コレン奮闘記 ―― 秘密多き魔法使いの少年   作:mogatoku

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 誤字報告ありがとうございます!
 長くなってしまったので二回に分けます。


12 12 校長室への呼び出し ―― 初めてのダンブルドア(前編)

 

※用語解説

○ダンブルドア校長

 名前はアルバス・ダンブルドア。

 ホグワーツの校長先生。

 とにかく偉大な魔法使いとして魔法界では超有名人。

 責任感が強く、ラスボスとも対決しようとする。

 ラスボスより強いらしいが、映画を見ただけでは、ラスボスより強いのか弱いのかは、判断できない。

 あと、たぶん疑り深い性格。

 

――

 

 薬草学の授業が終ると、ポモーナ・スプラウト教授に声を掛けられた。

 

「ミスタ・コレンティン・ジロード。校長先生が話があるそうよ。放課後に校長室に行きなさい」

「わかりました」

 

 というわけで、午後の授業が終わった後に校長室に向かう。

 ガーゴイル像の前に立つ。

 えーと、映画ではたしかこう言うと階段が上昇するんだったな。

 

「シャーベットレモン」

 

 動かない。何も起きない。

 あれ? 映画ではマクゴナル教授がシャーベットレモン*1と言ってたはずだけど…

 しょうがない。適当なお菓子を言ってみよう。

 

「ファッジ、トフィー、キャロットケーキ…」

 

 ダメだな。

 

「マシュマロ、ガムドロップ、ジンジャーブレッド…」

 

 違うなあ。

 

「バタースコッチ! チョコレートフロッグ! オープンセサミ*2!」

 

 全然動かないじゃないか。一体何と言えばいいんだ?

 すると角からスプラウト教授がひょっこりとのぞき込んできた。いつのまにか来ていたようだ。

 

「ごめんなさい、ミスタ・ジロード、合言葉を教えるのを忘れてたわ。オレンジチョコレート!」

 

 オレンジチョコレート?

 それ?

 いや、テリーズなんとかっていうの確かに食べたことあるけどさ。

 でもホグワーツにはないし、映画にも出てきてないよ。

 

「校長先生の趣味なのよ」

 

 そう言って教授はすぐに顔を引っ込めてどこかに歩いていった。

 

(うわ、壁が開いた。あれ? 床が上昇するんじゃないの?)

 

 開いた壁にはらせん階段が……

 

「エスカレータだ…!」

 

(映画じゃ階段がぐるぐる回りながら上がっていく感じだったのに…)

 

 ゴゴゴゴ

 

 ただ音がなんだか仰々しい。

 地響きのような音だ。

 魔法エスカレータで上にたどり着くと、正面にキレイに磨かれたオーク材の扉があった。

 ノック用金具を叩くと扉が自動で開いた。

 前に進むと部屋の中に出た。

 

(やっぱり映画とは違うか…)

 

 映画の記憶にある校長室は、壁一面に本がびっしりと並んでいるメルヘンな書斎だった。

 でもここは…何ていうか…ゴシックな…殺風景な…古い執務室という感じの部屋だよ。

 壁一面には、書棚の代わりにお年寄りの肖像画がびっしりと掛けてある。

 

(きっと歴代の校長先生だ)

 

 しかも動いている。

 ジロジロと僕を見て、何か言いたそうにしている人。

 面白そうなものを見つけたという表情をしている人。

 僕を見ながら隣の絵とヒソヒソ話している人。

 でも誰も話しかけてはこなかった。

 

(さて、どうしようかな…)

 

 声を掛けることはできない。

 日本人なら「すみませーん」と大声で呼ぶんだろうけど、イギリス人はそうじゃないんだよ。

 気付いてもらえるまで待たないといけないんだ。

 ノックしたくてもすでにドアの内側だし。

 

(ちょっと床を鳴らしてみようかな)

 

 そう思って脚を持ち上げると、サナの声が耳に入った。

 

“男あり”

 

 そう聞こえるや否や、老人の声が響いてきた。

 

「やあ、コレンティン・ジロード君。来てたのか」

 

 見ると、老人が立っていた。

 

(うわっ。いつの間にそこにいたんだ?)

 

 ――今現れた? それとも最初からいた?

 

 最初からいたというのは考えにくい。

 僕はこれでも気配を察知するのは得意なんだ。魔力だってちゃんと感じ取れる。

 しかも精霊のサナでさえギリギリ気付いたということは、いま現れたということじゃないかな。

 姿現しかなんかで。

 でももし最初からいたなら、自分の安全保障体制を見直さなければならないかもしれない。

 

「こんにちは、ダンブルドア先生」

「さあ、こちらに来なさい。君に聞きたいことがある」

 

 背の高い老人が手招きをした。

 

「はい」

 

(聞きたいことって何だろう…?)

