ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
テンガン山頂。
そこで繰り広げられる神話級の激突。
急降下する勢いのまま、レックウザはギラティナへ肉薄する。その勢いを活かし一回転。長い体躯は鞭のようにしなり、強烈な尾撃をギラティナへ叩き込んだ。
巨躯が大きく傾く。
だが、ギラティナもただでは退かない。
反転世界の王は『オリジンフォルム』と成る。
六つの翼を広げて猛然と反撃。二柱の肉弾戦が火花を散らし、至近距離での応酬が始まった。
衝撃は大気を震わせ、割れた曇天を再び引き寄せた。テンガン山頂は瞬く間に嵐へ包まれていく。
ギラティナが再び咆哮。
その呼び声に応じるように空間が歪んだ。
数十体もの『ひこうタイプ』の反転ポケモンが姿を現し、レックウザへ迫る。
「ナギ! フウロ!」
ダイゴの鋭い声が響いた。
二人が頷く。
そして。
「チルタリス!」
「スワンナ!」
二体が大きく翼を広げる。
それは、嵐の中でこそ真価を発揮する技。
——『ぼうふう』。
巻き起こった暴風が、反転ポケモンたちをまとめて押し流す。そこから逃れた個体には、エアームドとアーケオスが次々と強襲を仕掛け、レックウザとギラティナの戦いへの介入を防ぐ。
しかし、その横合いから四つの影が迫った。
それは、ムクロの指示により、反転世界から現れた天狼隊の兵団員たち。それぞれが手持ちを繰り出す。
ダイゴが構え、カゲツが笑う。
「カゲツ!」
「了解!ようやく、あんたの隣で戦えますよ!」
メタグロス、ボスゴドラ。
シザリガー、ノクタス。
ナギとフウロが上空の反転ポケモンを抑え、ダイゴとカゲツが兵団を迎え撃つ。
この戦場の目的はただ一つ。
ギラティナを、現実世界に留めること。
◇ ◇ ◇
反転世界、アジト中央広場。
突入したプラチナムは、ライルとルカがこじ開けた突破口を逃さず、一つの塊となって最奥へ進もうとしていた。
立ちはだかるは天狼隊。広場に配置されていた五人の兵団員が、それぞれの手持ちを展開。そしてその周囲には、百を優に超える反転ポケモンが蠢いている。
デンジのレントラーが、一体の反転ポケモン——ハブネークへ追い縋る。しかし相手は鋭く身を翻し、黒い霧を纏った尾を振り抜いた。
エレキブルが割って入り、その一撃を両腕で受け止める。鈍い衝撃が響く。
「やはり、こっちの世界では力が増してるぞ!」
反転ポケモンは現実世界の時より速く、強い。
一対一ならまだ、エージェントたちが上回る。
だがあまりの数の多さに、プラチナムが止まりかけた。
その時。
前線に立つルカがハイパーボールを開いた。
「頼むぞ!」
「ギュオワアアア!」
戦場へ降り立ったのは、氷雪を纏うパオジアン。その瞳が、押し寄せる反転ポケモンたちを捉える。
——特性『わざわいのつるぎ』。
パオジアンから放たれた怒気が、前方へ向かって広がっていく。
反転ポケモンたちが一斉にたじろいだ。身体を覆っていた黒い霧が揺らぎ、僅かに薄くなる。
その様子を見た兵団員たちに動揺が広がった。
「バカな!」
「どういうことだ!?」
ルカは拳を握った。
「……よし!」
かつて『そらのはしら』と『ミナモシティ』の戦闘において、パオジアンの力は反転エネルギーの霧を弱めていた。
その原理は、まだ完全にはわかっていない。
だがそれこそが、ルカが掴んだ『反転対策』だった。それでも完璧なコントロールには至らない。その刃が仲間に向かぬよう細心の注意を払う。その間、パオジアンは攻勢に出られない。
ライルはその一瞬の好機を逃さなかった。
狙ったのは、黒い鎖に縛られたスカタンク。
「ルカリオ!」
ルカリオが『しんそく』で踏み込む。
振り抜かれた爪を潜り抜け、一気に懐へ。
「動きを止めろ!」
——『はっけい』。
掌底から放たれた衝撃に、スカタンクの身体が浮く。
だが、ルカリオは止まらない。
鎖だけを見定め、骨の棍棒を構えた。
「そこだ!」
——『ボーンラッシュ』。
一撃。二撃。三撃。
正確な連撃が、身体に刻まれた黒い鎖の模様へ叩き込まれた。やがて亀裂が走り、鎖が身体から浮き上がったあと——爆ぜた。
