ポケットモンスター Agent PLATINUM 作:ミノワ
アジト奥の大広間。
『ダークホール』によって悪夢へと閉じ込められたルカ。カラマネロは夢の操作を続けている。
パオジアンがルカの体を揺らし続けるも、いまだ意識は戻らない。ワルビアルはゴルーグの突進を阻むが、徐々に押し込まれつつあった。
ライルとロードの二人も、ムクロ側の猛攻により、その場を動くことができていない。
一方、ムクロは、先ほどの教祖の言葉を思い出し、僅かに眉を動かした。
(アローラ……俺たちが雇われる前の話か?)
そして、ルカを一瞥する。
(闘技場時代から考えても、それなりに荒れた過去を持ってると踏んで眠らせたが、どうやら想定外の因縁があったようだな)
「てめえ、ルカに何してんだ!!」
ライルが叫ぶ。
教祖は、眠るルカを見下ろしたまま答えた。
「私か? その小娘に『救い』を与えているんだ。失った母と妹と過ごす、幸福な夢を見させてやっている」
「何だと、この野郎……!」
ライルは激昂していた。
だが教祖は、至って不思議そうに尋ねた。
「何故、怒る?」
「……は?」
「『喪失』を拒否できるんだ」
教祖は続ける。
「カラマネロの操る夢の中でなら、幸せを取り戻せる。愛する者ともう一度、再会できるのだ。それに、催眠の中では時間の感覚すら自在に引き延ばせる。永遠に等しい時間を与えられるのだよ」
その穏やかな顔は、身を包む『穢れなき白』と相まって、かえって不気味に映った。
「……何を言ってるんだ? ……お前」
ライルは言いようのない嫌悪感を覚えた。
それをこの男に抱くのは二度目であった。
一度目は、『潜入』の時だった。
「まさか、それが『理想郷』だっていうのか?」
教祖は僅かに目を開く。
「そうか、貴様らはイッシュに居たのだったな。私の話を覚えてくれているようだ」
そして、両腕を大きく広げた。
「『まずは』だ。反転世界に、このアジトのような生存圏を作る。そこへ私に共感した信者たちを呼び、カラマネロの催眠術の中で、喪失の無い夢を見させ続けるのだ」
ライルの目の前では、ロードの指示を受けたゲッコウガがセグレイブの攻撃を抑えていた。ゴウカザルとグレイシアは、主人の指示がなくとも、その動きに合わせている。
巨剣の一撃で床が砕け、破片がライルの頬を掠めた。
彼は気にも留めなかった。
許せなかったからだ。
やはりこの男は、人の思いを利用していた。叶わぬものを叶うと嘯き、文字通り、甘い夢を見させようとしているのだ。
だがそれを見透かしたかのように、教祖は言う。
「嘘ではない!」
その目はもはや狂信的だった。
「これは第一段階だ。反転世界へ流れ来るエネルギーの可能性は無限だ!いずれは、ただ夢を見せるだけではなくなる!」
教祖の声が、次第に熱を帯びていく。
「いつか必ず、『本当の蘇生』すらも可能になる。この私の『研究』によってな!!」
「……研……究?」
ハッサムの鋏に、グレイシアが冷気をぶつける。少し離れた位置のヘルガーから炎が迫るも、ゴウカザルが軌道を逸らす。
攻防の隙間から、ライルは教祖を見据える。
「伝説級を含むポケモンの取り込みなど、私にとっては研究資金調達の手段にすぎない! 不死身の軍隊に、反転エネルギーの技術。それさえあれば、いくらでも金は集まる!」
研究、高い技術力、アローラ。
それらの言葉が、ライルの中で繋がる。
脳裏に浮かぶのは、一つの名前。
「——シノノメ?」
「……!!」
教祖の表情が強張った。
それは、僅かな変化だった。
だがライルもロードも、見逃さない。
「ライルくん、やつがか?」
「……」
二人は、目の前の男を凝視する。
以前、本部会議室で見た記録写真。
短い白髪、やや恰幅のいい体。
そして、肉感のある顔。
目の前の男は、白髪を長く伸ばし、その身体も痩せ細っている。
しかし、よくよく見れば顔の所々に面影があったし、この変化も、十年という歳月を考えれば十分にあり得るものだった。
——ならば、やはりこの男が?
