コレン奮闘記 ―― 秘密多き魔法使いの少年 作:mogatoku
※用語解説
○魔法使い・魔女
魔法族の男女のこと。魔法を発動する時は、指揮棒みたいな杖を使う。
ハリポタ世界では、魔法族の男子を「魔法使いwizard」と呼び、女子を「魔女witch」と呼ぶ。
ちなみに魔法族はwizardkindとなっている。
――
「リチャード・カーティアスだよ。リックって呼んで」
僕に続いてリックも名乗った。
それにしても驚いたよ。
ハーマイオニーの顔が映画とまったく違うんだ。
――いや、分かっていたはずじゃないか?
家庭教師のリーマス・ルーピンは映画よりも面長で、それでいて堅実な印象の顔をしていたし、父さんの取引先のバーノン・ダーズリーさんは映画よりもずっと“ビジネスマンだぞ”って顔だったじゃないか。
(でも、ムーディさんと大臣の顔はほとんど同じだったんだ)
ただムーディさんの義眼は映画と左右反対だし、大臣だって顔がほんの少し違って見えるけど……
(それでも、顔が違うってほどじゃなかったから、なんとなく主要なキャラは映画と同じ顔なんだろうって思ってたのに!)
こんなにも顔が違うってことは、見ただけでは誰が誰だかわからないってことだよ。
――これはマズい!
ムーディさんや大臣のようによく似てる人は、まだ良い。
でもハーマイオニーがこんなにも別人の顔だとすると、繰り返すけど、目の前の人が“死喰い人”でも、気付かない可能性が高いってことだ!
――映画の知識が…肝心な所で当てにできないじゃないか!
そんなドギマギ状態の僕をよそに、別人の顔の少女が言った。
「よろしく」
そう、別に聞いてないけどね。
ハーマイオニーの態度はそう告げているように見えた。
特に僕への視線が冷たい。
でも彼女は用件を思い出したのか、すぐに話し始めた。
「あなたたち1年生? なら一緒にトレバーを探してくれない? トレバーっていうのはヒキガエルなんだけどこの子のペットでそれでこの子がね、あ、この子はネビルっていうんだけどって、それはさっき紹介したわね。それでこの子が突然コンパートメントのドアを開けて『トレバーを見なかった?』って尋ねてきたから、わたし『そんな生徒知らないわよ』って言ったら『魔法使いじゃなくてヒキガエルなんだ』ってネビルが言ったもんだから、わたし呆れちゃったわ。だってヒキガエルなんてわかるわけないじゃない! ちゃんと言ってくれないとわからないわよね。だからわたしそう言ったの。『僕のペットのヒキガエルのトレバーを見ませんでしたか? ってちゃんと言ってごらんなさい』ってね。そしたらネビルったら何も言わずにドアを閉めたのよ。失礼しちゃうでしょ。それでわたしも気になったから廊下に出たら隣のコンパートメントでまたネビルが『トレバーを見なかった?』って尋ねていたからもう信じられないって思ったのよ。さっきせっかく教えてあげたのにまたヒキガエルだって説明してないのよ。このままじゃ絶対に見つからないでしょ?」
彼女は息継ぎもそこそこに早口でまくし立て、僕は途中で集中力が切れてしまっていた。
「――だからわたしがトレバー探しを手伝うことにしたの。ってあなたちゃんと聞いてるの? ええと…コレンティンだったかしら?」
(あっ、やっぱり僕に話してたんだ)
――ハーマイオニーってこんなにおしゃべりだったっけ?
いや、確かに映画でもそういう雰囲気はあったかもしれないけどさ。
映画よりもうるさ……勢いが……とにかく言葉の洪水みたいだよ。
僕は言いたい!
(こっちは男子なんだよ!)
“前世の自分”の記憶では、彼が読んだのは21世紀になってすぐの頃だし、赴任先のアメリカでも当時かなり話題になってた話だから、20世紀の今はまだ知られてない話かもしんないけどさ!
(男子の口頭言語の処理能力は女子の3分の1なんだよ!)
僕の頭にとって、ハーマイオニーの言葉はまるで、ティーカップに流し込まれるバケツの水だ!
だから口頭での報告はなるべくコンパクトにまとめて、要点だけにしてほしい。
せめて3分の1にまとめてよ。
どうしても伝えたいことがたくさんある場合は、文書で提出してほしい!
