大広間。
ロードとカラス、二人の男は鋭く睨み合う。
だがすぐに、カラスがその静寂を破った。
「さすがにマズったな、ガキ共を行かせちまうとは……。まあ、隊長なら問題ねえかぁ?」
カイリューとプテラ、そしてその傍らに佇む反転ダークライを従えるカラスは、面倒そうに頭を掻いた。
「こうなりゃもう、あんな宗教野郎なんざどうでもいいが、隊長にゃ失望されちまうな。最悪、クビだ」
「……クビで済むと思うのか? お前らは一生、ブタ箱入りだよ」
「そりゃあ、オレに勝てたらの話だろ?」
ロードの言葉に、カラスが不敵に返す。
すると、これまでの連戦で既に消耗していたカイリューが、主の指輪をその爪で指し示した。
——まだやれる。
カラスは少し笑い、カイリューに告げた。
「……ああ、いいぜ。最後に思い切り、お前の力を解放してやれ」
「いいのか?」
「……あ?」
「そいつはもう限界だろ? お前たちのメガシンカは、パワーアップすればするほど、相当な負荷がかかるんじゃないのか? だからお前もあの老兵も、勝負を急いだ。違うか?」
ロードの指摘に、カラスは隠す様子もなく、あっさりと肩をすくめた。
「……ああ、その通りだ。だが、そんなことは関係ねえ。オレたちは戦士だ。全力を出さずに負けちまうくらいなら、ハナからくたばるほうがマシだ」
その言葉に呼応するように、カイリューの巨躯が禍々しい光に包まれ、再びメガシンカを遂げる。
対峙するのは、ロードのドラパルト。
カラスは冷徹な視線を、その細身の竜へと向けた。
「てめえこそ、その貧相な竜で、こいつに勝てるのか? あのガキのガブリアスくらいじゃなきゃ、パワーでは張り合えんぜ?」
その挑発を理解してか、ドラパルトは空中をくるくると旋回し、カラスを嘲笑うかのように、小さく舌を出してみせた。
「わかっちゃいねえな。速さは時に、強さをも上回るのさ」
ロードは静かに笑い、付け加える。
「それにお前は、その少年との因縁を晴らしたかったんだろ?」
「……何が言いてえ?」
ロードは答えない。
だが、カラスの脳裏に、あの時のライルの言葉が甦る。
——師匠達が良いんだよ。
そして、この目の前の男。
確かに、他の奴らとは違った。
正攻法というよりは、ある種、自分たちに近い戦いをしていた。
そして再び、カラスの口角が上がる。
「ああ……そういうことかい。俄然、てめえに興味が湧いてきたよ」
二人の男は、同時に構えた。
ポケモンたちも同じく、咆哮を上げた。
◇ ◇ ◇
テンガン山頂の戦い。
一人で残ったダイゴは、ギラティナとレックウザが織り成す激戦に、今まさに介入しようとしていた。
彼らの激突により、上空では乱気流が発生し、強風が吹き荒れている。
強化され続けるギラティナの力。それを跳ね返すには、メガレックウザとなるしかない。
——その時間を稼ぐ。
かつてライルたちが『そらのはしら』で行ったことを、ダイゴは、自分とそのポケモンたちのみで行おうとしていた。
ダイゴは腕を前に突き出し、バングルを手首に付ける。決戦直前に入手し、レックウザを連れてくる役割を助けたそれが、輝きを放つ。
「君はこのエネルギーに反応せざるを得ない」
ギラティナがダイゴを見た。
その目は血走り、眼前のエネルギーに狂気じみた執着を見せている。
——グルルルル。
ギラティナはその光に反応し、レックウザを強引に押し退けた。そして上空で巨体を反転させると、六本の翼をうねらせながら、ダイゴ目がけて一気に降下する。
その背後。
レックウザは、地上に立つダイゴの小さな姿を見つめた。そしてダイゴも、激しい風に髪を揺らされながら、レックウザを見つめ返す。
