コレン奮闘記 ―― 秘密多き魔法使いの少年   作:mogatoku

3 / 4
03 3 ドラコとの初対面 ―― 上流家庭と実業(ビジネス)家庭

 

※用語解説

○聖28一族

イギリス魔法界の純血一族。これに属する家は名家とは限らないが、名家は必ずこれに属している。

マルフォイ家もその一つ。

マルフォイ家などの名家の役割や収入源などの話は、本作のオリジナル設定。

原作は児童文学なので、収入源なんて世知辛いことは話題にも上らない。

ちなみにジロード家も元々フランスの名家だったが、今はビジネスで生計を立てている。

 

 

――

 

 

 ――ドラコかい!

 

 映画ではいじめっ子的な存在だ。

 

(映画よりも顔が細い!)

 

 でも言われてみれば“ドラコ・マルフォイ”って感じの顔してる。

 あくまで“言われてみれば”っていう程度だけど。

 

「父上が話しておられたぞ。お前の家は“血を裏切る者”だって」

 

(はあ?)

 

 僕はドラコの言葉に反発を覚える。

 

(何を言ってるんだ?)

 

 ――まだ何も始めてないぞ!

 

 始める前から容疑者扱いしないで欲しい。

 

「血を裏切る? むしろ守っていると言って欲しいなあ」

 

 だいたい映画に出てくる“血を裏切る者”っていう言葉の定義がよくわからないよ。

 

「どういうことだ?」

 

 ジロッと睨んでくる少年。

 うん。映画の方が可愛い。

 

「マグルとの取引をうちが一手に引き受けているから、他の人たちはマグルとの関わりが少なくてすむんだ。関わりが少なければ混血も増えない。つまりみんなを守っているんだ」

 

(どこが裏切っているというのかな?)

 

「…父上が間違っていると言うつもりか!」

 

 ドラコが父上への批判はゆるさないぞって態度を見せてくる。

 僕はそれを両手を軽く広げて受け流す。

 

「誰にでも勘違いの一つや二つあるものだよ。それともあれかい? 君の家が代わってくれるのかい?」

「冗談じゃない!」

 

 いまいましげに睨んでくる。

 

「なら感謝して欲しいなあ。君の家に納入されている小麦や果物だってきっと父の商会から卸されたものだよ。魔法界の小麦の7割は合衆国産なんだ」

 

 イギリスの小麦じゃ足りないんだよ。

 

「ワインだってフランス産だし」

 

 イギリスじゃ葡萄はあまり育たないんだ。温暖化が進むまでは。

 

「だから何だ」

 

 ちょっと語気が強まった。

 

「別に血を裏切ってはいないってことだよ」

 

 僕はあくまで普通に話す。

 

「ふん!」

「ところでハリー・ポッターを見かけたかい?」

 

 ――顔は映画と違うけど、展開はどうなんだろう?

 

 それが気になって尋ねた。

 

「あんなやつ、こちらからお断りだ!」

 

 視線を左下に落として吐き捨てるように言った。

 

「あ、もう話したんだね」

 

 顔見せと言い争いは終わったようだ。

 ということは、展開はきっと映画と同じだ。

 

(なら顔以外は、映画のとおりか…)

 

「君はどうなんだ?」

「僕はまだ顔を見てもいないよ。まあ話すつもりはないけどね」

 

 ハリーとはしばらく関わらないつもりだ。

 

「それがいい。ウィーズリーとつるんでいる」

 

 ウィーズリー家は大きな一族だけど、これはもちろんハリーの親友となるロンのことだ。

 

「ウィーズリーと言えば、たしかマグル製品の規制とかしている魔法使いだったよね」

 

 僕がロンの父親の経歴を思い出すと、マルフォイは忌々しげな表情になった。

 

「父親がだろ? あいつも血を裏切る者だ!」

 

 これもよくわからない。

 たしかにマグルびいきではあるけど、アーサー・ウィーズリーは僕の父さんよりもマグルを知らない。

 少なくとも映画の中の彼は。

 

「ウィーズリーは純血だと思うけどな。ウチと同じで」

 

“血を裏切ってる”ならマグルと結婚してそうだけど、アーサーの奥さんはやはり純血魔女だ。

 

(全然、一滴たりとも血を裏切ってないよね?)

