ヨキですが、静かに生きたいだけなんです。   作:千遇万歩

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第二章 ホムンクルス

 

 扉が閉まる。

 

 静寂。

 

 シグが去ったことを。

 

 誰もが見届けていた。

 

 その空気を破ったのは。

 

 グリードだった。

 

「ガハハ!」

 

 ヨキの肩を。

 

 景気よく叩く。

 

「よかったじゃねぇか。」

 

「俺は。」

 

「見ててそう思ったぜ。」

 

 ヨキは少し驚いたように目を瞬かせる。

 

「ありがとうございます。」

 

 マスタングも口を開く。

 

「私からも。」

 

「礼を言おう。」

 

 続いて。

 

 リザが静かに頷く。

 

「私からもです。」

 

 マスタングは椅子へ腰掛け直した。

 

「あの兄弟には。」

 

「以前から。」

 

「少々。」

 

「重いものを背負わせすぎている。」

 

「そう感じていた。」

 

 ヨキは静かに頭を下げた。

 

「そう言っていただけて。」

 

「良かったです。」

 

 しばらく。

 

 誰も口を開かなかった。

 

 やがて。

 

「ヨキ殿。」

 

「何から始める。」

 

 兄が声をかける。

 

「そうですね。」

 

 ヨキは頷く。

 

「まずは。」

 

「向こうの特記戦力。」

 

「ホムンクルスについて。」

 

「お話ししましょう。」

 

 全員の表情が引き締まる。

 

「ホムンクルスは。」

 

「全部で七体。」

 

「憤怒。」

 

「嫉妬。」

 

「怠惰。」

 

「強欲。」

 

「暴食。」

 

「色欲。」

 

「傲慢。」

 

「それぞれが存在します。」

 

 マスタングが腕を組む。

 

「七つの大罪か。」

 

「ええ。」

 

「それぞれが。」

 

「固有の能力を持っています。」

 

「また。」

 

「完全な不死身ではありませんが。」

 

「驚異的な再生能力も備えています。」

 

 ヨキは。

 

 ラストとグリードを見る。

 

「こちらにいる。」

 

「ラストさんは。」

 

「指先を硬化させ。」

 

「剣とする。」

 

「最強の矛。」

 

 私は小さく肩を竦めた。

 

「そして。」

 

「グリードさんは。」

 

「全身を硬化させ。」

 

「盾とする。」

 

「最強の盾です。」

 

「ガハハ。」

 

「照れるじゃねぇか。」

 

 ヨキは続ける。

 

「嫉妬を司るエンヴィーは。」

 

「外見。」

 

「声。」

 

「服装。」

 

「全てを。」

 

「自在に変えることができます。」

 

「怠惰を司るスロウスは。」

 

「屈強な肉体と。」

 

「驚異的な身体能力。」

 

「暴食を司るグラトニーは。」

 

「疑似的な真理の扉です。」

 

「飲み込まれた場合。」

 

「生還は極めて困難になります。」

 

 マスタングの表情が険しくなる。

 

「そして。」

 

「憤怒を司るラース。」

 

「ブラッドレイ大総統閣下は。」

 

「左眼に最強の眼を宿します。」

 

「唯一、年を取る。」

 

「ホムンクルスでもあります。」

 

「最後に。」

 

「傲慢を司るプライド。」

 

「伸縮自在の影を操ります。」

 

「その正体は。」

 

「ブラッドレイ大総統閣下の御子息。」

 

「セリム・ブラッドレイです。」

 

 部屋が静まり返る。

 

 ヨキは続ける。

 

「エンヴィー。」

 

「スロウス。」

 

「グラトニー。」

 

「ラース。」

 

「プライド。」

 

「彼らは。」

 

「お父様の目的である。」

 

「アメストリス全土を利用した。」

 

「国土錬成陣を発動し。」

 

「真理を取り込み。」

 

「完全なる存在となることへ。」

 

「忠誠を尽くしています。」

 

 私は。

 

 大きなため息をついた。

 

「ほんとに。」

 

「何でも知ってるのね。」

 

「出る幕がないじゃない。」

 

 ヨキは苦笑する。

 

「ガハハ!」

 

 グリードが笑う。

 

「ここまで筒抜けとはな!」

 

「おもしれぇ!」

 

 その笑いが収まる頃。

 

 黙って聞いていた。

 

 マスタングが口を開いた。

 

「中尉。」

 

「その情報は。」

 

「真理から。」

 

「得たものか。」

 

「ええ。」

 

「その通りです。」

 

「錬金術師でもない私が来たことを。」

 

「大層、喜んでおられました。」

 

「恐らく。」

 

「真理を取り込もうとする。」

 

「お父様を。」

 

「敵視しているものと思われます。」

 

 マスタングも苦笑する。

 

「まるで。」

 

「御伽噺。」

 

「いや。」

 

