”博麗の巫女”の弟は幻想郷の平和の夢を見るか?   作:針が11を指している

8 / 9
八話 マーガトロイド

 

アリス・マーガトロイドは天才であった

学問、運動、芸術

その殆どをそつなくこなす そんな人間であった

どれだけ手を伸ばしても手が届かない そんな人間だ

そして、そんな人間の妹として生を受けたのが

私、イア・マーガトロイドだ

天才の影響を多大に受けた私の人生というものは、あまりにも滅茶苦茶になっていた

常に“天才の妹(外れ値)”としての、能力、振る舞い、言動を求められ

出来なかったら、失望される そんな人生だ

しかし、そんな私でも、“天才(外れ値)”を超えるモノを持っていた

絵だ

絵を描くことに関しては、姉を超えていたと自他共に認めることであった

でも、私はその絵を描くことすら、できなくなっていった

絵を描けていた時の私にとって、“絵を描く”という行為は

何にも代えがたい、自己証明そのものであった

絵を描いてさえいれば、両親からぐちゃぐちゃと文句を言われなくて済むし

なにより、姉と私の立場が、比較される者から、比較する者としていられたから

だけど、それらを差し引いても、私は絵を描くことが好きだった ただ純粋に

小学校低学年の時に、誕生日プレゼントとしてアトリエを作ってもらった

自分の身長ほどあるキャンパス、高く積まれたペンキの缶、規則正しく並べられた筆

新築独特の匂い 

当時の私には、あまりにも、重いプレゼントだった(気にしてはいなかったが)

そして、中学一年生の時

私は両親に勧められて(強制)絵画教室に通っていた

そこで、一人の女の子と仲良くなった

本名は聞いていなかったけど、私は“えなちゃん”と呼んでいた

“えなちゃん”は多分、私と同じだった

絵を描くのが好きで、描いた絵を褒められるのが好きで

————誰かに認めてもらいたくて

“えなちゃん”には、芸術界隈で有名な画家の父親がいるらしく

その背中を追って、絵を描き始めた、と“えなちゃん”は言っていた

憧れの人がいるっていいな...って私は思った

そんな中、私と“えなちゃん”との間に小さな、だけど確実な亀裂が走った

絵画教室の一人が、私の方をチラチラと見ながら

 

「やってられない」

 

そう言って、絵画教室を辞めていった

それが崩壊の始まりだった

一人、また一人と立て続けに絵画教室から去っていった

 

「才能が違う」、「あんなのに勝てるわけがない」

 

辞めていくみんながみんな、似たような事を言った

そして、その言葉は...

明確に私に向けられていた

そしてついに...

“えなちゃん”が絵画教室を辞めた

 

イア「ねぇ、えなちゃん...」

 

えな「・・・なに」

 

その言葉には、じんわりと怒気が含まれていた

 

イア「何で辞めちゃうの...」

 

えな「あんたには、わからない」

 

えな「天才のあんたには」

 

イア「私は天才じゃあ、ないよ そんなことない」

 

えな「——バカにしているの!?」

 

イア「ビク...」

 

初めてだった “えなちゃん”がこんな風になっているのは

 

えな「あんた...ふざけているの」

 

イア「そ、そんなつもりじゃあ...」

 

えな「だったら、もう私にかかわらないで」

 

えな「もうこれ以上...」

 

えな「私の前に現れないで」

 

そう言い放って、いなくなってしまった

唯一の親友を失ってしまった

それから...だった

絵が描けなくなったのは

キャンパスを目の前にして、絵の具を付けた筆をもって

描こうとしても、それ以上、手が動かなかった

私が絵を描く度に、絵を描く誰かの人生を壊してしまう感覚がして

どうしても描けなくなっていた

そして当然の如く、描けなくなった私を両親は責め立てた

唯一、姉に勝っていたモノを失った私は

ただ...視線を下に向けることしか出来なかった

そして、今から二年前、姉が失踪した

何の予兆も無かった あたかも最初から何も無かったかのように、蜃気楼のように

何の手掛かりなく、消えていた まるで神隠しの如く

それからの日々は、何処か心に穴が空いたような空虚なものだった

両親は、いい意味でも悪い意味でも私を見なくなった

姉を捜す為に四六時中、家にいることが無くなった両親

姉と母親は料理することが好きで、よく使っていたキッチンは

今はもう、使われていない 家から出る時も、帰る時も

灯りのともった、営みがあった 私の家は、もうない

 

 

————————————————————————————————————————————

 

 

イア「zzz...ん?」

 

深層に沈んでいた意識が表層が浮かぶ

柔らかい感触と落ち着く匂いが私を包み込んだ

瞼を上げ、周りを見る

 

景「zzz...」

 

イア「!!/////」

 

景さんに膝枕されていた

勢いに任せて、飛び起きる

 

イア「———/////」

 

ほんの数秒前のことを、思い出す

頬が紅色に染まっていくのが分かる

 

景「——ん...? あぁ、起きたのか イア、おはよう」

 

イア「お、おはようございます えっと、これは一体...」

 

景「膝枕のこと? 屋根の上でイアが俺に抱き着いたまま、寝ちゃっただろ?」

 

景「起こすのも面倒だったし、そのままの方が楽だったからね」

 

景「いや...だったか?」

 

イア「そんなことはないです それと...」

 

イア「無意識にそれをやっているのなら、いつか後ろから刺されますよ」

 

イア「ですから、私以外にしないで下さいね」

 

景「? 何のことだい」

 

イア「・・・まぁ、いいです」

 

イア「それで、今日は何をするんですか?」

 

景「そうだねぇ...能力鑑定をしようと思うよ」

 

イア「永遠亭で言っていたやつですか」

 

景「そう だから、博麗神社に行くよ」

 

イア「博麗神社?」

 

景「姉さんがいるところだよ」

 

景「能力鑑定は“博麗の巫女”しか出来ないからな」

 

そうして、身支度をし、鈴奈庵から出る

 

景「・・・なぁ、イア」

 

イア「・・・何ですか、景さん」

 

景「能力鑑定をしたら、もう二度と外の世界には帰れなくなる」

 

景「だから、さ 帰りたいのなら...」

 

イア「・・・景さん...」

 

景さんの言葉を遮って、私は喋る

 

イア「私は...残ります ここに、幻想郷に」

 

景「・・・いいのか? もう、家族にも、友達にも会えなくなるんだぞ」

 

イア「いいです」

 

力強く言った

 

景「そう、か...」

 

そして、一息を挟んで

 

景「ようこそ、イア 神々が愛した最後の楽園、幻想郷へ」

 

イア「——はい!よろしくお願いします、景さん!!」

 

そうして、私は景さんと握手する

強く景さんの手を握った

 




今回も、ご愛読ありがとうございました
是非良かったら、ご感想を書いていって下さい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。