コレン奮闘記 ―― 秘密多き魔法使いの少年 作:mogatoku
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※用語解説
○ディーク
原作小説ではなくゲームに登場するハウスエルフの名前。かなり昔にホグワーツで働いていた。
もちろん映画にも出ておらず、“前世の自分”の記憶にもない。
――
スプラウト教授の声が響く。
「いいかい。薬草はね。しっかりと世話をして育てることが何よりも大切だからね」
ヘマして温室が止まっちゃったりしたら大変だもんね。
マンドレイクの球根はちゃんと間に合ったらしいよ。
ところでボクはハリー・ポッターとの接触をなるべく避けるつもりだった。
だからハッフルパフに入れば、当然、無関係でいられると思っていたんだ。
なのにこの薬草学の授業は、なんとグリフィンドールと合同授業だよ!
しかも週3回だよ!
(聞いてないよ! 映画にそんな場面はなかったぞ!)
最初はそう思ったけど、こうなってしまったものは仕方がない。
なるべく目立たないように過ごすしかないよね。
スプラウト教授は適度な厳格さと適度のおおらかさを持つ、厳しいとも優しいとも言える先生だ。
ただ、いつも植物を相手にしているせいか、授業中も生徒よりも植物に顔を向けていることが多く、そのため生徒たちもなんとなく授業に集中できていない。これでは説明を聞き逃す生徒が多いと思う。
実際ハリーとロンは他の生徒が動き出してから、あわてて動き出している。
「いいかい。やさしく扱うんだよ」
授業の内容は要するに“奇妙
ホグワーツがあるスコットランドはかなり北にある。
日光も弱い上に気温も低い。
冬になると日照時間だって短い。
そんなホグワーツで育つ植物などたかがしれてる。
それを温室を使うことで育てているわけなんだけど……
(これ、結構難しいな)
だからこそ、ある程度の厳密さが必要なんだろうな。
「ちゃんと日光が当たるように鉢を並べておくんだよ」
温室がないと使えない知識というのは、実用性という面では他の授業よりも少ない気がする。
(だって使う機会ないし…)
ぼくはそんなことを考えながら、自分の鉢を置くのだった。
放課後――
徐々に寒くなってきたというのに、いくら探しても〈必要の部屋〉が見つからない。
だからハウスエルフに教えてもらうために厨房に来たよ。
中に入るとハウスエルフ達が忙しそうに後片付けをしていた。
腰の曲がったお年寄りハウスエルフを見つけたので、声を掛ける。
「ディーク! ちょっと頼みがあるんだけど」
こちらにヨボヨボと歩いてきた。
「なんでしょうか?」
「〈必要の部屋〉を見つけたいんだけど教えてくれない?」
ディークは僕の顔をじっと見た。
「ディークは場所を知っています」
やっぱり。
「ならどこか教えてくれる?」
ディークが考え始める。
「ディークは教えることができます。でも〈必要の部屋〉は“必要”がある生徒が偶然見つけるものです」
前に尋ねたときもそんなことを言われた。
「それは前も聞いたよ。必要があるんだよ。でも見つからないんだ。どこに行けばいいのか、どうすれば見つかるのか教えてよ」
「失礼ですが、コレン様は何をなさるおつもりなのですか?」
もの問いたげにものを問うハウスエルフ。年老いたエルフの目は、どこか純粋で無垢な少年のような輝きをしていた。
「実験だよ」
僕も負けじと少年の目でまっすぐ見返して答える。こっちは少年のようなじゃなくて、少年なんだ。
「何の実験ですか?」
精霊魔法だよ。あと工作機械を動かせる部屋と、真冬に訓練できる部屋と、フィルチさんが浮遊できるようになった時に安全に練習できる部屋も必要なんだ。
「困っている人を助けるための実験だよ」
「そうですか……」
僕を見つめてから腕を組んで、しばらく考えている。
やがて腕をほどいて言った。
「8階の廊下に”バカのバーナガス”のタペストリーがあります。そこを3回往復すれば見つかります」
おお! やった! 教えてくれたよ。やっぱり頼んでみるもんだな。
「8階の廊下? 天文学の教室の近くなのかな?」
天文台があるあたりだろうか。
「そこまではわかりません」
首を振るディーク。
「わかったよ。タペストリーがあるんだね。そこを3回往復すればいいんだね」
「はい。そのとおりです」
多分、必要なことを思い浮かべる必要があるんじゃないかな。
「ディーク、どうもありがとう! 早速行ってみるよ!」
僕は礼を言ってすぐに厨房の扉を出たのだった。
「バカのバーナガスのタペストリーというのはこれかな」
映画の記憶では特に気付かなかったけど、これかもしれないな。
ボクはタペストリーを見る。
男がトロールにダンスを教えようとするが、トロールは男を棍棒で殴ろうとする。
そんな動きを繰り返している。
前世の自分の記憶にあるgif動画みたいだ。
(よし! ここを3往復すれば良いんだな!)
ジャーキーと一緒に好きなだけ工作機械を動かせる防音部屋を思い浮かべて、行ったり来たりしてみた。
「さあ、出でよ! 必要の部屋よ!」
僕はタペストリーに向かった叫んだ。
シーン。
(……あれ? なにも起きないぞ)
タペストリーの中のトロールと棍棒男が何事かと振り返ってこっちを見たよ。
――よし、もう一度だ。
再び三往復する。そして叫ぶ。
「出でよ! 必要の部屋よ!」
シーン!
特に何も変化がない。
トロールと棍棒男がジト目で僕を見ている。
――どういうこと?
(出てこないじゃないか!)
