ヨキですが、静かに生きたいだけなんです。   作:千遇万歩

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第二章 交わる道

 

 迎えの車は。

 

 静かにダブリスへ向かって走っていた。

 

 窓の外を流れる景色は、次第に違う表情を見せ始める。

 

「着いたぜ。」

 

 運転手が車を止める。

 

「ついてきてくれ。」

 

 俺達は無言で車を降りた。

 

 案内された先は、どこか怪しげな建物だった。

 

 運転手が扉を二度叩く。

 

「グリードさん、お連れしました。」

 

「ああ。」

 

「入ってくれ。」

 

 軽そうな男の声が返ってくる。

 

 鬼が出るか。

 

 蛇が出るか。

 

 いずれにしても。

 

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 

 不老不死への手掛かりを。

 

 ここで逃す訳にはいかなかった。

 

 扉を開ける。

 

「よく来たな。」

 

 部屋の中央。

 

 一人の男がソファーに深く腰掛けていた。

 

 足を組み。

 

 まるで旧友でも迎えるような気楽さで俺達を見ている。

 

「立ち話もなんだ。」

 

「適当に座ってくれ。」

 

「感謝スル。」

 

 俺達も向かいのソファーへ腰を下ろした。

 

 男は机の酒瓶を手に取りながら口を開く。

 

「話は聞いてるぜ。」

 

「賢者の石を探してるのと。」

 

「ホムンクルスを感知できるんだってな。」

 

 酒瓶を軽く揺らしながら笑う。

 

「俺からも感じるか?」

 

「ああ。」

 

「禍々しいほどニナ。」

 

「どれだけ入ってイル。」

 

「ガハハ。」

 

 男は豪快に笑った。

 

「俺にも分からねぇよ。」

 

「まあ。」

 

「お前達とは。」

 

「長い付き合いになるかもしれねぇ。」

 

 男は立ち上がる。 

 

「ビジネスってのは。」

 

「まず商品説明からだ。」

 

「ちょいと。」

 

「ブ男になるがな。」

 

「見てな。」

 

 男の右腕が。

 

 漆黒へと染まる。

 

 違う。

 

 変色ではない。

 

 硬化している。

 

 黒い硬化は全身へ広がり。

 

 やがて。

 

 目の前には。

 

 漆黒の鎧を纏った化物が立っていた。

 

「凄いナ。」

 

「これが賢者の石カ。」

 

「ガハハ。」

 

「最強の盾。」

 

「そう呼ばれてる。」

 

「残念ながら。」

 

「不老不死じゃねぇけどな。」

 

 黒い装甲がゆっくりと解け。

 

 男は元の姿へ戻る。

 

「不老不死ではないノカ。」

 

「ガハハ。」

 

「サービスはここまでだ。」

 

「ここからは。」

 

「ビジネスの話といこう。」

 

 男は再びソファーへ腰を下ろす。

 

 能力を見せたのも。

 

 交渉材料の一つということか。

 

 隠すべきものと。

 

 見せるべきもの。

 

 その線引きが上手い。

 

 面白い男だ。

 

「聞いてるかもしれねぇが。」

 

「お前達のうち。」

 

「二人は東方司令部。」

 

「一人はここで警護だ。」

 

「それは聞いてイル。」

 

「話が早い奴は嫌いじゃねぇ。」

 

 男は笑う。

 

「で。」

 

「誰が残る?」

 

「少し待ってホシイ。」

 

 俺は男を見る。

 

「どうして。」

 

「そこまでここに拘る。」

 

「あん?」

 

「聞いてねぇのか?」

 

「どうカナ。」

 

 男は口元を吊り上げた。

 

「いいねぇ。」

 

「そういう奴。」

 

「嫌いじゃねぇ。」

 

 酒瓶を口へ運ぶ。

 

「ここには。」

 

「あちらさん。」

 

「まぁ敵側だな。」

 

「そいつらにとっちゃ。」

 

「絶対に失えねぇ奴らが三人いる。」

 

「エルリック兄弟。」

 

「兄貴は国家錬金術師。」

 

「弟も負けちゃいねぇ。」

 

「それと。」

 

「そいつらの二人の師匠。」

 

「人体錬成をして。」

 

「還ってきた人達ダナ。」 

 

 男は目を細めた。

 

