ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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第六十五話【膠着】

 

 テンガン山頂。

 そこで繰り広げられる神話級の激突。

 

 急降下する勢いのまま、レックウザはギラティナへ肉薄する。その勢いを活かし一回転。長い体躯は鞭のようにしなり、強烈な尾撃をギラティナへ叩き込んだ。

 

 巨躯が大きく傾く。

 だが、ギラティナもただでは退かない。

 反転世界の王は『オリジンフォルム』と成る。

 

 六つの翼を広げて猛然と反撃。二柱の肉弾戦が火花を散らし、至近距離での応酬が始まった。

 

 衝撃は大気を震わせ、割れた曇天を再び引き寄せた。テンガン山頂は瞬く間に嵐へ包まれていく。

 

 ギラティナが再び咆哮。

 その呼び声に応じるように空間が歪んだ。

 

 数十体もの『ひこうタイプ』の反転ポケモンが姿を現し、レックウザへ迫る。

 

「ナギ! フウロ!」

 

 ダイゴの鋭い声が響いた。

 二人が頷く。

 そして。

 

「チルタリス!」

「スワンナ!」

 

 二体が大きく翼を広げる。

 それは、嵐の中でこそ真価を発揮する技。

 

 ——『ぼうふう』。

 

 巻き起こった暴風が、反転ポケモンたちをまとめて押し流す。そこから逃れた個体には、エアームドとアーケオスが次々と強襲を仕掛け、レックウザとギラティナの戦いへの介入を防ぐ。

 

 しかし、その横合いから四つの影が迫った。

 

 それは、ムクロの指示により、反転世界から現れた天狼隊の兵団員たち。それぞれが手持ちを繰り出す。

 

 ダイゴが構え、カゲツが笑う。

 

「カゲツ!」

「了解!ようやく、あんたの隣で戦えますよ!」

 

 メタグロス、ボスゴドラ。

 シザリガー、ノクタス。

 

 ナギとフウロが上空の反転ポケモンを抑え、ダイゴとカゲツが兵団を迎え撃つ。

 

 この戦場の目的はただ一つ。

 ギラティナを、現実世界に留めること。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 反転世界、アジト中央広場。

 

 突入したプラチナムは、ライルとルカがこじ開けた突破口を逃さず、一つの塊となって最奥へ進もうとしていた。

 

 立ちはだかるは天狼隊。広場に配置されていた五人の兵団員が、それぞれの手持ちを展開。そしてその周囲には、百を優に超える反転ポケモンが蠢いている。

 

 デンジのレントラーが、一体の反転ポケモン——ハブネークへ追い縋る。しかし相手は鋭く身を翻し、黒い霧を纏った尾を振り抜いた。

 エレキブルが割って入り、その一撃を両腕で受け止める。鈍い衝撃が響く。

 

「やはり、こっちの世界では力が増してるぞ!」

 

 反転ポケモンは現実世界の時より速く、強い。

 一対一ならまだ、エージェントたちが上回る。

 だがあまりの数の多さに、プラチナムが止まりかけた。

 

 その時。

 前線に立つルカがハイパーボールを開いた。

 

「頼むぞ!」

「ギュオワアアア!」

 

 戦場へ降り立ったのは、氷雪を纏うパオジアン。その瞳が、押し寄せる反転ポケモンたちを捉える。

 

 ——特性『わざわいのつるぎ』。

 

 パオジアンから放たれた怒気が、前方へ向かって広がっていく。

 反転ポケモンたちが一斉にたじろいだ。身体を覆っていた黒い霧が揺らぎ、僅かに薄くなる。

 

 その様子を見た兵団員たちに動揺が広がった。

 

「バカな!」

「どういうことだ!?」

 

 ルカは拳を握った。

 

「……よし!」

 

 かつて『そらのはしら』と『ミナモシティ』の戦闘において、パオジアンの力は反転エネルギーの霧を弱めていた。

 

 その原理は、まだ完全にはわかっていない。

 

 だがそれこそが、ルカが掴んだ『反転対策』だった。それでも完璧なコントロールには至らない。その刃が仲間に向かぬよう細心の注意を払う。その間、パオジアンは攻勢に出られない。

 

 ライルはその一瞬の好機を逃さなかった。

 狙ったのは、黒い鎖に縛られたスカタンク。

 

「ルカリオ!」

 

 ルカリオが『しんそく』で踏み込む。

 振り抜かれた爪を潜り抜け、一気に懐へ。

 

「動きを止めろ!」

 

 ——『はっけい』。

 

