ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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第七十一話【Take me to the top】

 

 空間の裂け目を抜けたムクロが目にしたのは、死闘の光景だった。

 

 『敵』の疲労の色は濃く、誰もが肩で息をしている。だがこちらも余裕ではない。

 

 広場には幹部リンと、兵団員の五人。

 レジギガスらに加え、メガアブソル、ヒードランもいる。物量では、反転ポケモンを有する天狼隊が、未だ優位を保っている。

 

 それでも、反転ポケモンたちは次々に解放され、その『ストック』は確実に減らされている。

 

 外の戦いも、恐らく拮抗しているだろう。

 

 同じく少数精鋭の両組織だが、彼ら——プラチナムからは、尋常ではない意志の強さが感じられた。

 

 ムクロは傭兵としての緊張の糸を限界まで引き締め、前線へと復帰する。

 何せ、今から自分が刃を交えるのは、この地方の絶対的な頂点なのだから。

 

 その姿に気づいたリンが声を上げる。

 

「ムクロ!おっそい!!」

「時間はそう経ってないだろ?」

「体感の話をしてんだよ!もし私がやられたら、てめえら三人とも呪ってやるからな!」

 

 現れた傭兵に、エージェントたちは息を呑んだ。

 

「奴が、ゲンジを破ったという兵か……」

「それにあいつは、ライルくんたちが相手にしてた奴じゃないの!?」

 

 テッセン、スズナの声を聞き逃さず、ムクロが不敵な笑みを浮かべる。

 

「早々に仕留めたんでな。こっちに出てきたよ」

 

 小さなどよめきが広がる。

 ライルたちが、討ち取られた可能性。

 その懸念がエージェントたちの頭をよぎる。

 

 ——そう、ほんの少し、それだけでいい。

 絆を大事そうにする奴らほど、そこを攻めれば脆いものだ。

 

 しかし、その弱気を一刀両断する、凛とした声が響き渡った。

 

「ハッタリね。もしそうなら、あなた一人だけで戻ってくる理由がない」

 

 その毅然とした言葉に、エージェントたちの間に安堵と闘志の空気が戻る。ムクロはシロナの言葉を聞いて、笑みを浮かべた。

 

 ——やはり、こいつらは面白い。

 

「さすがだな、チャンピオン。だが、この先も奴らが無事でいられる保証はないぜ」

 

 あの場に居るのは、ガライとカラスだ。

 やはりそれも、傲慢や挑発ではなかった。

 隣のリンが叫ぶ。

 

「おいムクロ!さっさと手を動かせ!」

「分かってる、急かすな」

 

 ムクロはボールからセグレイブ、ヘルガー、ハッサムを繰り出した。

 

 そして。

 

「セグレイブ!!」

 

 指輪が再び光を放ち、今度はセグレイブのみがメガシンカを遂げた。

 背中の巨剣が、プラチナムの防衛線に真っ向から襲いかかり、ヘルガーとハッサムも続く。

 ヒードランが吐き出す獄炎、メガアブソルが放つ斬撃。

 暴れ狂うレジギガスたちは、エンテイ、ライコウ、そしてシロナとアデクがなんとか押さえ込んでいる。

 それでも、天狼隊の波状攻撃の前に、プラチナムは追い込まれていく。

 

「シロナさん、このままじゃまずいです……!」

「一度、広場から退いて通路で体勢を立て直しますか!?」

 

 アスナとデンジが声を上げる。

 バシャーモ、エレキブルと共に、猛攻を凌いでいる。

 

「まだよ!」

 

 シロナが叫ぶ。

 

「退けば、また奥に戦力が向かってしまう。今はまだ、耐える時間。持ちこたえれば、必ずまた私たちの流れが来る!」

 

 やはりシロナは迷わなかった。

 その隣ではガブリアスが爪を振るい、ミロカロスが水流を放つ。

 

「前は、私と先生で絶対に抑える!反転ポケモンたちを、一匹でも多く解放して!」

 

 堂々たるシロナを見て、リンが言い放つ。

 

「……チッ。この組織の女は本当、気に食わない奴しか居ないわね!」

 

 戦いは中盤戦。

 互いの陣営が総力を挙げ、信念と意地をぶつけていた。

 

        ◇ ◇ ◇ 

 

 大広間の戦い。

 二人の傭兵がライルたちに立ちはだかる。

 

 総大将ガライ。

 バンギラス、スイクンに加え『ドドゲザン』を繰り出す。ジャラランガ、ガチゴラスを中央広場に残してなお、圧巻の布陣。

 