「ガハハ。」

 

「やっぱり。」

 

「知ってるじゃねぇか。」

 

「鎌かけやがって。」 

 

「すまナイ。」

 

「構わねぇよ。」

 

 男は酒を飲み干し。

 

 新しい酒瓶へ手を伸ばす。

 

「随分。」

 

「優しいンダナ。」

 

「ガハハ。」

 

「最近。」

 

「色々あってな。」

 

「前ほど。」

 

「尖っちゃいねぇのさ。」

 

 酒瓶の栓を抜く。

 

「俺の兄弟には。」

 

「色んな能力を持った奴がいる。」

 

「中でも。」

 

「何にでも化ける厄介なのがいてな。」

 

「姉貴も軍も。」

 

「そいつを警戒してる。」

 

「もちろん。」

 

「俺もだ。」

 

 男は酒瓶を軽く掲げる。

 

「ここで。」

 

「あいつら三人に何かあっちゃ。」

 

「姉貴に顔向けできねぇ。」

 

 そう言って。

 

 一口酒をあおる。

 

 利益には貪欲だ。

 

 だが。

 

 仲間のためなら。

 

 その利益さえ後回しにする。

 

 そういう男なのだろう。

 

 気付けば。

 

 この男に親しみを感じ始めている自分がいた。

 

「……若。」

 

 フーが静かに声を掛ける。

 

「分かってル。」

 

 俺は男を見る。

 

「あんたの話。」

 

「乗ろう。」

 

「グリードだ。」

 

 男は酒瓶を机へ置いた。

 

「好きに呼んでくれ。」

 

「それで。」

 

「誰が残る。」

 

 俺が口を開くより早く。

 

「若。」

 

 フーが前へ出た。

 

「爺さま!」

 

 ランファンが驚く。

 

「若様や。」

 

「ランファンには。」

 

「未来がありマス。」

 

「この国を。」

 

「見て。」

 

「学んでくだサレ。」

 

「皇帝になられる時。」

 

「必ず役に立ちマス。」

 

 俺は静かに目を閉じる。

 

 しばらく沈黙し。

 

 ゆっくりと頷いた。

 

「……分かっタ。」

 

 グリードが笑う。

 

「いいチームじゃねぇか。」

 

 その言葉に。

 

 嘘は感じなかった。

 

「んじゃ。」

 

「車を用意させる。」

 

「お前達は。」

 

「東方司令部へ向かってくれ。」

 

◇

 

 リンとランファンを乗せた車は。

 

 東方へ向け走り去っていった。

 

 その後ろ姿を見送り。

 

 グリードは口元を緩める。

 

「時は金なり。」

 

「ってな。」

 

「じゃあ。」

 

「爺さん。」

 

「フーだ。」

 

 私が口を挟む。

 

「ガハハ。」

 

「そうだったな。」

 

「フー爺さん。」

 

「警護してもらいたい奴の所へ。」

 

「行くぞ。」

 

 私は静かに頷いた。

 

 ……

 …………。

 

 一軒の精肉店へ辿り着く。

 

 店の扉を開くと。

 

「いらっしゃいませ。」

 

 店員が顔を上げた。

 

「ああ。」

 

「グリードさん。」

 

「邪魔するぜ。」

 

「少々お待ち下さい。」

 

 店員は奥へと姿を消す。

 

 しばらくして。

 

 大柄な男が現れた。

 

「悪いな。」

 

「あいつらのリハビリ中でな。」

 

「イズミは。」

 

「まだ手が離せねぇ。」

 

「構わねぇよ。」

 

「弟くんに。」

 

「後遺症がなくて何よりだ。」

 

 グリードは肩を竦める。

 

「今日は。」

 

「顔合わせで来た。」

 

 グリードが私を指す。

 

「ヨキ達が出会った。」

 

「シン国の人だ。」

 

 私は静かに一礼する。

 

 男も自然と頭を下げた。

 

「賢者の石を調べていてな。」

 

「その取引で。」

 

「ここを警護してもらうことになった。」

 

「この爺さんは。」

 

「ホムンクルスの気配が分かる。」

 

「何かあれば。」

 

「すぐ知らせてくれるぜ。」

 

「馬鹿みたいな能力を。」

 

「持った奴もいるからな。」

 

