コレン奮闘記 ―― 秘密多き魔法使いの少年 作:mogatoku
はじめに
当二次作品の第1章のタイトルは『賢者の石編』ではなく『魔法使いの石編』となっています。
これはアメリカで出版されたシリーズ第一作のタイトル”Harry Potter and the Sorcerer’s Stone”(ハリー・ポッターと魔法使いの石)から取ったものです。実はアメリカで公開された映画も同じタイトルでした。
本作オリ主人公コレンが“前世の自分”と呼ぶ人物は、この映画をアメリカで観ました。
このため主人公は“賢者の石”という言葉を知りません。
01 1 僕はコレン ―― 映画と違う!
※用語解説
○ホグワーツ魔法学校
ハリー・ポッターシリーズのメイン舞台。
イギリスとアイルランドの魔法族の子供達が入る全寮制の学校。日本で言えばだいたい小5~高2の期間入る。
スコットランドにあり、ロンドンからはホグワーツ特急と呼ばれる魔法の汽車で向かう。
これらはすべて非魔法族(マグル)からは見えない。
なぜかペットを連れていってもいいとされている。
――
僕はコレン。フルネームはコレンティン・ジロード。
ロンドンのケンジントンで生まれ育ったけど、元はフランス名家の血筋らしい。
いきなりだけど今日は1991年9月1日。
ついにホグワーツ魔法魔術学校に行く日がやってきた。
ボクは魔法使いらしくローブを羽織る。
「ボクも行きたい!」
そう怒鳴っているのは父さんの後妻の子供。僕の腹違いの弟だ。
「テオは6年後よ。ちゃんといい子にしていないと入学できないかもしれないわよ」
「いやだ! いま行きたいの!」
「テオにも手紙書くからね」
僕はハンナ母さんを手伝って宥めようとしたけど、テオはますます駄々をこね続ける。
ハンナ母さんは元々、僕の実母リリアから僕の世話を任されていたハンナ・ベクトルという魔女だ。
実母が亡くなってから、数年して父さんと結婚して子供を産んだ。
今はハンナ・ジロードとなっている。
つまり僕の継母だ。
「これは駅まで連れて行けんな」
父さんが呆れたように言った。
父さんの名はダニエル・ジロード。ロンドン生まれ。もちろん魔法使いだ。
「あなただけで送ってきてください。わたしはテオと留守番しますから」
「ああ、そうだな」
結局、僕の見送りは父さんだけとなった。
僕の荷物は古い肩掛け鞄と鳥かご。
鞄は中が広い空間になっている。いくらでも荷物が入る魔法鞄だよ。
「コレン・オデカケ?」
「ケンも一緒だよ」
鳥かごに入っているのはオウムのケン。
魔法動物ペットショップの店員さんが持ってきてくれたんだ。
この鞄の中は学校が一つ入るくらい広いから、これに入れても良いんだけど、この鞄のことは学校では秘密にするつもりなんだ。
あとからペットを出すと説明が面倒になるから、ケンは鳥かごで抱えて持っていくことにしたよ。
玄関に向かうと、テオが立ちはだかっていた。
「行っちゃダメ!」
小さな体いっぱいに両腕を広げてドアの前で宣言した。
すかさず母さんが近づく。
「はいはい、テオは向こうのお部屋に行こうね」
「いやだ! いやああああ! うわわわわん!」
テオが泣き叫びながら母さんに連行されていく。
「テオとは毎日遊んだけど、しばらくお別れだな」
僕も寂しい気持ちになる。
父さんが苦笑しながらドアノブに手を掛けた。
「やれやれ、では行くぞ」
「うん」
鞄を肩にかけて鳥かごを抱えたままガレージに入る。
引っ越してからはちゃんとガレージがあるんだ。もう路駐してない。
グレーの車の後部座席に乗り込んだ。
(あれ? この車、いつものベントリーじゃない!)
「父さん、これ日本車?」
父さんはマグル(非魔法族)界にも魔法界にも会社を持つ実業家だ。
「ああ、そうだ。ホンダは人気なんだぞ」
アコードだよ! これ!