 

 ついていくと角にこぢんまりした空間があり、テーブルと椅子があった。

 

「さあ、掛けなさい」

「失礼します」

 

 自分の体には少しだけ大きい椅子に座る。

 校長先生と向き合った。

 

 ――これは想像以上だ……!

 

 背筋がゾクッとする。

 視界にいる老人から感じる魔力の圧力は並外れていた。

 前世の自分は異世界で大勢の人に会ってるけど、ここまでの人は一人しかいなかったみたいだ。

 

「一つどうかな?」

 

 キャンディを差し出してきた。

 映画ではシリーズの途中で俳優が交代したため、顔のイメージが二人分ある。

 

 どちらとも違う。当たり前だけど。

 

 鼻は曲がっていて、目はつぶらな瞳を演出しているけど、本当はそんなことないことが見て取れた。

 だって経験がにじみ出てるよ。

 でも顔自体の印象が掴みにくい。

 

(白い髭がムダに長いせいだ!)

 

 顔がほとんど隠れてるよ。

 

「今食べなくても良いなら、いただきます」

 

『真実薬』という名の自白剤入りだったら面倒だし。

 

「ホホホホ」

 

 僕の返事が可笑しかったらしい。

 

「学校は慣れたかな」

 

 やさしく微笑む顔には親愛の感情が感じられる。

 

「はい。慣れました」

「それは良かった」

 

 そう言うと沈黙した。特に居心地悪いと感じることもなく僕は待った。

 

「君が“禁じられた森”に入ったという話を耳にしたんじゃが…本当かのう?」

 

 寮生はみな僕が朝、城の周りをランニングしていると思っているはずだと思っていたけど、違ったかな?

 誰かに見られちゃった?

 

「ジョギングしているんです」

「入っていないのかね?」

「ジョギングコースは森をなぞるように走ってるんです」

 

 すると表情がやや険しくなった。

 

「なるほどのう。君はわしを誤魔化せると思っているようじゃな」

 

 あ、表情がさらに険しくなった。

 老人の周囲の空気が、わずかに揺らめき立つ。

 体からユラユラと魔力が立ち上り始めたような錯覚を覚える。

 

 危険危険危険危険!

 

 ――マズい!

 

 僕の受け答えは良くなかったようだ。

 

「ご、ごめんなさい! 禁じられた森に入りました!」

 

 すぐに謝ると、圧力が下がった。

 

「いつかね?」

「毎朝です」

 

 髭に覆われた口が開いた。目も少し開いている。

 唖然、という表情だ。

 

「それで…なんともないのかね?」

 

 声にも驚きが表れている。

 

「僕はなんともありませんけど…」

「魔物に襲われたことはないと?」

 

 ああ、そういうこと。

 たしかに襲われてないなら不思議かもしれない。

 

(でも不思議じゃありませんよ。襲われてますから)

 

「アクロマンチュラなら毎朝襲ってきます。返り討ちにして、ケンの餌にしています」

「ケン?」

「僕のペットです」

「君のフクロウ?」

「オウムです」

 

 一瞬、唇を一文字に結んだように見えた。でも気のせいだったかもしれない。

 

「ところで、君が魔法史の授業で教授を物凄く困らせた、という噂を聞いたのじゃが、本当かね?」

 

(そんな噂が流れてる…? 困らせたなんて…心外だよ!)

 

 魔法史の教授とはカスバート・ビンズ先生。

 なんだかゴミ箱みたいな名前の幽霊先生のことだ。

 なんでゴミ箱みたいかというと、カスで始まるからじゃなくて、イギリスではゴミ箱をbins(ビンズ)って言うからだよ。

 

「僕は質問をしただけです」

「困らせるような質問かね?」

 

 ギロッという視線が突き刺さる。

 

(怖い…)

 

 そう思いながらも、たじろがないように踏ん張り、なるべく普通に答えた。

 

「ではあの時のことを説明しても良いですか?」

「よかろう」

 

 ちゃんと話せば、別に困らせようとしたわけじゃないことは分かってもらえるはず!