 幹部カラス。

 カイリュー、オンバーンに加え、プテラを繰り出す。カイリューを軸に、空中戦特化の二体を置く。死角のない包囲網。

 

 そして、反転のダークライ。

 

 巨大装置のある最奥へ向かうためには、この強固な壁を突破しなければならない。

 中央広場が『耐え忍ぶ戦い』であるならば、この大広間は『打ち破る戦い』だった。

 

 対するプラチナムの三人。

 

 ロード。

 ドラパルトとゲッコウガを引き続き前線へ。

 

 ライル。

 ガブリアスとグレイシアはそのままに。ゴウカザルを一度戻し、最も信頼するルカリオを、再び解き放つ。

 

 そしてルカ。

 パオジアン、ルガルガンに加え、エースのサザンドラを再び戦場へ。彼女が最も得意とする攻撃的な陣形。

 

 ルカは、ヌルの方を向いた。

 

「ヌル。お前は相棒のボールに戻ってろ」

 

 ヌルは、首を僅かに横に振る。

 しかし、ルカはそれを許さない。

 

「ダメだ、少し休んでろ!」

 

 それでも、そのすぐ後に表情を和らげた。

 

「心配すんな。力が必要な時は、また呼ぶさ」

「……グル」

 

 それを聞いたヌルはライルのもとへ走る。

 ライルもヌルを撫で、ボールへ戻す。

 カラスはそれを見て、ニヤリと笑った。

 

「場は整ったみたいだが、それだけで足りるのか?」

 

 七対八。

 頭数ではライルたちが有利だったが、二人の傭兵は落ち着いていた。

 

 だが、そのすぐ後。

 大広間の入り口から二つの影が飛び込み、風切り音がライルとルカに近づいた。

 

 それは、シロナが送った援軍。

 青と赤の竜。

 

「ラティオス!」

「ラティアス!」

 

 二体は、ライルとルカの声に反応して短く鳴き、左右に分かれた。

 ルカが振り返り、笑みを浮かべて言い放つ。

 

「わりいな。これが戦場なんだろ?」

 

 それでも、傭兵たちの表情は変わらない。

 

「オレや隊長には関係ねえよ。滾るだけさ」

 

 五人は構え、互いを睨み据えた。

 すぐには動かない。

 肌を刺すような緊張が、広間を包む。

 だが、それも長くは続かなかった。

 

 火蓋を切ったのは——。

 

「カイリュー!!」

「サザンドラ!!」

 

 ——『りゅうのはどう』。

 

 カラスとルカの声を合図に放たれた青い奔流は、ぶつかり合い、爆ぜる。

 

 それがそのまま——狼煙となった。

 

「ドラパルト!」

 

 ロードが叫んだ。ドラパルトが煙に紛れ、ダークライのもとへ急襲。

 

 影を縫う者同士の戦い。この場で最も厄介な技を持つダークライだけは、ドラパルトが相手をしなければならない。

 

 だが煙に紛れたのは一体だけではない。

 プテラとオンバーン。

 獰猛な爪と牙を剥き出しにして襲い来る。

 

「ラティオス!ラティアス!」

 

 ライルが叫び、青と赤の竜がジェットさながらに飛び出す。

 プテラとオンバーンへ猛襲し、火花が散る。

 

「ハハァ!因縁、再来だな!!」

 

 猛るカラスに、ルカが牙を剥く。

 

「撃ちまくれ!サザンドラ!!」

 

 サザンドラの三つの口元から、『りゅうのはどう』が放たれた。

 

 エネルギーは真っ直ぐ敵へ。

 しかし。

 

「スイクン、出ろ」

 

 低いガライの声に、スイクンが一歩前へ。

 

 そして——『れいとうビーム』。

 

 凝縮された氷撃が青いエネルギーを貫いた。

 そして、サザンドラへ向かう。

 

「ルカリオ、『はどうだん』!」

 

 ——ズドン!

 

 今度は青い弾丸が、氷撃の中心を捉えた。

 氷は弾け、空気中へ散らばった。

 

 短く、激しい最初の応酬。

 五人の視線が交差し、ポケモンたちが唸りを上げる。

 戦いは、さらに熱を帯びていく。

 

        ◇ ◇ ◇ 

 

 距離のある戦闘から、至近距離の肉弾戦へ。

 

「暴れようぜ、カイリュー!」

「バオォォッ!!」

 

 カイリューが床を蹴った。

 強靭な腕を振り、襲い来る。

 

「ガブリアス、迎え撃て!」

「ガァアッ!!」

 

 ガブリアスも正面から飛び込む。

 二体が激突し、衝撃が大広間を駆け抜けた。

 

 一撃目は互角。

 

