ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
ライルはアーカイブから関連報告書を検索。
分類:過去報告書
検索条件:[高エネルギー] [鏡面] [水]
検索結果:2件
▶ INCIDENT LOG #502
発生日:○年前
概要:「鏡像が本人と異なる挙動を示した」
結論:ゴーストポケモンによる悪戯と判断
危険度:LOW
▶ FIELD REPORT #184
山麓の湧水で微弱なエネルギー反応を確認。
人体・ポケモンへの影響なし。
経過観察の後、調査終了。
「聞き取り調査した内容と少し似てはいるんだけどな……」
全容が掴めずに頭を抱えていると、デバイスからアラートが浮かび上がる。
「……なんだ?」
表示されたのは、先日、襲撃を受けた調査地点。エネルギーの数値は、現地にいた時よりも明らかに跳ね上がっている。
(妙だな……何かあったのか?)
窓の外には、静まり返ったカンナギの街。明日また同じ調査をしても得られるものはないかも知れない。
(もう一度、あの場所へ行ってみるか)
◇ ◇ ◇
明朝。ライルは支給ジャケットを羽織り、宿を出発。静まり返った街を抜け、テンガン山外縁へと足を運ぶ。
鬱蒼とした木々の中、隣のルカリオは全方位に波導の網を広げ、微細なノイズも逃さない構え。
そして先日の邂逅を果たした場所が近づくにつれ、慎重に進む。ライルは周囲の木々の影に紛れながら、小声で話しかける。
「どうだ? ルカリオ。おれたち以外の気配はあるか? 特に、ルガルガンを連れたあいつとは出会いたくない」
ルカリオは感知距離をさらに延ばす。
(いや、あいつはいない。だが、森の『気配』が妙だ。昨日よりも静かで、冷たい)
「ほんとか? ポイントのエネルギー数値は、静かどころか倍近くまで上がってるぜ」
結晶体に近づくにつれ、デバイスの波形が、見たこともない反応を描き始めた。
そして到着した瞬間、ライルは息を飲んだ。
先日、淡く明滅していただけの結晶が、今や激しく脈動している。
「なんだよ、これ……?」
そして何より、ルカリオの言うとおり、これだけ煌々と輝くエネルギー体に対し、周囲は異常なほどに静まり返っている。
そしてライルはあることに気がつく。本来なら少しの風にでも揺れるはずの草花が——動いていない。
刹那。彼らの十数メートル先、深い新緑を湛えていた木々が、突然色を失い、褪せていく。まるで、世界が少しずつ死んでいくかのように、鈍い灰色となってライルたちへと向かってくる。
ライルの全身から血の気が引く。ほぼ無意識のうちに声を上げ、体は動き出していた。
「引き上げるぞ……!!これ以上は危険だ!!」
木々を払い除け復路を全速力で駆け抜ける。得体の知れないものに追いかけられているような錯覚を振り切ろうとする。
少し開けた場所でウォーグルを呼び出し、その背に乗り、風を切って低空を飛ぶ。
後ろを何度も振り返りながら、ライルはなんとかカンナギの入り口まで辿り着いた。
だが、着陸した瞬間に全身の産毛が逆立つ。
「……どうなってるんだ……?」
街には、先刻まで確かにあったはずの、生活の気配が一切ない。人の声、ポケモンの鳴き声、遠くの物音——何も聞こえない。
生気という概念が奪い去られてしまったかのようだった。
その時、ルカリオが激しい威嚇を始める。
強靭な精神力を持つ彼が、わずかに身体を震わせている。
(……ライル、まずい。何かが来る……!!)
見上げたライルの思考が、一瞬で凍りついた。
その視線の先には、全てを吸い込むかのような漆黒の穴が、音もなく口を開けていた。