そしてライルの思考はそこで終わらなかった。
先ほどの、アローラへの反応。
『数奇』『立ちはだかる』という言葉。
何より、『喪失』そのものを拒絶する異常な執着。
そしてゼンノによれば、シノノメはあの災害以降、姿を消している。
「……シノノメ。お前も、犠牲者ってことか?」
教祖の目が見開かれる。
ライルは、その反応を注視していた。
「失ったんだな——」
「——失ってなどいない!!」
教祖は声を荒らげた。
シノノメの名を否定もしない。
「私の邪魔をしてどうなる? 死者の蘇生など、人類の夢そのものではないのか!? 小僧、貴様にも心当たりはないのか!?」
ライルはすぐに答えなかった。
その問いを否定するつもりはなかった。
しかし、眼前の男がしてきたことを肯定するつもりも、さらさらない。
「だったら真っ当な方法で、その資金とやらを集めれば良かったんじゃないのか」
ライルは拳を握る。
「なぜ人を騙し、ポケモンを利用して、街を襲う必要があった!?」
シノノメは、呆れたように首を振った。
「……ガライからは頭の切れる集団と聞いていた。そして先ほどまで私もそう思っていたが、どうやら買い被りのようだな」
そして、さも当たり前かのように告げる。
「もともと『喪失』を知らぬとしたら、その者がどうして『理想郷』を求めると言うのだ?」
ライルは一瞬、この男が何を言ったのか分からなかった。
「ならば、先に失わせればいい。いずれは私の技術によって戻るのだから。今回は貴様らに阻まれたが、次はそうはさせぬ」
今度こそ、ライルの額に青筋が走った。
「……この、異常者がっ……!!」
「フン。貴様如きには分からんよ」
シノノメは、心底哀れむように息を吐いた。
「ライルくん、気持ちはわかる。だが落ち着け」
ロードはライルの肩を掴んだが、もう片方の手は、白くなるほど握りしめられていた。
「今することを見失うな!何とか突破口を開くんだ!」
「……はい!」
ムクロは憐れむような目で教祖を眺めていたが、ロードたちの動きを見て、すぐさま腰のボールへと手を伸ばした。
「おい、待てよ。俺がお前たちを自由にすると思うのか?」
現れたのは、超重量級の——『ドサイドン』。
両手に開いた穴を、ライルたちへ向ける。
「ドサイドン、近づく必要はない。ヘルガーの火炎と交互に、ひたすら『ロックブラスト』を撃ち続けろ」
ムクロの戦闘指揮は、冷酷なほど合理的だった。機関銃のような岩塊と燃え盛る獄炎が、次々とライルたちを襲う。
ライルもすぐさまボールを開く。
「ラムパルド!」
現れたラムパルドが頭部を突き出し、飛来する岩塊を真正面から粉砕する。
——轟音。
一発目が砕け散る。
二発目、そして、三発目。
ラムパルドは岩塊を破壊するものの、苛烈な弾幕を前に、その場から動くことができない。ゴウカザルも、ヘルガーの火炎の相殺に手一杯だった。
ライルは歯を食いしばる。
かつてカラスとの戦闘で知った、一つの限界。戦場を見渡せたとしても、そのすべてに手を伸ばせるわけではない。無理に動こうとすれば、立ちどころに均衡は崩れ、それを利用されることもわかっていた。
「クソッ……!」
それでも、彼女から意識は逸らさなかった。
「ルカ、戻ってこい!そんなのに負けるなんて、お前じゃねえよ!!」
ライルの叫びが、歪む異空間に木霊した。
◇ ◇ ◇
ルカの夢の中——。
妹の小さな手に引かれるまま、ルカは懐かしい家へと進む。
道中、一匹のポケモンが足元へ寄ってきた。
「なんだよ、ルガ——」
そう言いかけたルカの足元に居たのは、『イワンコ』だった。
「ワン?」
「……久しぶりだな、イワンコ。お前も行くか?」
「ワン!」
そして、家の中へ。
