ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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第六十九話【凛と骸】

 

 シノノメの語る『理想郷』。

 悪夢の中で見たそれを、ルカは自ら振り切った。

 

 傷つき、泣いた。

 

 それでも、いまの彼女の瞳には光が宿っていた。

 それは、自分の居場所と、仲間を守るために戦うという、確かな意志だった。

 

 教祖——シノノメは、再び立ち上がった少女を前に目を見開いていた。

 

(小癪なっ……!)

 

 そして、叫ぶ。

 

「ゴルーグ! そんな小娘一匹、叩き潰せ!!」

 

 ゴルーグが、地響きを鳴らして進む。

 そして、その巨腕を振りかぶった。

 すると、ルカの左右からルガルガンとタイプ:ヌルが飛び出す。

 

 ——ガシィン!!

 

 ルガルガンは『ストーンエッジ』で巨腕を弾き、タイプ:ヌルは『アイアンヘッド』でゴルーグの突進を受け止めた。

 

「こやつ、また……!」

(タイプ:ヌル……! なぜ奴らの言うことを聞く……!?)

 

 ルカは教祖を一瞥した。

 

「分からねえやつだな」

 

 そして。

 

「見せてやれ、パオジアン!」

 

 復活した主人の声に、パオジアンは雄叫びを上げた。それと同時に、空中に氷塊を作り上げる。

 

 ——『つららおとし』が炸裂。

 

 次の瞬間、ゴルーグの巨体は大きく傾き、砕けた氷と共に床へ崩れ落ちた。

 

「ゴルーグッ……!」

 

「言ったろ? 教祖サマ。てめえだけレベルが合ってねえんだよ。従うそいつらが可哀想だぜ」

 

「クソ、クソッ……!こうなれば——」

 

 教祖の男は後ずさり、カラマネロと戦闘不能のゴルーグをボールへ戻す。そして、先ほどスーツの男たちが逃げ込んだ最奥の部屋へ、駆け込もうとする。

 

「おい、待て!慌てるな!!」

 

 ムクロが叫ぶ。

 

「やかましい!」

 

 シノノメも怒鳴り返した。

 

「ガライだ!ガライをここへ呼べ!!」

「……あ? なんだと?」

「お前など、もう頼りにならん! 簡単にここまで侵入を許す、貴様ら全員そうだ!」

 

 ムクロは教祖を睨んだ。

 

(チッ。もともと迎え撃てと指示したのは、どこの誰だってんだ)

 

 シノノメはなりふり構わなかった。

 

「ガライを呼び、この馬鹿どもを叩き潰させろ! 分かったな!!」

「……分かったよ」

 

 シノノメはそのまま、最奥の部屋へと走っていった。

 

「てめえ待てコラ!!」

 

 ルカが追おうとした瞬間。

 

「通させるな!!」

 

 ムクロの声に、まずセグレイブが反応。

 巨剣を振り回し、道を塞ぐ。

 そしてヘルガー、ハッサムもその隣に並び立った。

 

「くっ……!」

 

 ムクロは顔をしかめながら、無線機を取り出し、すぐに通信を繋ぐ。

 

「隊長。こっちへ来て、俺と交代してもらえますか? 『クライアント様』が完全に動転しちまってる」

 

        ◇ ◇ ◇   

 

 中央広場。

 

 シロナたちと激戦を繰り広げていたガライのもとへ、ムクロからの報告が入った。

 

 それは、雇い主からの要望。ガライは慌てず、前方の戦況を確認しながら、ムクロに尋ねる。

 

「何人いる?」

『ここへ来たのは三人です』

「足止めはできるか?」

『その程度なら問題ない。だが奴らのうち一人でも奥へ抜ければ厄介です』

「ならカラスも連れて行く。少し待っていろ」

『ええ。お願いします』

 

 ガライは通信を切り、声を張り上げた。

 

「カラス! リン! こっちへ来い!」

 

