好感度が反転したヤンデレ達の記憶が戻ったが、壊れてしまった関係値が元に戻ることはありません 作:かにくい3
昔々、あるところに愛に狂った魔女がいた。
魔女には、どうしても手に入れたい意中の男がいた。しかし彼の周りには、彼を慕う女たちが群がっていた。中でも幼馴染の女とは特に仲が良かったという。
嫉妬に狂った魔女は、醜い憎悪に身を焦がし、一つの凄惨な計画を思いつく。
魔女はニタァと口元を歪め、すぐさま薬作りに取りかかった。
類稀なる才能を持つ魔女は、三日三晩不眠不休で研究を重ね、ついにその禁忌の薬を完成させた。
効果は──『それを服用した者は、周囲の異性から無条件で嫌われるようになる。ただし、相手が抱く好意が強ければ強いほど、その反動で反吐が出るほどの憎悪へと変貌する』というもの。
魔女は歓喜し、早速その薬を愛する男に飲ませた。
しかし──魔女はたった一つ、致命的な間違いを犯していた。
『周囲の異性』の中に、**自分自身を除外する呪文をかけ忘れていた**のだ。
誰よりも男を愛していた魔女は、誰よりも深く男を憎むことになった。狂気と殺意に支配された魔女は、最愛の男を残虐に、酷苛に痛めつけ──まさに命の灯火を消し去ろうとしたその瞬間、薬の効力が切れ、正気に戻った。
当然、自分が愛する人に何をしたのか、その残酷な記憶をすべて保持したままで。
魔女は正気と自我を失って発狂し、最後は愛する男の遺体の前で自らの喉を掻き切って死んだという。
──そして、絶望の歴史は繰り返す。
「……ミ、ア……アリ、ア……エリー……リ……リア……みんな、どう……して……」
「気安く私の名前を呼ばないでください。不快です」
深い森の奥深く。日の光すら届かない死角で、血塗れの男が吊るし上げられていた。
男を囲むのは、美しくも冷酷な瞳をした女たち。怪しげな修道服を纏った聖女や、かつて親しかった幼馴染たちだ。
男の片目は潰れて黒く塞がり、全身の皮膚は魔術によって焼け爛れている。かつて「中性的で可愛らしい」と持て囃された面影は、どこにもない。片足はあらぬ方向に折れ曲がり、残された片腕も指がすべて叩き折られ、無残に垂れ下がっていた。
満身創痍という言葉すら温い、生きた死体。
男の唯一残った右目から、ボロボロと涙が零れ落ちる。脳裏を過ぎるのは、彼女たちと笑顔で過ごした温かな記憶。走馬灯のように駆け巡る思い出は、今の現実をより苛烈に引き裂く。
(もう……あんな風に、笑い合える日は来ないんだな……)
「は、あはは……っ、はぁ……」
「……不吉に笑うなんて、どこまでも気持ちの悪い男。あなたはやはり、悪魔に取り憑かれているのです。さあ敬虔なる信徒たちよ、あの汚物にお仕置きを。──さっさと、
(そう……だな。もう、いいや……)
何かの間違いじゃないか。魔法で操られているだけじゃないか。いつか元に戻って幸せな毎日に帰れるんじゃないか──そんな淡い希望を抱いて耐え続けてきた。けれど、限界だった。彼の心と体は、すでに
(……唯一の心残りは、クロエのことかな)
『王子』と称されるほどの凛々しさと美貌を持つ親友。狂ってしまったみんなの中で、彼だけは以前と変わらず接してくれ、ボロボロの自分を必死に庇い、守ろうとしてくれた。
(ありがとう、クロエ。君の言葉に、どれだけ救われたか分からない。君がいてくれたから、僕はここまで耐えられたんだ……)
心の底から親友へ感謝を捧げる。
だけど、もう無理だ。どれだけ温かい言葉をもらっても、一度砕けた心は元には戻らない。
(ごめんね、クロエ。僕は……君みたいに強くは、なれなかったよ……)
男は心の中で親友に別れを告げ、薄れゆく意識を静かに手放した。
命の灯火が消え、完全に脈が途絶えかけた──その瞬間。
『薬の呪い』が、解けた。
「───あ」
聖女の手に握られていた鞭が、ぽろりと落ちた。
周囲を取り囲んでいた女たちの顔から、一瞬で血の気が引いていく。
最愛の彼を、自分たちの手で死の淵まで追い詰めた──
そのあまりにも惨悪で、狂気に満ちたすべての記憶を残したまま。
「あ…………ぁ…………あぁああああああああああああっっっ!!!???」
森の静寂を切り裂く悲鳴が、響き渡った。