リビングにはテーブルとイス、それにソファがあるだけの簡素な佇まい。しかしそこは、間違いなく彼女が育った、アローラの家だった。
イスに腰を下ろすルカ。
イワンコは部屋の隅で丸くなっていた。
キッチンでは、母親がパチパチと音を立てながら手際よく料理を仕上げている。
ルカはそれを眺めていたが、何故だか泣きそうになってしまったので、母にふと声をかける。
「母さん、手伝おうか?」
「良いわよ。いつも手伝ってくれてるんだから、たまにはゆっくりしなさい。疲れてるのよ、あんた」
「そうなのかな」
ルカは少しだけ笑う。
すると母は振り返った。
「何か飲む?」
「……なら、コーヒーが良いかな」
「……コーヒー?」
何も気にせず答えたつもりだった。
だが母は、怪訝そうに片眉を上げた。
「あんた、いつの間にそんなもの飲むようになったのよ」
ルカの胸に、小さな疑問がちくりと刺さる。
「あれ? 確かに……いつからだ?」
そんなルカの思考を遮るように、声がかかる。
「ねえねえ、お姉ちゃん!聞いてよ!」
妹のルイだった。
ソファの上で無邪気に跳ね回っている。
「スクールでさ、いつもちょっかいかけてくる男の子が居るの!どうしたらいい?ちょっとうざいの!」
「ハッ!そりゃあルイ、そいつはお前のことが好きなのさ。悪戯をするやつは、その相手の気を引きたいからって相場が決まってんだ」
そしてニヤリと笑い、ルイを見た。
「今度、遊びにでも誘ってやれよ」
ルイは顔をしかめた。
「え〜、何それ!いやだよそんなの、気持ち悪いじゃん!それに、いつものお姉ちゃんなら『ボコボコにしてやれ!』って言いそうなのに」
するとキッチンの母から二人に声がかかる。
「スクールで喧嘩はダメだからね」
ルカとルイは目を見合わせ、舌を出す。
ルイは再び話し始める。
「悪戯するくせに、気を引きたいってどういうこと? お姉ちゃんもされたことあるの?」
「……あたしか? そりゃあもちろん……」
そう言いかけて、言葉に詰まった。
来た時と同じく、感覚が妙に遠い。
記憶の断片が、泡沫のように浮き上がる。
それは、自分に不敵な軽口を返してくる少年だった。ルカはいつも、彼の隣に並んでいた。
しかし。
それが誰なのか、肝心なことが思い出せない。
「……何だ? 何か、大切なことを忘れてる気がするぞ……」
母と妹との、幸福な時間。
なのに、どこか噛み合わない。
違和感が、ルカの中で小さな、けれど確かな波紋となって広がり始めていた。
◇ ◇ ◇
日暮れ。
三人は食卓を囲んでいた。
母が作った料理と、隣に座るルイの笑顔。
十年ぶりに訪れた、家族の時間。
ただ——嬉しかった。
しかし、二人と再開してからの奇妙な感覚は、ここでも胸にまとわりついて離れなかった。
気になることもあった。ここしばらくの間、こんな風に共に過ごす誰かがいたはずだ。
くだらない話をし、喧嘩もして、笑う。
そんな記憶の欠片だけが残っている。
それを思い出そうとしながらも、ルカは目の前にある幸福を享受しようとした。
だがその時間も、長くは続かなかった。
「あ、そうだ!」
ルイが食事の手を止め、思い出したように顔を上げる。
「お姉ちゃんさっき、ずっとルイたちを探してたって言ったよね? 何のこと?」
「……ああ」
ルカも箸を止め、ルイを見た。
「お前を探してたんだよ。色んな地方を巡ってさ……。母さんにも、もう一度会いたいって、ずっと思ってた」
ルイと母が答える。
「旅行ってこと!? ずるいよ、ルイも行きたいって言ってたじゃん!」
「あんた、そんなことしてたの?」
母も不思議そうにルカを見る。
「確かに、自分はいつか世界中を見て回るんだって、いつも言ってたけれど」
「そうだよ。それが、あたしの夢だったんだもん」
その時。
ルカの中で、何かが僅かに動き始めた。