 二人はそれぞれの相手から一度引き、ガライのもとへ戻った。

 

「ちょっと!もう少しであの女に組みつけるところだったのに!」

「どうしたってんです?」

 

 総大将は簡潔に告げた。

 

「ムクロと交代する。カラス、俺と来い」

「いいんスか?」

「ああ、奴らとの戦闘経験を活かせ」

「……了解」

 

 カラスは獰猛に笑う。

 そしてガライはリンを見た。

 

「リン。お前はムクロが来るまで、ここで持ち堪えろ」

「はあ!? 冗談でしょ!」

 

 リンはエージェントたちを指す。

 彼らは反転ポケモン、兵団員たちとしのぎを削っていた。

 

「あんな面倒な奴ら、さすがに幹部一人じゃやってられないわよ!」

「落ち着け。そう時間はかからん」

 

 猛るリンに向け、ガライは淡々と告げた。

 

「ガチゴラスとジャラランガを置いていく。『あいつ』も呼べ。それと、メガシンカを解禁しろ。いいな?」

 

「もう! 分かったわよ!!」

 

 そう言うとリンは、戦場へと向き直る。

 深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

 ルカとアスナへの怒りを押し込み、冷静さを取り戻す。

 

 リンが右手の指輪を前へ突き出すと、裂け目が開き、巨体が這い出した。

 

 それは反転の鎖に縛られた——ヒードラン。

 

 その身体から放たれる熱が、周囲の温度を否応なしに上げていく。

 

 まだ終わらない。

 

「アブソル!!」

 

 反応したアブソルがリンの元へ戻る。

 すると今度は、複数の小さな裂け目が開く。

 そこから黒い煙が溢れ出し、アブソルを包んでいく。

 

 リンの狙いを察したデンジとアスナが、攻勢へ出ようとする。だがそこへ、バンギラスの『はかいこうせん』が割り込んだ。

 

 そして、アブソルを覆っていた霧から、眩い閃光が爆発した。

 

 現れたのは——『メガアブソル』。

 

 白い体毛が大きく伸び、背中には純白の翼を思わせる毛が広がった。頭部の角は鋭く、さらに巨大となり、凶兆を告げる姿へと変わった。

 

 メガアブソルと、反転のヒードラン。

 

 二体が前線へ並ぶと、ガチゴラスとジャラランガもその両脇を固めた。

 

「これが、メガシンカ……!」

 

 デンジが目を見開く。

 

「なんて力なの……!」

 

 アスナも、急激に増したプレッシャーを前に、表情を強張らせた。

 

 中央戦線が再び拮抗したことを確認し、ガライが右手の指輪を掲げる。

 指輪の光が空間を歪め、ガライとカラスの前に裂け目が開いた。

 

 カラスが笑いながらリンに言う。

 

「カカッ。死ぬなよ、リン」

「黙ってとっとと行け!!」

 

 ガライとカラスが暗闇に踏み込む。続いてバンギラス、カイリュー、オンバーン、僅かに遅れてスイクンが裂け目へと向かう。

 

 すぐさまシロナが叫んだ。

 

「追って!」

 

 ガブリアスとソウブレイズが即座に反応。

 続いて、エンテイとライコウも前線を駆ける。

 しかし、その進路へレジギガスと三眷属が立ちはだかった。

 

 構わず裂け目に足を踏み入れたスイクンを、ライコウが呼ぶ。

 

 ——兄弟!!

 

 その呼びかけに、スイクンの動きが僅かに止まった。ライコウは続ける。

 

 ——目を覚ませ!!