「それ対策だ。」

 

 男は短く頷く。

 

「分かった。」

 

「感謝する。」

 

「あいつらにも。」

 

「伝えておく。」

 

「よろしく頼むぜ。」

 

「今日は。」

 

「その報告だけだ。」

 

 用件を終え。

 

 私達は店を後にする。

 

 振り返ることなく。

 

 男も店へ戻っていった。

 

◇

 

「さて。」

 

「今度はフー爺さんの宿だ。」

 

 古びた建物へ入る。

 

 中は意外にも整頓されていた。

 

「好きに使ってくれ。」

 

「衣食住には困らせねぇ。」

 

「酒も。」

 

「飲みたきゃ好きに飲め。」

 

「感謝すル。」

 

 私は頭を下げる。

 

 グリードは笑った。

 

「正直。」

 

「あんたにゃ。」

 

「退屈な役目かもしれねぇ。」

 

「だが。」

 

「あいつらは。」

 

「必ずここへ来る。」

 

「期待してるぜ。」

 

 私は応えない。

 

 護衛とは。

 

 退屈なものではない。

 

 守るべき者がいる限り。

 

 それだけで十分だ。

 

 しばらく沈黙が流れる。

 

「お主に。」

 

「賢者の石のことヲ。」

 

「聞いても良いノカ。」

 

「もちろん。」

 

「俺が知ってる範囲ならな。」

 

 グリードは棚から酒瓶を二本取る。

 

「普通なら。」

 

「等価交換だ。」

 

「高く吹っかける。」

 

「だが今回は。」

 

「手が空いたら。」

 

「俺の部下を鍛えてくれ。」

 

「今回はサービスだ。」

 

「フー爺さんも。」

 

「鈍るのは嫌だろ。」

 

「分かっタ。」

 

「だガ。」

 

「優しくはできんゾ。」

 

「シン国流は厳シイ。」

 

 グリードは嬉しそうに笑う。

 

「構わねぇ。」

 

「死なねぇ程度にならな。」

 

「あいつらも。」

 

「今。」

 

「必死にもがいてる所だ。」

 

 グリードは酒瓶を机へ置く。

 

「じゃ。」

 

「飲みながら話そうや。」

 

 私は静かに酒瓶を受け取った。

 

 これもまた。

 

 一つの取引なのだろう。

 

◇

 

 その頃。

 

 東方。

 

 俺達は巨大な建物を見上げる。

 

「ここが。」

 

「軍の司令部か。」

 

「お待たせしました。」

 

 後ろから落ち着いた声がした。

 

 振り返る。

 

 一人の女性士官。

 

 隙のない軍服。

 

 真っ直ぐな眼差し。

 

「リザ・ホークアイ中尉です。」

 

 女性士官は敬礼する。

 

 俺達も一礼を返した。

 

「いきなり司令部へ案内すると。」

 

「目立ちますので。」

 

「こちらへ。」

 

 余計な説明はない。

 

 俺達は黙って後に続く。

 

 ……

 …………。

 

 案内された先は。

 

 寂れた酒場だった。

 

 リザが扉を開ける。

 

「失礼します。」

 

「お連れしました。」

 

「ああ。」

 

 低く落ち着いた声が返る。

 

 一人の男が立ち上がった。

 

「初めまして。」

 

「ロイ・マスタング大佐です。」

 

 俺も一歩前へ出る。

 

「シン国第十二皇子。」

 

「リン・ヤオと申ス。」

 

 互いに視線を交わす。

 

 短い沈黙。

 

 相手もまた。

 

 こちらを値踏みしている。

 

 マスタングが小さく笑った。

 

「未来の皇帝と。」

 

「繋がりを持てること。」

 

「光栄に思います。」

 

「話は伺っています。」

 

「ホムンクルスを感知できる、と。」 

 

 俺は静かに頷く。

 

「では。」

 

「さっそく。」

 

「ご同行願えますか。」

 

「何処へ。」

 

 俺は尋ねる。

 

 マスタングは軍帽を手に取り。

 

 静かに立ち上がった。

 

「私の上官宅です。」

 

「これからの話を。」

 

「そこでしましょう。」

 

 そう言って。

 

 酒場の扉を開く。

 

 俺達は黙って。

 

 その背中を追った。

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