そんな訳で、ディークの所に行った。
「それはコレン様が必要としていないからではありませんか?」
ディークが眉をひそめている。疑わしそうな表情だ。
「そんなはずはないよ! 必要なんだよ!」
僕は真剣に訴えた。
「ではディークが参りましょう」
ディークが頷いてくれた。
ディークが手本を見せるように3往復すると、石の壁に、木製の扉が出現した。
まるで霧に隠れていたものが姿を現したかのように、浮かび上がってきた。
「よっしゃあ!」
僕は跳び上がった。
ようやく見つけたよ。
(でもどうして僕には現れないんだ?)
僕は〈必要の部屋〉の中に入り、周囲を見渡しながら考える。
「ねえ、ディーク。〈必要の部屋〉ってその人にとって必要な部屋が現れるんだよね」
天井を眺める。
相当に高い。
「はい。そのとおりです」
「どうして僕には現れないの?」
ディークに顔を向けると、ディークが首を振った。
「ディークにはわかりません。もしかしてコレン様は心を閉ざしておられるからかもしれません」
「どうしてそう思うの?」
「ディークにもよくわかりません」
「それは……」
僕はあることに気付いた。
「そうか! それだ!」
ようやく原因に思い当たったよ。
すぐに対処してもう一度試した。
今度はちゃんと木製の扉が現れたよ。
「やったああああ」
僕は再び跳び上がった。
――原因は『精神防殻魔法』だ!
精神防殻の魔法陣を組み込んだチップをロケットに入れてるんだ。これは常時発動しているんだよ。
精神防殻魔法は他者がこちらの
だから〈必要の部屋〉は僕の“
僕の“必要”は伝わりようがなかったんだ。
これではいくらさがしても絶対に見つからないよ。見つかるわけがないよ。
「おめでとうございます、コレン様」
「ありがとう、ディーク」
「お礼など必要ありません」
(ここに来る時は『精神防殻』を解除しないといけないな)
早速扉を開けて中に入ると、広い部屋だった。いや、とても広い部屋だった。バスケットボールコートが四つは入りそうな広さだ。
天井も高くて、バレボールで天井サーブを打っても大丈夫そうだ。
壁も床も天井も、いかにも頑丈そうに見えた。
「よし。ここなら好きなだけ実験と製作ができるぞ」
(いずれはフィルチさんを連れてこよう!)
安全に空中浮遊の練習ができる部屋を用意できるはずだ。
僕はこれからの予定を考え始めるのだった。
そのフィルチさんはその日も発音練習だった。
つまり浮遊の実践練習に入るまでは、まだまだかかるってことだよ。
「ダメだ! わしには無理だ…!」
フィルチさんが肩を落とした。
「まだ3ヶ月も経ってませんよ」
「だがいっこうに進んでる気がせん! きっとわしには無理なんだ…!」
フィルチさんがくじけかけている。
(これは良くない!)
気分転換が必要かもしれない。
「それじゃあ今日は練習を中断して、気分転換に歌でも歌いましょう」
「歌だと?」
「はい。くじけそうな時に歌うと気分が晴れる歌があるんです」
歌を勧めることにした。
「わしは歌をよく知らん」
あまり乗り気じゃない様子のフィルチさん。
でも僕は強引に話を進めた。
「じゃあ、歌ってみますので聞いてくださいね」
「……」
僕は腕を振って歌い始めた。
♪ブリテンは初め 神の
♪紺碧海原より 立ち現れり♪
フィルチさんの口が開き始めた。
(ぽかんとしてる…)
♪こは国の
守護天使らが
(表情が…ちょっと渋いかな…)
――でも、サビはここからだ!
♪征服せよ! ブリタニアよ!♪
♪あまたの波を
♪ブリトンの民は決して膝を屈してはならぬ♪
(あ、フィルチさんが顔をしかめた)
でも僕はくじけない。
ブリトンの民は膝を屈してはならないんだ!
「じゃあ、サビの部分を一緒に歌いましょう!」
僕はまたサビの部分に力を込めて歌う。
♪征服せよ! ブリタニアよ!♪
♪あまたの波を治めよ!♪
♪ブリトンの民は決して膝を屈してはならぬ♪
「ブリタニアとは何だ?」
「イギリスの、ブリテンの古い名前です。このホグワーツがあるスコットランドもブリテンの一部ですよ」
「そうか…なんだか…勇ましい歌だな…!」
お! ちょっとやる気になってる!
「でしょ? 気分が盛り上がるんです! じゃあもう一度」
「♪征服せよ! ブリタニアよ――」
「♪征服せよ! ブリタニアよ! あまたのなめぃを治めよ! ブリトンの民はけーして膝をくーしてはならん♪」
――いいぞ! その調子!
「♪
――スクイブの民だって膝を屈しちゃダメなんだ!
僕たち二人はしばらく歌い続けた。
フィルチさんの表情も楽しそうだよ。
「よし、始めてくれ!」
やる気も出てきたみたいだ。
(良かった! 元気になってくれて!)
こうして僕たちはまた発音練習を始めるのだった。
フィルチさんはその後もこの歌をよく口ずさむようになった。
僕も時々、一緒に歌ったよ。
結局、進捗はあまり見られないままクリスマス休暇に入ることになっちゃった…
『Rule, Britannia!』 イギリス愛国歌の一つ。
イギリス人なら誰でも歌える。
この歌はつべに動画たくさんありますので、二人が腕を振って歌う所もイメージしやすいかなと思います。
文中の日本語訳はちょっと…けっこう意訳しました。
次回の投稿日は未定ですが、なるべく早く投稿するつもりです。