「だから、色んなところを回って……頼りになるポケモンたちが仲間になってくれて……強い奴らとも、たくさん戦って……」
イワンコは相変わらず部屋の隅に居たが、その言葉を聞き、顔を上げた。
ルカは忘れていた道のりを、少しずつ取り戻す。
雪に覆われた山、荒れた土地。
見知らぬ街、行き交う人々。
高く聳える塔、火山と海。
そして付いてきてくれるポケモンたち。
「それで——あいつと出会ったんだ」
「あいつって?」
ルイが身を乗り出す。
「背が高くて、ツラが良くて……とにかく、バトルが強え」
「あら、良い男ね」
母が面白そうに笑った。
ルイは不思議そうにしていた。
「……いや、でもクソ真面目で、超がつくほど仕事人間なんだ」
ルカの言葉は、止まらなかった。
「放っておいたら、誰かのためにずっと何か考えてる。いじり甲斐があるんだけど、最近は生意気に言い返してきやがってさ……」
そこまで口にして。
「……分かったぞ」
目の前の風景が、色褪せていく。
母もルイも、失う前と何ら変わらない。
自分だけが違うのだ。
コーヒーを好むようになった。
いくつもの地方を巡った。
多くの仲間と出会った。
ルカは、ゆっくりと顔を上げる。
「忘れてたのは、今のあたしの記憶だ……。母さんたちの記憶は……昔のあたしのままで止まってる……」
「……ルカ?」
母が心配そうに名前を呼ぶ。
だが、ルカの思考は止まらなかった。
思い出した。
自分は戦いに来た、皆と共に。
あいつの隣で。
「さっき『もちろん』って言いかけてたのって、もしかして、その人のこと!?」
ルイはまだ、楽しそうに話を続けている。
「お姉ちゃんに悪戯ばっかりしてくるの!?」
「……いや、ちげーよ」
ルカは小さく首を振った。
「悪戯すんのは、いつも、あたしからだ」
ルカの口元から、自嘲気味な、それでいて愛おしそうな笑みが漏れた。
「……そっか」
自分が軽口を叩いた後に見せる、あいつの呆れた顔。怒りながらも、最後には付き合ってくれる姿。いつも自分のことを気にかけてくれる、不器用な優しさ。
すべてが、次々と蘇ってくる。
「ハハ……やっと分かったよ。あたしの方が、そうだったんだな」
「……大切な人なのね」
母が穏やかに尋ねる。
「……うん」
ルカは、もう否定しなかった。
「お姉ちゃん、どうしたの……?」
不安そうにルカを覗き込むルイを見て、胸が締めつけられた。
自分は思い出した——それが、何を意味するのか、分かったから。
目の前にあるもの。
それは、決して失いたくなかったもの。
また会いたいと願ってきたもの。
たとえ、本物と見紛うほど温かくても。
ここに残れば、今の自分が手にしたものを、すべて捨てることになる。
イワンコが立ち上がり、ルカに向けて吠えた。
「……ああ、そうだな」
進まなければ。
今、死なせたくない人たちがいる。
自分を信じてくれる仲間がいる。
何より、隣で戦うと言ってくれた奴がいる。
遠くから声が聞こえる。
何度も、何度も、自分の名を呼んでいる。
「……ルイ、聞いてくれ」
ルカは立ち上がり、ルイの前で片膝をつく。
「姉ちゃんはもう……行かなきゃならない」
「えっ……?」
「……姉ちゃんを信じて、必死に呼んでる奴らの声が聞こえるんだ」
「なんで!?」
ルイも立ち上がり、ルカの腕を掴む。
「どこに行っちゃうの!? やだよ! 寂しいよ、お姉ちゃん!!」
大粒の涙を流し、ルイが叫ぶ。
ルカの胸は張り裂けそうになった。
終わらせなければならない、自分の手で。
決意が、揺らぎそうになる。
しかし。
母が立ち上がり、ルカの肩へ手を置いた。
「ルカ」
振り向いた娘へ、穏やかに微笑む。
「いいのよ。私たちのことは気にしないで、行きなさい」
