コレン奮闘記 ―― 秘密多き魔法使いの少年 作:mogatoku
あくまで時代背景です!
用語解説
○ホグワーツの設立
990年頃、マグル社会における魔法族への敵視や迫害に対抗し、次世代を育成するために当時の偉大な魔法族4名によってホグワーツ魔法魔術学校が作られた。4人の名前はそのまま4つの寮の名前になっている。
――
僕の話はまだ続く――
僕はビンズ教授に対して、さらに話を続けた。
「アレキサンダー大王の死後、オリエント世界はギリシャ化しますが、さらに西からやって来た古代ローマ帝国に飲み込まれてしまいます。でもギリシャ人の知識は生き残ります。『征服されたギリシャ人は
だからこそ“イモービュラス”っていう呪文があるんだ。
僕はさらに続けた。
「マグルの記録でもローマ時代は魔術が盛んだったと書かれています。当時は魔法の
ビンズ教授が何かを思い出すように言った。
「当時の記録には“魔法大戦”という言葉がありますが……それが何を表しているのか不明です」
魔法大戦! それは歴史ロマン溢れる言葉だよ!
「それは初耳ですが興味深い言葉です! というのは、ここまでの僕の仮説では、まずオリエント世界の“杖の魔法”がグレコローマン世界の“呪文の魔法”に滅ぼされ、そしてグレコローマン世界の魔法が、キリスト教と、その後のイスラム教によってほとんどが消し去られてしまったからです。これは実際、そうだったのではありませんか?」
もしかしてそのどちらかが“魔法大戦”なのかもしれない――
こんな話をしながら校長先生の顔をずっと見ていると、「ほとんどが消し去られてしまったからです」と言ったところで、ダンブルドア校長の眉が動いたことに気付いた。
でも僕は特に気にせずに話を続ける――
ビンズ教授はまたしても首を振った。
「飛躍が過ぎるようです。そもそもキリスト教の登場からホグワーツが創設される10世紀までの間、魔法に関する記録自体がほとんど残されていません。例外はマーリンなどごく一部だけです」
そうなんだよ。
――当時教会は、自分たち以外の知性を許さなかった。だから多くの記録も失われたんだ。
“考える権利を持ち続けなさい。まったく考えないよりは誤っていようとも考え続けることが良いことだからです”
“迷信を真実として教えることは、とても恐ろしいことです”
という至極真っ当な主張をする女性学者が5世紀のアレクサンドリアにいた。
彼女の名はヒュパティア。
その真っ当な主張のせいで、キリスト教徒によって教会に拉致され、残虐な方法でなぶり殺されたという。
この後、なぜか聖カタリナの殉教伝説が誕生する。
まるで迫害されたのは自分たちで、見事に殉教したのは信心深いキリスト教徒の女性だったかのように、誰かが印象操作でもしたみたいに。
(まさに暗黒時代の始まりを象徴する事件だよ)
――そして教会以外の神秘の存在を許さなかった。
ゲルマンの神木は切り倒され、多くの魔法族も殺された。
つまりマグルだろうが魔法族だろうが、容赦は無かったんだ。
だが魔法族は、滅びたくはなかった。
――そして、ついに強力な魔法を生み出したんだ。
「そうなんです。だからこそ、僕は思うのです。今、僕たちが使っている“杖”と“呪文”をセットにした魔法体系の起源は何処なのか? それは、ここブリテン島ではないかと!」
「ブリテン島? それはなぜですか?」
僕は声に力が入った。
「ブリテン島にはドルイド魔術があり、すでに”杖”の魔法も伝わり、オリバンダーの店も開業していました。大陸で駆逐されても、ブリテン島には残っていたんです。そして紀元前1世紀にはローマ人がやって来て、”呪文”の魔法も入ってきました。なりより、その後のキリスト教会の影響が弱かったんです! マーリン勲章の名前の元となった魔法使いマーリンがマグルのアーサー王とともに活動できたのも、そのおかげです! ということは、”杖の魔法”と”呪文の魔法”の融合はここブリテン島で起こり、その結果ホグワーツは誕生したと考えるのが自然ではありませんかっ?」
この”杖と呪文の魔法”は強力だ。
