第一章 エルリック兄弟
「エドワード君。」
「アルフォンス君。」
「真理から。」
「お二人の身体を。」
「取り戻す方法を。」
「聞いて参りました。」
誰も動かない。
「……。」
「は?」
最初に口を開いたのは。
エドワードだった。
「いや。」
「待て。」
「真理って。」
「あの真理か?」
「はい。」
「そんな軽い奴だったか!?」
ヨキは首を傾げる。
「大人になりますと。」
「分からないことは。」
「素直に聞くものですよ。」
一瞬。
静まり返る。
「そこじゃねぇぇぇぇ!!」
ゴン。
「痛ッてぇ!!」
イズミの拳が。
エドワードの頭へ落ちた。
「うるさい。」
「話が進まないだろ。」
「し、師匠!」
「兄さん!」
アルフォンスが慌てる。
ヨキは何事もなかったように続けた。
「方法は。」
「比較的単純でした。」
「賢者の石も。」
「必要ありません。」
「比較的ぃ!?」
「賢者の石もいらねぇのかよ!?」
ゴン。
「痛ッてぇぇ!!」
「だから黙って聞きな。」
イズミが睨む。
エドワードは渋々座り直した。
「まず。」
「大前提ですが。」
「人体錬成で。」
「死者は蘇りません。」
全員が静かに耳を傾ける。
「今回。」
「戻す対象は。」
「死者ではありません。」
「アルフォンス君は。」
「魂だけが。」
「こちら側へ存在しています。」
「そして。」
「エドワード君は。」
「右腕を代価に。」
「アルフォンス君の魂を。」
「こちらへ繋ぎ止めました。」
アルフォンスが息を呑む。
「ですので。」
「まず。」
「アルフォンス君の魂を代価として。」
「エドワード君の右腕を戻します。」
「その後。」
「エドワード君の真理の扉を代価に。」
「アルフォンス君を。」
「魂と肉体ごと。」
「取り戻します。」
部屋は静まり返る。
「お二人の魂は。」
「人体錬成の影響で。」
「互いに繋がった状態です。」
「言い換えれば。」
「混線しています。」
「そのため。」
「最後は。」
「アルフォンス君の扉を経由して。」
「お二人とも。」
「こちらへ戻ることになります。」
沈黙。
「……。」
「戻れる。」
アルフォンスが震える。
「本当に。」
「戻れるんですね。」
「はい。」
「間違いありません。」
エドワードは拳を握る。
「そうか……。」
「戻れるんだ。」
兄弟は。
互いを見た。
「兄さん。」
「ああ。」
「こんな所に。」
「答えがあったなんて。」
「……何だったんだろうね。」
「俺達の旅。」
「なんだったんだろうな。」
「灯台下暗しかよ。」
二人は笑う。
そこに悔しさは感じられない。
長かった旅路が。
ようやく終わる。
私はそう感じた。
しかし。
ヨキは静かに続ける。
「では。」
「お身体が戻りましたら。」
「お二人は。」
「この戦いから降りてください。」
「……は?」
エドワードから笑顔が消える。
「アルフォンス君は。」
「エドワード君から。」
「栄養を供給されて生存している状態です。」
「身体自体は過度に衰弱しています。」
「恐らく。」
「長期間の。」
「リハビリが必要です。」
「肉体的な障害が。」
「残る可能性もあります。」
アルフォンスは黙って聞いている。
「そして。」
「エドワード君。」
「あなたは。」
「真理の扉を代価とした以上。」
「錬金術は。」
「二度と使えません。」
「あなたの戦闘能力は。」
「速攻の錬金術。」
「そして。」
「機械鎧を活用した。」
「近接戦闘です。」
「その両方を失います。」
ヨキは真っ直ぐ見た。
「その状態で。」
「戦力として。」
「期待できますか。」
静かな声だった。
「私は。」
「そうは思いません。」
「……。」
アルフォンスが俯く。
「僕達……。」
「戦力に。」
ドン!
エドワードが机を叩く。
「ふざけんな!!」
エドワードが立ち上がる。
「俺達が!」
「どれだけ戦ってきたと思ってんだ!!」
「はい。」
ヨキは頷く。
「承知しております。」
「その上で。」
「申し上げています。」
「ふざけんなって言ってんだ!!」
「兄さん!」
アルフォンスが止めようとする。
「お前が決めてんじゃねえ!!」
握った拳が。
震えていた。
「だったら!」
「身体なんて――」
言葉は。
最後まで続かなかった。
イズミが。
そっと。
エドワードを抱き締めていた。
「……え。」
エドワードが固まる。
「し、師匠?」
イズミは。
何も言わない。
ただ。
抱き締めていた。
部屋は静まり返る。
誰も。
言葉を挟まない。
エドワードの熱が静かに冷めていく。
しばらくして。
イズミが離れる。
「この場は。」
「あんた達で使いな。」
「あんた。」
「ああ。」
四人は部屋を出て行く。
誰も止めなかった。
◇
静寂。
シグだけが。
振り返る。
ヨキへ。
深く頭を下げた。
「……ありがとう。」
「俺は。」
「何もない人間だ。」
「難しいことも。」
「分からねぇ。」
「だが。」
「お前さんが。」
「あの二人を。」
「生かしたいと思っていることだけは。」
「分かった。」
「ありがとう。」
ヨキは。
静かに微笑んだ。
「それで。」
「十分です。」
扉が閉まる。
部屋には。
残された者達だけがいた。