スカタンクの身体から、霧も剥がれ落ちていく。濁っていた瞳に光が戻り、逆立っていた毛並みから力が抜ける。
そしてその身体は、淡い光に包まれ、現実世界へ押し戻されるように消えていった。
ライルには知る由もなかったが、そのスカタンクは、かつてロードが現実世界から退けた個体だった。
だが、あの時とは違う。スカタンクは、今度こそ『反転』から解放されたのだ。
「やったぜ、相棒!」
「ああ! これならいける!」
その光景を見たシロナが、即座に声を張る。
「全員、集中的に鎖を狙って! 一匹でも多く、反転ポケモンを解放するのよ!」
エージェントたちが一斉に応えた。
「まだだ、パオジアン!駆け回れ!」
ルカの号令と共に、パオジアンが前線を縦横無尽に駆け抜ける。その周囲で黒い霧が揺らぎ、反転ポケモンたちの動きが鈍っていく。
その前線へ、アスナが飛び込んだ。
「バクーダ!!」
バクーダが地面を踏み締める。
背中の火山から、熱と噴煙が立ち上る。
——『ふんか』。
次の瞬間、広場の前方で火炎が爆ぜた。噴き上がった炎と岩塊が反転ポケモンの群れを呑み込んだ。
一体や二体ではない。
群れの先頭を占めていた十数体が攻撃を受け、次々に吹き飛ばされた。
さらにバシャーモが駆け込む。
——『ブレイズキック』。
炎を纏った脚が、倒れた個体の鎖を断ち切る。
反転ポケモンたちが、少しずつ、表の世界に帰っていく。
そして密集していた中央に、広い空間が生まれた。
そのまま先頭で道を切り拓くのは、デンジのレントラーとエレキブル、アスナのバシャーモとバクーダ。
そこにライルとルカも並ぶ。
その後方には、テッセンのジバコイル、マキシのギャラドス、スズナのユキノオーが続いた。
さらに、エンテイとライコウ、ラティオスとラティアスは戦場を自在に行き来し、反転ポケモンたちの解放を優先していた。
突入から現在に至るまで、プラチナムの進軍は極めて順調だった。
だが突如としてその進みが止まる。
現れたのは天狼隊の主力。
ガライ、カラス、リン。
ガライの傍らには、バンギラスとスイクン。
カラスの背後には、カイリューとオンバーン。
リンの前には、アマルルガとアブソル。
前線の睨み合いを破るように、ガライが一歩前へ出た。それだけで、広場の空気が変わる。
「出ろ」
底冷えのする声。
指輪の光と共に、裂け目が開いた。
最初に姿を現したのは巨神——レジギガス。
さらに、凍てつくレジアイス、岩塊のレジロック、鋼鉄のレジスチルが並ぶ。
巨大な壁が、プラチナムの前へ立ちはだかった。
◇ ◇ ◇
これまで全体を押し進めていたデンジとアスナ。その攻撃は、レジスチル達によって止められた。
「くっ……硬い!」
「神殿の時より、明らかに強くなってる!」
一般の反転ポケモンとは、強化の度合いが違った。膨大なエネルギーを与えられた眷属たちが、二人のポケモンを徐々に押し戻していく。
周囲の反転ポケモンたちも勢いを取り戻し、プラチナムの左右から距離を詰め始めた。
だが、彼らが襲いかかってくる寸前。
シロナの声が、戦場を貫く。
「展開!」
その一声で、陣形が組み変わった。
最前線のデンジとアスナが後方へ下がり、テッセン、マキシ、スズナらと共に左右へ開く。これにより、囲まれることを防いだ。
すると中央には、一本の道が開いた。
そこへ、真正面から進む影があった。
シロナと、アデクだった。
エンテイとライコウもその隣へ並ぶ。
目の前には、レジギガスと三眷属。
そして天狼隊の最高戦力。
ガライはシロナを睨む。
「……想定通り、とでも言いたげだな」
「ええ、そうよ」
シロナの冷え切った瞳が、ガライを射抜く。
「あなたたち、目障りなのよ。私が愛する土地から消え失せて」
「フン」
ガライから、身震いするほどの圧力が放たれた。
「ならば、実力で示せ」
ガライが片手を振る。
バンギラスと三眷属が動いた。
シロナはガブリアスとミロカロス。アデクはクリムガンとウルガモスを前へ出し、真正面から迎え撃つ。
一方。
スイクンとレジギガスの前には、エンテイとライコウが並び立った。ライコウが、かつての同胞を睨む。
——兄弟!なぜ奴らに力を貸す!?