 

「あの時『魔法の起源について質問があります』と言って僕が手を挙げると、ビンズ教授が言いました――」

 

 僕は閉じて、あの幽霊先生を思い浮かべた――

 

 

「質問は何かね、ミスタ・サッカレー」

 

 僕は最初の質問をした。

 

「魔法の杖を販売する『オリバンダーの店』は、紀元前4世紀からあると聞きましたがご存じですか?」

 

 ビンズ教授が答えた。

 

「もちろんです。オリバンダーの店は紀元前382年に開業しました」

 

(さすが歴史の先生。よく知ってるなあ)

 

 僕はさらに質問した。

 

「では僕たちがこれから教わる“呪文”が、明らかにラテン語の影響を受けているのはなぜなのでしょうか?」

「ラテン語の影響ですか?」

「『イモービュラス』や『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』などです」

 

 そう。呪文にはラテン語や古代ギリシャ語の影響が強い。

 でもそれはオリバンダーの店の開業時期と合わない。

 

「ローマ人がブリテン島に侵攻してきたのは紀元前50年より後のことです。それ以前に、つまりオリバンダーの店が開業した紀元前4世紀に、現在使われているような“呪文”がブリテン島に存在したはずがありません。つまりその時代、“杖”だけが存在したのです」

 

 つまり“呪文”より“杖”の方が古い!

 

 僕は続けた。

 

「そこで僕は思いました。“杖”と“呪文”はセットのように思われていますが、本来は別系統の魔法だったのではないか、と」

「それは……確かなことはわかっていません」

「少なくとも、“杖”が先に存在したのは間違いないですよね? ローマ人が来てないのにウィンガーディアムなんて言葉があったはずはないですから」

「それは……そうかもしれませんが…」

「実は調べてみたんですけど、“杖の魔法”というのは紀元前3000年頃、つまり紀元前30世紀頃には古代エジプトに存在したそうです。教授はご存じですか?」

「確かに……魔法の起源は古代エジプトのファラオの呪いだと言われています」

「そして古代バビロニアでも“杖の魔法”が使われていました。どちらが起源なのかはわかりませんが、この二つのオリエント文明は交流がありました。ではなぜ? この二つの文明は魔法体系を残さずに滅びたのでしょうか?」

「それは不運にも戦争が…」

「その戦争とは、つまりアレキサンダー大王が登場したためですよね。アレキサンダー大王は西から現れて、オリエント世界を征服しました。オリエント世界には杖の魔法があったのに、それをモノともせずに征服しました。では彼は“杖の魔法”にどうやって対抗したのでしょうか?」

 

 杖の魔法はすでに強大な力を持っていた。

 それはサナから聞いた話からもうかがえる。

 遠い昔、この惑星で精霊魔法を使っていたエルダール族は、“杖の魔法”に滅ぼされたという。

 

「そのような話は残されていません」

「それが“呪文の魔法”だったのではありませんか?」

 

 これが僕の仮説なんだ。

“呪文”はギリシャ人が発展させたんじゃないかって――

 

 

「――ふむ」

 

 話を聞いていたダンブルドア校長が頷いたよ。

 でも僕の話はまだ続くんだ――

 

 

 ビンズ教授はしばらく考えてから答えた。

 

「……古代ギリシャでは“腐ったハーポ”など数名の魔法使いを除き、記録が残されていません」

「記録がなくても考察はできます。オリエント世界の“杖の魔法”は発動に集団による儀式を必要としました。ですがマケドニア人が持ってきた“呪文の魔法”が、言葉によって個人が発動させる魔法だったとすればどうでしょうか? 杖の魔法族がノンビリと儀式を執り行っている最中に、呪文の魔法族によって簡単にやられてしまったと考られませんか?」

 

 オリエント世界は強大な力を持っていたはずなのに、マケドニアにあっけなく敗れてしまった。

 

「それは興味深い話ではありますが、まったくの想像と言わざるを得ません。なぜその時期に呪文の魔法が現れたと言えるのですか?」

「それは今現在、存在している呪文にギリシャ語の影響も見えるからです」

 

 マケドニアはまずギリシャの国々を征服した。

 その古代ギリシャ人は異質な人たちだった。

 

「古代ギリシャ人は、理性による思索をどこまでも進めていきました。地球が丸いことはおろか、地球の大きさも、月と太陽の距離も月と太陽の大きさの比も、計算で導き出していました。当然、魔法の言語化も進んだと考えられます。例えば『数占い』なんかは、いかにもギリシャ人が考えそうな魔法ではありませんか? アレキサンダー大王は、まずギリシャを征服し、その知識人の研究成果を武力として東征に用いたんです。だからこそ彼は広大なオリエント世界を征服できたのではないでしょうか?」

 

 ビンズ教授は静かに首を振った。

 

「先ほども言いましたが、ギリシャの魔法使いについては記録がほとんど残っていません!」

 

 

 僕はビンズ教授の言葉まで話して、一旦、目の前のダンブルドア校長の表情を窺った。

 老人の目が細くなっていた。

 

 

後編へつづく――

 

*1
英語版の台詞

*2
「開けゴマ」アラビアンナイトに出てくる超有名な呪文の英語版





次回の更新は明日の予定です。
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