車は。
ヨキの運転でひた走る。
窓の外には。
穏やかな景色が流れている。
「どう。」
「近づいてる?」
私は静かに口を開く。
「ええ。」
ヨキが呟く。
「ホーエンハイム氏への反応は。」
「徐々に強くなっています。」
「ならよかった。」
私は小さく息を吐く。
「姉さん。」
「風呂に入れねぇと。」
「機嫌が悪くなるからな。」
後部座席から弟が笑う。
「しつこい。」
「何回その話するの。」
私は弟を咎める。
ヨキも思わず吹き出した。
「確かに。」
「何度も聞きましたね。」
「だろ?」
弟も笑う。
車内は一瞬だけ和やかな空気になる。
しかし。
「あれ?」
「どうした兄者。」
「静けぇじゃねぇか。」
兄は静かに答える。
「いや。」
「ダブリスへ向かった奴ら。」
「大丈夫かと思ってな。」
私は迷わず答えた。
「大丈夫よ。」
「グリードは。」
「誰よりも先に外へ出た。」
「誰よりも。」
「人と接してきた。」
静かに微笑む。
「あれだけ。」
「慕ってくれる人達がいる。」
「強欲だからこそ。」
「誰よりも。」
「人の心に敏感なの。」
「きっと。」
「上手くやってくれる。」
「私も。」
「そう思います。」
ヨキが頷く。
「短い時間でしたが。」
「本当に。」
「素晴らしい方でした。」
ラストは小さく笑った。
「ふふ。」
弟が褒められて。
悪い気はしなかった。
◇
「あいててて!」
「ギブ!」
「ギブ!」
ダブリス。
精肉店近くの建物で。
男の悲鳴が響き渡る。
床には。
何人もの男達が転がっていた。
その中心で。
人と犬の合成獣、ドルチェットが肩を押さえている。
「強ぇ……。」
「強すぎる……。」
人と蛇の合成獣、マーテルが笑った。
「アハハ。」
「フーおじさん。」
「強すぎ。」
人と牛の合成獣、ロアも肩で息をする。
「全くだ。」
「あの細身で。」
「何故押し負ける。」
フーは静かに息を整える。
「お主達ハ。」
「力に頼り過ぎテイル。」
「流れを理解してオラン。」
「だから。」
「無駄が多イ。」
「力の掛け方も。」
「正しくナイ。」
三人は真剣に聞いていた。
その時。
扉が開く。
「おーおー。」
「派手にやられてんな。」
グリードだった。
「グリードさん!」
ドルチェットが情けない声を上げる。
「とんでもない人。」
「連れて来すぎですよ!」
「ガハハ。」
「幸運だと思え。」
グリードは冷えた飲み物を机へ置く。
「フー爺さんが。」
「残るって言ってくれた。」
「強くなる。」
「いい機会じゃねぇか。」
ロアは飲み物を受け取り。
一気に飲み干す。
空瓶を置き。
フーの前へ立った。
「もう一本。」
「お願いします。」
フーも静かに構える。
「ン。」
「来イ。」
ドルチェットとマーテルは顔を見合わせる。
嫌ではない。
むしろ。
こんな日々も悪くない。
◇
東方。
グラマン中将宅。
応接室へ案内され。
俺達は一人の老人と向き合っていた。
「おーおー。」
「マスタング君。」
「時間を取って欲しいとは。」
「珍しいじゃないか。」
老人は俺達を見る。
「それに。」
「軍人以外まで連れて来るとは。」
「実は。」
マスタングが口を開いた。
その瞬間だった。
「若!」
ランファンの声が響く。
「ああ!」
俺も反応する。
気配。
間違いない。
俺は勢いよく扉を開けた。
扉の先には。
一人の女中。
目が合う。
「そいつハ!」
「ホムンクル――」
言い終える前に。
パンッ!
パンッ!
二発。
ホークアイ中尉の拳銃が火を噴く。
弾丸は。
正確に女中の頭を撃ち抜いた。
それでも。
女中は倒れない。
「……チっ。」
女中は小さく呟き。
窓へ走る。
女中の身体も徐々に変質している。
そして。
ガラスを突き破り。
姿を消した。
「中尉。」
「はっ!」
「ランファンも行ってクレ!」
女性士官とランファンが跡を追う。
部屋が静まり返る。
割れた窓から。
風だけが吹き込む。
「……マスタング君。」
グラマン中将が口を開く。
「今のは。」
「何者だ。」
マスタングは軍帽を被り直した。
「ホムンクルスです。」
静寂が続く。
「簡潔に申し上げます。」
「軍は。」
「真っ黒です。」
グラマン中将が黙ってマスタングを見る。
「我々が立ち上がらなければなりません。」