を緩めない。
「カイリュー!最後は力でねじ伏せろ!!」
メガカイリューの瞳が紅く染まった。
咆哮と共に、嵐のような連撃が始まる。
一撃。
二撃。
回転を増すごとに、その破壊力が跳ね上がっていく——『げきりん』。
それでもルカは指示をつないだ。
振るうたびに風切り音を出す剛腕をかわす。あるいはルカリオが力の点を見極めて受け止め、ルガルガンが背中を支える。後退しながらも、『げきりん』に耐えていく。
その決死の姿をライルは見ていた。意識が薄れそうになるたび、奥歯を噛みしめる。
そして彼らの動き、あることに気づく。
——メガカイリューの進む軌道が、一定の方向に収束されている。
だがついに、『げきりん』が二体を捉えた。
ルカリオが吹き飛ばされ、ルガルガンも地面へ叩きつけられる。
それでもメガカイリューは勢いを止めない。
無防備になったルカへそのまま突進する。
しかし、ルカは逃げなかった。
真正面から見据えたまま、一歩も引かない。
巨大な腕が、ルカの頭上へ振り下ろされようとした。
その直前。
ライルは右手を突き出していた。
光が放たれ、それがルカの目の前に。
——ガキィィィィィン!!!
戦場に、とてつもなく硬質な音が響き渡った。
「……てめえは!!!」
カラスが驚愕に目を見開く。
ルカの眼前。
メガカイリューの一撃を受け止めたのは、鎧の拘束具を身に纏った——タイプ:ヌル。
足を大きく開き、砂浜を強く踏み締める。
そしてルカが言い放つ。
「ヌル、練習通りだ……かましてやれ!!」
それはルカから何度も叩き込まれ、そして自分自身で形にした、その動き。
敵を引きつける。
攻撃を受ける。
そして力を——返す。
ヌルが力一杯、踏み込んだ。
流れるような動作で、力を一点へ。
メガカイリューへ、その力を叩き返した。
——ドゴォォォン!!!
メガカイリューの巨体が弾き飛ばされた。
砂浜へ激突し、そのまま何度も地面を転がっていく。
全身を包んでいたエネルギーが、弾けるように吹き飛ぶ。
そして徐々に元の姿へと戻ったカイリューは、そのまま起き上がることはなかった。
静寂。
ゆっくりと振り返るヌルに、ルカは伝える。
「今度こそ、よく待てたな……ヌル」
ヌルもまた、荒い息を吐きながら、ルカを見つめ返した。
ライルから繋がれた執念のバトン。
砂浜の勝負を決めたのは、ルカが魂を込めて鍛えた『鎧の戦士』だった。
◇ ◇ ◇
一方、海上でも決着が訪れようとしていた。
エンテイとライコウがアクジキングの周囲を駆け回り、その巨体を翻弄する。
炎と雷。
二体の猛攻を前に、アクジキングはその場へ釘付けにされていた。
そして——
——ポツッ——ポツッ
雨が再び、降り始めた。
静かに始まった雨は、やがて、瞬く間に豪雨へと変わった。
直後、海面が大きく隆起する。凄まじい水柱と共に、海へ沈んでいたカイオーガが再び姿を現した。
だがその姿は、先ほどまでとは明らかに違う。体躯はさらに巨大化し、全身の皮膚は深海の色へと変化している。
身体を走る白い紋様は眩い光を帯び、その全身から、太古の海そのものを思わせる力が放たれていた。
巨大なヒレが、静かに広げられる。
その姿を認めたエンテイとライコウは、王の攻撃の軌道に入らぬよう道を開けた。
瞬間、口元から激流が放たれる。
その威力も先ほどまでとは一線を画していた。アクジキングの巨体を容易に押しのける。
それでも進もうとするアクジキング。
するとカイオーガは、水流を止めた。
代わりに、周囲の空気を一変させた。
温度が急激に低下していく。
海面が凍り、大気中の水分すら白い結晶となって舞い始める。
そしてカイオーガから、白銀の波動が放たれた。
それは、生命の存在を拒む極寒の領域。
——『ぜったいれいど』。
アクジキングは、逃げる間もなかった。
白銀の冷気がその巨体を包み込む。
