コレン奮闘記 ―― 秘密多き魔法使いの少年   作:mogatoku

10 / 11
10 10 ユニコーンを救え! ―― 治療魔法

 

※用語解説

○ユニコーン

 言わずと知れた一角獣。

 ハリポタ世界では“禁じられた森”に住む。

 その生き血を飲むと“生き長らえる。そして呪われる”らしく、現在半死状態のラスボスが愛飲している。

 

――

 

 ジャーキーが傷の大半をふさいでくれたため、ユニコーンの傷口はコイン大まで縮んでいた。

 僕は右手をかざし、再びサナに呼びかけて治療を開始した。

 

《サナ、僕に力を貸して》

 

 うっすらとした光が傷口から中に入る。

 体内の欠損を補おうとしているんだ。

 

“いと衰えたり”

 

 とても弱っている。

 僕にもそう見えるよ、サナ。

 

「少しかじられた部分が欠けていやすが、出血はほとんど止まったようでやす」

 

 僕はうなずき、腹に右手をかざし続けた。

 ふと気付くと夜明けを過ぎて、すっかり明るくなっていた。

 

《鞄の中で治療できると良いんだけど》

“この中は長く閉ざされたりしためか、我らの力が疾く尽く。外にいでしこそ続けらる”

 

 長く閉ざされていたせいか、我らの力が早く尽きる。外に出てこそ治療を続けられる。

 

《ならこのまま続けよう》

 

 僕は右手をかざしたままにして治療を続けた。だんだん疲れてきたので時々左手で支えた。

 左手で魔法時計を出して見ると、すでに朝8時になっていた。

 まだ治療が必要なのに、時間がないよ。

 

《サナ、僕が離れてもこの馬の治療を続けてられる?》

“続けるべけれども力ぞ弱くなる”

 

 続けられるけど魔力は弱まる。

 

《僕が昼まで離れると馬は助からない?》

“癒やすは遅くなれど、助からむ”

 

 治りが遅くなるけど助かるだろう。

 

《それなら、このまま治療を続けてくれる?》

“わかりぬ”

 

 助かるなら、授業を欠席するのは避けたい。

 僕がどこにいたのかが問題になったらマズい。

 そうなると禁じられた森に入ってることがバレかねない。

 森に入れなくなったら、今後の訓練計画に支障が出る。

 

(それは困る!)

 

「朝食を食べに行かないと」

「間に合わないようでしたらここで用意しやすよ」

 

 鞄の中には小屋があり、ある程度の食料も保管してある。あるいはホグズミードにあるリーマスの家まで姿くらましで行けば、用意できる。

 そういう意味だ。

 ハウスエルフはホグワーツでも“姿現し”という名の瞬間移動魔法が使えるから。

 

「いや、戻らないと不審に思われる。悪いけど、いったん戻るよ。続きは午後。ジャーキーはこのまま付き添ってやってくれるかい」

「わかりやした」

 

 ジャーキーは神妙に頷くとユニコーンを見た。

 

「じゃあ僕は行くけど、頑張ってね」

 

 

「遅かったじゃないか!」

 

 食堂に入るとリックが声を掛けてきた。

 

「ちょっといつもより長く掛かっちゃった」

「ハウスエルフが心配していたぞ」

 

 いつも早めに食事を用意してもらってるんだ。

 

「ディークが? わかった。じゃあ今から急いで食べるから」

 

 多くの生徒が立ち去る中、僕は席に着くとすぐに朝食を食べ始めた。口とフォークをせわしなく動かして流し込んだせいか、味はよくわからなかった。

 

 お昼休み、再び禁じられた森のはずれに向かった。

 

「旦那! こちらでやす!」

 

 ジャーキーの声に振り向くと、森の木の陰にユニコーンが倒れていた。

 

“いまだ癒やせたらず。コレンの治しぞ要るなり”

《わかった。ではサナ! 僕に力を貸してくれ!》

 

 右手をかざして治療を始めると、光がユニコーンの腹を包んで傷口を通して内部も入り始める。

 

「全回復の治癒魔法があるらしいんだけど、リーマスから教わっていないんだ」

「あっしもできやせん。ひょっとするとカーディが使えるかもしれやせん」

「ちょっと聞いてきてくれないか?」

 

 ジャーキーの顔が曇る。

 

「ですがあっしが離れるとまた蜘蛛が襲ってきたときに対処できやせん」

「それは困る。必要の部屋があればそこに行くんだけど」

「旦那の魔法は鞄の中では使えないでやすか?」

「鞄の中では力が出ないんだ」

「そうでやすか」

 

 肩を落とすジャーキー。

 

