扉が閉まる。
静寂。
シグが去ったことを。
誰もが見届けていた。
その空気を破ったのは。
グリードだった。
「ガハハ!」
ヨキの肩を。
景気よく叩く。
「よかったじゃねぇか。」
「俺は。」
「見ててそう思ったぜ。」
ヨキは少し驚いたように目を瞬かせる。
「ありがとうございます。」
マスタングも口を開く。
「私からも。」
「礼を言おう。」
続いて。
リザが静かに頷く。
「私からもです。」
マスタングは椅子へ腰掛け直した。
「あの兄弟には。」
「以前から。」
「少々。」
「重いものを背負わせすぎている。」
「そう感じていた。」
ヨキは静かに頭を下げた。
「そう言っていただけて。」
「良かったです。」
しばらく。
誰も口を開かなかった。
やがて。
「ヨキ殿。」
「何から始める。」
兄が声をかける。
「そうですね。」
ヨキは頷く。
「まずは。」
「向こうの特記戦力。」
「ホムンクルスについて。」
「お話ししましょう。」
全員の表情が引き締まる。
「ホムンクルスは。」
「全部で七体。」
「憤怒。」
「嫉妬。」
「怠惰。」
「強欲。」
「暴食。」
「色欲。」
「傲慢。」
「それぞれが存在します。」
マスタングが腕を組む。
「七つの大罪か。」
「ええ。」
「それぞれが。」
「固有の能力を持っています。」
「また。」
「完全な不死身ではありませんが。」
「驚異的な再生能力も備えています。」
ヨキは。
ラストとグリードを見る。
「こちらにいる。」
「ラストさんは。」
「指先を硬化させ。」
「剣とする。」
「最強の矛。」
私は小さく肩を竦めた。
「そして。」
「グリードさんは。」
「全身を硬化させ。」
「盾とする。」
「最強の盾です。」
「ガハハ。」
「照れるじゃねぇか。」
ヨキは続ける。
「嫉妬を司るエンヴィーは。」
「外見。」
「声。」
「服装。」
「全てを。」
「自在に変えることができます。」
「怠惰を司るスロウスは。」
「屈強な肉体と。」
「驚異的な身体能力。」
「暴食を司るグラトニーは。」
「疑似的な真理の扉です。」
「飲み込まれた場合。」
「生還は極めて困難になります。」
マスタングの表情が険しくなる。
「そして。」
「憤怒を司るラース。」
「ブラッドレイ大総統閣下は。」
「左眼に最強の眼を宿します。」
「唯一、年を取る。」
「ホムンクルスでもあります。」
「最後に。」
「傲慢を司るプライド。」
「伸縮自在の影を操ります。」
「その正体は。」
「ブラッドレイ大総統閣下の御子息。」
「セリム・ブラッドレイです。」
部屋が静まり返る。
ヨキは続ける。
「エンヴィー。」
「スロウス。」
「グラトニー。」
「ラース。」
「プライド。」
「彼らは。」
「お父様の目的である。」
「アメストリス全土を利用した。」
「国土錬成陣を発動し。」
「真理を取り込み。」
「完全なる存在となることへ。」
「忠誠を尽くしています。」
私は。
大きなため息をついた。
「ほんとに。」
「何でも知ってるのね。」
「出る幕がないじゃない。」
ヨキは苦笑する。
「ガハハ!」
グリードが笑う。
「ここまで筒抜けとはな!」
「おもしれぇ!」
その笑いが収まる頃。
黙って聞いていた。
マスタングが口を開いた。
「中尉。」
「その情報は。」
「真理から。」
「得たものか。」
「ええ。」
「その通りです。」
「錬金術師でもない私が来たことを。」
「大層、喜んでおられました。」
「恐らく。」
「真理を取り込もうとする。」
「お父様を。」
「敵視しているものと思われます。」
マスタングも苦笑する。
「まるで。」
「御伽噺。」
「いや。」
「神話の世界だな。」
ヨキは静かに頷いた。
