ポケモン LEGENDS プラチナム   作:ミノワ

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第七十五話【全員の戦場】

 

 呪縛から解き放たれたシルヴァディへ、オンバーンの攻撃が迫る。

 

「ヌル、危ない! よけろ!!」

 

 ルカが叫ぶ。

 しかし、シルヴァディはこれまでの鈍重な動きが嘘だったかのように、華麗な身のこなしでオンバーンの牙を回避してみせた。

 

「は? 何だその身軽さ……!」

「マスクが取れて重さが無くなったんだ、これがきっとヌル本来のスピードなんだ!」

 

 ルカの驚愕の声に、ライルが返した。

 それでもオンバーンは、身を翻し、再びシルヴァディに迫る。

 しかし、シルヴァディはこれまでとは違った。

 先ほどの回避の勢いを、そのまま攻撃の推進力へと変換し、真っ向から『マルチアタック』を叩き込んだ。

 

 ——ドガァァァン!!!

 

 オンバーンは壁に強く叩きつけられ、そのまま地面へ落下した。直前までラティオスたちと戦い続けていたその体を沈めるには、十分すぎる一撃だった。

 

「……マジか……?」

 

 カラスは目を見開く。シルヴァディは雄叫びを上げ、獰猛な瞳でカラスを真っ向から見定めた。

 

「……おもしれえな、ついさっきまで出来損ないだったやつがよ。だが、お前らの絶望は何も変わっちゃいねえ、そうだろうが!!」

 

 カラスが吠えた。

 カイリュー、プテラも再び構える。

 

 

 刹那。

 ここまで戦況を見極めながら、反撃の機を窺っていたロードの鋭い叫びが轟く。

 

「今だ!」

 

 ドラパルトとゲッコウガが、カラスたちの視界を遮るように激しく襲いかかる。

 

「ここは俺が受け持つ! 二人とも奥へ行け!!」

 

「ロードさん!!」

 

 先ほどの『爆発』によって、ロードのデバイスと解析端末は壊れていた。装置を停止させる手段を失った以上、自分がカラスを引き受け、二人を先へ進ませる。それがロードの選んだ策だった。

 その覚悟に反応したのは、ライルとルカの二人だけではなかった。

 

 僅か後方に居たラティオスとラティアス。二体が、ライルとルカの周囲を旋回し始めたかと思うと、突如として——二人のバングルが、まばゆい光を放ち始めた。

 

 ラティオスはライルの隣へ。

 ラティアスはルカの隣へ。

 そして二体から言葉のイメージが流れ込む。

 

 ——私たちを信じて!

 ——その目で、しっかり見ておけよ。

 

「「……ああ、わかった!!」」

 

 二人は促されるまま、その体に触れる。

 すると、温かいエネルギーの奔流が、二体の竜を包み込み、球体のように形を変えた。

 

 ——バキィィィン!!

 

 その光が弾けた瞬間。二体の竜は美しくも鋭利な、紫色の姿へと変わっていた。

 

「これは……!? メガシンカ……なのか!?」

 

 『メガラティオス』と『メガラティアス』。

 

 二体はずっと見ていた。仲間に寄り添い、互いの不足を補い合いながら、強大な敵へ立ち向かい続ける、二人の姿を。

 その信頼に応えるように、二人のキーストーンとラティオスたちは共鳴した。

 

 いま、ここで、初めてライルとルカによるメガシンカが果たされた。

 

 二体はそのまま、ガブリアスとサザンドラのもとへ滑り込み、その体から、癒しの波導を放った。

 波導を受けたガブリアスとサザンドラは、やがて、よろめきながらも起き上がった。

 

「……なに!?」

 

 カラスは驚嘆の声をあげた。

 

 だが二体の傷は深く、息も整っていない。最後に戦うための、僅かな力だけが戻った。

 それでも主人と共に進むため、ガブリアスとサザンドラは咆哮を上げる。

 ライルとルカは、ロードが開いた突破口を逃さず、教祖とガライが進んだ大広間の左後方——最奥の部屋へ猛然と走り出す。

 ガブリアス、サザンドラたちも後に続き、カラスたちがその進軍を追わないよう、ゲッコウガとドラパルトが援護する。

 

 ライルとルカは振り返り、叫ぶ。

 

「ロードさん!『先』に行きます!」

「そいつをぶっ倒したらすぐにこいよ!!」

 

 ロードは手を上げた。

 また、ラティオスとラティアスは短く頷き合う。

 ラティオスはライルたちを追い、ラティアスはその場に残り、ロードの脇へと降り立つ。

 

 同時にロードは、『オオスバメ』とメタモンを繰り出した。

 

「中央広場に向かってくれ。シロナさんたちに、こっちはまだ戦っていると伝えるんだ」

 