「あと3時間は治療できる。その後は飛行訓練があるんだ」

「お忙しいでやすね」

「夕食後はフィルチさんの訓練がある。終われば時間があるよ」

「大変でやすね」

 

 鞄の中で治療できれば、もっと治療時間を増やせるのに。

 

「鞄を開けておこう。治療ができるようになるかもしれない」

《サナ! 鞄を開けるから中でも君たちの力が使えるようにできないか》

“うるやいなやわからねど、やらむとせん”

 

 できるかどうかわからないが、やってみよう。

 杖を振って鞄を開ける。

 

「いま、何をしたんでやすか?」

「鞄の中でもこの魔法を使い続けられるようにしようとしているんだ」

「うまくいきやすか?」

「わからない。この魔法は生命が育まれてきた空間じゃないと力が出ないんだ。建物の中なら隙間があるから、大きな問題にはならないんだけど、この鞄の中はかなり長い年月、何も住んでなかったみたいなんだ。ジャーキーが暮らし始めるまではね。鞄をもらってからも僕がたまに工作するだけだったし」

「なら生き物でも飼いやすか?」

「鞄の中で花壇でも始めるといいかもね」

 

 次第に僕もサナも慣れてきたのか、治療に手応えを感じるようになってきた。

 光も少しだけ強くなった気がする。

 右腕は重たいけど、手のひらがじんわりと温かい。

 

 ――なんだか気持ちがいい。

 

 ランナーズハイじゃないと思う。

 治療魔法の発動に慣れてきたんだ。

 

「時間だ。行かないと」

 

 3時間でかなり治療は進んだことが実感できた。

 でもユニコーンはぐったりしたままだった。

 

(効果が出てない?)

 

 再びジャーキーを護衛に残して飛行訓練の授業に向かった。

 

 飛行訓練。

 夕食。

 フィルチさんの訓練。

 

 その後、同室のリックに「遅くなるから先に寝てて」と告げて、再び森のはずれに向かった。

 リックは僕の不在を誰にも言わずにいてくれるんだ。

 さすがルームメイトだ。

 

 ユニコーンの側にカーディとリーマスが来ていた。

 

「来てくれたんだ。でもどうして?」

 

 ジャーキーが呼びに行けるとは思えない。

 

「ケン、シラセタ」

「ケンが戻ってきたでやすよ。それであっしが頼んでみたら、飛んでいったでやす」

「その後はカーディがお連れしました」

 

 カーディにはまだ言葉の指導はしてないらしく、普通のハウスエルフみたいな話し方だ。

 そう言えばリーマスに頼んでなかったよ。

 

「ユニコーンの治療をしているなんて驚いたよ」

「リーマスは治療できる?」

「かなり弱っている感じだ。ユニコーンのことは詳しくないが、このままでは助からないだろうな」

「カーディも同じ意見でございます。馬は走らなければ死にます。新大陸で何度も見たことがございます」

「そう言えばあっしもテキサスでよく見たでやす…」

 

 でも…サナは助かるって…

 

(そうだ!)

 

「全治癒呪文は ?」

「わたしには使えないんだ」

 

 え? そうなの? あれ?

 

「カーディも使えません」

「どうして?」

「いくら唱えても発動しないんだよ。何なのかはわからないが技量が足りないらしい」

 

 そんな・・・

 

 ――ならこれを続けるしかない!

 

 馬は走らなければ死ぬというのはそのとおりかもしれないけど、精霊魔法はそれでも治せるはずなんだ。

 

「治療を続けるよ。飲み水を用意してくれる?」

 

 リーマスは魔法で桶に入った水を出してくれてから帰っていった。

 

 僕は右手をかざして治療を続けた。

 途中クモの気配がしたけど、ケンが飛んでいくと、クモの気配が消えた。

 

(まさか…ケンは自分で狩りができるようになった…?)

 

 そんなことをふと思ったりしながらも、僕だんだんと治療魔法の感覚に慣れてきた。

 

(効いてる…効いてる…)

 

 手応えを充分に感ながら、痛みに包まれた重い右腕を左手で支えつつ手をかざし続けること数時間。

 真夜中をとっくに過ぎた頃に、サナが言った。

 

“馬の内なる傷、癒やしぬと思えども、いまだ定かならず”

 

 治ったと思うが、定かではない。

 サナにそう言われると、自分も右手を通してそう感じてきた。

 

「手応えとしてはもう体内の欠損はない感じがする。でも確信がもてないな」

「ではこのまま眠らせておきやしょう」

 

 ユニコーンに鞄の中に入ってもらい、ジャーキーに世話を頼んだ。

 寝室まではジャーキーの魔法で戻った。

 

 翌早朝、再び森に入り、鞄を開ける。

 ジャーキーが魔法で素早くユニコーンと出てきた。

 するとユニコーンが前肢を立てて、力を入れる。

 ふるふると震えながらゆっくりと立ち上がったよ。

 

