ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

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第七十二話【爆発】

 

 ——『メガバンギラス』。

 

 全身を覆う装甲は厚みを増し、背中から伸びる突起が大きく広がっていた。踏み出すほどに、巻き上がる砂が勢いを増す。

 

 ——『メガカイリュー』。

 

 丸みを帯びた体躯はそのままに、頭部には膨大なエネルギーを湛えた巨大な翼が広がっていた。その瞳は、純粋なほど無垢だった。

 

 ポケモンたちに牽制を続けさせながら、三人は一時的に距離を詰め、短く言葉を交わした。

 

「メガバンギラスとメガカイリューに戦力を振り分けましょう! ルカリオとグレイシアも前に出させます!」

 

「ああ。バランスを保ちながら、相手の隙を作るぞ」

 

「でも、引いてるだけじゃダメだ。長引くほど、相手のパワーに無理やりペースを持ってかれちまう。いざという時は、こっちも一気に決めに行くぜ!」

 

 三人は頷き合い、再び戦場へ散った。

 メガバンギラスには、ゲッコウガに加え、ルカリオとグレイシア。

 メガカイリューには、ライルとルカのエース——ガブリアスとサザンドラの二体が立ちはだかる。

 

 それ以外のポケモンたちは、先ほどまでの戦線を維持する。

 

「いいねえ! 滾ってくるぜ!」

 

 カラスが声を上げる。ガライは、何も言わず戦局を見ていた。

 

「ルカリオ!」

「ゲッコウガ、行け!」

 

 ルカリオとゲッコウガが同時に駆ける。

 メガバンギラスは動かない。

 その巨体の周囲で、砂塵だけが渦を巻いていた。

 

「グレイシア、『れいとうビーム』!」

 

 後方から氷撃が伸びる。

 

「『あくのはどう』」

 

 ガライの指示と同時に、メガバンギラスが黒い波動を放った。二つの技が正面から衝突し、冷気と黒煙が弾ける。

 

 その隙に、ルカリオが懐へ飛び込んだ。

 

「ルカリオ、『インファイト』!」

 

 拳を振り抜こうとした瞬間、太い尾が足元を薙ぐ。ルカリオは攻撃を中断し、後方へ跳んだ。

 

 反対側からゲッコウガが回り込む。

 メガバンギラスの振り向きざまの右拳に、雷が集まった。

 

 ——『かみなりパンチ』。

 

 ゲッコウガは身を低く沈め、その拳をかわす。

 

 その隙に再び接近するルカリオ。そしてゲッコウガと共に前後から挟み込もうとする。

 だが、メガバンギラスはその場で巨体を回転させた。

 

 右拳に『ほのおのパンチ』。

 左拳に『かみなりパンチ』。

 

 まるで二体が踏み込む位置へ、初めから拳を置いていたかのようだった。

 

 『ほのおのパンチ』がルカリオを、『かみなりパンチ』がゲッコウガを捉える。

 

「ルカリオ!」

「ゲッコウガ!」

 

 二体は左右へ弾き飛ばされた。

 

(やっぱり、『遅い』はずなのに、速い……!)

 

 ライルが息を呑む。

 

 メガバンギラス自体の動きが、突然速くなったわけではない。それでも攻撃は常に、こちらが動いた先へ置かれている。

 

「『いわなだれ』だ」

 

 ルカリオとゲッコウガの頭上から、無数の岩が降り注ぐ。

 

「グレイシア、『ふぶき』!」

 

 上に向かって放たれた冷気が、岩を白く凍らせる。二体は落下速度の鈍った岩の隙間を抜け、態勢を立て直した。

 

 グレイシアはそのまま『れいとうビーム』を放ち、それがメガバンギラスの胸部へ直撃する。しかし、メガバンギラスは僅かに後退しただけだった。白く凍った装甲を『ほのおのパンチ』で払い、再び構える。

 砂塵の中で、その耐久力も大きく増していた。

 

 一方。

 

 メガカイリューを前に、ガブリアスは鼻息を荒くしていた。

 ミナモ海岸で敗れた因縁の相手。

 その隣で、サザンドラも低い唸り声を上げている。

 

「行け、カイリュー!」

 

 メガカイリューが床を蹴った。

 ガブリアスが『ドラゴンクロー』で迎え撃つ。爪と拳が衝突し、二体の巨体が押し合った。

 

 そこへサザンドラの『りゅうのはどう』が迫る。だがメガカイリューは、ガブリアスの腕を押し上げながら身を翻し、その背後へ回った。

 

 行き場を失った『りゅうのはどう』が、ガブリアスのすぐ脇を通過する。

 

「危ねぇっ……!」

 

 メガカイリューは、二体を同時に相手取ろうとはしなかった。

 一方を壁として使い、もう一方の攻撃線から身を隠す。さらに『しんそく』で位置を変え、常に片方だけと向き合う状況を作っている。

 