 二体は頷いた。

 オオスバメはメタモンを乗せ、大広間を後にする。そしてロードは、カラスに向き直り、不敵に言い放つ。

 

「……さあ、絶望すんのはどっちだ?」

 

        ◇ ◇ ◇

 

 表の世界、テンガン山頂。

 

 ギラティナとレックウザは、激しい戦いを続けていた。

 

 だがギラティナは、時間を追うごとに力を増していた。一方で、あまりにも急激な力の流入に、振り回されているように見える。

 それでもレックウザへの猛攻は止めない。

 レックウザは、メガシンカを果たすための隙を見いだせずにいた。

 

 そして、その眼下。

 

「とどめだ!」

 

 ダイゴの声に応え、メタグロスとボスゴドラが鋼の腕を振り抜く。兵団員の最後の手持ちが地面へ倒れ、その主も膝をついた。

 

「これで、全員だな……!」

 

 カゲツが息を整えながら告げ、兵団員を拘束していく。その隣の戦場では、ナギとフウロが、反転ポケモンたちの進行を食い止めている。

 

「エアームド、もう一度!」

「スワンナ! 押し返して!!」

 

 しかし、彼女たちのポケモンは疲労により、動きも技の威力も落ちていた。対する反転ポケモンたちは、ギラティナ同様に力を増している。

 

 ダイゴは、戦場全体の様子を眺めていた。

 空ではレックウザが押されつつあり、ギラティナはパワーアップを続けている。フウロとナギの防衛戦はギリギリだ。

 

 そして——反転世界の内部。

 突入した仲間たちは、全員無事なのか。

 

(いま、どう判断するべきだ?)

 

 逡巡はほんの一瞬だった。

 だがその間に、戦況が動く。

 

 

 

 ——ドカァン!

 

「エアームド!」

「スワンナ!」

 

 激しい音と共に、ナギとフウロの防衛戦が突破された。黒い力を纏った一団が、エアームドたちを弾き飛ばした。

 守りを失ったナギとフウロへ、反転ポケモンたちが一斉に迫る。

 

「ナギ! フウロ!!」

 

 ダイゴはメタグロスを二人のもとへ向かわせようとした。

 しかし。

 

(まずい、間に合わない……!!)

 

 

 

 

 その時。

 上空から、無数の流星が降り注いだ。

 ——ヒュン……ヒュンヒュンヒュン。

 

 ダイゴが気づく。

 そして、それがどこから放たれたものかを確認した瞬間——判断を下した。

 

「メタグロス、『サイコキネシス』だ!」

「メタ!!」

 

 念力が反転ポケモンたちを包み、一箇所に押し留める。そして、その塊へ、流星が降り注いだ。反転ポケモンたちはそのダメージに耐えかね、次々と空間の裂け目を開き、押し戻されていく。

 

 ダイゴはそれを見て、叫ぶ。

 

「カゲツ、ナギ、フウロ!上だ!」

 

 三人は顔を上げ、そして、見た。

 群青の影と共に、猛烈な勢いで舞い降りてくる、その男を。

 

「『彼』と一緒に、あの裂け目から反転世界へ飛び込め!!」

「「「了解!!!」」」

 

 全員が即座に動き、反転ポケモンたちが『戻るための穴』へ飛び込む。先頭を切ったその男と目を合わせたダイゴは、頷き合った。

 

 

 

 全員が飛び込んだ後、穴は閉じた。

 ダイゴはそれを確認し、メタグロス、ボスゴドラに加え、次々と手持ちを繰り出す。

 

 ——『アーマルド』、『ユレイドル』。

 

 そして懐から、キーストーンの嵌ったバングルを取り出した。彼の視線の先にいたのは、ギラティナだった。

 

「さて、みんな。準備はいいかい?」

 

        ◇ ◇ ◇

 

 反転世界内、中央広場。

 

 シロナの檄によって前を向いたエージェントたちだったが、その防衛線は、今度こそ限界に近づいていた。

 エンテイとライコウは、レジスチル、レジアイス、レジロックの三体を追い詰めていた。だが、その王であるレジギガスは、いまだ健在だった。幾度も巨神の攻撃を受けたエンテイとライコウは、すでに激しく消耗していた。

 

 無数にいた反転ポケモンは、残りはわずか。

 だが、一体ごとの力が増したことで、エージェントたちの手持ちは次々と追い込まれていく。

 その中でシロナとアデクは、限界を超えてなお、前線を支え続けている。

 

 そこへ、ムクロのメガセグレイブが突撃した。

 

「ガブリアス!」

 

 シロナのガブリアスが爪を振るい、メガセグレイブの巨剣を受け止める。衝撃に床が軋む。

 その横を、リンのメガアブソルが放った斬撃が走る。アデクのシュバルゴが身を滑り込ませ、角で軌道を逸らした。

 