 ガブリアスが『ドラゴンクロー』を振るう。カイリューは、ガブリアスの爪の根元を押さえ、尾を薙ぎ払った。

 ガブリアスは片腕を折りたたみ、受け止める。床を削りながら押し戻されるも、すぐに踏み込み、肩からカイリューへぶつかった。

 

 爪、拳、尾。

 間近で繰り出される攻撃が、次々と交差する。

 

「カカッ! いいねえ!」

 

 カラスが声を上げた。

 ガライも、ぶつかり合う二体を一瞥する。

 

「お前も出るか、バンギラス」

「グルル……」

 

 バンギラスが重い足音を鳴らし、前へ。

 

「ゲッコウガ、バンギラスへ向かえ!」

「パオジアン、ルガルガン!お前らはスイクンだ!」

 

 ロードとルカの指示に、三体が一斉に走り出した。

 ゲッコウガは『みずしゅりけん』を放ちながら駆ける。水の刃がバンギラスへ突き刺さるも、その歩みは止まらない。

 

 バンギラスが巨体を回転させ、太い尾を横薙ぎに振るった。ゲッコウガは床を蹴り、その一撃を飛び越える。

 

 しかし。

 その先には、『既に』右拳が置かれていた。

 

「『かみなりパンチ』だ」

 

 雷撃が空中のゲッコウガへ迫る。

 

「ゲッコウガ!身を捻ってかわせ!」

「コォッ!」

 

 ゲッコウガは身を翻し、バンギラスの右肩付近へ着地。そのまま、片手を岩の装甲へ向け、『ハイドロポンプ』を放とうとした。 

 

 しかし、バンギラスの方が速かった。

 首を捻り、『かみなりのキバ』でゲッコウガの腕へ食らいついた。

 

「ゲコォッ!!」

「ゲッコウガ!」

 

 ロードの声が響いた。

 

(後から動いた筈だろう! なぜゲッコウガより速い!?)

 

 バンギラスはそのまま、左の『かみなりパンチ』を構えた。

 

 そこへ再び、青い弾丸が飛来する。

 

 ——『はどうだん』。

 

 弱点を突く一撃が、バンギラスの首元へ。

 その直前、左拳の軌道が変わった。

 弾丸と雷撃がぶつかり、爆ぜる。

 その隙に、ゲッコウガは牙から離脱する。

 

 ライルは目を見開いていた。

 

(あのタイミングで、止めるのか……?)

 

 ——反応? 速度?

 

 その思考の合間、バンギラスは悠然と構えなおす。

 

 その反対側。

 パオジアンが、スイクンとの距離を一気に詰める。

 

 ——『せいなるつるぎ』。

 

 パオジアンがスイクンの横腹へ斬りかかる。

 だが、その横合いから別の影が飛び込んだ。

 

「ドドゲザン、『かわらわり』」

 

 ドドゲザンの腕が、振り下ろされる。

 

「させるな! ルガルガン!」

 

 ルガルガンが二体の間へ滑り込み、ドドゲザンの腕を突き上げた。

 『かわらわり』の軌道は逸れ、パオジアンはそのままスイクンへ。

 だがその時には、スイクンの口元に水流が溜められていた。

 

 ——『ハイドロポンプ』。

 

 押し戻されるパオジアン。

 そしてスイクンの視線がルガルガンへ移る。

 そのまま、水流を薙ごうとした。

 

 その時。

 グレイシアの『れいとうビーム』が届く。

 スイクンの水流と冷気が衝突する。

 水流は白く凍りつき、氷塊へと変わっていく。

 ルカはその隙を、無駄にしない。

 

「ルガルガン、『ストーンエッジ』!」

 

 せり出した岩がスイクンに直撃し、その体が浮く。

 追撃に動くルガルガン。

 

 だが再び、ドドゲザン。

 

 ——『ふいうち』。

 

 ルガルガンは辛うじて腕で受けるも、後方へ飛ばされた。

 

 まさに、一進一退の攻防。

 さらに。

 

 頭上では、ラティオスとラティアスが旋回する。プテラとオンバーンも速度を競うように飛び回っていた。カラスは、青と赤の竜を相手取り、なおカイリューにも指示を飛ばす。

 

「そこだ!右を入れろ!」

 

 ——ドカッ!