 ガブリアスが追いつけば、サザンドラが遅れる。サザンドラが上空から先回りすれば、今度はガブリアスとの距離が開く。

 

 二体の力は、メガカイリューにも通用している。

 

 だが攻撃が、噛み合わない。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 高い天井付近では、ラティオスとラティアスがプテラ、オンバーンと激しく交差していた。

 

 牙と爪を振るう二体に対し、青と赤の竜は互いの死角を補いながら旋回し、その速度を抑え込んでいる。

 地上では、パオジアンとルガルガンがスイクン、ドドゲザンと対峙していた。

 パオジアンは速度を生かし、四方からスイクンへ斬りかかる。だがスイクンは流れるような足運びで攻撃を受け流し、ドドゲザンがその隙を埋める。

 どの戦線も、簡単には崩れない。

 

 ライルは、再びメガバンギラスへ視線を戻した。

 

 ルカリオとゲッコウガが左右へ分かれる。

 それより先に、メガバンギラスの身体が僅かに向きを変えた。

 

(まただ)

 

 後から反応しているのではない。

 こちらが動くより前に、攻撃が始まっている。

 

(反射でも、単純な速度でもない。だったら——)

 

 ライルはメガバンギラスではなく、その後方に立つ男——ガライを見た。

 戦場全体を見ながら、僅かに指と口を動かしている。メガバンギラスは、それを一瞥しているだけだ。

 

(こいつ……おれたちが次に何をするのか、先に読んでるのか?)

 

「もう一度だ! ルカリオ!」

 

 二体が同時に踏み込む。

 ルカリオが正面。

 ゲッコウガが背後。

 そしてグレイシアが、二体の攻撃に重ねるべく冷気を集め始める。

 その瞬間、ガライが口を開いた。

 

「バンギラス。そっちが『先』だ」

 

 メガバンギラスが、片足を床へ踏み込んだ。

 攻撃の狙いはルカリオでも、ゲッコウガでもない。

 離れた場所にいたグレイシアの足元が隆起する。

 

「しまった!」

 

 ——『ストーンエッジ』。

 

 鋭い岩が床を突き破った。

 

「キュイッ……!」

 

 グレイシアの身体が跳ね上げられ、床へ落下する。

 

「グレイシア!」

 

 ライルはすぐさま駆け寄った。

 グレイシアは身体を起こそうとするが、四肢に力が入らず、戦闘不能。

 

「休んでてくれ」

 

 ライルはグレイシアをボールへ戻す。

 援護に回る者を先に潰された。

 メガバンギラスの反応が速かったのではない。ガライが、次に戦況を動かす者を先に選んでいたのだ。そしてバンギラスはその意図を、寸分違わず理解していた。

 

 

 

 その頃。

 メガカイリューを相手取る二体にも、綻びが生じていた。

 

 ガブリアスとサザンドラ。

 ともに実力を認め合ってはいる。

 しかし二体はライルとルカのエース。

 それぞれの自負が、どちらが先にメガカイリューを止めるかということを、譲らせなかったのだ。

 

 ライルとルカのこれまでの戦闘の中で、この二体だけは、確実に連携を取ったことはなかった。

 

 メガカイリューは二体の重なった動きを見切り、攻撃の間を抜けていく。

 振り抜かれた拳がガブリアスの頬を捉え、続く尾がサザンドラを後方へ押し戻した。

 

 痺れを切らしたガブリアスとサザンドラは、互いを睨み、威嚇を始めた。

 

 主人達は、それを許さなかった。

 

「おいガブ!!何やってんだ、ちゃんとサザンドラと協力しろ!!」

「サザンドラ! お前もだ! くだらねえ意地で足引っ張るなら承知しねえぞ!」

 

 大好きな主人に叱られた二体は、一瞬だけ動きを止め、互いを見る。

 

「ガァア……!」

「……グルル」

 

 そして。

 二体は再び、メガカイリューへ向き直った。

 ガブリアスが先に飛び込む。

 

 『しんそく』で抜けようとしたカイリューを、無理矢理に抑え込んだ。

 メガカイリューはそれを無理矢理振り払う。ガブリアスはその剛腕を紙一重でかわし、すれ違いざまに『ドラゴンクロー』を見舞う。

 

 すると、メガカイリューがもう一方の腕でガブリアスを狙う。

 

 ——ガシッ、ガシッ!

 

 その腕に、サザンドラの左右の頭が噛みつき、止める。

 

「今だ、ガブリアス!」

 

 動きを止められたメガカイリューの胴体へ、ガブリアスの爪が突き刺さる。

 

「サザンドラ!やっちまえ!」

 

 続けてサザンドラが中央の口を開いた。

 至近距離からの——『りゅうのはどう』。

 爆発したエネルギーに、メガカイリューが初めて大きく後退する。

 

 不満そうに唸りながらも、二体は互いの位置を確認していた。

 攻撃を重ねるたび、その連携は噛み合っていく。

 

 ——その姿は、出会った頃には衝突を繰り返しながら、今では互いの不足を補い合うライルとルカにも似ていた。

 

「初めっからそうしろ! バカ!」

「よし、一気に畳みかけるぞ!」

 

 ガブリアスとサザンドラが、同時に踏み込んだ。

 

 その瞬間。

 

 ——ウゥゥゥゥゥン!!

