コレン奮闘記 ―― 秘密多き魔法使いの少年 作:mogatoku
※用語解説
○四つの寮
ホグワーツは全寮制で、寮が四つある。
それぞれの寮の特徴は次のとおり。(カッコ内は作者の私見)
●グリフィンドール寮 勇猛果敢な騎士道精神
(原作主人公ハリー・ポッターはもちろんココ!)
●ハッフルパフ寮 正義・忠実・忍耐・真実
(素晴らしい徳目が並んでいるが、ここには“謙虚”とか “思いやり”などの日本人好みな徳目が無いことに注意!)
●レイブンクロー寮 機知・学び
(秀才タイプの集まり。コレンの父がいた寮)
●スリザリン寮 目的を遂げる狡猾さ・真の友
(いかにも悪役が入りそうで、世界中のファンから嫌われ、日本人ファンから愛される寮。二次創作でも大人気。“真の友”というのもポイント高い!)
新入生は性格に合った寮に振り分けられる。
ちなみにどれにも当てはまらない余り者はハッフルパフ寮に入る。
○組分け帽子
新入生の頭にかぶせると、その生徒の心や性格などを読み取って寮の名を告げるという魔法のとんがり帽子。ちゃんと顔があり、普通にしゃべる。
――
ホグズミード駅に到着してからいろいろあった。
「うわ! 馬車がひとりでに動いてる!」
リックが驚いてる。
でも僕には馬車を引く化け物が見えるよ。
人の死を見たことがある者にはセストラルが見えるんだよね。
黒くて恐ろしい姿をしてるけど映画で見たよりもずっと馬っぽい姿だ。
もちろん見えない振りをしておいた。
――それにしても何で見えるんだっけ?
(あ、そうか!)
よくよく思い出してみると、ムーディさんがエバン・ロジエールを倒したのをこの目で見てたよ。
なら見えて当然だ。
……というわけで、今は大広間にいる。
「アボット、ハンナ」
帽子が寮の特徴を紹介する歌を歌い終え、組分けが始まった。
(あれ? 教職員席の人数が多くないか?)
僕は前方の大人達の席を眺める。
「ハッフルパフ!」
(映画の倍はいるんじゃないかな?)
どう見ても多い。
――どういうことだ?
うーん。
「ボーンズ、スーザン」
(ん?)
――そうか! これはあれだ!
「ハッフルパフ!」
僕は前世の自分の記憶も使って考えた末、ようやく理由に思い当たった。
(これは学園もののドラマや映画によくあるやつだよ! きっと!)
「ブート、テリー」
学園モノのドラマや映画では、主人公に関係ない先生はそもそも登場しない。
職員室の背景にも映らなかったりする。
「ハッフルパフ!」
だって台詞もなければ動きもないのにそれ用に俳優を雇うのはムダだし。
でもだからといって1回きりのモブ出演は使えない。
だって毎回顔が違ったらリアリティなくなるし。
「ブロックルハースト、マンディ」
だから主人公ハリー・ポッターに関係ない教授や、ストーリーに関係ない教授は映画には映りもしなかったんだよ。
「ハッフルパフ!」
でも実際にはちゃんと存在している。
だからこの部屋にいるんだ。
「ブラウン、ラベンダー」
よくよく考えると、そもそもこれだけの人数の生徒を相手にして、映画に出てくる教授だけで授業を回せるはずがない。
試験だってそうだ。
だって一人で千人分の答案を採点することになるんだよ。
「グリフィンドール」
映画のままじゃ、どう考えても人手不足だ。
でもそれは制作上の都合だったんだ。
(現実にはちゃんといるんだね)
「ブルストロード、ミリセント」
――きっとそういうことだ。
僕はこの考えに自分でうんうんと頷いたのだった。
「スリザリン!」
でもそんな小さな満足感では誤魔化せないほどに、僕の心は穏やかじゃなかった。
(なんだかイライラを感じてきたよ)
なぜだろう?
――この組分けのせいだ。
ホグワーツ魔法魔術学校では、組分け帽子が性格判断してそれぞれの寮に振り分けるというやり方を採用している。
(このやり方自体に問題があるよ)
これが苛立ちの原因だと思う。
「カーティアス、リチャード」
(これは血液型性格判断で寮を決めるようなものじゃないかな?)