「私は。」
「錬金術師ではありませんので。」
「還ったあと。」
「錬金術が。」
「使えるようにはなりませんでした。」
「その代わり。」
「別の力を授かりました。」
「物の状態。」
「構造。」
「力の流れ。」
「そういうものが。」
「感覚で理解できる。」
「感覚で分かる。」
「意識を広げれば。」
「大まかに。」
「意識を集中すれば。」
「より精密に。」
「感じられます。」
「その感覚で。」
「現在の位置も。」
「ある程度。」
「把握できます。」
ヨキは静かに続けた。
「ラース。」
「ブラッドレイ大総統閣下は。」
「中央へ向かわれています。」
「エンヴィー。」
「そして。」
「プライドは。」
「中央。」
「グラトニーは。」
「東方。」
「スロウスは。」
「北方です。」
「恐らく。」
「ブリッグズ付近かと。」
「ガハハ。」
グリードが笑う。
「あのノロマは。」
「昔から。」
「ずっと穴掘りだ。」
「国土錬成陣のためのな。」
「ブリッグズであれば。」
「オリヴィエ少将の管轄ですね。」
リザが補足する。
「……。」
マスタングは腕を組んだまま考えている。
「少将は……。」
「なかなかに。」
「手強い人だぞ。」
弟が静かに手を挙げた。
「旦那。」
「それで。」
「勝てるんですか。」
ヨキは小さく頷く。
「スロウスについては。」
「大総統閣下ほどの。」
「技量がなければ。」
「恐らく。」
「私で対応できます。」
「グラトニーについては。」
「近距離では。」
「リスクが大きすぎます。」
「遠距離から。」
「攻撃を続けるしかありません。」
一同は静かに聞いている。
「プライドについては。」
「影を。」
「生み出せない環境へ。」
「閉じ込めることができれば。」
「勝機はあります。」
「ラース。」
「ブラッドレイ大総統閣下については。」
「恐らく。」
「最も厳しい戦いになります。」
「最強の眼。」
「そして。」
「長年積み重ねた。」
「戦闘経験がありますので。」
「エンヴィーについては。」
「変身能力以外は。」
「未知数です。」
沈黙。
「ガハハ!」
グリードが笑った。
「ここまで策を練られると。」
「俺達も形無しだ。」
酒瓶を持って掲げる。
「まぁまぁ。」
「急にこんな話聞かされても。」
「固くなって仕方ねぇ。」
「一服入れようや。」
卓へ酒が次々と置かれる。
各々。
遠慮なく手を伸ばし。
口をつける。
ここまでの話は。
それほど重たかった。
◇
「ヨキ中尉。」
リザが口を開く。
「少し。」
「お聞きしても。」
「よろしいでしょうか。」
「はい。」
「どうぞ。」
「アルフォンス君のお話を聞く限り。」
「こちらのお二人も。」
「肉体は生きている。」
「そういうことになりますよね。」
「可能性としては。」
「元へ戻れるのでしょうか。」
兄弟は。
何も言わない。
ヨキは静かに頷いた。
「ええ。」
「可能でしょう。」
兄弟が小さく頭を下げ。
「気に掛けてくださり。」
「感謝する。」
兄が応える。
続いて。
弟が笑う。
「でも。」
「俺達。」
「そこまで気にしてねぇよ。」
「今の方が。」
「楽しいだろ。」
「兄者。」
「然り。」
兄は静かに頷く。
ヨキは。
二人を見つめ。
「まあ。」
「機会があれば。」
「その時。」
「考えましょう。」
それ以上。
誰も何も言わなかった。
静かな沈黙だけが流れる。
やがて。
ヨキが口を開く。
「先程の話の続きですが。」
「仲間へ加わっていただきたいと。」
「考えている方がいます。」
「それは。」
「誰だ。」
マスタングが尋ねる。
「エドワード君達のお父上。」
「ヴァン・ホーエンハイムという。」
「錬金術師です。」