「いつの間に買ったの?」
「昨日届いたんだ。これもお前の投資計画書のおかげだ」
(昨日は準備に忙しかったから気づかなかったよ)
僕の『投資計画書』は――父さんの会社を劇的に急成長させた。
あの日、僕はまだ四歳だった――
タイプライターで作成した計画書を渡して、僕は意を決して秘密を話した。
僕が“前世の自分”と呼ぶ人物の記憶のことを。
(まあ彼は僕じゃないとも言えるけどね)
その人物が何処の誰なのかは一切話さずに説明したんだ。
「かつて、というより、未来のとある日に、何者かが魔法を使ったんだよ。その魔法は、記憶を過去に送るものだったんだ」
父さんがじっとボクの顔を見ていた。おそらくウソを言っている徴候を見つけようとしていたんだと思う。
「でもその記憶は、その魔法を使った何者かの記憶じゃない。別の人物のものなんだよ。しかも過去に送られた記憶は、どちらとも全く関係のない、知り合いでもない、会ったこともない、ケンジントンに住む魔法使いの赤ちゃんに入り込んじゃったんだ」
父さんの目が少しずつ大きくなっていく。
「だからボクにはその別の人物の未来の記憶があるんだ。その予想は予想じゃなくて、未来の記憶なんだよ」
父さんはあんぐりと口を開けていた。
――でも信じてくれた。
そして投資は成功し、それは今も続いている。
大きなテラスハウスにも最近引っ越してきたばかり。
父さんは今、マグル界でも魔法界でも評判のビジネスマンなんだ。
「よし、降りて良いぞ」
そんなことを考えていると、もうキングスクロス駅に到着したよ。
ケンジントンの家から5キロほどだから、あっという間に到着するんだ。
(あれ? この駅に駐車場なんかないと思っていたのに)
「わお、結構広い駐車場だね」
「マグルには見えないようになってるんだ」
(なるほど。ズルい)
父さんの後に続いて、9と3/4番線に向かう。
行き交う人々の中には、ホグワーツのマントを羽織っている子どもがちらほらと混じっていた。
「お前はいろんなことに手を出しているが魔法の勉強をおろそかにしないように」
「うん」
「とにかく知り合いを増やせ。それが今後の商売に繋がるからな」
「うん」
「何かあればいつでも言ってこい。大抵のことはガリオンでなんとかなる」
「うん」
「あといたずらビープズには気をつけろ」
「うん?」
「部屋が決まったら連絡しろ。同室の生徒の名前もだ」
「うん」
「それから…」
父さんの話に頷きながら歩いていたらいつのまにか目当てのホームに着いていた。
途中で柵のようなところを通過したような気はするけど、柱を通過した覚えがない。
映画では柱に突入すると魔法界のプラットホームが登場する。
(きっと別の入り口だな)
「もう乗るよ」
「体を大切にしろ。人助けもいいが、自分の体も大事にしろ」
「うん。それじゃ」
「ああ、元気でな」
「うん、父さんもね」
父さんは僕の肩に手をのせて心配そうな顔を少し浮かべたけど、手を離すと「しっかりな」というように頷く。
僕も頷く。
鞄と鳥かごを下げて客車の出入り口へと歩みを進めた。
客車に乗り込む。
(空気がちょっと変わった?)
なんというか冷房とも暖房とも違う空調だ。
僕の頭には、前世の自分の記憶にあるとある物が思い浮かぶ。
(空気清浄機?)
客車の通路は赤い絨毯が敷かれてて、なんとなく時代がかっててる。
でも僕にとっては新しく感じる。
普段マグル向けの家に住んでるからじゃないよ。
――実は父さんにも秘密がある。
父さんは『ケンジントン屋敷』という巨大な魔法屋敷も持っているんだ。
マグルには見えない出入り口を通って入るお屋敷なんだけど、それがとても古くて、屋敷と言うよりも城塞なんだ。
(屋敷に比べれば、汽車の客車は真新しい!)
でも父さんの秘密はその屋敷を持ってることじゃない。
ダイアゴン横町という魔法族商店街の店主さんたちがよく納品に来るから、屋敷自体は秘密じゃない。
ただこの屋敷の主人になるには条件があったんだ。
それは――とある秘密の使命のために働くこと。
どんな使命かって?
それは秘密だよ。
これはお祖父ちゃんと父さんと僕の三人しか知らない秘密なんだ。
お屋敷付きのハウスエルフ達は知ってるみたいだけど。
早めに来たから空のコンパートメントはすぐに見つかったよ。
すぐに鞄を足下に置いて、鳥かごを壁に掛ける。
座席はオーク材にクッション性の高い何かを載せたもので、通常の特急列車の座席よりも柔らかいような気がする。
座って窓の外を見ると、父さんがこっちを見て手を振っていた。
手を振り返すと、ドアががらりと開いて男子がのぞき込んできた。
「ここ空いてる?」
「うん。空いてるよ」
するっと入ってきた。
「ねえ、1年生? 名前は?」
そう言いながら少年が座る。
「コレンティン・ジロード。コレンでいいよ」
「僕はリチャード・カーティアス。リックって呼んでよ。僕も1年生だ」
ガタン。
列車が動き出した。
僕は父さんに手を振ったけど、父さんはすぐに視界から離れていった。
リックが何かを尋ねたそうに見ている。
「なに?」
「ねえ、ジロードって名前、聞いたことがある気がするんだけど」
「ジロード商会じゃないかな。父さんはいろんな品の卸をしてるんだ」
食料が中心だけど幅広い商品を扱ってるんだ。
「ふーん。僕の父さんは『さまよい人の物置』で働いてるから、もしかして関係あるかもね」
「ワンダラーズ・ワードローブ? それ何?」
聞いたことがないな。
もっとも僕はダイアゴン横丁にすら行ったことがない。
教科書もローブもペットも杖も、みんな店の人が屋敷に納品してくれたものだ。
つまりウチがお店に行くんじゃなくて、お店の方がウチに来てくれるほど、父さんの影響力は強いってことなんだ。
(“商売人”界隈限定なんだけどね)
つまりリックはその“商売人界隈”の子供だ。
「旅行用品の店だよ。拡張テントとかその中に置く家具とか売ってる。ダイアゴン横丁の北面にあるよ」
「そうなんだ。なら確かに関係あるかもしれないね」
ジロード商会は輸入もしてるんだ。
「最近テントの注文が増えてきたんだって。次のワールドカップがイギリスであるからだろうってさ」
ワールドカップって言ってもフットボールのじゃないよ。
クィディッチっていう“箒で飛び回りながらシュートを放つ魔法族球技”のだ。
世界中から魔法族が集まってくる。
「ならきっともっと増えるよ」
リックとそんな話していると扉が開いた。また男子だ。
「あの…トレバーを…見なかった?」
人好きしそうな丸顔がちょっと遠慮がちな様子で尋ねてきた。
(トレバーだって? てことはこの子はネビルの友達かな)
“前世の自分”の記憶には、ハリー・ポッターの映画の記憶もあった。
ここがその映画の世界だとわかったのは2歳の秋だった。
当時僕の子守をしていたハンナが、窓から投げ込まれた手紙を開いて言ったんだ。
「ポッター夫妻の死体が見つかり、ベッドには生き延びた男の子がいて、名前はハリー・ポッターですって?」
僕は頭を抱えたよ。
それからひたすら戦争に備えてきた。
投資計画書で資金を稼いでもらって、たくさんのスクイブを雇ってもらって、家庭教師も雇ってもらって、僕専属のハウスエルフも付けてもらった。
ん?