 

 カイリューの拳が、ガブリアスの頬を捉えた。

 

「ガァッ……!」

 

 続けて、太い尾がガブリアスの胴体へ迫る。

 ガブリアスは腕を上げるが、受け止めるには一瞬遅い。

 

「サザンドラ!」

 

 ルカの声が飛ぶ。

 

 三つの口から放たれた『りゅうのはどう』が、カイリューの横腹を狙った。カイリューは攻撃を中断し、翼を広げて上空へ逃れる。ガブリアスはすぐさま体勢を立て直した。

 

 ライルとルカは、一瞬だけ視線を交わす。

 そしてまた、突撃。

 

 パオジアンの牙と、ドドゲザンの大刃が火花を散らす。ルガルガンが加勢し、ドドゲザンを押し戻す。

 そこへスイクンが割って入る。

 

 戦況は、簡単には傾かない。

 

 バンギラスが砂塵を巻き上げ、ゲッコウガに襲いかかる。影の中では、ドラパルトとダークライが交差し合う。ガブリアスとカイリューが激突し、爪と拳がぶつかるたび、足元の床へ亀裂が走った。

 

 アジト最奥の決戦。

 

 一つでも戦線が崩れれば、そこから一気に呑み込まれる。それはプラチナム側だけでなく、傭兵たちも同じであった。互いの戦術が引き出されていく激闘。攻め込み、守り、崩れそうな穴をすぐに塞ぐ。

 

 敵味方に分かれた五人の戦いは、ある種、美しいバランスさえ保っていた。

 

 ロードは、ゲッコウガとドラパルトを動かしながら、戦場を見ていた。

 

(……恐ろしい二人だ)

 

 その視線の先にいたのは、ガライとカラスではなく、若き二人——ライルと、ルカだった。

 

 二人とも、突入開始から戦い続けている。

 自身も、手持ちも、疲労はあるだろう。

 だが動きは鈍らず、敵の攻撃へ対応するたび、次の指示が速く、鋭くなる。

 

 ライルが作った隙を、ルカが攻撃へ変える。

 ルカが強引に押し開き、ライルが戦線として維持する。二人は互いの狙いを理解し、戦いの形を変え続けていた。

 

 そうしているうちに、奇妙な感覚が二人を包み始めた。

 

(なんだ、これ? 次から次へと指示が出る……)

(すげえ、体と脳みそ止まんねえ。気持ちわりぃ〜)

 

 ライルが一段先へ進めば、ルカがそこへ追いつく。

 ルカがさらに前へ出れば、今度はライルが引き上げられる。

 

 ロードは、僅かに息を呑んだ。

 

(……突入してからですら、彼らは戦うたびに変わっていく。眼前の敵から学び、何より、互いの強さを食らい合って……今もなお成長しているんだ……!)

 

 それに気づいたのは、ロードだけではなかった。

 

「最高だなァ、お前ら……!」

 

 カラスが牙を見せて笑う。

 

「もっともっと見せてくれ!!」

 

 その時、カラスがふと横を見た。

 普段と変わらぬ表情で指示を続けるガライ。

 だが、その口元が、僅かに吊り上がっているように見えた。

 

「珍しいじゃないスか、隊長!あんたがそんなに楽しそうに戦うなんてな!」

 

「……何の話だ? 無駄口を叩かず集中しろ」

 

「いいや、無駄なんかじゃありませんよ!」

 

 カラスはガブリアスと打ち合うカイリューを見ながら、声を上げる。

 

「オレもリンもムクロも、隊長だってそうだ! オレたちは、戦いの中でしか生きられねえ!!」

 

「フン。お前と一緒にするな」

 

 ガライはそう言いながら、ライルたちを見据えた。

 

「だが確かに、久しく忘れていたよ。この感覚はな」

 

 ガライの目が鋭く細められる。

 

「貴様らなら……こっちにもついてこられるか?」

「ハハァ、隊長。あんたに乗りますよ」

 

 二人の傭兵が、同時に右手を突き出した。

 指輪から溢れ出した赤黒い光が裂け目を開き、黒い霧がバンギラスとカイリューを包み込む。

 

 周囲の空気が震え、二つの巨体の輪郭が、光の中で変わっていく。

 

 閃光が爆ぜた後、二体は姿を現した。

 

 ——『メガバンギラス』。

 

 ——『メガカイリュー』。

 

 そして、一歩前へ出る。

 その圧力だけで、先ほどまで拮抗していた戦場が揺らぎ始めた。

 

「来たな……!」

 

 ロードが二人へ声を飛ばす。

 

「お二人さん、まだやれるか!?」

 

 ライルとルカは、間髪を容れず答えた。

 

「はい!」

「あたりまえだ!!」

 

 ライルとルカは、互いの存在によって、ここまで引き上げられてきた。

 

 ならば、この先も同じ。

 

 二人は並んで、前を向く。





タイトルは、ある楽曲から拝借しました。
頂点へ連れて行ってくれ。
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