静寂。
地下水路を流れる水が。
静かに音を立てていた。
冷たい水が。
二人の足元を流れていく。
誰も動かない。
ブラッドレイは軍刀を構えたまま。
ヨキは二振りの剣を下げ。
静かに向き合う。
互いの視線だけが。
真っ直ぐ交わっていた。
(……。)
息を呑む。
空気が張りつめる。
水音さえ。
遠くなったように感じた。
次の瞬間。
二人が同時に踏み出した。
高く。
澄んだ音が響く。
火花が散る。
剣が離れる。
また鳴る。
高く。
澄んだ音。
静かな地下水路へ。
幾度も。
幾度も響いていく。
どちらも止まらない。
押し込まれれば応える。
応えられれば応える。
剣が。
言葉の代わりだった。
(……速い。)
ブラッドレイは速い。
一歩。
一歩。
その歩みさえ。
淀みがない。
流れる水のように。
剣が続いていく。
それでも。
ヨキは。
そこにいる。
受ける。
流す。
応える。
無駄がない。
まるで。
そこへ剣が来ることを。
最初から知っていたように。
(ヨキは。)
(全部。)
(分かってる。)
(それでも。)
(押されている。)
一歩。
また一歩。
ほんの僅かずつ。
ヨキの足が下がる。
(なんなの。)
(ブラッドレイ……。)
分かっている。
なのに届かない。
ブラッドレイの剣は。
少しも迷わない。
剣筋に。
力任せなところはない。
一振りごとに。
ヨキの動きを見て。
最も速く。
最も確実な一撃を選んでいる。
「……誰だ。」
隣で。
グリードが小さく呟く。
「ヨキ。」
「名前じゃねぇ。」
「今話しかけないで。」
私は視線を動かさない。
剣戟だけが響く。
「……。」
「兄弟か。」
「違う。」
「じゃあ何なんだ。」
「人間。」
「それは見りゃ分かる。」
また。
高い音。
澄んだ剣戟が。
地下水路へ響いた。
(……。)
(違う。)
(さっきまでと。)
(何かが違う。)
ヨキの足が。
止まる。
次の瞬間。
一歩。
前へ出た。
初めて。
ブラッドレイが退く。
ほんの半歩。
ただ。
その半歩だけで。
二人の距離が入れ替わる。
「……は。」
小さく。
声が漏れた。
ブラッドレイだった。
その口元が。
僅かに緩む。
ヨキも。
笑っていた。
「ふふ。」
静かな笑みだった。
剣は止まらない。
笑みも消えない。
互いの剣先が。
ほんの僅かな隙間を挟んで。
何度も交差する。
(……。)
(楽しんでる。)
ブラッドレイも。
ヨキも。
「……おい。」
グリードが呟く。
私は答えない。
「おい。」
「何。」
「何であいつら笑ってんだ。」
「知らない。」
「……。」
「お前の男か。」
「そういうのやめて。」
「否定しねぇじゃ──」
カァン――。
澄んだ鐘の音にも似た剣戟が。
静かな地下水路へ。
長く。
長く響いた。
二人の剣が。
静かに止まる。
「よろしい。」
ブラッドレイは。
ゆっくりと軍刀を下げた。
「今日は、ここまで。」