 掌底から放たれた衝撃に、スカタンクの身体が浮く。

 

 だが、ルカリオは止まらない。

 鎖だけを見定め、骨の棍棒を構えた。

 

「そこだ!」

 

 ——『ボーンラッシュ』。

 

 一撃。二撃。三撃。

 

 正確な連撃が、身体に刻まれた黒い鎖の模様へ叩き込まれた。やがて亀裂が走り、鎖が身体から浮き上がったあと——爆ぜた。

 

 スカタンクの身体から、霧も剥がれ落ちていく。濁っていた瞳に光が戻り、逆立っていた毛並みから力が抜ける。

 そしてその身体は、淡い光に包まれ、現実世界へ押し戻されるように消えていった。

 

 ライルには知る由もなかったが、そのスカタンクは、かつてロードが現実世界から退けた個体だった。

 だが、あの時とは違う。スカタンクは、今度こそ『反転』から解放されたのだ。

 

「やったぜ、相棒!」

「ああ! これならいける!」

 

 その光景を見たシロナが、即座に声を張る。

 

「全員、集中的に鎖を狙って! 一匹でも多く、反転ポケモンを解放するのよ!」

 

 エージェントたちが一斉に応えた。

 

「まだだ、パオジアン!駆け回れ!」

 

 ルカの号令と共に、パオジアンが前線を縦横無尽に駆け抜ける。その周囲で黒い霧が揺らぎ、反転ポケモンたちの動きが鈍っていく。

 

 その前線へ、アスナが飛び込んだ。

 

「バクーダ!!」

 

 バクーダが地面を踏み締める。

 背中の火山から、熱と噴煙が立ち上る。

 

 ——『ふんか』。

 

 次の瞬間、広場の前方で火炎が爆ぜた。噴き上がった炎と岩塊が反転ポケモンの群れを呑み込んだ。

 

 一体や二体ではない。

 

 群れの先頭を占めていた十数体が攻撃を受け、次々に吹き飛ばされた。

 

 さらにバシャーモが駆け込む。

 

 ——『ブレイズキック』。

 

 炎を纏った脚が、倒れた個体の鎖を断ち切る。

 反転ポケモンたちが、少しずつ、表の世界に帰っていく。

 

 そして密集していた中央に、広い空間が生まれた。

 

 そのまま先頭で道を切り拓くのは、デンジのレントラーとエレキブル、アスナのバシャーモとバクーダ。

 

 そこにライルとルカも並ぶ。

 

 その後方には、テッセンのジバコイル、マキシのギャラドス、スズナのユキノオーが続いた。

 

 さらに、エンテイとライコウ、ラティオスとラティアスは戦場を自在に行き来し、反転ポケモンたちの解放を優先していた。

 

 突入から現在に至るまで、プラチナムの進軍は極めて順調だった。

 

 だが突如としてその進みが止まる。

 

 現れたのは天狼隊の主力。

 ガライ、カラス、リン。

 

 ガライの傍らには、バンギラスとスイクン。

 カラスの背後には、カイリューとオンバーン。

 リンの前には、アマルルガとアブソル。

 

 前線の睨み合いを破るように、ガライが一歩前へ出た。それだけで、広場の空気が変わる。

 

「出ろ」

 

 底冷えのする声。

 指輪の光と共に、裂け目が開いた。

 最初に姿を現したのは巨神——レジギガス。

 

 さらに、凍てつくレジアイス、岩塊のレジロック、鋼鉄のレジスチルが並ぶ。

 

 巨大な壁が、プラチナムの前へ立ちはだかった。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 これまで全体を押し進めていたデンジとアスナ。その攻撃は、レジスチル達によって止められた。

 

「くっ……硬い!」

「神殿の時より、明らかに強くなってる!」

 

 一般の反転ポケモンとは、強化の度合いが違った。膨大なエネルギーを与えられた眷属たちが、二人のポケモンを徐々に押し戻していく。

 周囲の反転ポケモンたちも勢いを取り戻し、プラチナムの左右から距離を詰め始めた。

 

 だが、彼らが襲いかかってくる寸前。

 シロナの声が、戦場を貫く。

 

「展開!」

 

 その一声で、陣形が組み変わった。

 

 最前線のデンジとアスナが後方へ下がり、テッセン、マキシ、スズナらと共に左右へ開く。これにより、囲まれることを防いだ。

 

 すると中央には、一本の道が開いた。

 そこへ、真正面から進む影があった。

 

 シロナと、アデクだった。

 エンテイとライコウもその隣へ並ぶ。

 

 目の前には、レジギガスと三眷属。

 そして天狼隊の最高戦力。

 