これがあれば、教会の迫害なんかモノともせずに生き延びられる。
だからこそ、この新たな魔法体系が暗黒時代のヨーロッパ世界に広まったんだ。
でも同時に、大勢のスクイブを生み出すことにもなった。
「……」
僕の声が教室に響いた後、ビンズ教授はしばらくの間、考え込んでいた。
僕はしばらく待った。
「……ん?」「あれ?」
あまりに動かないので、皆がざわつき始めた。
「おい、動かなくなっちゃったぞ」
「ビンズ教授!」
「大丈夫ですか?」
「ダメだ、聞こえてないみたいだ」
「おい、コレン! なんとかしろ! 君のせいだぞ!」
「そんなこと言われても…」
「なんでコレンはレイブンクローじゃないんだ? そんな難しいことを考える頭があるのに!」
「コレンティン・ジロード。君を名誉レイブンクロー生に認定するよう監督生に頼んであげようか」
「いや、余計なコトしなくていいから。僕はハッフルパフだから!」
「他寮生でも、ふさわしければ名誉レイブンクローになるらしいぞ」
「勝手なコトしないでよ!」
ビンズ教授がようやく口を開いたのは20分ほど経過してからだった。
「……大変…‥興味深いお話でしたが…‥」
「動いた! 話し始めたぞ!」
「静かに! 聞こえない!」
「…魔法史の授業では…記録のない話はいたしません。記録された事実こそが歴史なのです!」
「……」
「……」
(……)
(さんざん考えて、それだけかいっ!)
と僕は心の中だけで突っ込んだ。
こうして僕の一大考察はあっさりと流されて終わったのだった。
(そう思っていたんだけど……まさか校長室で話すことになるとは!)
僕がその時のことを思い出しながら結論までを順に語っていくと、校長先生の細められた目がどんどんと丸くなっていった。
ビンズ教授の最後の言葉を述べたところでは、目がまん丸になっていた。
そのまま当惑の表情で、何かを思い出すようにぼそぼそと呟き始めた。
「…鋭い…歴史…再解釈……憎しみを……じゃが…これは…?」
どう考えたら良いのか、何を言おうか、判断に迷っているみたいだ。
(あ、このタイミングを逃しちゃダメだ)
僕はすかさず尋ねた。
「教授を困らせるような質問だったと思いますか?」
ここで相手が何かを考え出す前に、こちらから質問をすることで対話の主導権を得る。
そうすればこれ以上、詰問されずに済むかもしれない。
それが僕のねらいだった。
校長先生の顔から当惑がスッと消え、意味深げに頷いた。
「…そうじゃな。ビンズ教授は困ったであろうな」
(よし、かかった!)
僕は質問を続ける。
「でも教授たるもの、この程度の質問に困るべきではないのではありませんか?」
「君は教授を過大評価しておるようじゃな」
(何だよそれ!)
僕はムッとした顔になりそうだけど、さらにたたみかける。
「それはあの教授先生をですか? それともその地位をですか?」
僕の問いに、校長先生が口を開いて何かを言おうとした――ように見えた。
でもすぐに口を閉じちゃったよ。
どうやら答えを口にするべきではないと判断したみたいだ。
(ちぇ、かからなかったか!)
『あの教授を過大評価してる』と答えれば『なぜそんな教授を雇っているのか?』という話題に持って行けるし、『地位を過大評価してる』と答えれば『ホグワーツの教授をそんなに軽い地位だと思っていいのか?』という話ができて、話の主導権をキープできるのに!
どちらにしても“政治的に正しくない答え”になると気付かれてしまったみたいだ。
(校長先生は何て言おうとしたのかな?)
校長先生が口を開いた。
老齢の目が再び細くなる。
「危険な問いは…身の破滅をもたらすこともある…!」
ズシリ…!
空気が一気に重くなった。
壁の歴代校長が全員ピタッと動きを止めた。
(ひ、これはマズい…!)
僕の発言に警戒するようになっちゃったかもしれない。
僕の主導権なんかもう完全に粉々に砕け散っちゃったよ。
(ここは…黙っていよう…)
わずかな沈黙の後に、校長先生が口を開いた。
「ところで、ユニコーンを治療したそうじゃな」
この話は終わりじゃ。
そう言われた気がした。
(ん? ユニコーンの治療?)