僕は“前世の自分”の記憶からそう結論する。
「ハッフルパフ!」
A型はハッフルパフ寮。
B型はグリフィンドール寮。
AB型はスリザリン寮。
O型はレイブンクロー寮。
という風に分けているようなモノだよ。
「フィンチ・フレッチリー、ジャスティン」
仮に血液型性格判断が正しかったとして、B型ばかり集めて学校生活を送らせるということに、いったい何のメリットがあると?
僕はB型しか居ない寮生活を思い浮かべてみる。
皆が思い思いに行動して、次第に乱れていく寮生活が見えるようだ。
――デメリットしかないじゃないか!
「ハッフルパフ!」
(いや、そんな集まりに入りたくないし!)
仮にあの組分けの帽子の判断が正しいとして、同じような性格の者を集めて学校生活を送らせていいのか?
――違いを認め合える大人に育つのか?
そんな風に思ってしまうんだ。
魔法界には異質な者を排除する文化が根付いている。
――それってこの組分けのせいなんじゃ?
「ジロード、コレンティン!」
そんなことを考えていると、僕の名前が呼ばれた。
(あ、行かないと)
僕は立ち上がり、緊張を感じながら歩き始めた。
――最初の難関だ。
組分けの帽子は新入生の心を読んで適性を判断して寮を決める。
これが問題だ。
だから心を読まれないために準備してきた。
――ラスボスに密かに対抗しようとしていることは、誰にもバレてはならない。
(あのダンブルドア校長にもだよ!)
“前世の自分”が暮らした異世界には「心に作用する魔法」があった。
それらはまとめて「精神魔法」と呼ばれていた。
精神魔法は人の尊厳を損ねるものとされ、原則として禁止されていた。
彼は使えなかったけど、誰かに例外的に使用を認める場合も、何か特別な許可が要るなど細かく条件が課されていたらしい。
でも、この世界には「開心術」がある。「忘却魔法」がある。
しかもその使用には何の規制もされていない。つまり使用は無制限なんだ。
(実にとんでもない話だよ!)
僕は「内心の自由」について講義したくなるよ。
言動と内心が異なる場合は言動にのみ法的責任が生じるんだと。
内心でどれだけキリスト教を嫌っていても、言動がクリスチャンであれば、社会的にも法的にもクリスチャンなんだと。
「あいつは本当は心の中で異端を信じているぞ! そんなことは一言も言わないが目を見れば判る! あいつは魔女だ。悪魔だ。異端だ。火あぶりだ!」
などと言われない権利、それが内心の自由なんだ、と。
だから仮に心の中が闇に染まっていたとしても、実際には何の行動も起こさなければ、法的には闇の魔法使いとは見なされないはずなんだ、と。
でも今の僕はただの子どもなので、そんなことは言わない。
誰も聞いてくれないだろうし。
ただ帽子に心の中を覗かれ、組分けが行われてしまう。
それが問題なんだよ。
(父さんはレイブンクローだった)
僕もレイブンクローになるんじゃないかな。
何もしなければ。
(グリフィンドールとスリザリンは回避一択だ)
映画ではスリザリンはグリフィンドールと合同授業がある。
ハリー・ポッターと近すぎるんだ。
――それは避けたい。
グリフィンドールなんかなおさら関わりたくはない。近すぎるなんてもんじゃないから。
多くの人の命を救うための第一歩に繋げるためにも、行きたい寮は一つ。
――ハッフルパフだ!
レイブンクローでもいいと言えばいいけど、自分の計画ではハッフルパフの方が都合が良いんだ。
幸い、ジョージ叔父さんはハッフルパフだった。つまりジロード家の血にはハッフルパフの要素もあるということだよ。
だからここにかけることにする。
(そのための準備をしてきた)
何年も前から――
“そは何か?”