(全部父さんにやってもらってばかりじゃないか。父さんに感謝だなあ)
理解のある父親がいて僕は幸運だ。
「トレバーって誰?」
リックが聞き返した。
トレバーとは映画に登場するヒキガエルの名前だ。
でも僕は男子の方を見てさっさと答えることにした。
「見なかったよ」
すると推定“ネビルの友達”は何も言わずにドアを閉じた。
(いないのに時間をとらせるのは悪いもんね)
そう思ったらすぐにまたドアが開いた。
山盛りのお菓子を載せたカートが現れた。
「車内販売だよ」
年齢不詳のおばさん魔女が声と共に姿を見せた。
(おお! 映画の記憶にあるヤツだ)
リックがすぐに身を乗り出した。
「じゃあ…これとこれにしようかな」
「カエルチョコと爆発ボンボンだね。はいどうぞ」
「爆発ボンボンってどんな感じ?」
「それは開けてからのお楽しみだよ」
リックが駄菓子を買うのを眺めながら、何を買おうか考える。
あれだけのモノを詰め込め込むためにカートには魔法が掛かってるんだろうな。
「あんたはどうする?」
「ランチになりそうなものはありますか?」
「ならカボチャパスティの大きいのがあるよ」
「それ二つください」
「あいよ」
実はランチは買わなくても鞄に手を突っ込めば手に入るんだけど、せっかくだから買うことにした。
しばらく二人であれこれ話しながら食べていたんだけど、いつの間にか目を閉じてたみたいだ。
「ねえ、ヒキガエルを見なかった?」
声に気づいて目を開けると、そこには初対面の女子がいた。
いつの間にか部屋に入ってきていたみたいだ。
「見てないよ。君は誰?」
「ハーマイオニー・グレンジャーよ。そして、こちらはネビル・ロングボトム」
「え?」
僕は驚いて女子の顔を見つめた。
(え? ホントに? この子が? ハーマイオニー? マジ?)
僕は唖然としてしまった。
映画の主要キャラの一人ハーマイオニー。
この子の名前は映画と同じなのに、顔が全く違う!
(映画のあの美少女はどこ?)
いや、髪型はだいたい同じだよ。でももっと長い。
色も映画のようなブロンドよりの茶色じゃなくて、ちゃんと茶色だ。栗みたいな色だ。
(それより問題は顔だ!)
――かなり違う。別人だよ!
映画の華やかな印象とはまったく違う!
なんというか…最近テオと一緒に見たテレビ人形劇の…そう、あれ!
(トッポジージョみたいだ!)
特に口元が!
そしてネビルと紹介された男子!
さっきトレバーを探しに来た丸顔だ。
(顔がまったく違うからわからなかった…)
逆にこっちは映画よりイケメンじゃないか!
いや、イケメンというのは言い過ぎだけど、こういう人好きのする顔はちゃんとモテるんだ。
「ぼ、僕は…コレンティン・ジロード」
(二人とも顔が違うなんて……)
――これはマズい…気がする…
僕はこの事実にいやな予感がしてきた。
――もしこの調子でみんな顔が違ったら…?
“死喰い人”が目の前にいても、僕は気づけないってことにならないか?
それって……
――かなり危ないんじゃないか…?
“前世の自分”の映画知識は、あまり頼りにできないかもしれない。
思わぬ事態に、不安が胸から喉へとせり上がる。
驚きと動揺で心臓が飛び出しそうだ。
「こ…コレンって…呼んで」
僕は今、初対面の女子にドギマギした男子みたいになっていた。
次回の投稿は近日中(できれば明日)の予定です。