”博麗の巫女”の弟は幻想郷の平和の夢を見るか? 作:針が11を指している
阿求さんは、小鈴さんの前で
景さんはアリス・マーガトロイドの前で、神妙な面持ちをしていた
イア「・・・」
私は、俯瞰するように見ていた
阿求さんは小鈴さんの墓石に焼き鳥と赤いアネモネを置き
景さんはアリス・マーガトロイドの墓石に焼き鳥とハルジオンを置いていた
その場は、只々静寂に黙々と支配されていた
景さんと阿求さんはバケツから水をすくいアリス・マーガトロイドと小鈴さんの
墓石に順々とかけていった
景「・・・そう言えば、説明がまだだったな」
景「阿求の前にいるのが、本居小鈴 俺と阿求の幼馴染...だったやつさ」
“だった”が言葉になるまでに、数コンマのズレがあった
景「ほんで、彼女がアリス・マーガトロイド 俺に月光を教えてくれた人だ」
イア「そう...なんですか...」
沈黙
短いはずなのに、何故だかとても長く感じた
阿求「・・・そろそろ、人里に帰りましょう」
景「・・・あぁ、そうだな」
イア「・・・えぇ、そうですね」
そうして、帰路につくが
景「・・・止まれ」
景さんが腕を進路の前に出して、静止する
阿求「何かあったのかしら」
景「人血の匂いがする」
イア「え?それって、怪我をしている人がいるってことですか!?」
イア「大変!助けなきゃ」
景「まて」
イア「景さん?」
景「・・・チッ 手遅れか...」
イア「何を言って...」
景「俺から離れるな 阿求、イア」
阿求「えぇ」
イア「は、はい」
そして、森から出てきたのは
ルーミア「わは~」
イア「子供?」
阿求「いいえ、あれは...」
景「人喰い妖怪だ」
イア「人...喰い...?」
ルーミア「わは~ 霊夢の弟なのだ~」
景「なぁ、人喰い妖怪 今あんたが持っている奴、誰だか知っているのか?」
そう景さんが言って、反射的にその子供の手を見る
そこには、もはや原型をとどめていない
辛うじて人だったと分かるような惨状だった
イア「ヒィ...」
阿求「ひどい...」
景「なぁ、人喰い妖怪 聞いているのか?」
景「今、お前が持っている奴は里の人間だ」
景「それがどういうことか、分かっているよな?」
ルーミア「あ~、さっきから、ルーミアのこと人喰い妖怪って~」
ルーミア「ルーミアには、ルーミアって言う名前があるのに~」
景「そんなことはどうだっていい お前は人里の人間を喰った そうだな?」
ルーミア「わは~...」
景「どうなんだ」
イア「け、景さん...」
景「阿求、イアを連れて里まで逃げろ」
阿求「どうするつもりなの、景」
景「俺は博麗家としての責務を全うするだけだ」
阿求「・・・死なないでね」
景「そんなへまはしない」
そうして、私達は人里に向かって走り始めるが
ルーミア「まて~」
そのルーミアと名乗る子供は、私達に向かって飛びかかる
ルーミア「頂きま~~す」
阿求「!!(間に合わない!)」
イア「あ...」
死を覚悟して、視界を閉ざすが
景「・・・」
景さんに抱き寄せられる
ルーミアが横を通り過ぎる
そして、景さんが何処からか出した“杖”をルーミアに向けて
景「ファイア」
そう景さんが言い放つと
ルーミア「ぎゃぁぁぁぁぁ 熱いぃぃぃ」
ルーミアが火だるまになっていた
イア「一体、何が...」
魔理沙「ウォーター」
空からそんな言葉が響くと
ルーミア「ぴぎゃ」
火だるまになっていたルーミアの体に、水が纏わりついた
景「・・・なぁ、どういうつもりなんだ」
空から白黒の色彩をまとった
景「・・・霧雨」
魔理沙さんがいた
魔理沙「・・・」
景「・・・聞いているのか」
阿求「景、言い方がキツイわよ」
景「・・・霧雨、何がしたい」
イア「あまり変わってない...」
魔理沙「・・・手を出すな」
景「・・・どういうことだ」
魔理沙「・・・やりすぎって言ってんだよ」
景「違反者にやりすぎも何もないだろ」
イア「違反者?」
景「決まり事があるんだよ」
景「妖怪は人里の人間に危害を加えてはならない」
景「原文は堅苦しいから、言い換えてはいるが」
景「それを分かった上で、そんなことを言っているのか」
魔理沙「あぁ、そうだ」
景「・・・」
魔理沙「あんたは“違反者なら何してもいい”とでも思っているのか」
景「そんな訳ないだろ」
景「ただ、その人喰い妖怪は極刑に至る違反をしただけだ」
魔理沙「極刑、ねぇ...」
景「分かったのなら、今すぐそいつを引き渡せ」
魔理沙「それは、土台無理な話だ」
景「・・・なぜだ」
魔理沙「ルーミアは、私で対処する それでいいだろ」
景「霧雨が関わる理由はなんだ」
魔理沙「何だっていいだろ あんたには関係ない いや...」
魔理沙「いずれ...分かる」
景「何を言って...」
魔理沙「じゃな」
そう言って、魔理沙さんはルーミアを担いで飛んで行ってしまった
イア「行っちゃいましたね」
阿求「追うの?」
景「いいや、いい 追った所で、追いつけないのが関の山だからな それよりも...」
ルーミアが持っていた人だったものを抱き上げる
景「この人を弔わなきゃいけない」
阿求「えぇ、そうね」
それから、私はただ見守ることしか出来なかった
人里に戻って、遺体を安置して、そして...
イア「これは...何をやっているんですか」
阿求「“死者送り”よ」
イア「“死者送り”?」
阿求「・・・そうね 何て言えばいいのかしら」
阿求「・・・死者は迷うのよ」
阿求「特に妖怪に殺された人は」
阿求「そして、その魂は生者を恨むようになるの」
阿求「死んでしまったのが悲しすぎて、生きている人が羨ましくて」
阿求「だから、あぁやって“死者送り”をしているのよ」
イア「そう...だったんですか...」
すると、鈴奈庵から巫女服に身を包んだ景さんが鈴を付けた杖を持ちながら出てきた
阿求「始まるわよ」
イア「・・・はい」
そうして、“死者送り”が始まった
景さんは素足で踊っていた
それに合わせて、チリンチリンと鈴を付けた杖を振り回す
人里の一人「うぅぅ...」
一人の女性が膝をついて、うずくまって泣いていた
阿求「・・・」
阿求さんは、懐に手を伸ばして
丸眼鏡をそっと掛ける
イア「・・・」
服が擦れる音、地面と素足が擦れる音、鈴が鳴る音、すすり泣く声
色んな感情が出てきては、言葉にならず霧散していった
ただ淡々と“死者送り”をする景さんを見続ける
リンと大きく杖を振り下ろすと
景「・・・終わりました」
そう、荒い息一つなく言った
そして、“死者送り”を見ていた人達は景さんに近づき
人里の一人「ありがとうございます これで、夫も安心して眠れます」
そうやって、景さんに思い思いの礼の言葉をかける
阿求「・・・」
イア「・・・」
私と阿求さんは、その光景を静かに見ていた
妖怪に殺された人、“死者送り”をする景さん、それを見守る人里のみんな
少し不思議で...恐ろしい儀式 もう、見たくないって、そう思った
“死者送り”と聞いて、何かを思い出した人は多いと思います
恐らく、思っている通りです