そうすれば僕の脳は『聴覚言語野』じゃなくて『視覚言語野』で処理できるから!
――なんて今の僕が初対面の女子にそんな要求できるはずもなく、実は鳥かごにいるオウムのケンを見ていた。
「ねえケン、ヒキガエルを探してくれる?」
僕は立ち上がって鳥かごの出入り口の扉を開ける。
「ヒキガエル・タベモノ!」
「食べちゃダメだよ。ネビルのペットなんだ」
ケンはかごを出ようと一瞬翼を広げたけど、タベモノじゃないと聞くとすぐに翼をたたんでそっぽを向くように首をぷいと動かした。
「イヤダ・ココ・セマイ・トビニクイ」
食べ物じゃないからなのか、狭いからなのか、ケンは拒否した。
確かに客車の中をケンが跳び回るのは無理がある気はする。
「確かに狭いね」
僕は頷いてカゴの扉を閉めた。
するとハーマイオニーが身を乗り出してきた。
興味津々という表情でケンに視線を向けている。
「あら、あなたのペット、言葉が分かるの?」
「オウムだからね」
僕はなんでもないかのように答えてしまった。
それがいけなかったのかもしれない。
「何を言ってるの? オウムは言葉を真似するだけでしょ? 言葉がわかるわけないじゃない。あなたどういう頭してるの? もしあなたがホントにオウムがしゃべれると思ってるなら――」
ハーマイオニーが腕を組んで前のめりになり「頭大丈夫?」という冷たい視線を向けながら、しゃべり始めた。
(そんなことは気にしなくて良いんだよ、お嬢さん)
ここは魔法界なんだ。
それにケンは知能が高い。喋るくらいできるよ。
でも僕は黙って肩をすくめて再び座った。
「――それでホグワーツからの手紙にはフクロウかヒキガエルかネコを持ってきてもいいって書いてあったでしょ? だからわたしどれにしようか考えたんだけど、やっぱりヒキガエルなんて飼いたくないじゃない。でもネコはありきたりだし、だからフクロウにしようかなって思ったんだけど、まだ買ってないの。だってどうやったら買えるのか、どこで買ったら良いのかわからないんだもの。どこで買えるのかホグワーツからの手紙に書いてあればよかったのに、書いてないから不親切だなって思ったけど、良く考えたらおカネが足りないからどっちにしても――」
僕はよどみなく流れる水流のような言葉に圧倒されながらも、なんとか右から左に聞き流し、ティーカップが流されないように耐えていた。
でもこのままいつまでも言葉の濁流に耐え続けることはできない。
終わらせるにはヒキガエルを探すしかない。
(でも困ったなあ。精霊のサナに頼めば見つけられそうだけど、サナのことは知られたくないし…)
そう。
実は僕、精霊さんとお話ができるんだ。“サナ”って呼んでる。
これも秘密だよ。
父さんも知らないんだ。
(なんとかこっそり伝えて…いや、待てよ!)
サナに頼もうと考えて、僕はある問題に気付いた。
(妖精語で「ヒキガエル」って何て言うんだ?)
サナは英語が理解できない。
だから妖精語で話さないといけないんだ。
なぜ“精霊語”じゃなくて“妖精語”なのかは長くなるので省略するけど、この言葉は「前世の自分」が身に付けていた言葉なんだ。
でも、その記憶をさぐってもヒキガエルなんて妖精語は見当たらない。
実はサナに頼むことで精霊魔法が使えるようになる。
だから僕は杖を手に入れる前から魔法が使えた。
ただサナとのコミュニケーションはとっても大変なんだ。
サナに説明するのは、ヘーゲルの哲学書を理解しながら読むみたいな難しさがあるんだ。
精霊魔法で僕の身体を一センチ空中に浮きあがらせるまでに、説明に半年もかかったよ。
(ヒキガエルを長々と説明なんかしたくないなあ)
周囲にバレないようにこっそりと伝えるなんてムリだ。
「ヒキガエルとは何なのか」を言葉だけでサナに分かってもらおうとするなんて、時間と労力のムダだよ。
前世の自分の記憶の中にもあるよ。
明治時代の留学帰りの日本人が西洋の「ビーフシチュー」を日本の料理人に作ってもらおうと、言葉だけで説明したら「肉じゃが」が誕生したって。
ヒキガエルなんかぜったい伝わらないよ。
あ、言い忘れてたけど“前世の自分”というのは日本人で、就職してから世界各地に赴任してたんだ。
そのあと異世界にまで転移する羽目になり、そこで魔法を覚えて使っていた。
まさに世界を股に掛けた人生を送った人だよ。
(仕方ない。探して回ることしかないな)
僕は座席から立ち上がった。
「よし、探しに行こう」
なんだか居心地が悪そうにしていたネビルも“待ってました”とばかりに勢いよく立ち上がった。
続いてハーマイオニーも「あら、手伝ってくれるのね」と立ち上がり、ネビルの後についていった。
「僕はこっちを探すよ」
「そう。じゃあまたね」
反対側に向かって進むことにした。
廊下を歩いてヒキガエルを探しはじめる。
「迷子のヒキガエルを見なかった?」
ドアを開けて尋ねる。
また廊下を歩く。ドアを開ける。尋ねる。閉める。歩く――
しばらくそうしていると、何というかビシッとした髪型の少年が声をかけてきた。
「君は誰だ?」
ホグワーツの生徒同士なんだし、そんな不審人物を見るような目をしないで欲しい。
「コレンティン・ジロードだよ」
「ジロード……なんだ。商人の息子か」
(うわっと!)