やはり、スイクンの体に鎖の模様はない。
スイクンは答える。
——私は、戦士としてこの男に敗れた。自らの誇りに従っているだけだ!
その答えを聞いたエンテイが、真っ直ぐにスイクンを見据える。
——ならば止める。それが我々の使命だ。
レジギガスの巨腕が空を裂く。
エンテイが火炎で迎え撃つ。
そこへスイクンの水流が割って入る。
その隙を狙い、ライコウの迅雷が飛んだ。
◇ ◇ ◇
激突の火花が広場を埋め尽くす。
その隙を縫い、複数の影が前線から弾け出た。
向かった先は——ライルとルカ。
「来たぞ、ルカ!」
「分かってるよ!」
迫り来るは、カラス。
カイリューとオンバーンが、暴風を纏ってライルを強襲する。
ライルは即座にガブリアスとルカリオを前へ出し、その爪と拳で迎え撃った。
「会いたかったぜ、ガキ!!」
「お前の相手はもう飽きたよ!」
激しい肉弾戦。
そこへ、もう一つの影が迫った。
幹部——リン。
音もなく距離を詰め、ライル本人の体を狙う。
「私の方が、君に逢いたかったのよ!?」
ライルの背後へリンの手が伸びる。
その瞬間。
ルカが刺々しいジャケットを翻し、勢いよく踏み込んだ。
——ドンッ!!
放たれたのは、回し蹴り。
リンが両腕で受け止める。
重い衝撃に押され、その身体が横へ滑った。
「てめえは相棒に指一本触れさせねえよ、クソ女」
「……このガキ。ぶち殺すぞ」
リンは腰を低く落とした。
前屈みの姿勢は、関節を狙う格闘者の構え。
「この私に蹴りをくれやがって。覚悟はできてるんだろうね、クソガキ」
対するルカは両腕を軽く前へ出す。
半身となり、軽やかな足取りを刻む。
「てめえこそ覚悟できてんのか? 言っとくがあたしは、喧嘩でも負けたことはないぜ」
リンの額に青筋が走る。
「……あ? 傭兵なめてんじゃねえぞ」
その脇ではルガルガンとアブソルが互いの喉元を狙い、サザンドラとアマルルガが激しいエネルギーをぶつけ合う。
再び、その隣。
「リンの野郎、プロ失格のバカが。何をマジギレしてやがる」
カラスの視線が、リンへ向いた。
その瞬間。
「ガブリアス!」
ライルの声に応じ、ガブリアスが仕掛ける。
苛烈な攻撃を受け、カイリューは後退。
「やってくれるねえ、『意趣返し』のつもりか!?」
ライルは答えない。
「相変わらず憎たらしいやつだぜ。もう隣を気にしなくていいのか?」
「……うちの相棒は負けねえよ」
ライルはルカを見なかった。
代わりに、眼前の敵だけを捉えた。
その答えに、カラスは獰猛な笑みを深めた。
中央の戦いの周囲。
テッセンたちとラティオス、ラティアスは反転ポケモンと五人の兵団員を抑え続けている。
パオジアンは放っていた怒気を弱め、崩れかけた戦線へすぐさま飛び込んだ。
奇襲によって一時的に浮き足立っていた天狼隊は、ガライたちの参戦によって冷静さを取り戻していた。
各所で局地戦が発生し、戦闘は熱を帯びていく。プラチナムの進撃は止まり、戦線は完全に固定されつつあった。