 ガライはシロナを睨む。

 

「……想定通り、とでも言いたげだな」

「ええ、そうよ」

 

 シロナの冷え切った瞳が、ガライを射抜く。

 

「あなたたち、目障りなのよ。私が愛する土地から消え失せて」

「フン」

 

 ガライから、身震いするほどの圧力が放たれた。

 

「ならば、実力で示せ」

 

 ガライが片手を振る。

 バンギラスと三眷属が動いた。

 

 シロナはガブリアスとミロカロス。アデクはクリムガンとウルガモスを前へ出し、真正面から迎え撃つ。

 

 一方。

 

 スイクンとレジギガスの前には、エンテイとライコウが並び立った。ライコウが、かつての同胞を睨む。

 

 ——兄弟!なぜ奴らに力を貸す!?

 

 やはり、スイクンの体に鎖の模様はない。

 スイクンは答える。

 

 ——私は、戦士としてこの男に敗れた。自らの誇りに従っているだけだ!

 

 その答えを聞いたエンテイが、真っ直ぐにスイクンを見据える。

 

 ——ならば止める。それが我々の使命だ。

 

 レジギガスの巨腕が空を裂く。

 エンテイが火炎で迎え撃つ。

 そこへスイクンの水流が割って入る。

 その隙を狙い、ライコウの迅雷が飛んだ。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 激突の火花が広場を埋め尽くす。

 

 その隙を縫い、複数の影が前線から弾け出た。

 向かった先は——ライルとルカ。

 

「来たぞ、ルカ!」

「分かってるよ!」

 

 迫り来るは、カラス。

 カイリューとオンバーンが、暴風を纏ってライルを強襲する。

 

 ライルは即座にガブリアスとルカリオを前へ出し、その爪と拳で迎え撃った。

 

「会いたかったぜ、ガキ!!」

「お前の相手はもう飽きたよ!」

 

 激しい肉弾戦。

 そこへ、もう一つの影が迫った。

 幹部——リン。

 音もなく距離を詰め、ライル本人の体を狙う。

 

「私の方が、君に逢いたかったのよ!?」

 

 ライルの背後へリンの手が伸びる。

 その瞬間。

 ルカが刺々しいジャケットを翻し、勢いよく踏み込んだ。

 

 ——ドンッ!!

 

 放たれたのは、回し蹴り。

 リンが両腕で受け止める。

 重い衝撃に押され、その身体が横へ滑った。

 

「てめえは相棒に指一本触れさせねえよ、クソ女」

「……このガキ。ぶち殺すぞ」

 

 リンは腰を低く落とした。

 前屈みの姿勢は、関節を狙う格闘者の構え。

 

「この私に蹴りをくれやがって。覚悟はできてるんだろうね、クソガキ」

 

 対するルカは両腕を軽く前へ出す。

 半身となり、軽やかな足取りを刻む。

 

「てめえこそ覚悟できてんのか? 言っとくがあたしは、喧嘩でも負けたことはないぜ」

 

 リンの額に青筋が走る。

 

「……あ? 傭兵なめてんじゃねえぞ」

 

 その脇ではルガルガンとアブソルが互いの喉元を狙い、サザンドラとアマルルガが激しいエネルギーをぶつけ合う。

 

 再び、その隣。

 

「リンの野郎、プロ失格のバカが。何をマジギレしてやがる」

 

 カラスの視線が、リンへ向いた。

 その瞬間。

 

「ガブリアス!」

 

 ライルの声に応じ、ガブリアスが仕掛ける。

 苛烈な攻撃を受け、カイリューは後退。

 

「やってくれるねえ、『意趣返し』のつもりか!?」

 

 ライルは答えない。

 

「相変わらず憎たらしいやつだぜ。もう隣を気にしなくていいのか?」

 

「……うちの相棒は負けねえよ」

 

 ライルはルカを見なかった。

 代わりに、眼前の敵だけを捉えた。

 その答えに、カラスは獰猛な笑みを深めた。

 

 中央の戦いの周囲。

 

 テッセンたちとラティオス、ラティアスは反転ポケモンと五人の兵団員を抑え続けている。

 

 パオジアンは放っていた怒気を弱め、崩れかけた戦線へすぐさま飛び込んだ。

 

 奇襲によって一時的に浮き足立っていた天狼隊は、ガライたちの参戦によって冷静さを取り戻していた。

 

 各所で局地戦が発生し、戦闘は熱を帯びていく。プラチナムの進撃は止まり、戦線は完全に固定されつつあった。

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