ヨキですが、静かに生きたいだけなんです。   作:千遇万歩

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第二章 剣士

静寂。

 

 地下水路を流れる水が。

 

 静かに音を立てていた。

 

 冷たい水が。

 

 二人の足元を流れていく。

 

 誰も動かない。

 

 ブラッドレイは軍刀を構えたまま。

 

 ヨキは二振りの剣を下げ。

 

 静かに向き合う。

 

 互いの視線だけが。

 

 真っ直ぐ交わっていた。

 

 (……。)

 

 息を呑む。

 

 空気が張りつめる。

 

 水音さえ。

 

 遠くなったように感じた。

 

 次の瞬間。

 

 二人が同時に踏み出した。

 

 高く。

 

 澄んだ音が響く。

 

 火花が散る。

 

 剣が離れる。

 

 また鳴る。

 

 高く。

 

 澄んだ音。

 

 静かな地下水路へ。

 

 幾度も。

 

 幾度も響いていく。

 

 どちらも止まらない。

 

 押し込まれれば応える。

 

 応えられれば応える。

 

 剣が。

 

 言葉の代わりだった。

 

 (……速い。)

 

 ブラッドレイは速い。

 

 一歩。

 

 一歩。

 

 その歩みさえ。

 

 淀みがない。

 

 流れる水のように。

 

 剣が続いていく。

 

 それでも。

 

 ヨキは。

 

 そこにいる。

 

 受ける。

 

 流す。

 

 応える。

 

 無駄がない。

 

 まるで。

 

 そこへ剣が来ることを。

 

 最初から知っていたように。

 

 (ヨキは。)

 

 (全部。)

 

 (分かってる。)

 

 (それでも。)

 

 (押されている。)

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 ほんの僅かずつ。

 

 ヨキの足が下がる。

 

(なんなの。)

 

(ブラッドレイ……。)

 

 分かっている。

 

 なのに届かない。

 

 ブラッドレイの剣は。

 

 少しも迷わない。

 

 剣筋に。

 

 力任せなところはない。

 

 一振りごとに。

 

 ヨキの動きを見て。

 

 最も速く。

 

 最も確実な一撃を選んでいる。

 

「……誰だ。」

 

 隣で。

 

 グリードが小さく呟く。

 

「ヨキ。」

 

「名前じゃねぇ。」

 

「今話しかけないで。」

 

 私は視線を動かさない。

 

 剣戟だけが響く。

 

「……。」

 

「兄弟か。」

 

「違う。」

 

「じゃあ何なんだ。」

 

「人間。」

 

「それは見りゃ分かる。」

 

 また。

 

 高い音。

 

 澄んだ剣戟が。

 

 地下水路へ響いた。

 

 (……。)

 

 (違う。)

 

 (さっきまでと。)

 

 (何かが違う。)

 

 ヨキの足が。

 

 止まる。

 

 次の瞬間。

 

 一歩。

 

 前へ出た。

 

 初めて。

 

 ブラッドレイが退く。

 

 ほんの半歩。

 

 ただ。

 

 その半歩だけで。

 

 二人の距離が入れ替わる。

 

「……は。」

 

 小さく。

 

 声が漏れた。

 

 ブラッドレイだった。

 

 その口元が。

 

 僅かに緩む。

 

 ヨキも。

 

 笑っていた。

 

「ふふ。」

 

 静かな笑みだった。 

 

 剣は止まらない。

 

 笑みも消えない。

 

 互いの剣先が。

 

 ほんの僅かな隙間を挟んで。

 

 何度も交差する。

 

 (……。)

 

 (楽しんでる。)

 

 ブラッドレイも。

 

 ヨキも。

 

「……おい。」

 

 グリードが呟く。

 

 私は答えない。

 

「おい。」

 

「何。」

 

「何であいつら笑ってんだ。」

 

「知らない。」

 

「……。」

 

「お前の男か。」

 

「そういうのやめて。」

 

「否定しねぇじゃ──」

 

 カァン――。

 

 澄んだ鐘の音にも似た剣戟が。

 

 静かな地下水路へ。

 

 長く。

 

 長く響いた。

 

 二人の剣が。

 

 静かに止まる。

 

「よろしい。」

 

 ブラッドレイは。

 

 ゆっくりと軍刀を下げた。

 

「今日は、ここまで。」

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