 ——ウゥゥゥゥゥン!!

 

 大広間に警報が鳴り響いた。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 鳴り響くサイレン。

 

 壁に設置された赤いランプが一斉に点滅し、足元から低い振動が伝わってくる。

 

「なんだ!?」

 

 ライルたちの動きが止まる。

 ガライとカラスも、戦場の奥へ視線を向けた。

 

「……奴らめ、また勝手なことを」

「クソが。せっかく面白くなってきたところだってのによ」

 

 カラスは明らかに不満そうだった。

 鳴り続ける警報の中、ガライはライルたちへ向き直る。

 その表情からは、先ほどまでの愉悦が消えていた。

 

「悪いが、悠長に遊んでいる暇はなくなった」

 

 その言葉に、ライルたちは言いようのない不安を覚えた。

 

 ガライとカラスは即座に手持ちを動かした。

 スイクンとドドゲザン、プテラとオンバーンが、それぞれのボールへ戻される。

 ダークライもドラパルトの前から姿を消し、床へ広がる影の中へ沈んでいった。

 

「何か来るぞ!」

 

 ロードの声が飛ぶ。

 

 その直後。

 

 メガバンギラスとメガカイリューの身体から、赤黒いエネルギーが溢れ始めた。

 膨れ上がる力に二体の身体が軋み、周囲の空間が波打つ。

 

「なんだ、この力……!」

「おい、やべえぞ!」

「二人とも、こっちへ! 手持ちを集めろ!」

「全員!戻ってこい!」

 

 その声に、ポケモンたちが交戦を切り上げ、次々と三人のもとへ戻ってくる。

 

 ロードは『フォレトス』を繰り出した。

 

「フォレトス、『まもる』だ!」

 

 フォレトスを中心に、光の防壁が広がる。

 ポケモンたちも、ライルら三人同様にその背後に隠れる。

 ラティオスとラティアスもライルたちのいる後方まで下がり、エネルギーの障壁を身に纏った。

 

 だが、ガブリアスとサザンドラだけは、メガカイリューのすぐ近くにいた。二体は果敢にも、メガカイリューへ攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「待てガブリアス!戻れ!」

「サザンドラ!」

 

 ライルとルカは、それぞれボールを二体へ向けた。赤い光が二体を包みかける。

 しかし、間に合わなかった。

 

 

 次の瞬間。

 

 ——轟!!

 

 メガバンギラスとメガカイリューに蓄積されたエネルギーが、一斉に解き放たれた。

 赤黒い衝撃波が大広間を走る。

 

 フォレトスの『まもる』が激しく揺れ、ラティオスとラティアスの障壁にも亀裂が広がった。

 

 ライルたちは腕で顔を覆い、必死にその場へ踏み留まる。だが、防壁は最後まで衝撃を抑えきれなかった。

 

 光が砕ける。

 

 残った余波が、ポケモンたちと三人を押し流し、壁際へと叩きつけた。

 

「がはっ……!」

 

 ライルは床を転がり、辛うじて顔を上げた。

 周囲には、砂埃と煙が立ち込めている。

 防壁の内側にいたポケモンたちも、すぐには起き上がれない。

 

 そして、その先。

 

「ガブリアス……?」

「サザンドラ……!」

 

 爆発の中心に近かった二体は、互いに左右の壁まで飛ばされ、煙を上げながら倒れていた。

 

 ——どちらも動かない。

 

 ガブリアスとサザンドラは、揃って戦闘不能に陥っていた。

 

 放出を終えたバンギラスとカイリューも膝をつく。二体を包んでいたメガシンカの光が消え、元の姿へ戻っていった。

 

 ガライとカラスは、それぞれをボールへ戻す。

 

「クソッ……何が起きたってんだ……」

 

 ルカが床へ手をつきながら、倒れたサザンドラを見た。均衡していた戦いは、たった一度の『爆発』によって崩された。

 

 ガライはライルたちを見下ろし、隣のカラスへ告げる。

 

「奥に様子を見に行く。カラス、ここの後始末を任せるぞ」

 

「……了解、隊長」

 

 カラスは首を鳴らし、プテラとオンバーンを再び繰り出した。

 

「これじゃ、もう痛ぶっても何の味もしねえ。サクッと終わらせますよ」

 

 ガライは、最奥の部屋へと向かっていく。

 ライルたちは立ち上がれないまま、近づいてくるカラスを睨んだ。

 

 ロードの傍らには、衝撃で砕けたデバイスと解析端末が転がっていた。

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