道中
田舎道を。
一台の車が走っていた。
窓の外を流れる緑。
揺れる車内。
「姉さん。」
「……。」
「そろそろ機嫌直してくださいよ。」
「うるさいわね。」
弟の軽口に。
思わず睨む。
「まだ怒ってるんですかい?」
「怒ってない。」
「じゃあ拗ねてる?」
「……。」
図星だった。
「これは、プライドの問題なの。」
運転席から笑い声。
「申し訳ない。」
「便利使いして。」
まったく。
「私の能力を、車泥棒なんかに使わせるなんて。」
「背に腹は代えられなくて。」
「足が必要だったんですよ。」
「助かりました。」
そう言われると。
少しだけ。
悪い気はしない。
「おぬしの能力だからこそ。」
「施錠も。」
「警報も。」
「誰にも気付かれず壊せる。」
「最強の矛というものは便利なものだ。」
兄が頷く。
「……それは。」
「そうだけど。」
納得したくない。
でも。
少しだけ嬉しい。
……悔しい。
「あなたの錬金術を使えばいいのに。」
「そう思っただけよ。」
「旦那!錬金術使えるんですかい?」
運転席のヨキが。
前を見たまま口を開く。
「使えませんよ。」
「えっ?」
「あなた扉を開けて還ってきたじゃない。」
「たしかに。」
「還ってきました。」
「でも、錬金術師ではないので」
「錬金術は使えません。」
「その代わり。」
「別の力を授かりました。」
車内の視線が。
一斉にヨキへ向く。
「それは何?」
ヨキは困ったように笑った。
「説明しにくいのですが。」
「物の状態。」
「構造。」
「力の流れ。」
「そういうものが。」
「感覚で理解できる。」
「感覚で分かる。」
「意識を広げれば。」
「大まかに。」
「意識を集中すれば。」
「より精密に。」
「そんな感じです。」
「代償は。」
「昔の記憶です。」
ヨキは冗談みたいに笑う。
車内が。
急に静かになった。
「……ヨキ殿。」
兄が。
珍しく言葉を失う。
私は。
ヨキを見た。
「なんで。」
「言わなかったの。」
「いえ。」
「全ての記憶ではないですし。」
「皆さんのことも覚えています。」
「生活にも困っていません。」
「だから。」
「大したことじゃないですよ。」
本気で。
そう思っている顔だった。
「旦那は。」
「相変わらずですねぇ。」
弟は笑う。
ふと。
疑問が浮かぶ。
「そういえば。」
「あんた達。」
「お父様のこと。」
「私に聞こうとしないのね。」
ヨキが笑った。
「ラストさん。」
「家出娘を問い詰める真似は。」
「したくありませんよ。」
「……ちょっと。」
「馬鹿にしてる?」
「してません。」
「本当ですよ。」
「私は興味がない。」
兄は頷く。
「俺は聞いても。」
「分かんねぇです。」
「旦那に付いてくって。」
「兄者と決めただけですから。」
弟の声に嫌味はない。
「……あんた達。」
本当に。
変な人達。
「まあ。」
「いいじゃないですか。」
ヨキが笑う。
「いいチームだと思いますよ。」
「然り。」
兄が頷く。
車は。
静かに田舎道を走る。