一瞬、両者の視線が交わる。
レックウザは、一人の人間が示した覚悟を察したかのように、大きく身を翻した。そして、一気に上昇し、雷雲が轟く雲の渦へ飛び込んだ。
ギラティナは、六つ脚の異形——アナザーフォルムとなり、地響きを鳴らして降り立つ。
それを前にしても、ダイゴは悠然と身構えたまま、一歩も退かない。
「やあ。こうして向かい合うのは二度目かな」
彼の傍らには、これまで幾多の修羅場を共に潜り抜けてきた仲間が並び立つ。
ボスゴドラ、アーマルド、ユレイドル。
そして、その中心に構える——メタグロス。
刹那。
ダイゴの腕に嵌められたバングルのキーストーンが呼応し、メタグロスの身体を、白銀の光が包み始めた。ダイゴは、キーストーンを入手してから決戦に至るまでの僅かな期間に、それを成功させていた。
「さあ、仕事を始めようか」
◇ ◇ ◇
中央広場では、組織同士の意地と誇りを懸けた、総力戦が繰り広げられていた。
純金のように美しい長髪を揺らすプラチナムのリーダー、シロナ。
彼女は激動の最終決戦においても、この広場全体を鋭く見渡していた。
苛烈な傭兵リンに対しては、ホウエン四天王ゲンジがその進撃を引き受けている。
ガライの手持ちであるガチゴラス、ジャラランガ、そしてリンのメガアブソルが放つ苛烈な猛攻。ゲンジは、ボーマンダと二体のフライゴンによる熟練の連携によって、それをいなし続ける。
驚異的な膂力を誇るレジギガスには、エンテイとライコウ、そしてアデクが自身のウルガモス、シュバルゴと共に立ち向かっていた。
さらに、レジスチル、レジアイス、レジロックには、それぞれジムリーダーたちが応戦。
アスナはバシャーモとバクーダ。デンジはエレキブルとレントラー。スズナはユキノオーとマニューラ。それぞれの戦力で、各個撃破を狙う。
一方。
地面を溶かすような獄炎を放つヒードラン。
その猛威に対しては、カゲツがシザリガーとグラエナを率いて戦線を死守していた。さらに、フウロがスワンナとアーケオスを率いて援護。
ナギ、マキシ、テッセンの三人は、チルタリス、ギャラドス、ジバコイルらを繰り出し、残り僅かな反転ポケモンたちと、兵団員を引き受けて、奮闘していた。
全てを把握したシロナは、軽く息を吐く。
序盤の陣形構築。誰もが絶望しかけた中、一人、檄を飛ばし、皆を奮い立たせた中盤の耐久戦。
そして、いま。
彼女はそのすべてを冷静に、そして誰よりも熱く、この場を牽引してきた。
正真正銘、ここが最後の正念場だった。
「やれ!」
ムクロの合図と同時に、メガハッサムがシロナの死角へ回り込む。
しかしシロナは視線を動かさないまま、短く告げた。
「ミロカロス」
放たれた水流が、メガハッサムの進路を遮る。そこで初めて、シロナはムクロへ向き直った。
「随分な余裕を見せてくれるじゃないか、チャンピオン」
「戦場を見ることも、あなたを打ち破ることも、どちらも私の仕事だから」
「フッ。そうか」
ムクロは笑う。
「お前には、隊長と同等の圧力を感じるよ。どっかの臆病野郎にも、見習わせてやりたいもんだ」
ムクロは一拍を置き、そして告げる。
「それでも、この戦力差をどうひっくり返す気だ?」
彼の前には、メガセグレイブ、メガハッサム、メガヘルガーの三体が構えている。
その布陣は、いまだに驚異的であった。
しかし、シロナは表情一つ変えず、静かに言い放った。
「そんなに長く続かないんでしょ? その無茶なパワーアップ」
淡々とした言葉。
ムクロは僅かに目を見開いた。
