マスタングが皆を見渡す。
「では。」
「中尉。」
「我々の役割を確認しよう。」
ヨキが頷く。
「私達は。」
「ホーエンハイム氏との接触を。」
「最優先に行動します。」
「その後は。」
「国家錬成陣の阻止。」
「プライドとスロウスへの対応です。」
「また。」
「途中で遭遇した。」
「ホムンクルス。」
「そして。」
「スカーについても。」
「状況に応じて対応します。」
兄弟が静かに頷く。
私もそれに続いた。
「うむ。」
「それでいい。」
マスタングが頷く。
「我々は。」
「軍内部の協力者を増やす。」
「それと同時に。」
「政情を安定させるための布石を打つ。」
静かな声だった。
だが。
その言葉には重みがあった。
「アメストリスは軍事国家だ。」
「上層部を一掃したとしても。」
「その後の統治が乱れれば。」
「他国は必ず動く。」
「侵略。」
「あるいは外交。」
「いずれにせよ。」
「隙は見せられん。」
「私も。」
「同感です。」
ヨキが頷く。
「戦いに勝っても。」
「国が立ち行かなくなっては。」
「意味がありません。」
マスタングは小さく笑う。
「話が早くて助かる。」
ヨキの視線が。
グリードへ向けられる。
「グリードさんは。」
「どうされますか。」
グリードは酒瓶を机へ置く。
豪快に笑った。
「ガハハ。」
「聞いてくれてありがとよ。」
「本当なら。」
「俺も一緒に暴れたいところだ。」
「だが。」
「部下がやられてる以上。」
「すぐには動けねぇ。」
少しだけ。
表情が柔らかくなる。
「強欲な俺にとっちゃ。」
「あいつらも。」
「大事なものだからな。」
酒瓶を持ち直す。
「代わりと言っちゃ何だが。」
「お前達の裏方は引き受ける。」
「各地に俺の仲間がいる。」
「隠れ家。」
「物資。」
「情報。」
「全部用意してやる。」
「ありがとうございます。」
ヨキが頭を下げる。
「助かります。」
「かまわねえよ。」
その時だった。
キィ……
閉ざされていた扉がゆっくり開く。
入ってきたのは。
シグだった。
「ん。」
「話し中だったか。」
「いえ。」
「大方まとまりました。」
「そうか。」
シグは黙る。
何かを考えるように。
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「イズミと。」
「あいつらは。」
「まだ話してる。」
「だが。」
「お前さんの言ったことは。」
「のんでくれそうだ。」
ヨキが静かに頭を下げた。
「それは。」
「良かった。」
「イズミさんと。」
「シグさんがいなければ。」
「こうはならなかったと思います。」
「ありがとうございます。」
シグは照れ臭そうに頭を掻く。
「礼なんざ。」
「いい。」
そこへ。
マスタングが口を開いた。
「それでは。」
「身体が戻った暁には。」
「私へ連絡を下さい。」
「然るべき時に。」
「国家錬金術師。」
「除名の手続きを行います。」
「もう。」
「軍の狗である必要はありません。」
手早くリザが一枚の紙を差し出す。
「こちらへ。」
「連絡を。」
シグは静かに受け取った。
「……ありがとう。」
その様子を見ていたグリードが笑う。
「それなら。」
「俺の連絡先も渡しとくぜ。」
「遠慮なく使ってくれ。」
「伝言がありゃ。」
「俺から姉貴達に伝えておくぜ。」
「ああ。」
「わかった。」
「あと。」
「電話を貸してくれ。」
「部下を迎えによこす。」
「好きに使ってくれ。」
シグが店の奥を指差した。
◇
夜風が頬を撫でる。
迎えの車が。
静かに店の前へ停まった。
「来たか。」
グリードが笑う。
私達は車へ向かう。
マスタング達も静かに向かう。
「中尉。」
「では。」
「またな。」
マスタングとヨキの視線が交わる。
「ええ。」
「大佐も。」
「お気を付けて。」
グリードが私の方に来る。
「姉貴。」
「車は俺の隠れ家に行くよう伝えている。」
「何か足りないものがあったら言ってくれ。」
「……ありがとう。」
「あなたも気を付けて。」
グリードが笑う。
「ガハハ。」
「こんなことになるなんて。」
「思いもしなかったが。」
「俺は満足してるぜ。」
店の前には。
グリードと。
シグ。
二人が並んで立っていた。
車は動き始める。
それぞれの。
進む道は違う。
けれど。
目指す先は。
一つだった。