 

「だがマグルを擁護してる」

「そうなの? 初めて聞いたけど」

 

“擁護する”とはどういうこと?

 具体的になにをすれば擁護していることになるんだろうか?

 

「君の父親は違うのか?」

「そんなことは一度も聞いたことがないな。マグルは商売相手だよ」

「それが擁護だと思わないのか!」

 

 マルフォイの語気が強まる。

 

(ならどうしろと?)

 

 商売するなと? 儲からなくなるじゃないか。

 

「思わないよ。父の商会は魔法族には安く、マグルには高く売ってるんだ。ぜんぜん平等に扱ってないよ。平等主義者なら平等に同じ値段で売るんじゃないか?」

 

 そう。この事実があるから堂々と反論できる。

 単に物価が違うだけだとしても、使える事実だ。

 

「…マグル生まれはどうなんだ?」

 

 これはマグル生まれの魔法使いや魔女のこと。たまにいるんだ。

 

「マグル生まれは魔法族価格だね。魔法界で買えばだけど」

「やっぱり血を裏切っているじゃないか!」

 

 おっと、怒鳴られたよ。

 そんなに怒るようなことか?

 

「そうかなあ。そもそも商会ではそんなに客の区別なんかしないよ。上客を優遇するくらいだよ」

 

 いちいち血統で区別してたら、手間が増えるじゃないか。

 

「商売人め!」

「ビジネスは血じゃなくてカネでするモノだよ」

「守銭奴が!」

 

 吐き捨てるように言うマルフォイ少年。

 

「どうもありがとう」

 

 僕は笑顔で応じた。

 

「ほめてない!」

 

 苛立たしげに怒鳴るドラコは、じつに表情豊かだ。

 

「ウチにはウチの商売があるんだよ。聖28一族の名家には入っていないから、そういう責任は果たしてないけど、それでもウチもまた魔法界を支えているんだ。ウチがやらずに皆がバラバラに商売していたら、もっと酷い事になるからね」

「それがどうした!」

「ちゃんと魔法界の保護に貢献しているってことだよ」

 

 肩をすくめてみせると、ドラコは一瞬口を開きかけたけど、言うことが思い浮かばないのか、口を閉じて歯をかみしめていた。

 

「ふん!」

 

 マルフォイ少年は結局、ムッとしたまま去って行った。

 

(うーん。上流だ)

 

 イギリスは血統階級社会なんだ。

 土地の制度がそれを支えている。

 あ、血統階級社会という言葉は思いつきで作ったものだよ。

 

 なにしろいまだにイギリス国土の半分を全体の人口の1パーセントが所有しているんだよ。

 

 王族・貴族・教会だ。

 

 なんでこんなことになっているのかというと、封建時代の領地がそのまま、なし崩し的に私有地扱いになったためなんだ。

 

 日本で言えば、各藩の領地がそのまま大名家の私有地になったようなものだ。

 そして領民がそのまま、ただの賃貸入居者になったようなものだったんだ。

 

 なんだか途轍もないよね。

 

 しかも爵位は分割できないから、爵位を継いだ者がその土地の大部分を引き継いでいる。

 イギリスの土地の半分はそんな土地だ。

 残りの半分は産業革命以降に売りに出されて、民間の私有地か、あるいは公有地になっている。

 おカネが必要になって土地を手放す貴族は一定数いたんだ。

 

 そんな1パーセントの大地主が広大な私有地を小分けにして民間不動産業者に貸し出し、それを一般住民が借りて暮らしている。だから地代だけで莫大な収入を得ている。

 