「不自然だもの。『その子たち』が抱えられるエネルギーの量をとうに超えてる。実際にこの目で見て、ようやく分かった。だから時間を稼げば、そのメガシンカはいずれ解ける」
シロナはそこで一呼吸置き、毅然と言葉を続けた。
「だけど、私は怒ってる。真正面から叩き潰すって決めてるの、あなたたちをね」
シロナはそう告げると、突入時にダイゴから受け取っていたものを、その腕へと嵌め込んだ。
それは、キーストーンが輝くバングル。
「……なに!?」
刹那。
シロナの傍らに立つガブリアスが、純白の眩い光に包まれ始めた。
「まさか、使えたのか……? メガシンカを!」
「……?」
シロナは僅かに首を傾げ、そして答える。
「いいえ。やったのは今が初めてよ」
「……チッ……バケモンが」
初めて触れる力でありながら、シロナとガブリアスの間に迷いはなかった。
長年積み重ねてきた信頼が、キーストーンの力と一度で共鳴したのだ。
◇ ◇ ◇
そして、最奥。
制御装置が不気味な稼働音を立てる部屋。
そこでは、天狼隊総大将ガライと、ライル、ルカの三人が激しい攻防を繰り広げていた。
バンギラスには、ガブリアスとサザンドラが左右から攻めかかる。
スイクンには、パオジアンと解き放たれたシルヴァディ。
ドドゲザンには、ルカリオとルガルガンが猛烈な攻撃を仕掛けていた。
メガラティオスは戦況を俯瞰しながら支援に入り、決定打を与える隙を窺っている。
数では、ガライが圧倒的に不利なはずだった。
それにもかかわらず、二人は総大将をいまだ崩せない。長年の修羅場で培われた統率力と胆力。そして、経験に裏打ちされた先読み。
ガライは三体の動きを寸分違わず噛み合わせ、ライルたちの猛攻を捌き続けていた。
「マジで大したジジイだなッ!!」
ルカが思わず叫ぶ。
だが、背後から戦況を見ていた教祖——シノノメにとっては、この二人がガライと渡り合えているという事実そのものが脅威だった。
しかも、彼らが従える一体は、かつて自分がどれだけ手を尽くしても力を引き出せなかった——シルヴァディ。
その事実が、シノノメの焦燥をさらに募らせる。
「クソッ! 邪魔をされてたまるか……こんなガキどもに!」
シノノメは中枢装置へ駆け寄ると、制御盤の一部を乱暴に操作した。
警告表示が赤く染まり、隔離区画の封鎖解除を知らせる音が鳴り響く。
そして最後に、中央のボタンを叩きつけた。
——ゴゴゴゴゴ……。
装置から伸びる導管が脈打ち、部屋の一角に巨大な裂け目が生じる。
その奥から、巨大な腕が床を掴んだ。
続いて、すべてを呑み込まんとする大口が現れ、異形の巨体が、裂け目からずるりと這い出してくる。
かつてミナモシティにて、決死の連携により、ようやく撃退した異世界の悪魔。
——アクジキング。
シノノメは、その怪物を解き放った。
それを見たライルが声を上げる。
「まずい……!」
シノノメはルカの顔を見て、嘲笑った。
「どうだ、アローラの小娘! あの日、貴様は見たのだろう!? カラマネロが読み取った記憶の中に、こいつの姿が確かにあったぞ!」
目の前に現れた異形の姿を見た瞬間、ルカの身体はぴたりと硬直した。
呼吸が浅くなり、視界が揺らぐ。
恐怖が、脳裏を埋め尽くしていく。
最後の最後で、あの日の悪夢が再び、巨大な壁となってルカの前に立ちはだかった。
※独自設定についての補足です。
六十三話での前書きと重複するのですが、本作におけるメガシンカは、メガストーンを使用し、安定して発現させる技術がまだ確立されていません。そのため、発現難度が格段に高くなっています。
天狼隊の使うメガシンカは、ムクロの言う通り、難しくはありますが、純正なメガシンカほどではありません。