「母さん……」
「あんたの人生を、生きればいいのよ」
ルカの目から、再び涙が溢れ出した。
「母さん、ありがとう……」
そして妹の腕を、優しくほどく。
「ルイ、本当にごめんな……!」
「お姉ちゃん……!」
「二人とも、本当にごめん! あたしのせいだ。全部、あたしのせいなんだ!」
過去の自責も、後悔も、すべてを吐き出すように、ルカは言った。
「でも、あたしは行かなきゃならない」
涙を流し、それでも真っ直ぐに二人を見る。
「二人とも、ずっと……ずっと、愛してるから」
ルカは涙を拭い、二人へ背を向けた。
後ろを見れば、その場から動けなくなる。
だからもう、振り返らない。
そして駆け出し、家の扉を勢いよく開けた。
彼女の隣に居たのはイワンコではなく、ルガルガンだった。
扉の先には、見慣れた町並みではなく、眩いほどの白い光が広がっていた。
ルカは迷わず、その光の中へ飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
「ルカ!! 戻ってこい!!」
叫び続けるライルの声に呼応するように、沈黙していたルカの身体が、ぴくりと震えた。
「が……あ、あぁ……!!」
ルカの指が、床を掻いた。
「バカな!」
その異変を見たシノノメが、目を見開く。
「ダークライの悪夢に、カラマネロの洗脳だぞ。そう易々と解けるはずがない……ましてや、こんな小娘なんぞに!!」
狼狽するシノノメに向かって、ライルが笑みを浮かべて吼えた。
「おい、てめえ……!」
ラムパルドが、新たな岩塊を頭突きで粉砕する。
「うちの相棒をなめんなよ……。そいつの心は、何があっても絶対にへし折れない」
ライルは、起き上がろうとするルカを真っ直ぐに見据えた。
「そうだろ、ルカ!!」
「嬢ちゃん! 帰ってこい!!」
ロードも叫ぶ。
ルカは朦朧とする意識を、強引に覚醒させる。
鉛のように重い身体。割れるように痛む頭。
それでも両腕を床へ突き立てた。
「大したガキだ……」
ムクロの目が、僅かに見開かれる。
だが驚愕は一瞬だった。
すぐに傭兵としての冷徹な判断へ戻る。
「ハッサム! 容赦するな、止めを刺せ!」
ハッサムがすぐに反応し、戦場を駆け抜けた。
その瞬間。猛攻が緩んだ隙を見逃さず、ライルが腕を突き出す。
「頼む!」
鋼鉄の鋏が、無防備なルカへ振り下ろされた。
その刹那。
——ガキィィィン!!
激しい金属音が響き渡り、ハッサムの二つの鋏は弾かれた。
その前に居たのは、ライルが放ったタイプ:ヌル。
そして主の危機に自ら飛び出した、ルガルガンだった。
二体が、ルカを守るようにハッサムの前へ並び立つ。
「……ああ〜、クソッ」
その背後から、掠れた声が聞こえた。
「ルカ!!」
「何だとっ……!!」
ライルの顔に、安堵の色が浮かぶ。
シノノメは信じられないものを見るように後退した。
ルカは首を左右に鳴らしながら、ゆっくりと立ち上がった。
そして。
「……マジで最悪な寝起きだわ」
その瞳には、凄まじい闘志の炎が滾っていた。
「……よお、クソ教祖サマよぉ。随分な夢、見せてくれんじゃねえか」
ルカは、シノノメへ冷たい視線を向ける。
そしてタイプ:ヌルとルガルガンの横に立つ。
「まあ、久々に家族に会えたのは良かったぜ。言いたかったことも、全部ちゃんと言えたしな」
シノノメの顔から、先ほどまでの笑みは消えていた。
「そこだけはてめえに感謝してやるよ。だけどな——」
「貴様……!」
ルカは大地を踏み締めた。
シノノメを真っ直ぐに睨み据え、獰猛な笑みが浮かべる。
「ちょっと調子に乗りすぎだよ……てめえ、覚悟しろよ?」
目を覚ましたのは、いつものルカ。
何度絶望へ沈められても、必ず自分の足で這い上がる少女だった。