 

 スイクンは、視線だけをライコウへ向けた。

 

 ——ならば、私達を打ち破り、証明してみせてくれ。

 

 スイクンはそう答えると、暗闇の中へ姿を消し、そして裂け目は閉じた。

 

「どうする、シロナ!?」

 

 アデクがシロナを見る。

 ガライとカラスが揃って最奥へ向かう。

 それは、想定外の戦力移動だった。

 シロナは戦場を見渡し、僅かな思考の後に声を放った。

 

「ラティオス!ラティアス!」

 

 その声に、青と赤の竜が反応した。

 

「奥へ向かって!ライルくんたちを助けてあげて!」

 

 二体は短く鳴き、リンたちの頭上を抜ける。

 ガライとカラスを追い、最奥へ向かって加速した。

 

「私たちは、目の前の敵に集中する」

 

 悪化する戦況の中でも、シロナの声に迷いはなかった。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 その少し前の大広間。

 ライルたちの前には、ムクロが立ちはだかっていた。

 

 ルカがムクロを睨む。

 

「おい。お前一人で、あたしら三人を相手にできると思ってんのかよ?」

 

「どうだろうな」

 

 ムクロは僅かに肩をすくめた。

 その姿に、動揺や焦燥は見られない。

 

「勝つのは難しいかもしれんが——」

 

 そして、右手を持ち上げた。

 

「時間を稼ぐくらいなら、造作もない」

 

 指輪が赤黒い光を放つ。

 空間の裂け目から、黒い霧が次々と溢れ出す。

 

「メガシンカだ……!」

 

 ライルの言葉に、ロードとルカが構える。

 その間も、ドサイドンは『ロックブラスト』を続け、ライルたちの接近を許さない。

 

「ああ。そういえば、お前らはカラスのメガカイリューに手を焼いていたな」

 

 ムクロが指輪を見て話す。

 

「簡単に見えるかもしれんが、案外、センスが必要なんだ。エネルギーを流し込む要領だけじゃなく、出力の調整も、維持も難しい」

 

 黒い霧は、ムクロの手持ち三体、セグレイブ、ヘルガー、ハッサムを包んでいた。

 

「目眩しか?」

「どいつが強化されるか分からない……注意しましょう」

 

 ロードとライルの言葉に、ムクロが口角を上げた。

 

「どいつが……ね」

 

 そして、低く笑う。

 

「ガキ。さっきのお前の言葉を借りるなら——『なめんなよ』だ」

 

 瞬間、周囲に閃光が広がった。

 

 その光は、セグレイブ、ヘルガー、ハッサム、その全員を包んでいた。

 

「……冗談だろ?」

 

 ロードが、呟いた。

 ライルとルカは、言葉を失っていた。

 

 光が弾け、三体の姿が現れる。

 

 ——『メガセグレイブ』。

 

 全身から冷気を放ち、背中の氷剣は著しく肥大化。それは、厚い処刑刃を思わせる形状へ変わっている。

 

 ——『メガヘルガー』

 

 骨を思わせる装甲がさらに発達。全身から鋭い突起を伸ばしていた。その口元では、黒みを帯びた炎が揺らめいている。

 

 ——『メガハッサム』

 

 鋼鉄の身体は厚みを増し、両の鋏は一回り以上巨大になっていた。刃のような縁が、鈍い光を放っている。

 

 三体の横へ立つムクロが、ライルたちを一瞥した。

 そして、その視線はルカで止まる。

 

「さっきまでの勢いはどうした? クイーン」

 

 ルカは、ムクロを睨み返す。

 そしてライルに声をかける。

 

「まずいぜ、相棒……。幹部の奴ら全員、『コレ』できんじゃねえのか」

 

「……」

 

 ライルは答えられなかった。

 ミナモで、カラスがメガシンカを使った。

 それは、カイリューのみにだった。

 

(クソッ、何で考えつかなかった!?)

 

 ライルの焦る様子に、ムクロはまた口角を上げた。

 

(複数同時に使えるのは俺だけだ。まあ、隊長やカラスのような『爆発』は使えんがな)

 

 そして、冷徹な視線を三人へ向ける。

 

「さあ、隊長が来るまで、せいぜい命を繋いでみせろ」

 

 最深部目前。

 

 ライルたちの前に、これまでで最も高い壁が立ちはだかった。

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