 前世の自分の記憶を見ると、この圧倒的不平等は、スコットランドでは21世紀に入ってすぐに廃止される。封建的な制度だとして廃止されるんだ。

 でもイングランドでは、前世の自分が異世界に転移するまでは、つまり少なくとも2010年末までは特に変化はないみたいだ。

 

 マルフォイ家はそんな一族の一つだ。広大な土地を管理している。

 

 もっとも、魔法族の全体の数は少ないし、物価も安いので、同格のマグルほどは収入がない。

 それに魔法族の大土地所有者は、その土地に潜む魔法界、つまり魔法族の保護と秘匿を担っている。

 

 責任重大だよね。

 

 父さんが教えてくれたんだ――

 

 

「だからロジエール家とは良い関係でいたかったんだがな。名家には敬意を払う必要がある」

 

 ロジエール家というのは、僕の実母リリアの実家だ。

 実母が亡くなり、父さんがハンナと結婚してますます疎遠になった。

 でも疎遠になった理由は別にある。

 父さんはこうも付け加えた。

 

「だが卑屈になる必要はないぞ。殺されかかってまで、仲良くする必要はない」

 

 父さんに死の呪文を放ったのはエバン・ロジエール。

 僕がまだ赤ん坊の時だ。

 実はその時、僕が父さんを救ったんだ。

 でも皆は、ちょうどやって来た闇払いのムーディさんが父さんを助けたと思ってる。

“闇払い”っていうのは警察みたいな存在なんだ。

 そのままエバンを殺しちゃったよ。警官が犯人を射殺するみたいに。

 

 まあそんなこともあって、父さんは力説した。

 

「うちだって元はフランスの名家だったんだ。歴史と伝統あるジロー家だぞ」

 

“ジロード”をフランス式で発音して、自分たちも名家だと主張して。

 そんな父の教えを僕なりに守ろうとしたら、さっきのドラコに対する対応になったんだ。

 

「この屋敷も名家の管理下なの?」

「この辺りの所領は元々オーガスタス家という名家のものだった。ただ一族が断絶してこの屋敷以外の所領はブラック家のものになっていたが、その後は魔法省のモノになっているみたいだ」

「みたい?」

「ああ。おまえが生まれた頃はブラック家によって地代を引き落とされていたんだ。税は魔法省だったがな。だがシリウス・ブラックが投獄された後は、地代と税が併せて魔法省によって引き落とされていた。そして、この屋敷に越してからは引き落とされているのは今や税だけだ」

 

 つまり地代を支払う必要がない!

 ということは、この巨大なケンジントン屋敷は独立した所有地なのか。

 

 それは面白い――

 

 

 そんなやりとりをした時のことを思い出しながら、僕は引き続きヒキガエルを尋ねてドアを開く。

 双子らしき赤毛の上級生がカードゲームをしている。

 

「ヒキガエル? そんなのたくさんいるぞ」

「よし、これでどうだ」

「ああ、くそ!」

 

 どうやら知らないみたいだ。

 

 ――ん?

 

 よく考えると、映画ではヒキガエルはなぜか降りてから見つかるんだった。

 

(なら探す必要ないじゃないか…)

 

 そう言えばハーマイオニーの言葉の洪水から逃れるために始めたんだった。

 

(なら、目的も果たしたし、席に戻ろっかな)

 

「あ、どうもありがとう」

 

 僕は扉を閉めると、ヒキガエル探しをやめ、リックが留守番してくれているコンパートメントに戻る。

 僕にはヒキガエルよりも重大な心配があることを思い出した。

 こっちの方がずっと大事だ。

 なにしろ映画には出てこないことだから、どうなるのか先が読めない。

 それは僕コレンの――

 

 ――組み分けだ!

 

(計画どおりに進むといいんだけど…)

 

 準備は万端だけど、心配だよ……。

 





次回の投稿は明日の予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。