不老不死の私と彼女~800年も一緒に居た私たちを百合と呼ぶのは些か軽すぎるのかもしれません~ 作:すっごい性癖
――伝承に曰く、吸血鬼は処女の生き血を特に好み、夜な夜な生娘の寝室に忍び込んではその血を吸っていくという。それはきっと子供でも聞いたことがある、とても有名な話だろう。
「――ぁむ」
「ぁ……、んっ……」
遠慮なしに首筋を噛まれる。鋭い犬歯がプツと音を立て皮膚を突き破り、肉を押しのけてすぐさま首筋の大きな血管に穴を作った。
「ぁ、あぁ……」
「ぺろ、んく……、ん」
ちゅう、と首筋に柔らかな唇が押し当てられすぐさまザラリとした舌先が傷口を撫ぜる。首筋から漏れ出る血液は滲む、では到底済まない量でどくどくとあふれ出す。
だがその一切は地面に零れ落ちることはない。なぜなら、一滴残らずゴクリと飲み干されてしまっているからだ。
「はぁ、はぁっ……」
自分の意思とは関係なしに声が漏れる。まるで今すぐに命を散らす虫のように、か細い声を震わせる。それは、そうだろう。
だって実際、今、私は刻一刻と死に向かっているのだから。これだけの大量の血を一度に失えば、人は誰だって死に向かう。
「ちゅ……、っはぁ」
「……っ、くはっ」
何度、そう、何度経験しようとも一切慣れることができない死の感触。指先が震え、足先は冷えはじめ、思考が徐々に黒塗りにされていくこの現象に私は未だ適応できていない。
――もう、八百年目にもなるというのに。
「あんっ、んっ……」
次第に声に艶が乗り始める。まるで情事に漏らすような嬌声を、これまた無意識に私は吐き出す。
気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。
首筋を歯に突き破られたことも、血管を穿たれ大量の血液を失っていることも、そしてその全てを……。
――目の前の異様な少女に飲み干されることも。
その全てが私にとっての快楽となって脳を揺らすのだ。自然と瞳は潤み、頬は紅潮しだし身体も弛緩し始めた。
あぁ、死に向かうほどに思考が黒塗りされる。その一方で、身体は快感を貪り真っ白に染まっていこうとする。
死と絶頂との両方が、同時に私をそれぞれ染め上げる。
「……ごく」
もはやまともな思考も取れず、全身の力が抜け……一方でなぜか全身に
首筋が熱い。それは、流れ落ちる血液による熱なのか。それとも、さきほどまであれほど熱心に舐られた唇と舌とが残した温もりなのか。はたまた、火照った私の身体が空気に晒されたがための錯覚なのか。よく、わからない。
ごくり、と耳元にやけに大きく、目の前の少女が自身の血液を飲み下したであろう音が届く。
私は大量出血のせいで霞む視界を凝らしながら、目の前に立つ少女をじっくりと見つめた。
異国の血を強く感じる高い鼻筋などが輝く端正な顔立ち。銀の髪が窓から差し込む月の光を反射し、美しく輝いている。シルクを一本一本丁寧に纏めたような綺麗な髪だ。
少女と女性との良いとこどりのような顔は同性でありながらうっとりとしてしまうような芸術品の様でありながら、さらに暗闇の中、月明りに照らされながら妖艶にほほ笑む彼女の魔性の出で立ちはその芸術性を極限までに高めている。
ここまででも十分、異常な女と言っていいだろう。異常なほどに、美しい。
けれども、その中でも特筆している点を挙げるとするのならば、それは瞳と口元だろう。
血の如く、真っ赤に染まった瞳が闇の中でギラリとこちらを射抜く。猫が暗闇の中で瞳を輝かせることがあるが、まさにそれのよう。獣が得物を捉えたときの瞳だ。
口元では真っ赤な唇の隙間から犬歯がチラリと覗き見える。その先端をよく見れば、少し朱色に染まっているが、それもそのはずだ。何しろ、先ほど私の首筋を突き破った凶器こそがそれなのだから。
「ぁ、あぁ……」
少女が、沈黙を破る。美しくも私の血で赤く色染められた唇を開き、声を発した。ぺろり、と一瞬柔らかな舌先が外に出され、口周りに付着していたであろう血を舐めとるのを私は黙って見つめるだけ。
彼女は声すらも美しい。しっとりと、落ち着くながらもこちらの心を揺さぶる声だ。カリスマ、というのは正にこういうことなのだろう。彼女の声を耳にするだけで私は歓喜してしまう。
あぁ、さぞ。そう、さぞその美しい声で、素晴らしい言葉を紡ぐのだろう、と。
私はそう期待して……
「非処女の血、まっずぅ……」
「貴女が奪ったくせに、なんて言い草ですか???」
そして、その余りにもな発言にガックリとしながらも、全身に満ちていた熱を霧散させるのであった。
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