そうか! 犯人がわかったぞ!
――フィレンツェだ!
じゃなければ他のケンタウルスだ!
他の生徒が知ってるはずないし!
(告げ口しやがったな! ウマ人間どもめ!)
僕は心の中でケンタウルスに悪態をついた。
直接言う勇気はもちろんないよ。
「はい。朝いつものようにランニングしていたら、大怪我して出血しているユニコーンを見つけたので治療しました」
「全治癒呪文を使えるとは驚きじゃな」
そう言ってジロリと睨んでくる。
厳しい表情だよ。
その目にあるのは不審? それとも警戒?
(うっ、怖い…。圧が重い…)
僕は内心ビビりながらも、なるべく平然と答える
「使えませんよ。3日掛けてじっくりと治療したんです」
すると表情にあった厳しさが困惑に変わった。
圧力も下がった。
「どうやって?」
精霊魔法のことは秘密だよ。
「手をかざしたんです。手当てという東洋の治療法です」
老人顔が黙り込んだ。
その顔に刻まれたしわにはさまざまな経験が見え隠れしているように感じたけど、この老人が何を考えているのかは表情からはわからない。
「……」
「……」
少し長い沈黙が続いた。
やがて校長先生が口を開いた。
「今後の朝のジョギングのことじゃが…」
ジョギング…
あーあ、やっぱり禁止されるのか。
禁じられた森ともお別れだ。
次の手を考えなくちゃ。
そう思った。
「実はの、禁じられた森に入る許可を君に与えて欲しいと頼まれておる」
「え?」
(どういうこと?)
「フィレンツェから頼まれておるのじゃ。森に入る許可を与えてやってくれとな」
「それじゃあ!」
自分の声が弾んでいるのがわかる。
「うむ。危険じゃから禁止しておるのじゃが、フィレンツェが問題ないと言っておるからのう。フィレンツェは星を見る。わしは生徒の人間性を見る。どちらも当たるとは言い切れぬが、今回は特別に許可しようと思う」
――おお、校長先生公認だ!
「ありがとうございます!」
フィレンツェありがとう! ウマ人間とか思ってゴメン。
「くれぐれも奥には行かないように。いいね?」
「わかりました」
「話は終わりじゃ」
でも僕は終わりじゃなかった。
「僕からお願いがあります」
「何かね?」
老人顔が眉をひそめる。
「僕がユニコーンを治療したことは秘密にしておいて欲しいんです。生徒にも。教職員にも。誰にもです」
さぐるような眼付きになったよ。
「ほう。それはどうしてかね?」
(ラスボスに知られないためだよ)
ラスボスはユニコーンの血を飲むんだ。
僕がユニコーンを治療できると知れば、僕を都合の良いユニコーン血液製造メーカーと見なして、強制労働を強いてくるかもしれない。
「生徒の安全のためです」
校長先生はまるで僕の本音を見極めようとするかのように目を細めている。
「それには君も含まれるのかね?」
含まれるというか、ほとんどそうだけど。
「もちろんです。お願いします」
声に切実さが込もる。
ラスボスの気を引きたくはない。
――とにかく知られたくないんだ!
「わかった。ユニコーンを治療した者の名を明かさぬと約束しよう」
「ありがとうございます! では失礼します」
こうして僕は、“禁じられた森”への進入許可を得たのだった。
“あやしき男なり”
校長室を出ると、サナが不信感を隠さずに言った。
《確かに》
僕は同意した。
僕に不審の目を向けていたから、余計にそう感じたよ。
サナは言葉は理解できなかっただろうけど、二人の間の空気は感じていたはず。
《でも悪い人じゃないよ》
“あやしかり”
ま、サナに分かるわけないか…
(仕事を振られないように気をつければ問題ないはずなんだ)
なんだか疲れたよ…
校長先生と話すだけでこんなに神経がすり減る思いをするとは…
(それだけ魔力の圧が強い人だってことだろうなあ)
僕はフラフラと寮に向かった。
今日は“必要の部屋”探しは取りやめにしよう…
――早く見つけないといけないけど…
僕は夕食までベッドで休むことにした。
こうして、初めてのダンブルドアとの対面は終わったのだった。
次回の投稿は明日の予定です。