「チッ、しぶといわね!」

 

 リンが吐き捨てる。

 ガブリアスとシュバルゴはすぐに構え直したが、ほんの僅かに足並みが乱れた。

 その隙を、天狼隊は見逃さない。

 反転の鎖に囚われたヒードランが前へ出る。その口元へ熱が集まり、赤い光がシロナとアデクへ向けられた。

 

「くっ……!」

 

 灼熱の光が放たれようとした、その瞬間。

 中央広場の天井付近に、裂け目が開く。

 そこから、流星が降り注いだ。

 

 シロナは天井を見た。

 

 ——それは『りゅうせいぐん』だった。

 

 周囲の者たちが驚く中、シロナだけは目を見開かなかった。待っていた合図を確かめるように、僅かに息を吐く。

 

 流星はヒードランの攻撃を打ち消し、兵団員や反転ポケモンたちの周囲へ次々と着弾した。爆風と煙が広がり、両陣営の間に距離が生まれた。

 やがて煙の向こうから、群青の体躯と真紅の翼が姿を現す。

 

 ホウエンの竜——ボーマンダ。

 

 その背には、傷を負いながらも真っ直ぐ前を見据える、一人の男が乗っていた。

 

「ゲンジさん!」

 

 エージェントたちから声が上がる。

 

 ゲンジはボーマンダから降りると、シロナへ視線を向けた。

 

「遅くなった、シロナ」

「いいえ、十分です」

 

 二人は短く頷き合った。

 

「おい、ゲンジ!」

 

 アデクが怒鳴る。

 

「お前、入院しとっただろうが!」

「世界の危機に、どうして私一人だけが寝ていられますか!」

「このバカ真面目が!」

 

 ゲンジは、アデクの怒声に笑顔だけを返した。続いて裂け目から、三人の影が中央広場へ降り立つ。

 

 ——カゲツ、ナギ、フウロ。

 

「みんな!私たちも来たよ!」

 

 負傷したエージェントたちの表情が、僅かに明るくなる。

 

「ダイゴさんはどうした!? 一人で残ったのか?」

「ダイゴさんの指示だ! あの人なら、問題ない!」

 

 マキシの問いに、カゲツが答える。

 

 度重なる救援。

 兵団員たちの間に、動揺が走る。

 だが、ムクロとリンは退かなかった。

 

「なに? 少し増えたくらいで、もう勝ったつもり?」

「ああ、気に食わんな」

 

 二人のもとへ、セグレイブ、ヘルガー、ハッサム、アブソルが戻る。メガシンカの四体が並び立ち、改めてプラチナムの面々へ構えた。

 

 アデクが苦い顔を見せた。

 

「どうじゃ、ゲンジ。病み上がりには堪えるだろう?」

「ええ、本当に。歳は取りたくないものです」

 

 ゲンジはボーマンダの首筋へ触れ、シロナへ尋ねた。

 

「シロナ、指示をくれるか?」

「ありがとうございます。ゲンジさんは、あの女の傭兵をお願いします」

 

 シロナは続けて、アデクへ視線を向けた。

 

「先生は、エンテイ、ライコウと共に、レジギガスを」

「わかった。現場の指揮もワシに任せておけ」

「助かります」

 

 シロナは、ムクロを見据えた。

 

「——あの男は、私がやります」

 

 その言葉に、ゲンジとアデクが答えた。

 

「ああ、任せたぞ」

「うむ。思う存分、暴れてやれ!」

 

 ムクロはシロナへ不敵な笑みを返した。

 

「チャンピオン直々か。悪くない」

 

 それぞれが持ち場へ動こうとしたとき、ゲンジが声を上げた。

 

「誰か、スピードに自信のある者はいないか! ライルくんたちへ届けてほしい物がある!」

 

 一瞬、広場が静まり返る。

 奥へ進んだライル、ルカ、ロードが、今も無事でいる保証はない。

 それでも、デンジがすぐに前へ出た。

 

「それなら、俺のサンダースに任せてください」

 

 繰り出されたサンダースが、ゲンジのもとへ駆け寄る。ゲンジはゼンノから託された包みを、その背中へ括りつけた。

 そのとき、奥へ続く通路から羽音が近づいてきた。

 

 一匹のオオスバメが、メタモンを背に乗せて広場へ飛び込んでくる。

 

「オオスバメ……?」

「そのメタモンは……ロードくんの手持ちね」

 

 シロナの言葉に、周囲の視線が集まる。

 メタモンはオオスバメの背から床へ降りると、すぐに姿を変えた。

 

「モン!」

 

 最初に現れたのはドラパルト。続いて、ライルのガブリアス。そしてルカのサザンドラ。

 三体の姿を順に取ったメタモンは、戦う動きを見せたあと、奥へ続く通路を示した。

 