この言い方は地主階級かな。
「商人より“実業家”と呼んで欲しいなあ」
僕が訂正すると――ひええ、ジロッと軽蔑の目を向けてきたよ。
「ジロードは商人の分際で大きな顔をしている、と父上が話しておられた」
うわぁ…
いかにも“上流階級です”って発言だ。
“働くなんて下々のすることだ。紳士はなにもせずとも地代が入ってくるものだ”ってね。
父さんが言うには、上流階級と話をするときは「適度に堂々と振る舞う」ことが大事らしい。
この「適度に」というのが難しいんだけどね。
とくに“前世の自分”みたいな日本人には難しいんだよ。
堂々と振る舞うには、ある程度「図々しい」必要がある。
たとえば日本人が「図々しい」と感じ始める「図々しさ度」を30とする。
するとこの“適度な図々しさ”の「図々しさ度」はだいたい60くらいだと思う。
でも例えばアメリカ人には「図々しさ度」80とか90とかがざらにいるんだ。
そして日本人には、60との違いがよく判らないんだ。
だって30以上はみんな「図々しい」としか感じないんだ。
いつも5万円の楽器を吹いている人が、150万円と300万円の楽器を渡されて吹き比べても違いがわからないのと同じだよ。
どちらも「とても良い楽器だなあ」としか思わないんだ。
だから日本人の中には時々「図々しさ度100」全開の振る舞いをし始める人があらわれて、ドン引きされたりするんだ。
前世の自分の記憶によると、例えばメジャーリーグのとある日本人投手がコーチにこう言われたんだ。
「おまえはおとなし過ぎる。もっと自分を出せ!」(図々しさ度20じゃなくて60になれ)
だからその投手は試合に負けた時、全開で暴れたんだ。
ベンチを蹴飛ばし、グラブをたたきつけ、ロッカーを殴って、怒鳴り散らした。
なぜそんなことをしたのかって?
それは「おとなし過ぎる」って言われたからだと思う。だから「おとなしくない」自分を出したんだよ。
そしたらコーチに呼び出されてこう言われた。
「もっと自分を抑えろ!」(図々しさ度100じゃなくて60にしろ!)
その投手は新聞記者にこのエピソードを語った後にこう言った。
「自分を出せと言ったり、出すなと言ったり、意味わからん! あいつの言うことは無茶苦茶だ!」
実際、このコーチの言葉だけで理解するのは難しいと思う。
前世の自分もいろいろと経験して気付いたみたいだし。
だって60も100も日本人にはどちらも同じで「とても図々しい」としか感じないレベルなんだ。
図々しい「欧米人ども」にそんな細やかな違いがあるなんて、気づけと言われても難しいんだ。
もちろん僕にはわかるよ。
僕はイギリス人だからね。
そんなわけで、僕は父の助言に従い、ただ堂々と返すことにした。
「うん、魔法省に多額の寄付をしてるからね。いろいろと話を聞いてもらえるんだ。ところで君は誰だい?」
「マルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」
ドラコかい!
――また映画と顔が違う……!
僕は心の中でガックリとうなだれた。
次回の投稿は明日の予定です。