精霊のサナの声が尋ねてきた。
《精神防殻の魔法陣だよ。記憶の中にあったんだ》
僕は妖精語で答えた。
“そは使えぬぞ”
《え? そうなの?》
“そは「エルダールとの誓い」によりて力を貸すものなり”
精霊魔法の一種らしい。
《あ、そうか。ならどうすれば「僕との盟約」で使えるようになる?》
“そはわからざり”
《えー。サナでもわからないのー?》
“わからざり”
それからは魔法陣の研究の日々。
模様を分解してサナに見てもらい、反応を確かめる。
“え使えず”
ひたすら繰り返して、なんとか盟約の部分を特定できた。
そして――
《これでできたのかな?》
“おそらくはせられり”
僕は家庭教師に尋ねた。
「ねえリーマス、忘却魔法を見せて欲しいんだけど」
「忘却魔法? 見せると言ってもどうするんだ? 安易に使うのは危険だぞ」
「ジャーキーに明日の予定を覚えてもらうから、それを忘れさせてみて欲しいんだ」
「なるほど。それなら大丈夫か。わかった」
僕はハウスエルフのジャーキーに明日の予定を伝えた。
そして今から忘却魔法を使うことも伝えた。
「じゃあいいかい」
「へい」
「オブリビエイト」
「ジャーキー、明日の予定は何だい?」
「明日の予定は…まだ聞いてないでやす」
「うまくいったようだ。これでいいかい? コレン」
「うん。ありがとう。リーマスってやっぱりスゴイね」
「ははは。これくらいはいつでもいいぞ」
こんなことを続けたある日。
「ジャーキー、明日の予定は?」
「聞いてないでやす」
「じゃあ今日はここまで」
「うん。ありがとう、リーマス」
リーマスが部屋を出て行くと僕は尋ねた。
「それで? 明日の予定は?」
「へい、明日は旦那の義母上のお誕生日でやす」
「よし、ちゃんと覚えているんだね」
「へい」
「なら一応成功なのかな…」
「ですがリーマス様には知らせないでやすか?」
「うん。リーマスからダンブルドアに知られる恐れがあるし」
「そうでやすか。あと紙が灰になってしまいやした」
「やっぱり金属で作らないとだめだね」
魔術具は紙で作ると燃えてしまうんだ。
《サナ見て。装身具の職人さんに作ってもらったよ》
“我らは見えず。ただ感じるのみ。それにては使えず”
《え? ダメなの?》
“模様の違いたり”
イギリスの職人さんはおおらかで、寸分違わぬ再現にこだわらないようだ。
《そんな、ちゃんと作ってほしいのに》
そして今年の春。
「コウ、日本の町工場から荷物が届いたぞ」
「ありがとう、父さん。やっと届いた。もう間に合わないかとあきらめてたよ」
「それでこれはなんだ?」
「精神防殻魔法の金属チップだよ。さっそく実験するからね」
そして――
「じゃあリーマス、お願い。ジャーキーもいいね」
「ああ、いつでもいいぞ」
「へいでやす」
「オブリビエイト」
「明日の予定は…」
「防げなかったな」
「うん、残念だよ」
「ジャーキー、どう?」
「へい、明日の午後はミルトン・キーンズの町工場に行くでやす」
「うん、ちゃんと覚えてるね」
「へい」
“サナ、うまくいったと思う?”
《是なり。模様に従い、あやしき技を跳ね返せり》
「よっしゃあ! うまくいったよ。成功だ!」
「よかったでやすね」
「あとは練習あるのみ」
「練習でやすか?」
「そう。完全に防ぐんじゃなくて防ぎたいところだけ防ぐように練習するんだ」
「できるんでやすか?」
「できるように作ったはずだよ。入学までには間に合わないかもしれないけどね」
「そうでやすか」
――僕の胸には今、ロケットがある。
“前世の自分”が異世界で支給されていた魔導製品の中に描かれた魔方陣と同じ、いやそれ以上の働きをする魔法陣が刻印されたチップが埋め込まれている。
発動するのは精神魔法の一つ。
――精神防殻魔法だ!
(最初に魔法陣を描いてから、このチップの完成までに4年もかかったよ)
これをフル稼働させれば、僕のマインドには誰もアクセスできないはずなんだ。
ただ完全に遮断するのはマズい気がする。
(対策していることがバレると、目を付けられてしまいかねない)
実は“部分的に防御して、見せてもいいものは見せる”という風に作ったんだ。
でも練習が必要だから、すぐにはできないんだよね。
だから今回は発動の出力を抑えることにしようと思う。
(これなら表層的な思考だけを読んでもらえるんじゃないかな?)