脚、二本の腕、そして巨大な口。
瞬く間に全身が凍てつき、アクジキングは完全な氷塊へと変わった。
その存在をこの世界へ繋ぎ止めていたエネルギーが失われ、背後の空間が歪む。
反転世界へと繋がる裂け目。
断末魔すら上げられぬまま、凍結したアクジキングは、その中へと引きずり込まれる。
そして完全に姿を消し、裂け目が閉じた。
ミナモの海岸線に、ようやく決着が訪れた。
戦士たちは、二つの戦場の勝利を掴み取った。
◇ ◇ ◇
絶望に次ぐ絶望。
そして希望、逆転。
長い戦いを終えたミナモシティの砂浜には、荒い波音だけが響いていた。
カラスは倒れたカイリューと、エンテイ、ライコウ、そしてライルとルカを順番に見回す。
その表情は驚愕。だが、それと不釣り合いなほどの清々しさも浮かんでいた。
「こりゃあ、たまげたぜ。これほど完膚なきまでにやられるとはな……」
カラスは腰からもう一つのモンスターボールを取り出した。
「こうなりゃ流石に勝ち目はねえ。悪いが、逃げさせてもらうぜ」
光と共に現れたのは、漆黒の体を持つ『アーマーガア』。
直後に『くろいきり』が周囲へ広がると、視界を完全に覆い隠す。
数秒後。
霧が晴れた時にはカラスの姿も、ポケモン達の姿も消え、僅かに空間が歪んだことだけが確認できた。
だが、それを追いかける気力も体力も、残っている者は一人もいなかった。
「ハァ……ハァ……あいつ……まだ手持ちが残ってたのかよ……」
底知れない実力を見せたカラスに驚嘆しながらも、ルカはそれを追おうとはしなかった。
重い足を引き摺りながら真っ先に向かったのは、ライルのもとだった。
傍らでは、ミロカロスが横たわっている。
ルカは、瓦礫の中に居るライルの隣に片膝をつき、下敷きになっていた足を引き抜くのを手伝った。
「……相棒……大丈夫か?」
「……大丈夫、って言いたいとこだけど……ダメだな。ヒビか……下手すりゃ折れてると思う」
「それだけで済んだなら奇跡だ……本当にすげえよ、お前は」
「マジで何回か……死んだと思ったよ」
最強クラスの傭兵を、たった一人で引き受け、あと一歩まで追い詰めた。
ルカの言葉には、心からの賞賛が込められていた。そして、目の前のミロカロスの美しい鱗を優しく撫でる。
だが、ライルの表情は晴れない。
むしろ先ほどまでよりも厳しい顔で、隣のルカを真っ直ぐに見た。
「……それよりもお前、あの時一回、諦めただろ」
「…………」
ルカは言葉を返せない。
ライルは静かに、しかし強い口調で続ける。
「……二度とするなよ。お前が諦めることは……絶対におれが許さない」
ルカは一瞬だけ目を見開いた。それから視線を落とし、自嘲気味に小さく笑う。
「……悪かった。もう二度としないよ」
ルカがライルの首へ腕を回した。
そのまま、ゆっくりと身体を抱き寄せる。
ライルもまた、震える左手をルカの背中へ回す。
二人は何も言わなかった。
しばらくの間、互いの鼓動と体温だけを確かめ合う。
——生き抜いた。
その事実が、ようやく実感として胸の奥へ落ちていく。
その瞳から溢れそうになる雫を堪えながら、ルカが小さく口を開いた。
「……あたしがヌルを出せって言ったこと、よくわかったな」
最後の戦いの、直前に放った言葉。
——今までの分は『倍』にして返してやる。
それは、ルカがライルへ送った合図だった。
「……わかるよ。おれはお前の相棒なんだから……」
それを聞いたルカが小さく笑う。
ライルも力なく笑い返した。
やがて二人は互いの身体を支えながら立ち上がる。
まだ休むわけにはいかない。
周囲には、共に戦い、倒れたままの仲間たちがいる。
二人は重い足を引き摺りながら、その仲間たちのもとへと歩いていった。
※決着でタイプ:ヌルが見せた反撃は、ゲーム上の「わざ」ではなく、ルカとの訓練によって身につけた戦闘技術として描写しています。