 スズナが、その意図に気づく。

 

「もしかして……この奥で、ライルくんたちはまだ戦ってるの?」

「モンモン!!」

 

 メタモンは大きく跳ね、何度も頷いた。

 その反応を見て、広場にいた者たちの表情が変わった。

 

「三人は、まだ無事なんだ!」

「なら、私たちも負けていられないわね!」

 

 デンジはサンダースの背中に括られた包みを、もう一度確かめる。

 

「頼んだぞ。必ず届けてくれ」

 

 サンダースは床を蹴り、奥へ続く通路を駆け出した。

 その姿を見送ったシロナが、右腕を掲げる。

 

「全員、ここが正念場よ」

 

 エージェントたちが、それぞれの相棒と共に前を向く。

 

「必ず勝つ!!」

「「「応!!」」」

 

 鬨の声が、中央広場に響き渡った。

 

        ◇ ◇ ◇

 

 最奥の間へ向かう途中。

 

「ルカ、教祖の正体は、多分シノノメだ」

「……やっぱりか」

 

 ライルとルカは走りながら、言葉を交わしていた。

 

「やっぱりって、分かってたのか!?」

「ああ。夢の中に囚われてたとき、何となく周囲の音が聞こえてた。いまお前から聞いて、すんなり腹落ちする感じがした」

「本当かよ、すげーな」

「……あいつも、あの日のアローラに居たってことだよな。……誰を失ったのかは知らねーが」

「……どんな事情があろうと、おれはあいつを許すつもりはないからな」

「当然だろ? あたしもだよ!」

 

        ◇ ◇ ◇

 

 アジト最深部、中枢装置の間。

 

 部屋の中央には、円筒状の巨大な装置が鎮座していた。赤黒い光が脈打ち、そこから伸びる導管を通じて、蓄積されていたエネルギーが送り出されている。各所の計器は限界値を示し、警告音が絶え間なく鳴り続けていた。

 

 ガライが部屋へと足を踏み入れたとき、スポンサーの三人はすでに、床に倒れ伏していた。

 その側にはカラマネロと、激しく肩で息をする教祖の男が立っていた。

 

「……ハァ……ハァ……いちいち小煩い奴らめ……! 黙っておれば良いものを……」

 

 ガライは歩み寄り、教祖もそれに気づく。

 

「おお、ガライ、きたか! 雑魚共は叩き潰したのだろうな?」

「……奴らは虫の息だ。それよりも——」

 

 ガライが、教祖が手にしている端末を一瞥した。それはかつて、教祖がガライに話していた、装置に蓄積したエネルギーを強制放出させるための端末だった。

 

「なぜこのタイミングで始めた? せっかく溜めたエネルギーを、全て使い切る気か?」

 

 ガライは表情一つ変えず、静かな怒りを孕んだ声で教祖を問い詰めた。

 

「貴様の部下が役に立たんからよ! あれよあれよと言う間に攻め込まれおって! こんな段階でやられるくらいなら、エネルギーも戦力も、いくら減らそうと構わん! 奴らを確実に叩き潰す……! そしてやり直しだ!」

 

「……そうか」

 

 ガライはより一層冷たい視線を、教祖へと向けた。

 

「な、なんだ? 文句があるのか? 私を殺そうとでも言うのか!?」

「……傭兵を舐めるな。貰った金の分は働く」

 

 ガライの冷徹な言葉に、教祖は安堵したように胸を撫で下ろした。

 

 

 

 しかし、その瞬間。

 

 ——轟!!!

 

 背後の扉が、凄まじい衝撃と共に派手に吹き飛んだ。

 

 激しい煙が立ち込める、その瓦礫の向こう。

 そこに立っていたのは、すらりとした長身の銀髪の少年と、流れるような黒髪の内側に、金色の髪を覗かせた少女。

 そして、そのポケモンたち。

 

 教祖が喚き叫んだ。

 

「どういうことだ!なぜ奴らが追ってくる!貴様、何をしていた!!」

「チッ……カラスのやつめ……」

 

 扉の破片を無造作に踏み越えながら、ルカが獰猛な笑みを浮かべて言い放つ。

 

「よぉー、傭兵野郎にクソ教祖サマ! あたしらから逃げ切れると思うなよ?」

 

「ああ、こいつの言う通り、おれたちは死ぬほどしつこいぜ」

 

 ライルもまた、ガライを真っ直ぐに見据えた。

 

 二人の不屈の闘志を受け、ガライは指輪を輝かせ、手持ちたちを前線に並べる。

 

「ああ、良いだろう。もう二度と追って来れんように、今度こそ叩き潰してやる。正真正銘、これが最後だ!!来い!!」

 

 反転世界の最深部。

 最後の戦いが始まった。

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