ポケットモンスター Agent PLATINUM   作:ミノワ

73 / 73
第七十三話【失敗?】

 

 表の世界。

 

 ギラティナを留まらせ続ける戦いにも、反転世界で起きた変化は確実に現れていた。

 地の底か、どこか遠くから響いてくるような、サイレンのような微かな重低音。

 

 それを、表陣営の全員が敏感に捉えていた。

 しかし、何よりも異常だったのは、反転世界の王——ギラティナそのものの変貌だった。

 

 背後にいくつもの裂け目が開いた。

 そして六本の触手のような翼、全身の装甲の隙間へ、黒々としたオーラを吸い込んでいく。

 その影響なのか、体躯はさらに肥大化し、目は赤く血走っていた。吐き出される息の一つ一つが、居合わせる者に言いようのない恐怖を与えている。

 

「……なんなの、これ……っ。空気の重さが、さっきまでと全然違う……!」

 

 ナギが声を上げた。

 

 また、変化はそれだけに留まらなかった。

 ダイゴらの奮闘によって、動きを抑制されていた反転ポケモンたち。

 その彼らまでもが、ギラティナと同質の禍々しい黒いオーラをその身に纏い、パワーアップを始めたのだ。

 四人の兵団員たちの間にも、動揺が広がっている。

 

 ダイゴは目を細めた。

 

(彼らにとっても予想外ということか……?)

 

 フウロも驚きの声を上げる。

 

「……そんな……! 反転ポケモンたちが……どんどん強化されていく……!」

「……ダイゴさん、これをどう見ます?」

 

 カゲツが隣のダイゴに視線を送った。

 

 メタグロスを傍らに立たせ、戦況を凝視していたダイゴは、その顔を険しく歪めた。その耳にデバイスを当てていたが、やがてそれも離れた。

 

「……おそらく、アジトにある『装置』に何らかの異常が起きた。蓄えられていたエネルギーが反転世界から溢れ出し、ギラティナたちにパワーを与えている……。その影響なのか、シロナと通信が繋がらない」

 

「そんな……じゃあ、作戦は失敗したってことですか……!? 中に突入したみんなは、無事なの!?」

 

 ナギの悲痛な叫び。

 ダイゴはすぐには答えない。

 

 ——これは、おかしい。奴らは、エネルギーを貯め込んでいたはずじゃなかったのか?

 

(……これではまるで、全てを——)

 

 目の前の異様な光景を目にし、ダイゴは口を閉じた。

 

 ——しかし。

 

 レックウザだけは、眼前の巨大な脅威を真っ向から捉え続けていた。

 黒い霧が山頂を覆い尽くそうとするその中で、レックウザの体躯が、内側から激しく脈動を始める。

 それは、眩いばかりに輝くエメラルド色の光となり、明滅を始めていた。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 反転世界内、中央広場。

 天狼隊の幹部二人は不快感を露わに吐き捨てていた。

 

「これ、隊長が話してたやつじゃないの!? これも『クライアント様』のご意向ってわけ!?」

「チッ。あの臆病野郎がそこまで取り乱していたとはな……」

 

 ムクロは忌々しげに最奥の方向を睨む。

 

(隊長も承知の上なのか? こうなると後が読めん、俺たちも身の振りを考えなきゃならんな)

 

 ここでも、エネルギーの濁流は止まらない。メガシンカの光を纏っていたムクロのセグレイブ、リンのアブソル、そして反転の鎖に囚われたポケモンたちの肉体へ、人智を超えた暴力的なパワーアップが強制的に施されていく。

 

「仕方ねえ。ケリをつけるぞ」

 

 そして再び、ヘルガー、ハッサムがメガシンカを果たした。

 光から現れた二体は咆哮を上げ、反転ポケモンたちと共に、プラチナムのエージェントたちへ、かつてないほどの苛烈な猛攻撃を加え始めた。

 

 しかし、周囲に居た無数の反転ポケモンたちは、すでに残り数十体ほどにまでその数を減らしていた。

 

 シロナの指示通り、エージェントたちが身を削りながら、最優先で彼らの「解放」を続けてきた成果。反転ポケモンを減らしていなければ、戦況はさらに悪化していただろう。解放を優先したシロナの判断が、最悪の結果を避けていた。

 

 ——かといって、目の前の幹部たちが放つ脅威が消え去ったわけではない。

 

「何だってんだ!? あのサイレンが鳴り響いた後から、敵の動きがとんでもなくイカれ始めやがったぞ!!」

 

「……おそらく、装置に何かが起きたのだろうな……エネルギーが逆流している」

 

 マキシの問いに、アデクが答えた。

 

「……そんなっ……!!」

 

 アスナも驚きの声を上げる。

 ライルたちが突入したにもかかわらず、装置は止まるどころか、蓄えていたエネルギーを吐き出し始めた可能性がある。

 

 

 では、彼らは——?