「神話の世界だな。」

 

 ヨキは静かに頷いた。

 

「私は。」

 

「錬金術師ではありませんので。」

 

「還ったあと。」

 

「錬金術が。」

 

「使えるようにはなりませんでした。」

 

「その代わり。」

 

「別の力を授かりました。」

 

「物の状態。」

 

「構造。」

 

「力の流れ。」

 

「そういうものが。」

 

「感覚で理解できる。」

 

「感覚で分かる。」

 

「意識を広げれば。」

 

「大まかに。」

 

「意識を集中すれば。」

 

「より精密に。」

 

「感じられます。」

 

「その感覚で。」

 

「現在の位置も。」

 

「ある程度。」

 

「把握できます。」

 

 ヨキは静かに続けた。

 

「ラース。」

 

「ブラッドレイ大総統閣下は。」

 

「中央へ向かわれています。」

 

「エンヴィー。」

 

「そして。」

 

「プライドは。」

 

「中央。」

 

「グラトニーは。」

 

「東方。」

 

「スロウスは。」

 

「北方です。」

 

「恐らく。」

 

「ブリッグズ付近かと。」

 

「ガハハ。」

 

 グリードが笑う。

 

「あのノロマは。」

 

「昔から。」

 

「ずっと穴掘りだ。」

 

「国土錬成陣のためのな。」

 

「ブリッグズであれば。」

 

「オリヴィエ少将の管轄ですね。」

 

 リザが補足する。

 

「……。」

 

 マスタングは腕を組んだまま考えている。

 

「少将は……。」

 

「なかなかに。」

 

「手強い人だぞ。」

 

 弟が静かに手を挙げた。

 

「旦那。」

 

「それで。」

 

「勝てるんですか。」

 

 ヨキは小さく頷く。

 

「スロウスについては。」

 

「大総統閣下ほどの。」

 

「技量がなければ。」

 

「恐らく。」

 

「私で対応できます。」

 

「グラトニーについては。」

 

「近距離では。」

 

「リスクが大きすぎます。」

 

「遠距離から。」

 

「攻撃を続けるしかありません。」

 

 一同は静かに聞いている。

 

「プライドについては。」

 

「影を。」

 

「生み出せない環境へ。」

 

「閉じ込めることができれば。」

 

「勝機はあります。」

 

「ラース。」

 

「ブラッドレイ大総統閣下については。」

 

「恐らく。」

 

「最も厳しい戦いになります。」

 

「最強の眼。」

 

「そして。」

 

「長年積み重ねた。」

 

「戦闘経験がありますので。」

 

「エンヴィーについては。」

 

「変身能力以外は。」

 

「未知数です。」

 

 沈黙。

 

「ガハハ!」

 

 グリードが笑った。

 

「ここまで策を練られると。」

 

「俺達も形無しだ。」

 

 酒瓶を持って掲げる。

 

「まぁまぁ。」

 

「急にこんな話聞かされても。」

 

「固くなって仕方ねぇ。」

 

「一服入れようや。」

 

 卓へ酒が次々と置かれる。

 

 各々。

 

 遠慮なく手を伸ばし。

 

 口をつける。

 

 ここまでの話は。

 

 それほど重たかった。

 

◇

 

「ヨキ中尉。」

 

 リザが口を開く。

 

「少し。」

 

「お聞きしても。」

 

「よろしいでしょうか。」

 

「はい。」

 

「どうぞ。」

 

「アルフォンス君のお話を聞く限り。」

 

「こちらのお二人も。」

 

「肉体は生きている。」

 

「そういうことになりますよね。」

 

「可能性としては。」

 

「元へ戻れるのでしょうか。」

 

 兄弟は。

 

 何も言わない。

 

 ヨキは静かに頷いた。

 

「ええ。」

 

「可能でしょう。」

 

 兄弟が小さく頭を下げ。

 

「気に掛けてくださり。」

 

「感謝する。」

 

 兄が応える。

 

 続いて。

 

 弟が笑う。

 

「でも。」

 

「俺達。」

 

「そこまで気にしてねぇよ。」

 

「今の方が。」

 

「楽しいだろ。」

 

「兄者。」

 

「然り。」

 

 兄は静かに頷く。

 

 ヨキは。

 

 二人を見つめ。

 

「まあ。」

 

「機会があれば。」

 

「その時。」

 

「考えましょう。」

 

 それ以上。

 

 誰も何も言わなかった。

 

 静かな沈黙だけが流れる。

 

 やがて。

 

 ヨキが口を開く。

 

「先程の話の続きですが。」

 

「仲間へ加わっていただきたいと。」

 

「考えている方がいます。」

 

「それは。」

 

「誰だ。」

 

 マスタングが尋ねる。

 

「エドワード君達のお父上。」

 

「ヴァン・ホーエンハイムという。」

 

「錬金術師です。」

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