もし上手く行かなかったら、前世の自分の記憶のことや、ラスボスの邪魔をするつもりであることが知られてしまう。
ダンブルドア校長に知られてしまう。
すると僕の邪魔はされないにしても、無謀なことはやめるように説得されたり、言いふらされたりするかもしれない。
(そうなるといろいろと面倒なんだ)
――僕はこっそりと活動したいんだよ。
「ああ、ダニエル・ジロードの息子か。うーん、見づらいな。まるで霧の中に隠れているみたいだ。父親はレイブンクローだったが、君は果たして…」
余計なことは考えない。
ただ和気藹々とした楽しい学校生活を思い浮かべるんだ。
騒がしい授業。
先生への愚痴。
菓子の奪い合い。
「なるほど。霧の中に見えるモノは果たして君が望むモノか…それとも…惑わすための作り物か…」
皆の注目を集めようと渾身のネタ話を披露するヤツ。
それを聞いて口から食べ物を吹き出す僕。
しかめっ面をする女子と、大笑いする男子…
「ならば…ハッフルパフ!」
組分け帽子が宣言した。
拍手が鳴り響く。
――よし、成功だ!
ボクは軽く拳を握りしめて、ぐいっと持ち上げた。
テーブルでは上級生が拍手で迎えてくれる。
ターゲットの一人もその中にいた。
このターゲットこそがハッフルパフに入りたい理由なんだ。
その後も組分けは進んだ。
「マルフォイ、ドラコ」
僕は映画とは違う景色を眺めながら、映画と同じように進んでいく組分けを見ていて、ふと思いついた。
――そうか! 映画は作り物なんだ!
映画のドラコは俳優に過ぎない。
映画のアレキサンダー大王は実物じゃなくて俳優だ。
――おかしいのはこの光景の方じゃない。僕の方だ!
今日の僕はあれだよ!
タイムスリップして本物のクレオパトラを見たのに「ハリウッド女優と顔が違う!」って反応する間抜けも同然だよ!
これはきっとそういうことだ。
だからこの部屋の景色もまた映画とは違うんだ。
「スリザリン!」
「ポッター、ハリー」
(ハリー・ポッターきたーー!)
遠目で見る限りでは、ハリーは全体のフォルムは映画とほぼ同じだけど、よく見ると違う。
そんな印象だった。
「グリフィンドール!」
――うん、間違いない! 展開は映画と同じだ!
登場人物の名前も同じだ。
なら映画の知識は使える。
(なら、あとは顔だけ覚えて、知らない顔には気をつけよう)
ハリー達はこれからいろいろと活躍するんだろうけど、まだしばらくは僕には関係ない。
――やることは決めている。
まずは映画で見た死者を一人でも減らすこと。
次にラスボス完全復活の阻止。
そしていずれは、ラスボスの排除。
それを密かにこっそりと進めるんだ。
少なくともラスボスは、復活を阻止された時でさえ、僕の存在に気付かない。
だから仮にまた復活しても、僕のことは知らない。
そういう風に進めるんだ。
(そのためにも、ハッフルパフに入りたかったんだ)
阻止に成功しても、またいつかは復活するんだろう。
でもそれが遅れれば遅れるほど、こちらに有利になるんだ。
なぜかって?
時間があればあるほど、僕はサナとたくさん話ができるからだよ。
つまり――使用できる精霊魔法を増やせるんだ。
(現状はなかなか進んでいないんだけどね)
浮遊、魔力消滅、拘束、精神防殻は、魔術具を作れるレベルまで仕上がったけど。
状態維持の魔術具はまだ完成とは言えないんだ。
記憶確認魔法は、映画の細部を確認するために自分が使えればいいから、このままでいいけど。
治療魔法も、記憶確認魔法と同じくらいにはできてると思うんだけど、全然経験が足りない。
(重傷者がその辺に都合良く転がってるわけないし…)
身体強化は、発動もできてないんだ。
火炎は日常生活レベルならなんとか、といったところだよ。
だから燃料に点火することはできる。
ただスクイブ用の魔導コンロまでは、まだかかりそうだ。
攻撃魔法としてはまったく使えない。
(そもそも練習できなかったし…)
練習して失敗したらどうなるか判らないのが魔法の怖いところなんだ。
授業が始まれば取り組める時間が減り、魔術具の完成までにさらに日数がかかりそうだ。
(間に合うのか心配だ)
――まずは一人でも死者を減らすこと。
(可能なら最初の犠牲者を助ける。それが当面の目標だ)
ボクは教授席のターバン男を見つめる。
映画では助からなかった最初の犠牲者を。
――そう。あの人を助けるんだ!
僕はそっと拳を握りしめた。
次回の投稿は未定です。
近日中の予定です。