 

 

 最悪の懸念が再びエージェントたちの脳裏を過り、絶望が彼らを呑み込もうとした。

 

 数人の動きが、僅かに鈍くなる。

 

 しかし、その状況にあっても、プラチナムのリーダーは決して戦うことをやめなかった。

 

 相棒のガブリアスと共に、周囲の反転ポケモンを解放し、強化されたメガシンカの猛威へ死力を尽くして戦い続ける。

 

「まだ終わっていない!!全員、立ち向かいなさい!!」

 

「……でも、ライルくんたちが、もしかしたら、負けてしまったんじゃ……っ」

 

 弱気な声を、シロナは一刀両断する。

 

「それなら、この状況を打開して、決めていた通りに代わりの者が奥へ向かう。不測の事態が戦いを止める理由にはならない」

 

「でも——」

 

 シロナは鋭く、そして美しく吼えた。

 

「我々が諦めれば、世界はどうなるの? 守りたいものを、理不尽な力で奪われたくないのなら、その手で……その足で! 最後まで戦い抜きなさい!!」

 

 チャンピオンの檄が、広場に響き渡った。

 動揺しかけていたエージェントたちが、再び前を向く。

 疲労は消えず、敵はさらに強化された。

 それでもプラチナムの戦線には、再び戦う意志が戻っていた。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 そして、反転世界の奥の間。

 

 激しい余波の嵐が過ぎ去った後、戦場には重苦しい虚無感が立ち込めている。

 

 ライル、ルカ、ロードの三人は、激痛に耐えながら何とか地面に手を突き、起き上がることまではできた。

 しかし、全員が肩を上下させて息を荒げている。ライルたち同様、『まもる』の後ろにいたポケモンたちも風圧で吹き飛ばされており、ダメージは少なくない。

 何より、絶対的なエースであったガブリアスとサザンドラは、戦闘不能に陥っていた。

 

 未だに反撃の態勢を整えることすらままならず、さらに眼前の煙を裂いて、プテラとオンバーンを引き連れたカラスが、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「……万事休すか……クソッタレめ……」

 

 ロードすらも憎まれ口を叩き、ライルとルカは思考を回転させるが、この状況を覆す勝ち筋を見出すことができていない。

 

 『敗北』、そして死の予感が体の中を冷たく這い回る感覚。

 

 

 

 その時。

 

 ライルの腰元で一つのボールがひとりでに開いた。放たれた白い光が、三人の前へ集まっていく。

 

 現れたのは、鎧の戦士——タイプ:ヌル。

 

 ヌルは銀色の前脚で大地を踏み締め、ライルとルカを守るようにカラスの前へ立ちはだかった。

 その姿に、カラスが僅かに眉を動かした。

 

 しかし、誰よりも驚いていたのは、ライルとルカだった。

 

「……おい、ヌル!お前、何やってんだよ……っ!」

 

 ルカが裏返った悲痛な声を絞り出す。

 その様子を見て、カラスは憐れむような声を上げながら、肩をすくめた。

 

「なんだぁ? まだへこたれてねえのかよ。人造の『失敗作』のくせに、態度だけは一丁前か」

 

「……人造……『失敗作』だと? ……何の話だ?」

 

 ライルの鋭い声に、カラスは呆れたような顔を見せた。傍らに立つプテラの翼へ手を置き、言葉を続ける。

 

「何だ? てめえら。ここからそいつを連れ出したくせに、何にも知らねえで使ってんのかよ?」

 

 カラスは笑い、そして告げた。

 

「——まあいいや。このまま始末してやるのもつまらねえからな。冥土の土産に、そいつの『正体』を教えてやるよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた(作者:暁刀魚)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

どんな人生を送っていても、異世界でチート美少女になればやり直せると思っていた。▼でも実際にそうなった時、ミツキは自分の生き方を変えようとして挫折した。▼そして逃げるように冒険者となった時、気づいてしまったのである。▼力も容姿も手に入ってしまったから、これ以上を望む必要がない、と。▼今の彼女に残っているのは、いかにノンストレスに生きるかということだけ。▼これは…


総合評価:19428/評価:8.8/連載:55話/更新日時:2026年10月12日(月) 18:05 小説情報

【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜(作者:ペンギンって可愛いですよね)(原作:推しの子)

表紙イラスト↓▼【挿絵表示】▼世界的な名声を得た天才外科医は、数え切れない命を救った末、過労によりその生涯を終えた。▼――しかし、目を覚ますと彼は記憶を持ったまま、日本で赤ん坊として転生していた。▼二度目の人生でも迷うことなく外科医の道を選び、再び天才と呼ばれるまでに成長した彼は、都内の大学病院へ勤務することになる。▼病院の近くへ引っ越し、新たな生活を始めた…


総合評価:5620/評価:5.84/連載:69話/更新日時:2026年10月01日(木) 21:00 小説情報

TSマルフォイの純血主義を矯正したら高飛車ツンデレ幼馴染(傲慢持ち)になった件(作者:マルフォイは貧乳だろボケがふざけんな)(原作:ハリー・ポッター)

チートオリ主がTSドラ子の純血主義を矯正しようとしたらデコ出しツンデレ美少女になったし、どうせ後々外堀埋められる。▼※プロット自力、手直し&所々人力。基本ベースはAI執筆です。


総合評価:19382/評価:9.09/連載:11話/更新日時:2026年11月01日(日) 13:31 小説情報

後世の歴史家いわく、俺は面従腹背の成り上がり復讐者らしい(作者:トマトルテ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

偶々、公爵家の四男として生まれて、家が冤罪で取り潰されて、家族も全員処刑された後に、皇帝まで成り上がるだけなのに、何故?▼2026年9月23日お知らせ。▼現在、GA文庫様より本作の書籍化が進行中です。▼順調にいけば、来年に出版になるそうです。▼これからも応援よろしくお願いします。


総合評価:20241/評価:8.84/連載:22話/更新日時:2026年10月28日(水) 07:00 小説情報

卍解までは転生者の嗜み。(作者:点差惨敗)(原作:BLEACH)

ナチュラルボーンド畜生主人公が無双する話


総合評価:50986/評価:8.94/連載:51話/更新日時:2026年11月01日(日) 12:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>