「立ちやしたよ、旦那ぁ!」

 

 ジャーキーの声がウルッとしてる。

 視線を一瞬だけ向けると、大きな両目もウルッとしていた。

 

 ユニコーンは地面に脚を踏みしめて、確かめるように歩き始める。

 

「やっぱり治療は終わってたんだね」

 

 僕は安堵のため息をついた。

 サナもそう言ったけど、自信がなさそうだったから不安だった。

 

「よかった」

 

 ――これでもう大丈夫だ。

 

 あとは走れるようになればいままでどおり森で暮らせるはずだ。

 起きたばかりだというのに、体が一気に緩んでぐったりしてきた。

 ずっと緊張していたのかもしれない。

 寝不足もあって、はしゃぐ気力もでないよ。

 

「では傷をふさぎやす」

 

 ジャーキーの魔法で小さな傷も塞がった。

 昨日リーマスに出してもらったままの水桶に鼻先を突っ込んで水を飲み始めたよ。

 次は何か食べてもらう必要がある。

 

「ジャーキー、次は餌を頼むよ」

 

 血液がまだ不足しているんだ。補わないと。

 

「わかりやした。禁じられた森の草をたべさせてみて、同じ草をあつめやす」

 

 ジャーキーは手際よく草を集めてきた。ジャーキーの手が草を鼻先に差し出すと、ユニコーンはそれをゆっくりと味わうように食べはじめた。

 

 朝食の席についたのは7時半だった。

 

「今日もいつもより遅いな」

 

 リックがいったいどうしたんだという顔をしている。

 

「うん、また少し掛かったよ」

「でも、この時間の方がみんなとそろって食べられるよね」

「そうだね」

「なぜいつもそんなに早い時間に食べてるんだ?」

「図書室が朝食前に入れればいいんだけど、朝食後じゃないと入れないんだ」

 

 すると二つ隣から声がした。

 

「コレンは付き合い悪くないか?」

 

 同じ寮のザカリアス・スミスだ。

 

「今はね。余裕ができればいけるんだけど」

「おや、何点も獲得している優等生の言葉とは思えないね。君なら授業も余裕でついていけると思ったのに」

 

 挑発的な目で見てくる。

 

「それは6月の試験までわからないよ」

「そんなに先にならないとわからないなんて、どんな頭してるんだい?」

 

 小馬鹿にするような口調だ。

 

「ザカリアスはどうなの?」

「ボクかい? ボクはもちろん問題なくついていけているさ」

 

 君とは違ってね――とでも言うように、薄ら笑いを浮かべている。

 

「そう。それはよかった」

 

 そう肩をすくめて見せると、ザカリアスの唇がひくって動いたように見えた。

 

 ザカリアスは人が見せる隙を目聡く見付ける。そしてそれを小馬鹿にすることが好きなようだ。

 言い返しても良いんだろうけど、流すことにした。

 疲れていて面倒だったからというのもあるけど、それだけじゃない。

 

 ウソをついているのは確かに僕の方だったから、言い返す気になれなかったんだ……

 今までさんざんウソをついて生きてきたのに、今さら変だよね?

 

 ――きっと疲れているせいだ……

 

 

 その日はクィディッチの試合の観戦があった。

 観客席の熱狂に紛れて、途中で抜け出した。

 部屋から鞄を持ち出して森に入り、外に出して、草を食むユニコーンに治療魔法をかけ続けた。

 血液の不足を補うためだったけど、傷をふさいでしまったので治療魔法の手応えはほとんど感じなかった。

 

 それでも2日ほどですっかり元気に走れるようになったよ。

 近づけてきた顔を、そっとなでてみる。

 

「元気になって良かったね。これからは気をつけるんだぞ」

 

 しばらくなでてやると満足したのか、森の中へと走り出した。一度立ち止まって振り返ったけど、またすぐに走り出して消えていった。

 

「よかったでやすね」

 

 ジャーキーの声から達成感と安堵と喜びがにじみ出ている。

 

「うん。元気になって嬉しいよ。治療魔法もちゃんと使えたのも良かった」

 

 重傷患者の本格的な治療に使ったのは初めてだった。しかも少しずつ上手くなってきたと思う。サナも僕も。

 

《尊き馬なれば、癒やしえて我らも嬉しかり》

 

 サナも嬉しいって。

 それにしてもホントに良かった。

 僕はフウッとため息をついた。

 

 こうして僕たちのユニコーン救出劇は終わったのだった。

 

 これが意外な人物との出会いに繋がるなんて、まったく予期していなかった。

 

 





次回の投稿は明日の予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。